薬指の標本 (新潮文庫)

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著者 : 小川洋子
  • 新潮社 (1997年12月24日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (185ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101215211

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薬指の標本 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • 官能小説とは
    安っぽいエロ小説を指すのではなく、
    本来こういった
    行間の隙間から滲み出る、
    甘美でいて静謐な
    抑制された文体で書かれた作品にこそ相応しい呼び名ではないのか?
    (小川さんがそれを望むかどうかは別として笑)

    直接的なエロ描写を描かずとも
    エロチックで官能的な表現は可能なんだということを
    自分は小川さんの小説から知りました。


    なぁ~んてことを大真面目に語りたくなるくらい
    この人の文章は読んでると
    いつまでも浸っていたくなるし、
    妙にドキドキさせてくれるんですよね~(笑)


    サイダーを桃色に染める薬指の肉片。
    背徳の香り漂う、浴場での甘い囁きと秘密の逢瀬。
    白い麻のワンピースと黒い革靴のコントラスト。
    足を侵食し始める奇妙な革靴。
    気持ちを抑えるための小さなため息。
    机の上でゆっくりと溶けていくピーナッツチョコレート。


    本作はニ編からなる短編集だけど、
    とにかく表題作『薬指の標本』
    の耽美な世界観に魅せられましたよ(。>A<。)

    どこか幻想的で淫靡な匂いを放ちながらも
    小川さんの真骨頂である
    知性や品性を損なわない美しい文体に
    わずか90ページの短編ながら
    十二分に酔いしれることができます。


    忘れたい思い出の品を標本にする仕事に就いた主人公の女性が堕ちていく
    もどかしくも官能的な日々。

    標本室に依頼人が持ち込む物は様々で、
    火事で家族を亡くした少女は
    焼け跡で見つけたというキノコを、
    ある女性は恋人が誕生日にくれた楽譜に書かれた音を、
    青年はビーカーに入った精液を。
    老人は飼っていた文鳥の骨を。


    やがて標本技士の男に淡い恋心を抱く主人公。

    縛り付け支配したい男と
    その男に縛られ絡めとられたい女。

    束縛という甘い果実に囚われ
    嫉妬心と独占欲にがんじがらめになる女性が
    あわれでもあり痛々しくもあり、
    彼女が最後に選んだ狂気の結末に背筋が凍りつきます。


    ある意味下手なホラー映画より
    コワい話だけど、
    とにかく視覚や聴覚を刺激する
    慎み深い文体が読むことを止めさせてくれないし、
    ラスト10行の美しさは圧巻の一言。
    (残酷で痛々しいハズのサイダーの中を落ちていく指の描写がまた何故だか美し過ぎて、読後しばらく頭から離れません)


    フランスでほぼ原作に忠実に
    この世界観が映画化されたとのことなので
    そちらも観てみたいなぁ~(^^)

  • 再読。実に久しぶり。小川さんはこの頃からだんだんと体の一部を少しずつ、徐々に失くしていく話を頻繁に書いていくけれど、私はこのくらいの、匂わせる程度の話が好きだなあ。欠けた薬指の標本以外のわたしや、六角形の小部屋に吸い込まれた声は、どこかに留まることができるのだろうか。あと、読み返してみて、肉片の桃色や革靴の黒と、色彩が意外とエロティックだったことに気がついた。

  • どうしてこうも、小川洋子さんの小説はなんともいえず、エロティックなんだろうか。
    そのエロティックさはただ裸になるとか、そういうことではない。欠けた薬指。靴に侵食される足。標本室。これらが読み進めていくうちに、なんともいえぬエロティックさに変わっていく。
    とても怪しい世界なのに、抜け出したくないような気持ちにさせる。いつまでも浸っていたいと思わずにはいられない。読後も、肌にいつまでも小川洋子さんの世界がまとわりついてくる。それが心地よい。

  • 静かで澄んだ空気の中に、緊迫した空気を感じる、不思議な物語。
    危なくて、なまめかしくて、美しい。

    もうひとつの「六角形の小部屋」では、人の心のとりとめのなさを感じた。
    きっと、誰の心の中にもカタリコベヤがあって、語りつくせない言葉たちが静かに封印されているのだろう。

  • 小川洋子さんは、物語よりも「世界観」を描いているんだなと思った。
    標本、薬指、靴…
    目指す空気感に似合いの題材を、
    丁寧に織ったような物語。
    話に実を求めるような読み方ではなくて、それに浸ることを楽しむ読み方。

  • 今回も小川洋子さんの世界に引き込まれる。
    穏やかで密やかな世界。
    ありえないほど現実離れしたことを書いているわけではないのに、自分の生きている世界とは違うベールの向こう側にある世界のことを話しているような、それでいて空想ばかりで莫迦らしくはない。
    当たり前と言えば当たり前だけれど、この小川洋子さんの世界が苦手なひとは苦手だろうし、好きなひとは好きだろう。
    ちなみにわたしは好きなひと。

    「薬指の標本」
    標本室で働くことになったわたしは、ある日、技術士から靴を贈られる。
    毎日履いて欲しいと言われるままに、靴を履きつづける。
    あつらえたように靴はわたしにピッタリ馴染む。履いているうちに、靴と足の境がわからなくなってくるほどに。

    読んでいるとちょっとホラーのようにも感じるけれど、別に靴を脱ごうとしたら脱げなくて、脚を切り落としてなんてことにはならない。
    なったら驚く。どうした小川洋子。
    靴に侵食されていく足などと恐ろしいことを書いているのに、小川洋子さんの文章は神秘と愛に溢れている。

    標本室にやって来る客も、技術士も、謎めいたひとばかり。
    結局その謎も何も明らかにならないけれど、そこを読む物語ではないので問題ない。

    封じ込めること、分離すること、完結させることが、ここの標本の意義だからです。
    繰り返し思い出し、懐かしむための品物を持ってくるひとはいないんです。(P23)

    わたしなら、何を標本にしてもらうだろう。
    形にならない過去の想いを標本にすることは不可能なのだろうか。

    「六角形の小部屋」
    プールで出会ったミドリさんを軽い気持ちで追ってみたわたしは、語り小部屋という六角形の小部屋の存続を知る。
    その小部屋で独り言を呟くために様々なひとが訪れる。
    わたしは、ミドリさんと息子のユズルさんに会いたくて、語り小部屋に通うようになる。

    独り言を呟くための小部屋。
    独り言を呟きたければ、トイレにでも篭って好きなだけ呟けばいいとも思うけれど、きっとわざわざ出向いてわざわざひとりになって呟くことに意義があるのだろう。
    独り言って若いときには全く言わなかったけれど、最近気づいたらテレビに向かって話していた自分に衝撃を受けた。
    年を取ったなと。

    小川洋子さんらしい実体のない世界を堪能出来る一冊だった。

  • 小川洋子さん初読みです。

    ・薬指の標本
    そもそも標本ってなんなの。
    弟子丸ってどんな人なの……。
    という疑問に一切の答えが用意されていないんですが、そんな些細なことはどうでもいいほど世界観が完成されていると思った。
    弟子丸の持つ雰囲気と、時の止まったバスルームで靴だけの姿にされて行われる甘美な儀式のような行為に溜息が出る。
    多分主人公は、標本室で薬指を見初められた時から、弟子丸から逃れられない運命だったんだろうね。


    ・六角形の小部屋
    結局この部屋も何なのか解らない。けどそんなことはどうでもいいのです。
    自分の中の、理由のない嫌悪感を整理する必要があった。それを告白できた時に部屋の役割は終わったのかなと。
    途中、元カレの医者と行くはずだったコンサートのチケットが突然出てきたり、ゴム手袋が飛んできたりするシーンがなんかとても不気味で綺麗でした。

    評論家の布施英利さんが書いている解説も良かったです。
    その解説にあったように、この小説は「身体が消失していく」という描写がとても印象的。
    読んでいて「自分の身体がここにある」という当たり前のことが不思議な感覚に思えてきました。

  • 小川洋子の作品は、数字のように無機質で、整然としたところがあると思う。非日常な空間の中に散りばめられた小道具は日常的に目にするものだったりして、私たちの知らないところで、こんな不可思議なことが起こっているのかもしれないと思わせる。
    薬指の標本、六角形の小部屋、どちらも非日常的な雰囲気があるのに、もしかしたら…と思わせる不思議な感覚がありました。

    「薬指の標本」が特にお気に入り。主人公が標本技師に囚われていく感覚と、消失する女性や謎の地下室、乾いたバスルームでのデート、サイダーに落ちていく薬指の肉片のイメージなど、妖しく透明感のある描写がたまりません。
    「六角形の小部屋」は小川洋子作品の中では普通のイメージですが、ミドリさんの存在感が忘れられません。
    不可思議な感覚が心地よく美しい世界。小川洋子の世界観、素敵です。

  • まず「薬指の標本」って何だ?と思う。ちょっと気味悪い。
    ここでの標本は封じ込め、分離、完結すること。
    思い出や思いを標本にできたら気持ちが楽になるかも…。
    「標本技術士」「指先の欠けた薬指」「浴室」作品全体の薄暗くて、奇妙で、不思議な世界観は、なんだか自分もあの古いアパートに入り込んでしまったみたいで、逃げ出したい気分と謎を確かめてみたい気分でぐいぐい先へ読んでしまいました。
    こんなに気になるのに結局謎は謎のまま…
    主人公はどうなってしまっただろう。
    薬指と火傷の標本、ちょっと見てみたいです。

  • 久しぶりに良い本に出会ったと思った。物語の中に、ピンと空気が張り詰めたような緊張感や静けさを感じる。文章から映像を想像しやすかった。弟子丸のやっていることはかなり異様なのに、なぜか彼に上品さを感じる。それは「標本」という言葉のマジックなのかもしれない。

  • とても好きな作品です。
    女子なら誰しもがうっとりするような比喩がちりばめられていました。
    二人の関係がとても密やかでミステリアスでエロティック。

  • 少しずつからめとられていく音のない怖さ

  • 薬指の標本。
    人々の思い出を標本にして閉じ込める標本室で働く私と標本技師。技師の眼差しや、私に背中に添えられた大きな手、正確な言葉、それらにからめとられる女の喜び。保存液の中で音もなく揺れるような物語。

    欠損した薬指の先であったり、黒い革靴であったり、火傷の痕であったり、誰も居ない浴室の静かで清潔なフェティシズムやエロスが支配する物語でもあったけど、一番それをあらわしたシーンは技師が脱がしたビニールの靴を浴室の床に叩き付けた様を優美に感じながらもそれをまだまだ歩き続ける合図のように捉えた女の思考だったと思う。そこが非常に気に入った。

    ラストの終わり方も予想通りとはいえこれ以上ない所で終わっていて気持ちよかった。

    六角形の小部屋
    語り小部屋と呼ばれる六角柱に入り独り言を落とす不思議な話。
    リアリティーを持たせながら非現実的な話を書き、1を10に大げさに描写出来る著者の能力がこれでも活かされてる。
    こちらのほうは主人公の私が嫌いなタイプで合わなかったし、何がという物語でもないので淡々と読み進めていったが内緒話を覗き見てるような感覚で楽しんだ。そして終わり方が最高に好み。

    それぞれ5と3で間を取って四つ☆。

  • 「薬指の標本」と「六角形の小部屋」の二篇を収録した短編集です。
    どちらも胸の詰まるような閉塞感に包まれた、いわば瓶詰め箱詰めの愛といった雰囲気でした。
    短編で読みやすいのにぎゅっと凝縮された痛みが濃く鈍く響いて、読了後はなんとも言いがたい想いが募る。
    すっきりとするわけではないけれど、後味の悪さもない。これでよかったのだとおもえる結末がそこにありました。
    小川洋子さんの透明の中にひとすじの濁りを落としたような文章が本当に美しかったです。

  • 裏表紙のあらすじに書いてある、“恋愛の痛みと恍惚を透明感漂う文章で描いた”という言葉に惹かれて買ってみました。
    読んでみたら何とも言えない感じでした。
    何か難しい。
    文学的というか、感覚的というか、不思議な感じで、短編だから読みやすいんですがあまりハマれませんでした。

    解説を読んでなるほどと思いました。
    「ある」ということ、「ない」ということ。確かにその通りでした。
    薬指の標本はフランス映画があるということだったのでそれはちょっと見てみたいなと思いました。

  • なんとも言えない怪しく官能的な世界。夜中のろうそくの光や、ランプの光の中で醸し出される幻想的な風景。それにしても靴をはかされるってなんだかどんな行為よりエロティックに感じてしまうのはなぜだろう。足を掴まれてぴったりな靴をはかされるシーンには独占欲を、履いていた古ぼけた靴をタイルに打ち付けるシーンには狂気を。どれも恋愛すると抱く感情。

  • 表題作の「薬指の標本」がとても好き。すごく好き。
    靴を贈られる場面がいい。黒い靴の描写も素敵。
    映画ではストラップのついた華奢な靴になっているけれど、私のイメージはタッセルの代わりにリボンのついたヒールのあるローファー。足の甲を覆うデザインの靴。
    アンデルセンの赤い靴の話しもそうだけど、靴は悪魔的な魅力のあるものなのかも知れない。だからとめど無く欲しくなる。
    小説のように、足が侵されてしまうくらいピッタリな靴だったら、何足も欲しくなくなるかも?怖いけれどね。

  • 表題作…変態紳士と言うのはこういうのを言うんだなぁと思いました。
    全体的に雰囲気に浸る小説だなぁと。

  • この人の作り出す雰囲気がすきだと、やっぱり実感。
    ベタベタな愛とかじゃなく、潜在的で冷静に見えるんだけど、なぜか切り離せないほどの強い愛情が私好みなのです。

  • この作品から作者の著書を読む様になった本。短編でありながら妙な感じの独特な雰囲気に飲まれ強烈な印象をいつまでも自分の中に残した作品でした。ホラーよりの冷たいファンタジーな感じ。

  • 薬指の標本:男に憎しみを抱かせ、女の受容欲求に絶望させる筆力に脱帽。
    六角家の小部屋:自分と向き合う厳しさ。胸に秘める困難さ。

  • 好きな人に、標本にして欲しい気持ちは、良くわかる。

  • いや、わたし小川洋子すきなんだなって思いました。独特の世界観に惹きこまれる感じ。薄暗いような、朝焼けの眩しさのような。ニジュウマル。なんと伝えたらいいかわからないけど、一般的なしあわせのイメージとは少し違うしあわせのカタチを読んだ感じ。

  • 再読,短編集2編
    足を侵食してくるようなぴったりとした靴に包まれる幸せとは何だろう?自分と他者との境界のあやふやさが,恐ろしくもあり夢見るような心地よさを伴っている不思議な感覚がある.最後,地下室の先に何があったのか,今も分からない.

  • ひどく静かに描かれているが、これは痛々しいくらいの危うい恋の話だ。指先を失ったショックは大きかっただろうが、標本室の他の客と違って主人公が薬指を標本にしてもらいたいと思ったのはその心の傷からではない。先の欠けた薬指に自分だけの唯一性を見出し、永遠に彼のものになりたいという盲目的な恋心からである。指を標本にするって、痛いだろうに。後々後悔するだろうに。でも彼女は構わないのである。完全に恋する乙女だよ。彼しか見えてないよ。でもこの恋で傷ついても、標本室を訪れる人々と同じように、然るべき時が来たら心の傷とケリをつけ、成長していくのだろう。きっと人はそうやって痛々しくも成長していくものなのだ。彼女の盲目さが痛々しくも気持ちよかった。

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