デカルトの密室 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (617ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101214368

感想・レビュー・書評

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  • ロボット工学と哲学、AIの自我の発達を主軸としたSFミステリ。
    天才科学者にして人形のような美女、フランシーヌ・オハラが初恋をこじらせた挙げ句、同じ名を授けられた我が子もその初恋を引き継ぎ、その子の父親である真鍋があの手この手でフランシーヌの気を引こうとする。
    だが、結局は主人公である尾形祐輔と心理学者である一ノ瀬玲奈と、二人の間で自我を発達させたロボット・ケンイチを凌ぐことは出来なかった。
    他者を人形のように捉えていた本来のフランシーヌが、十四歳の頃にたった一度だけチェスをしてキスを交わした少年にこだわりまくっていたのが、そもそもの原因。
    めっちゃくちゃ面倒臭い上にとんでもなく執念深いので、フランシーヌは自分が思うほど人間性が欠けていたわけでもなく、共感性が乏しかったわけでもない。
    つくづく、フランシーヌは面倒臭い女だった。

    そもそも、「人工知能の人間性を計る」という大会に出たフランシーヌ人形に娘フランシーヌが隠れていると解ったのであれば、フランシーヌ人形の優勝が取り消されるはずだ。
    ロボットの中に人間がいたとあっては、大会の趣旨が根幹から台無しにされているからだ。ぐだぐだと哲学を議論し合う前に、大会の主催者に連絡を取るべきではないだろうか。
    真鍋の行動理念もさっぱり解らない。尾形を誘拐してロボットと尾形によく似たロボットに摩り替えたのは真鍋だろうし、その尾形ロボットを一から設計して部品を調達して造り上げて配線してケンイチと同期出来るように設定したのも真鍋だ。
    大会当日に尾形を科学者としても人間的にも辱めて、フランシーヌの初恋の相手に対して意趣返しをしたかったんだろうが、手が込みすぎていて回りくどい。とんでもない手間と金と時間を掛けている。
    真鍋が青木を遠隔操作したフランシーヌ人形で殺害した理由は、「フランシーヌ人形をダッチワイフにしていたから」ということなんだろうが、当の本人も主人公側も誰一人として言及しないので動機が解らずじまいになっている。読者は宙ぶらりんだ。
    娘フランシーヌの四肢を切断して着脱可能なロボットの義肢を装着した、とあれば、その施術を行った医師が存在しているはずである。
    義肢を動かすプログラミングは真鍋が行ったとしても、事故や病気でもない子供の四肢を切断するとなれば、虐待以外の何者でもない。子供の成長に伴って切断面の骨は成長してくるので、適切な処置も必要なのだが、それらしい描写はない。
    娘フランシーヌが窓の外に現れて落下した、という出来事は立体映像か何かだったのだろうが、それに関する説明もなかったように思える。
    テーマと技巧に凝りすぎて、ミステリの部分がすっかすかになっている。
    世界規模の大騒ぎになったのに、フランシーヌ人形が一般に流通しているのが理解出来ない。リコールにはならなかったとしても、自主回収されるべきだ。尾形と玲奈が手元に置いておく心情もさっぱり理解出来ない。あれだけの目に遭ったのなら、ロボットそのものはさておき、フランシーヌという「人間」が気色悪くてたまらないと思うのだが。
    哲学云々に重きを置きすぎて、ストーリーと登場人物の行動理念がぐちゃぐちゃになっている。そうはならんやろ。
    レナと玲奈の呼び方が違うことに意味があるのかと思いきや、特に何もなかったのも肩透かしだった。

  • 1

  • 「ぼくらの意識は頭蓋骨の中に閉じ込められている。でもインターネットはそうじゃない・・・」ネットに人間の意識をつなげられたら・・・どんな世界が出現するのだろう、個人の肉体に付随した自意識を開放するとどうなるのか・・・

    その心(自意識)が、宇宙を現実化しているのならば、人間は、この宇宙から逃れることはできないのだ・・・など、小説のストーリーには魅力はないが、上記のような問題提議はおもしろい、この様なお話しが好きな方におすすめ(笑

  • 小難しい話が続き、分からんなぁと思いながら遠ざかると、ふいになんとなく共感できる部分が出てくるのでまた引き寄せられるの繰返し。
    ロボットの知能(あるいは心)を考えるとき、機械からは遠いように思われる哲学の問題が出てくるのは面白い。しかし、人間は自分の枠を広げることは出来ても越えていくことはできないが、ロボットには枠を越える可能性があるとのだろうか。しかし、ネットもロボットも所詮人間が作ったものである以上その枠を越えることは出来ず、個を越えるだけだから、それほど魅力も感じないが。
    ところどころ前に解決した事件、という話が出てくるが前作があったのか。そういう「設定」なのかと思っていた。

  • ヒューマノイドと人間の話で、よく練りこまれてる

  • ヒューマノイドが商品化される近未来を舞台に、人間の意識・知能とは何かを探求する研究者を巡るサスペンス。脳科学、哲学、心理学、コンピュータ・情報理論などが展開されるアカデミックな内容の中で、自意識を持ったロボントのケンイチがボクとして一人称で語るところは中々深い。考えさせられました。

  • さすが科学者作家瀬名秀明という感じです。凄い作品だというのは判るんですが、私にはちょっと難しすぎました。ある程度理系の素養が無いと厳しいかなあ。

  • SFミステリー。
    久々に、分量も内容も濃い小説でした。
    人間と機械の境界は何か。そんなのは考えてもわからなかった。
    森博嗣『すべてがFになる』を思い出す内容も少々。

  • ヒト型ロボットが実用化された社会。ロボット学者の祐輔と進化心理学者の玲奈は、ロボットのケンイチと共に暮らしている。三人が出席した人工知能のコンテストで起こった事件から、悪夢のようなできごとは始まった。連続する殺人と、その背後に見え隠れする怜悧な意思が、三人を異世界へ引き寄せる――。人間と機械の境界は何か、機械は心を持つのか。未来へ問いかける科学ミステリ。


    ・レビュー

     面白かった。久しぶりにテンション上がりっぱなしだった。哲学は人を狂わすほどに面白くて、やめようと思ってもやめられない究極的な快楽だと思う。瀬名秀明のSFの面白さは『パラサイト・イヴ』で判ったのだけれど、『BRAIN VALLEY』ではSFだけでなく哲学の分野でも面白い小説を書くと気付いた。この作品『デカルトの密室』はSFであり哲学であり、そしてミステリでもある。個人的に最も好きなジャンル三つが含まれているのだから当然面白いわけだ。
     こんな文章から、この小説は始まる。
    “これは「知性(インテリジェンス)」についての物語だ。なぜこの宇宙に知的な存在が誕生したのか、なぜそのような存在はこの世界を、この宇宙を、そして自分自身のことをもっと知りたいと願うのか、なぜ人々は知能に魅了され、知能に幻惑され、知能の謎に搦め取られて、ときに殺人まで起こしてしまうのか、そういったすべての謎についての物語だ”
     『デカルトの密室』というタイトルを見た時、『我思う故に我あり』という概念の密室性に挑んだんだろうと思った。ずっとこのテーマで物語を書きたいと思っていたのだけれど、実際は難しいというレベルではない。それを見事にこれだけ読みやすい物語に落としこんでいるのは見事。
     しかし、内容はデカルト劇場の密室だけではない。人間は三つの密室に閉じ込められている。一つは身体。物理的な制約の密室。次に自我。思考する〈私〉を知覚することはできない。そして最後に宇宙。宇宙を認識することは何故可能なのか、認識するから宇宙があるのだとすればそれは観測者を含めて宇宙なのではないか。この三つの密室を巡って起こる事件と思考。そのための舞台として提示されたテーマはロボットと人間。ロボットと人間の違いは何か、考えるロボットが在ったとしてそれはいかにして判別できるのか、人間の自由意志とは何か、ロボットの自由意志とは何か。
     まさに知性へ挑んだ物語だった。答えのない哲学に限界まで挑んだ物語として読み応えのある小説だと思う。

  • SFミステリーと書いてあったが、SFホラー⁈


    理系、文系の垣根を超えた、頭の体操になる本。

    しかし、怖過ぎて夜に1人で読んでいたら1人で寝れなくなりました…笑。

    これは全然この本の本質ではありませんが…

    倫理学を改めて見つめるべきときなんだろうな。

    Apr, 2013

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著者プロフィール

1968年、静岡県生まれ。東北大学大学院薬学研究科(博士課程)在学中の95年『パラサイト・イヴ』で日本ホラー小説大賞を受賞し、作家デビュー。
小説の著作に、第19回日本SF大賞受賞作『BRAIN VALLEY』、『八月の博物館』『デカルトの密室』などがある。
他の著書に『大空の夢と大地の旅』、『パンデミックとたたかう』(押谷仁との共著)、『インフルエンザ21世紀』(鈴木康夫監修)など多数ある。

「2010年 『未来への周遊券』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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