海 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101215242

感想・レビュー・書評

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  • 短篇集。表題作は“小さな弟”の楽器が儚く美しい雰囲気で、波の音が聞こえてきそうだった。『風薫るウィーンの旅六日間』は喜劇的。しんみりする場面が、ある一言で可笑しさに変わった。『バタフライ和文タイプ事務所』は官能表現を楽しめた。『ひよこトラック』はどうにも言葉にできない。『ガイド』は、観光日和に川下りを楽しめるのかと思いきや、そうもいかなかった。不穏な観光名所が現れるのもまた一興。他掌編二作。

  • 短篇7つ。
    この短篇群でも、小川洋子さんの世界が広がる。

    じゃあ、「小川洋子さんの世界とは?」と聞かれても、言葉にできないのである。

    ある種の静けさ、ある種のはかなさ、ある種の美しさ、いろいろな面を一文にもっているのである。

    表題作「海」では、「めいりんきん」という不思議な楽器と恋人の弟の話。

    お気に入りは、「バタフライ和文タイプ事務所」「缶入りドロップ」「ガイド」である。

    特に、「バタフライ和文タイプ事務所」は、単に「すごいなぁ」という読後感しか出なかった。タイプライターの一文字から、こういう世界観を生み出せるのは、すごいとしかなかった。

    「海」
    「風薫るウィーンの旅六日間」
    「バタフライ和文タイプ事務所」
    「銀色のかぎ針」
    「缶入りドロップ」
    「ひよこトラック」
    「ガイド」

  • 妖しさや奇妙さのある物語が七編収録された短編集。
    一つ一つの物語に登場するキャラクターが魅力的でとても好きだった。
    歳の離れた人物同士が関わり合いを持つ物語たちに、不思議なわくわく感を抱いた。

    『海』では鳴鱗琴(メイリンキン)という作者が創作した楽器が登場するが、それはとても美しく、まるで本当に実在するように思えた。
    ラストの主人公の行動が余韻を与えてくれてとても好きだった。
    また、主人公にとって「唇」が特別なものであるように見えた。

    『バタフライ和文タイプ事務所』では、三階の倉庫にいる活字管理人に会うために、「膣」の文字を傷つけ、持っていく主人公がとても良く、官能的なあやしさを感じた。
    管理人が指先で文字をなぞる描写は艶かしく、主人公の欲望が匂い立つようだった。

    『ガイド』で登場した「題名屋」、『バタフライ和文タイプ事務所』の「活字管理人」など、小川洋子作品特有の職業がとても好きだ。
    現実には存在しないのだろうけど、もしかしたらあるのかもしれないと思ってしまうくらいの生々しさを感じる。

    それぞれの物語は短いものだが、魅力が詰まった本だった。
    お気に入りの一冊となった。

  • スポットライトを浴びるような華やかな場所ではなく、世の中のどこかでひっそりと、ささやかな居場所とか仕事を持つ人の人生の一コマに、優しくそっと光を当てたような7つの短い物語。小川洋子さんの物語は決して俗に言う「泣ける」のを狙って書かれたものではないと思うのだけど、読むと理由もわからず泣いてしまう。表題作の『海』に出てくる架空の楽器〈鳴鱗琴〉は海からの風が吹くと鳴るというのだけれど、この本を開くと私の胸を震わせ響かせるなにかが押し寄せてくるのを感じてやまない。
    どのお話しも好みだけれど、『ひよこトラック』はボロボロ泣けてしまった。一番最後の『ガイド』はどことなく『博士の愛した数式』を彷彿とさせるような深い余韻が残る。

  • 「海」小さい弟とそこにあるのかないのかわからない楽器鳴麟琴。不確かな存在に心がざわざわする。
    「バタフライ和文タイプ事務所」言葉だけでこんなにエロいものができるのかと。
    「ひよこトラック」暖かいその声がひよこたちと共にその場を包んでいく。
    「ガイド」題名屋の初老とガイドの息子の素敵な一日。思い出のない人などいない。小川洋子さんの作品なので、あたたかすぎてほっとする一方で、すこしぞっとしてしまった。

  • 素晴らしい

  • 妙にリアルで、でも実際はどこにもないような風景ばかり出てくる。
    個人的に印象に残ったのは鳴鱗琴という楽器と、杖をついた題名屋が言った『思い出を持たない人間はいない』という言葉。

  • 一番好きだったのは、ひよこトラック
    どの短編にも小川さん独特の死の匂いが優しく横たわっていた

  • 帰省の際、購入した本。短編集。なかなか良かった。彼女の文章も好きだけど、登場人物も結構好き。全体的に静かな雰囲気が素敵だといつも思う。

  • 大好きな作家さんです。
    彼女の言葉は沁み渡っていく感じがします。

    鳴麟琴の音を聞こうと思わず耳をそばだてる自分。
    ひよこトラックを見て、声をあげる少女と共に息をのむ自分。
    和文タイピストと共に、ひそかな思いに身もだえする自分。

    そんな風に本の世界にすっと導いてくれる、素晴らしい本・作家だと思います。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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