指の骨 (新潮文庫)

  • 23人登録
  • 3.90評価
    • (3)
    • (4)
    • (2)
    • (1)
    • (0)
  • 5レビュー
著者 : 高橋弘希
  • 新潮社 (2017年7月28日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (138ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101209913

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

指の骨 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  •  新世代の戦争小説作家と話題の著者の文庫版が出たので、早速購入。ニューギニア戦線での野戦病院の日常と、そこからの難行軍を描く。もちろん面白かったし、引き込まれる部分もあったけれど、よく勉強したシミュレーション戦争小説、というのが初読の印象。後半の絶望的な行軍の場面を大岡昇平『野火』と比べる向きもあるようだが、テクストの密度という点で、決定的な違いがあるように思う。

     もちろん、それは大岡が戦場体験者で、『指の骨』の作者がそうではない、という単純な話ではないと思う。戦争小説に限らず、過去を舞台とする作を描くとき、〈その時代に常識だったこと〉と〈現在の読者にとってはそうではないこと〉のギャップをどう埋めるかが問題になる。本作について言えば、陸軍の部隊が出身地別に組まれるのは明治以来の自明の常識なので、「小学校から知っているお前と、徴兵検査で再会して、こうして赤道を越えた南海まで来るなんてさ。古谷まで同じ隊にいるし、大した偶然だよな」「そうなるように編成したらしいぜ。つまり同郷の者で連隊を組めば、団結力も高まるだろうってさ」(45p)と登場人物が語る場面を読んだとき、少し拍子抜けしてしまった。

     一般的には、こうしたことがらは語り手によって説明させる。しかし、このテクストの語りの位置は(おそらく意図的に)不安定化されている。過去の回想であるとは明示せず、あくまで戦場を現在進行形で語る一人称の「私」が生きのびたのか死んだのかを直接には語らず、ある種の〈謎〉を残すためなのだろう。だが、その作為が却って、語り手と語られる内容との距離感を曖昧にしてしまっているところがある。その意味で、大岡的な明晰さとは似て非なるテクストになっているとわたしは思う。

  • 前線で死んだ兵士を、いちいち荼毘に付す余裕はないので
    小指を切り落とし、その骨を持ち帰るのが陸軍の慣例だったらしい

    ニューギニアの戦い
    戦闘で負傷し、後方の野戦病院に送られた主人公は
    常に死と隣り合わせ、ではあるものの
    怠惰で退屈な療養生活のなか
    日本の連戦連勝を信じ、永く安心しきっていた
    しかしある日
    とつぜん訪れた敗残兵の群れに、真実を知らされる
    そこから、「転戦」のための行軍に参加するのだけど
    飢えと疲労に冒され、だらしなく食物を求める日本兵たちを前に
    絶望がわきあがる
    現地人から略奪しないことだけは、誉められていいのかもしれない
    けれど結局は自堕落に死を待つことしかできない
    あるいは
    これはひょっとしたら、ある種の現代人の絶望だろうか

  • 時間軸としては、
    ラバウルあたりで、藤木も古谷も生きていた頃。
    藤木は死んだが古谷は一緒、田辺分隊長の命令で、タコ壷での戦い。気を失って。
    夜戦病院で比較的のんびり。槇田と清水と軍医。
    病気、無為な行軍、自殺などで、次々死ぬ。
    黄色い道をただ歩いている、現在。
    現在回想するという小説の開始だが、わざと時間軸はバラバラにされている。

    死が近いからこそ、子供の遊びにも近いやりとりがほほえましく、リリカルに輝く。
    絵を描いたり、棒で地図を描いたり、誕生日の祝いに絵をあげたり。
    具体的で詳細な描写や小物がきらきら輝いて見える。

    語り手の生死はあえて曖昧にされている。
    あとがき、なんてあるので、結局は助かったのだろうか。
    この作為は読み手によっては鼻白むものかもしれないが。
    自分の手がすでに死人の手だと思われる極限を経ては、人は前のようには生きていない。
    この極限を見せてくれただけでも十分の価値がある。

    新潮新人賞発表時にすでに読んでおり、その後のいくつかも読んでいる。
    その上で思うのだが、大岡昇平やら水木しげるやら(堀辰雄やら)を連想することもあるが、無理につなげる必要はない。
    この作者は戦後70年を狙って戦争を描いたのではない。
    むしろ死に近いところで輝く描写こそが、この作者の持ち味だ。
    たまたま戦争という題材が侵入してきたのだと思いたい。

  • あの「野火」に匹敵する…の帯にそんなわけがないだろう!と高を括っていたのだが読み終えて思ったのはこれは戦争など知る由もない30代の青年に旧日本軍の兵士が憑依したのではないのかと。
    その想像の世界の戦争はありがちなエンタテインメントに走ることもなく飢餓と病により死を目前にした人間の内面を淡々と描くものであるがそれは遠く離れた南の島で戦病死した何十万人の兵士の生々しい声。
    忘れてはいけない、語り継ぐなどの大義はさておきスタバのコーヒー1杯分の値段で読めるわずか70年前に起こった歴史の事実を感じ取れるこの文庫本の価値は高い

全5件中 1 - 5件を表示

指の骨 (新潮文庫)の作品紹介

太平洋戦争中、南方戦線で負傷した一等兵の私は、激戦の島に建つ臨時第三野戦病院に収容された。最前線に開いた空白のような日々。私は、現地民から不足する食料の調達を試み、病死した戦友眞田の指の骨を形見に預かる。そのうち攻勢に転じた敵軍は軍事拠点を次々奪還し、私も病院からの退避を余儀なくされる。「野火」から六十余年、忘れられた戦場の狂気と哀しみを再び呼びさます衝撃作。

指の骨 (新潮文庫)はこんな本です

ツイートする