生きるとは、自分の物語をつくること (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (151ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101215266

作品紹介・あらすじ

人々の悩みに寄り添い、個人の物語に耳を澄まし続けた臨床心理学者と静謐でひそやかな小説世界を紡ぎ続ける作家。二人が出会った時、『博士の愛した数式』の主人公たちのように、「魂のルート」が開かれた。子供の力、ホラ話の効能、箱庭のこと、偶然について、原罪と原悲、個人の物語の発見…。それぞれの「物語の魂」が温かく響き合う、奇跡のような河合隼雄の最後の対話。

感想・レビュー・書評

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  • 当時、文化庁長官もつとめていた心理学者で心理療法家の河合隼雄と、小説家である小川洋子の対談が主な内容です。2005年と2006年に行われた二回分の対談が約100ページ、対談の翌年に亡くなった河合氏に向けた小川氏による追悼文が約30ページです。

    第一回は2005年の雑誌・週刊新潮における対談で、映画化作品も含めて小川氏の小説『博士の愛した数式』を主要な話題としています。これを受けて翌年に行われた第二回は、カウンセリング、箱庭療法、『源氏物語』、宗教(小川氏の両親・祖父母が信仰していた金光教についてを含む)、日本と西洋の価値観の比較など、扱うトピックは様々ですが、大きくは物語とは何であるかを巡る対話となっています。全般に、どちらかといえば小川氏が河合氏から知見を引き出す傾向が強かったように思います。河合氏がときおりダジャレを発すのは、村上春樹との対談同様でした。

    二回目の対談の終わり方を見る限り、継続的な対談が企画されていたように見受けられます。文字サイズも大きく一冊の書籍としてはボリュームが不自然に少ないのは、対談から二か月後に河合氏が倒れて翌年に亡くなったために計画が頓挫した影響でしょう。自然と小川氏による追悼文は、二回の対談を振り返る意味合いが色濃くなっています。

    以下、印象に残った言葉を私なりに箇条書きで要約して残します。

    ・友情は属性を超える
    ・良い作品(仕事)は作り手の意図を超えて生まれる
    ・分けられないものを明確に分けた途端に消えるものが魂
    ・やさしさの根本は死ぬ自覚
    ・魂だけで生きようとする人は挫折する
    ・カウンセラーには感激する才能が必須
    ・一流のプレイヤーほど選択肢が多い
    ・奇跡のような都合のよい偶然は、それを否定している人には起こらない
    ・物語を必要としなかった民族は歴史上、存在しない
    ・小さい個に執着すると行き詰まる
    ・人間は矛盾しているから生きている
    ・矛盾との折り合いにこそ個性が発揮され、そこで個人を支えるのが物語
    ・望みを持ってずっと傍にいることが大事

  • 裏表紙にある通り河合隼雄さんの最後の対談なのだと認識して読み始めたはずなのに、終わりに差し掛かる頃にはすっかり頭の隅っこの方に追いやってしまっていたようです。「また今度」と手を振った直後に死を思い出した(?)とでも言えばいいのか、強烈な余韻の中に取り残された気分です。ハリーポッターのシリウスかダンブルドア先生かが死ぬ場面か、最終巻で夢か現か分からない状態でプラットホームで先生と話していたはずがホワイトアウトする場面か、辺りと似たような感覚かもしれません。要するに「もっと話を聞きたいのに!」「教えて下さい、どうしたらいいのか!」という気持ちの問題です。心を落ち着かせてくれる、ときにはクスッとさせてくれる、絶妙な話を展開してくれただけに。

    二人の対談の中で今の自分の心にビビッと来たのが、昔の人は死ぬことを考えていたけれど、今では生きている時間が長くなって生きることを考えるようになった、というようなくだりです。学生の間はテキトウな間隔で社会的な区切り目があったのが、大人になったら還暦辺りまではしばらくノンストップな感じがあって、イマドキお年寄りと呼ばれるようになっても大病をしない限り寿命が分からない具合になっていて、そういうことを考えてたまに広場恐怖症のような感覚に苛まれることがあります。それと同じ位、人間どれだけスケジュールが未定でも、最後の一日に死ぬことだけは決まっているという事実を唐突に考えて背筋が凍るような気分になることもあります。ただし極端に気持ちが沈んでいるというわけでもなく。でも、どちらも割と人として普通なことで、そこに伴う恐怖心が物語を生んでいるということ、そして死んでからの方が長いという表現。別に新しい言葉だったわけではないような気もするけれど、悶々としていたこのタイミングで欲しい言葉に会えた感じがして嬉しかったのです。

    後は西欧一神教の世界観の話。日本人もキッパリしている人はキッパリしているけれど、ケースごとに細かったり、自覚無く軸が曖昧だったりして、一神教の世界の人からみたときに全く一貫していないと思われてもおかしくないのでしょう。私はキリスト教に触れざるを得ない生活をしてきたからか、一時その点で馬鹿みたいに葛藤したことがありました。細々としたところにおける自己矛盾に対する罪悪感みたいなものです。変なベクトルの真面目さはもう捨てよう、とどこかで思ったもので、今では若干思考を放棄していますが。でも、とにかく言わんとすることがよく分かった分、印象に残る話でした。尻つぼみ気味に終わっておきます。いくらでも対談に混ざり込んで傍で勝手に適当に雑談する感じで、ペラペラ話せそうですが。

  • 物語を作り出す作家・小川洋子さんと、人が生きる上での困難を受け入れるための物語作りに伴走する臨床心理学者・河合隼雄さんが「物語」について語り合う。一見全く専門性の異なる二人の世界が「物語」を介して交わるのが面白い。

    短いけれども示唆に富む内容で、物語の意義に加えて、日本の曖昧さ・混沌への許容度に接して何か癒されるものがあった。(104p. 人間は矛盾しているから生きている。)

    対談道半ばで河合さんがこの世を去ってしまったことは残念だけど、この本のヒントを手がかりに河合さんの他の著書を読んでもう少しお話を聞いてみたくなった。

  • 硬くなった心や頭をゆっくりとほぐして深く考える時間をもたらしてくれた1冊。
    何気なく手に取ったので、河合隼雄さんの最期の対談であったことも読み始めてから知りました。
    河合さんと小川さん、お二人の温かさと穏やかさがほくほくと感じられ、まるでお風呂に入っているような気分になりました。

    ですが、内容は穏やかなものばかりではありません。
    箱庭療法、御巣鷹山の飛行機墜落事故やアウシュビッツ、信仰、秘密を守ること…。
    そういった話題についての会話がやさしい言葉ですぅっと読み手の中に入ってきて、ゆっくりととどまる。
    それらはきっと、長い間とどまって、じわじわとにじみだすように後から効いてくるような気がします。

    村上春樹さんと河合さんの対談は私にはなかなか難しかったのですが、本書は私にちょうどよい感じでした。
    またいつか読み返そうと思います。

  • やさしさの根本は死ぬ自覚という言葉が強く心に刺さった。

  • 何度も読み返したい良本。
    図書館で借りて読んだので、我が家の本棚用に一札購入したいと思います。

    最も印象に残った言葉は
    佐野・・・布の修理をする時に、後から新しい布を足す場合、その新しい布が古い布より強いと却って傷つけることになる。修繕するものとされるものの力関係に差があるといけない
    河合・・・そうです。それは非常に大事なことで、だいたい人を助けに行く人はね、強い人が多いんです。そうするとね、助けられる方はたまったもんじゃないんです。そういう時にスッと相手と同じ力になるというのは、やっぱり専門的に訓練されないと無理ですね。我々のような仕事は、どんな人が来られても、その人と同じ強さでこっちも座ってなきゃいかんわけですよ。

    読後に起きた思い
    ・箱庭療法用の箱庭が欲しい熱再燃(用途は、心理療法用ではなく、自分のお遊び用)
    ・博士の愛した数式を再読したい
    ・博士の愛した数式の映画を見たい
    ・河合隼雄さんの本を読みたい

  • 私の人生の教科書がまたひとつ増えました。
    大切な、大切な本になると思います。
    あとがきで泣いてしまったのは初めてです。

  • 昔、ユングに興味があった時、河合さんの講演を聴きに行ったことがある。
    ユーモアに溢れたとても面白い公演だった。
    一番最後に、質問を受け付けていて、手を挙げた人がいた。
    「どうしてこの道に入ろうかと思ったのか」という問いだった。
    著作を読むと、動機について、教師をしていた時期に生徒の悩みを聞き、それを何とかしたいと思ったと、よく書かれてあった。
    しかし、その時の答えはちょっと違っていた。
    「何かこういう研究をしないと、自分がおかしくなってしまうのではないかと思った」と吐き出すように言われたのだった。
    私もこんな闊達で明るい人が、どうして重く苦しい心の研究をしているのだろうと不思議に感じていたので、何となく得心がいったのをよく覚えている。
    ご自分の中にも患者さんの抱えているものに匹敵する重い何かがあったのだろう。何かは知らないけど。
    恐らく仕事を通してそれは浄化されるのだろう。

    小川洋子さんの小説の世界を題材に、和やか、かつ刺激的。河合さんの最後の対談。
    西洋人と日本人の倫理観の違いが興味深い。

  • ブクログ談話室でオススメしていただいて読了。
    恥ずかしながら河合隼雄さんの存在を初めて知ったのですが、こんなにも真の意味で人は暖かくなれるのかと、その功績に触れてみたいと思う。ご存命でないのが非常に残念。
    ありのままに、死をも受け入れて生きていけば人はもっと優しくなれる。あなたも死ぬし、わたしも死ぬ。当たり前のことなのに、改めてその事実を受け入れて生きていきたいと願う。
    何かにつまづいている時にゆっくり読みたい本。

  • 生きることは物語であり、他者との繋がりもまた物語である。身近で大切な誰かの喪失を受け止め乗り越えるのためにもまた物語が必要である。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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