海 (新潮文庫)

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著者 : 小川洋子
  • 新潮社 (2009年3月2日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101215242

海 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 小川洋子さんのように世界を見ることが出来たなら…。
    見慣れていると思っている、聞き飽きていると思っている世界の中にはこんな物語がきっとあるんだ。

    隣で耳を澄ませないと聞こえない音楽、声、言葉たち。
    じっくり見つめないと見つけられない光、色、模様。

    それはイヤホンを耳に突っ込んで歩いていては聞こえないかもしれない。
    本から目を上げないと見えないかもしれない。
    私は自分で目と耳を塞いでいるのかもしれない。

    目と耳を塞いだままいったい何を探しているんだろう。
    どこに向かって歩いているんだろう。
    何も分からないままフラフラと迷って、時に開き直りながら歩いている。
    そんな状態でよく歩けるものだ。
    でも立ち止まっても周りの景色は動いている。
    怖くて、焦って、急がなきゃなんて思って。
    硬いものにぶつかって痛い思いをしないように。
    汚いものを踏まないように。
    そんなことを心配している。

    この物語の中の世界は私の目に映る世界とは違うように思う。大切なものが。決定的に。
    命は決して清潔ではない。
    そして、こんなにも美しい。

    この物語に書かれている人たちは特別に美しい存在ではないはず。
    美しいことに条件なんてないのだ。きっと。

  • ああワタシ、小川洋子さん作品の読者として初心者だなぁ。
    と、あらためて思ってしまった。

    お年始参りに親戚の家へ電車で往復約3時間。
    その時にお供として持って出たのがこの本。
    薄いし短編集だし、読むのが遅くてもほぼ読みきれるだろうと。

    とんでもない。初心者ならではの誤算。
    もう、一篇目の表題作『海』から、流れる時間がとてもゆっくりになった。
    ゆっくりゆっくり、文字を追い、光景を思い浮かべ、気付けばその世界の住人になっている。

    小さな弟の奏でる架空の楽器「鳴鱗琴」・皺くちゃの50シリング札・蝶のように活字を探す手の動き・きらきら光を反射するかぎ針・カタカタと鳴るドロップ缶・様々な抜け殻とふわふわひよこ・不完全なシャツ屋に、記憶の題名屋。

    見た事のあるものも、見た事のないものも、すべてそこにある。
    小川さんの書く世界は不思議だ。

    「温かいのか冷たいのか、よく分かりません。心地よく温かいからか、あるいは逆にあまりにも冷たいからか、いずれにしても感覚が痺れてしまっているようなのです。」(80ページ)
    以前から小川作品に感じていた温度はまさにこれ。
    温かいような、ひんやりとしているような、でも振れ具合はどちらも激しくはなく、まるで人肌のよう。

    時折、無性に、この体温のような世界に浸りたくなるのです。

  • 小川さんの作品は、どれもこれも不思議な要素をもっているけど、何だか優しい。
    それは奇妙なものを受け入れる寛容さがあるからだと思う。
    そして文章には、静かでゆったりとした空気がいつも流れている。
    短編集なので、少しづつ違った趣の妄想に浸ることができた。
    特に「バタフライ和文タイプ事務所」のような、小川さん独特の官能的な世界が好きです。

  • 久々に読んだ小川洋子さん。

    お気に入りは『バタフライ和文タイプ事務所』、『缶入りドロップ』、『ガイド』です。
    『バタフライ和文タイプ事務所』はすごい官能的で、でもどこかコメディチック。薄水色のシャツと手、声くらいしかわからない「活字管理人」に妄想が膨らみます・・・!「活字」と肉体が混同してきて、えろい・・・

    『缶入りドロップ』は優しい気持ちになりました。
    『銀色のかぎ針』は珍しく地名がはっきりしててエッセイのような感じでした。自分の身近な土地や乗り物だぁと思ったら終わっていました(笑)

    『ガイド』は、『博士の愛した数式』とは違うけど、おじいさんと少年っていう組み合わせがなんか好きででした。「題名屋」って素敵。終わり方が思いのほか優しかったです。

    日本のような外国のような、どこかにある街で繰り広げられる人間模様。
    本当にあるのかないのかわからない(たぶんない 笑)職業や、楽器が魅力的です。

  • 七編からなる短編集で、それぞれの違う味わいが楽しい。
    装丁は吉田篤弘さんと吉田浩美さんなのも嬉しい。
    表題作でもある「海」では、「メイリンキン」という聞きなれない楽器が登場する。
    主人公の婚約者の弟が発明した楽器で、世界で唯一の楽器であり、弟は唯一の演奏者でもあるという。
    海からの風が吹かないと鳴らないというその音色が、今にも聞こえてきそうで聞こえない。
    不思議な余韻を残す作品だ。
    「バタフライ和文タイプ事務所」という、妖しく隠微な作品もある。
    普通人の日ごろの会話にはおよそ登場することもない「子宮膣部」なんて単語が頻繁に出てくる。
    しかもその描写が実にみだらで、どうやら作者の狙いはそこにあるらしい。
    さすが、言葉を紡ぐプロだけのことはあります。見事です、小川さん。
    「ひよこトラック」と「ガイド」も、温かい「仕掛け」にしてやられるようなつくりだ。
    もう少し踏み込んだ作品をと、つい願いそうになるが、絶妙の匙加減で終わるのがこの作者らしいところ。
    さらりと読み終わります。

  • 見えない空間を、言葉で捉えていくような物語。
    ひとつのものをじっくり観察した先に見えてくる世界を描いているなあと。

  • なんとなく読みたい本が見当たらない時は小川さんに頼ってしまいます。 ひとつひとつのお話はつながっていないのですが、この収録順が素晴らしい。間で小休止のように入ってくる「缶入りドロップ」の優しさ、最後の物語「ガイド」の中での題名のプレゼントが また嬉しい。読後感も爽やかで、とても良かった。

  • 美しく奇妙な物語には溺れてしまいたいので
    掌編だと物足りなさを感じてしまう。

    ひとつのことをずっと続けてきたひとたち。
    言い換えればそこにしか居場所がなかった、
    とインタビューで小川洋子が答えているが
    居場所だと感じられるものを掴むことができた人はきっと幸福だ。
    大切なものはひとつでも充分。

  • 小川洋子氏の短編集。解説にもあるように多くの主人公は長い時間自分の小さな仕事の世界をひっそりと守り続けた人々。題名屋や活字管理人など不思議な職業でなかったとしても、職業というのは、その職業についていない人からはわからない謎の小世界を常に含む。たとえば、職人の手技、見たこともない道具の数々。短編小説一編ごとが小さな世界を含むように。若い頃一つの職業のワクに自分を嵌めて、その形の人間になりたいと願っていたのを思い出した。小さくとも自分の世界が欲しかったのかもしれない。どの世界も素敵だけれど、最も印象に残ったのはやはり表題作の海。小さな弟の美しい小世界。

  • 著者インタビューと千野帽子さんの充実した解説がついている、お得な本だ。
    「バタフライ和文タイプ事務所」は大人のユーモア。「缶入りドロップ」はこのみじかさと、その中で過不足なく日常のひとこまに潜む微笑ましさを表現しているのが好き。

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海 (新潮文庫)の作品紹介

恋人の家を訪ねた青年が、海からの風が吹いて初めて鳴る"鳴鱗琴"について、一晩彼女の弟と語り合う表題作、言葉を失った少女と孤独なドアマンの交流を綴る「ひよこトラック」、思い出に題名をつけるという老人と観光ガイドの少年の話「ガイド」など、静謐で妖しくちょっと奇妙な七編。「今は失われてしまった何か」をずっと見続ける小川洋子の真髄。著者インタビューを併録。

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