いつも彼らはどこかに (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101215273

作品紹介・あらすじ

たっぷりとたてがみをたたえ、じっとディープインパクトに寄り添う帯同馬のように。深い森の中、小さな歯で大木と格闘するビーバーのように。絶滅させられた今も、村のシンボルである兎のように。滑らかな背中を、いつまでも撫でさせてくれるブロンズ製の犬のように。――動物も、そして人も、自分の役割を全うし生きている。気がつけば傍に在る彼らの温もりに満ちた、8つの物語。

感想・レビュー・書評

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  • 【うさぎまつり】の一冊。

    うさぎの表紙ということで。

    人と動物を描いた八篇。

    この作品もぴったりすんなり入り込めて好き。

    現実と架空の境界線をずっとゆらゆらどっちつかずのまま揺蕩う感じ。
    この感覚がたまらなく心地よい。

    どこか遠いようでどこか近い場所。
    そこで密やかに、でも圧倒的な存在感を放ちたった一つを慈しむ人たち。

    彼らが時折自分を動物に投影させているようで、その情景がたまらなく心をせつなくキュッと柔く掴んでくる。

    どれもいつまでも波紋が拡がり続けるかのような余韻。

    沼のほとりに残されたような寂寥感さえも含めて好き。

  • 最近、時折読んでいる小川洋子さんの文庫本は、全て、私が引っ越してきた町で見つけた古書店で購入したもので、実は少々煙草の匂いが残っていました。まあ、気にする方もいらっしゃるとは思いますが、私は問題なし(むしろ、後で見開きがよれよれになっていることに気付いた方が嫌)。

    逆に、私の前に読んでいた人はどんな人だったのだろうと、想像してしまう。リラックスしながら読んでたのかな、なんて。自分のスタイルで読書したいのは、すごく共感できる。

    前置きが長くなったが、この短篇集に登場する人たちは、皆、それぞれの行動スタイルというか、夢中になるものを持っている。しかし、その裏には、何かを失ったことが原因になっている人たちが多い。

    失ったものがあるから、それに代わるものを探しているのかな。それでも、いなくなったものを想像するのは、納得できるものを探し続けているんだ。

    その結末は様々だけど、新たな人生の糧になることもあるし、微妙に思うこともある。けれど、その人が自分で判断すればいいわけであって、時には、共感しづらいものもあったが、それだけ人生は幾通りにもなるということだと思う。私が理解できることだけが、世界の全てではない。そう思わせてくれる小川洋子さんの作品は、周囲との共感の少ない私にすごく合う。

  • 時間を忘れて一気に読破したくなるサスペンスフルな小説もいいけど、
    不思議でシュールでユーモラスな1つの短編の世界に
    1日の終わりにじっくりと浸るのも読書の醍醐味だ。

    本書はまさに寝る前に1話ずつ
    ゆっくりと読んで欲しい短編集。


    たちまち非日常にさらってゆく魔力と甘美な陶酔。
    残り香のように漂う異国情緒。
    小川作品に顕著な、
    物語の中、息を潜めた死の匂いとうっすらとした狂気。

    どの話も様々な動物たちをモチーフに、
    そこにしか居場所のない
    小さな場所に生きている人を描いている。


    スーパーマーケットで試食品のデモンストレーションガールをする女性は
    狭いモノレール沿線から抜け出せない自分の心情を、
    フランスの凱旋門賞に向かうディープインパクトの帯同馬ピカレスクコートに重ねて彼の無事を祈る
    『帯同馬』、

    交流のあった異国に住む翻訳家の死を機に
    彼の息子とその恋人に会いに行く小説家の「私」。
    ビーバーの小枝を登場人物に見立てて翻訳作業にかかるシーンが詩情に溢れ心に残った
    『ビーバーの小枝』、

    ドールハウスを作ることに没頭する引きこもりの妹と
    それを支え手助けする兄と祖父。
    まるでラッセ・ハルストレム監督の「ギルバート・グレイプ」や
    クレイグ・ギレスピー監督の「ラースと、その彼女」、
    若きジョニー・デップとメアリー・スチュアート・マスターソンの「妹の恋人」などを彷彿とさせる
    微笑ましく暖かな世界観がかなりツボだった
    『愛犬ベネディクト』、

    何かしらの理由で旅ができない人のため、身代わりとなる品をガラス瓶に入れ、依頼主に成り代わって指定のルートを巡る仕事をしている女性。
    幼くして亡くなった弟への美しい思い出を胸に旅をする彼女がどこか哀しい
    『竜の子幼稚園』

    などが特に印象的だった。


    それにしても小川洋子の物語る腕力、恐るべし!

    試食品を食べに毎日スーパーマーケットに現れる嘘つきな小母さんや
    仕事の帰り道にアイスクリームを買って食べることを唯一の楽しみにしている売店のおばさんの孤独に胸を打たれ、

    「ハモニカ兎」で野球というスポーツを初めて見た人たちの反応に笑い、

    落丁本だけを扱う「落丁図書室」に心ときめき、

    自分の誕生日と同じ日付の賞味期限が記された食品を宝箱にコレクションする男の子にシンパシーを感じ、

    寄生虫に侵された蝸牛が床中を這い回るシーンのホラー的展開に戦慄を覚え、

    旅ができない依頼人の身代わりをガラス壜に詰め、各地を旅する仕事には
    果てしない浪漫を感じて、
    しばし僕自身、この物語の奇妙な登場人物たちと
    一緒に旅をした気分に浸ってしまった。


    そして、なんと巧みな想像力なのだろう!
    ページをめくるたびに
    異国の御伽噺を読んでいるかのような錯覚に陥ること必至の極上の心地良さ。


    メールや電話なんか無視してベッドに潜り込み、
    1日の終わりに本書を慈しむようにめくる幸せは
    何ものにも代え難い至福の時を約束してくれる。

    • 円軌道の外さん
      kwosaさん、あったかいコメント(ラブレター笑)ありがとうございます!
      一か八かで、
      ちょっとキツい言い方かな~っと思いながらも、
      ...
      kwosaさん、あったかいコメント(ラブレター笑)ありがとうございます!
      一か八かで、
      ちょっとキツい言い方かな~っと思いながらも、
      コメントに強いメッセージを込めたんですが、
      ちゃんと胸に届いたなら
      ホンマに良かったです。

      僕も取り敢えず声が聞けたことに、ホッとしています。
      (僕は僕で、僕からのコメントを読んだことによって、逆にkwosaさんから返事をくれなくなるんじゃないかって、内心ドキドキでした汗)


      ん~、やはり、そうですか…。
      僕と同じくkwosaさんもある日突然、書けなくなってたんですね。
      まろんさんの離脱は僕も正直ショックでしたね…。
      いなくなってからも何度もコメント書いたし、
      マメにポチしに行ったり、
      僕なりに努力はしてみたんですが、
      今のところ、成果は出ていません。

      まろんさんがここを去っていった気持ちは、なんとなくですが分かってるんです。
      それだけになんだかな~って、ツラい気持ちになります。

      以前kwosaさんに
      レビューを書くに際して
      気をつけてることをお互い話したことを覚えてますか?

      ネットで繋がるって、
      顔や姿が見えないから、
      普通の出会いよりも簡単に
      知らない人とお近づきになれるんです。

      そして話をして、言葉を何度も交わすことによって、
      信頼が生れる。

      そこは現実のリアルな世界と同じ流れなんだけど、
      難しいところは、
      ネットだから、
      『繋がることをいつ止めてもいいという点』。

      それは、ネット社会の利点であり欠点でもあって、
      簡単に繋がれる分、
      やはり簡単に切れちゃうんですよね。

      だからまず、ネットの中で誰かと繋がることを望むなら、
      ここを理解した上で、
      (離れていくのは仕方がないということ)

      ロボットや2次元の世界のキャラとではなく、
      今繋がっている相手は、
      自分と同じように血が通った生身の人間だということを常に意識して、頭に置いて、
      コミュニケーションをとることが大事だと思うんです。

      まぁ、当たり前のことを言ってるんだけど(笑)、
      じつはみな、分かってないんです。

      人と繋がることや信頼を築くことは
      本来大変で困難なことなんやけど、
      そこだって忘れてるんです。
      ネットではすべてが簡単に済んじゃうから。

      誰もがどこかで、ネットだから気楽にやればいいとか、
      ネットだから人に気を使わなくても許されるとか(笑)、
      相手が生身の人間だということをやっぱ
      忘れがちになるんです。

      人間関係を築くのに、
      ネットもリアルもないし、
      ちゃんと心と心のやりとりを僕はしていきたい。

      心で返してくれた人には
      礼を尽くして、真摯な対応したいですもん(笑)

      去っていく人たちがいるのは仕方がないことだけど、
      繋がる以上は相手が生身の人間だということを
      常に頭に置いて、
      不義理なことはしたくないし、
      ちゃんと心通わせていきたいですよね。


      つか、めっちゃ長くなってしまったッス!(^_^;)

      2018/01/22
    • 円軌道の外さん
      ということで、2つに返事分けて書きますね(笑)
      (つか、相も変わらず、言いたいことを簡潔に書けなくてすいません!)

      あと、基本的な本...
      ということで、2つに返事分けて書きますね(笑)
      (つか、相も変わらず、言いたいことを簡潔に書けなくてすいません!)

      あと、基本的な本が読めない問題とか、
      精神的なストレスや仕事や環境の問題とか
      ブクログを離れる要因はいろいろあるだろうけど、

      僕が自分のことは棚に上げて(笑)、
      師匠であり、ライバルだと勝手に思ってる(笑)kwosaさんに言いたいことは、
      簡潔に要約すると、



      それだけいい文章が書ける人が
      何を言ってんですか!



      です(笑)。もうそれに尽きます。

      望むにせよ、望んでないにせよ、
      kwosaさんは人を惹き付ける言葉や文章を書ける人なんです。
      それって誰もができることじゃないんです。

      それは、生まれもった才能かもしれないし、育ってきた環境によって自然に身に付いたモノかもしれない。
      僕がkwosaさんのレビューからいつも感じるのは、
      小川洋子や川上弘美や皆川博子なんかと同じく、
      人間としての品の良さです。

      それがあるから、淫らなことや汚い言葉や(笑)、厳しいことをたとえ書いたとしても
      品性を失わない育ちの良さ、人間としての懐の深さを感じるんです。
      だから読んだ人を嫌な気持ちにさせない。
      それってある意味、特殊な才能ですよ!(笑)


      それってkwosaさんの生きてきた人生が投影された
      kwosaさんだけの文体なわけです。
      真似したくても、どうあがいても、
      僕にはできないし、そんな風には書けない。

      kwosaさんに憧れてきた僕からしたら、
      本当に悔しいことですけどね(笑)

      だから、書くことや、
      誰かに何かを伝えることを
      簡単に放棄することだけはしないでください。

      書くことを止めるということは
      誰かに何かを伝えることを諦めることと同じだし、
      声を出すことを止めるに等しいんです。

      僕らはプロの物書きじゃないし(笑)、
      たかが趣味の場で、
      熱くなり過ぎって思われるかもしれないけど、
      人間って弱いから
      声を出すことを止めると
      その先、ずっと諦めて、
      いざ、声をあげたくても出し方が分からなくなる。

      書くことを止めると
      今度は書きたくても二度と書けなくなっちゃう。

      要は生き方の問題です。
      誰かと繋りたけりゃ、声を出し続けなきゃいけないし、
      諦めの人生を歩みたくなけりゃ、
      今諦めたら、そこでおしまいなんだと思うんです。


      はからずも、なんかどっかの漫画で聞いたことのある台詞になっちゃったけど(笑)、

      kwosaと僕がライバルだと勝手に仮定するなら(笑)、


      僕がハックルベリー・フィンなら、
      kwosaさんはトム・ソーヤだし、

      僕が和也なら、kwosaさんは達也だし、

      僕が行天なら、kwosaさんは多田だし、

      僕が力石なら、kwosaさんは矢吹ジョーだし、

      僕が助六なら、kwosaさんは八雲師匠だし、

      僕が小次郎なら、kwosaさんは武蔵だし、

      僕がドクター・キリコなら、
      kwosaさんはブラック・ジャックだし、

      僕があたるなら、kwosaさんはラムちゃんなわけですよ(笑)


      最後はちょっと違うか(笑)


      つまり、ヒーローは何度だって、
      立ち上がるんです。
      立ち上がらなきゃならないんです。


      kwosaさんには、望むにせよ、望まないにせよ、
      待っててくれる人がいて、
      kwosaさんのレビューを読んで
      本に興味を持って、
      そこから読書に目覚めていくきっかけになった人もいるわけですよ。

      だからヒーローでいてください。
      僕の師匠であり、ライバルでいてください。


      今は雌伏の時です。
      バネは最も縮められたときに最大の反発力を発揮します。
      だからこれからが逆襲のときです。

      kwosaさんの生きてきた人生を見たいし、
      見せてください。
      (音楽レビューももっと書いて欲しいな)


      やっぱりバカ長い文章になったけど、
      (そしてやはりラブレターですね、これは笑)


      届いてるかな。

      届いて欲しいです。



      2018/01/22
    • 円軌道の外さん
      hotaruさん、遅くなりましたが、
      たくさんのいいねポチとコメントありがとうございました!

      あっ、お気遣いも恐縮です!
      今週は東...
      hotaruさん、遅くなりましたが、
      たくさんのいいねポチとコメントありがとうございました!

      あっ、お気遣いも恐縮です!
      今週は東京は久びさに大雪が降ってうちの町でも
      25センチほど積りました。
      僕は昼間は便利屋の仕事をやっているのですが、今週は雪かきの依頼や夜逃げの引っ越し仕事や遺体の出た部屋の掃除など、かなりバタバタと忙しくしてました。

      そうですね。小川さんの作品に纏う、独特の雰囲気や空気感が僕は好きなので、
      実はストーリーは二の次なんです(笑)
      よしもとばななさんや吉田篤弘さんもそうなんですが、
      文体や世界観に惚れている作家は、
      もう読んでいる間は幸福感に包まれているので(笑)、
      それだけで充分満足しちゃうんですよね。

      あと、小川さんは映像喚起力に優れた作品を書くので、
      イメージの世界に浸りやすいってのもあるのかな。
      妄想しやすいから現実逃避にはもってこいの作家だと思います(笑)

      いやいや、ふだんから誉められ慣れてないので
      ホンマ恐縮です!(汗)

      まぁ、そんなこんなでボチボチやっていくので
      今年もよろしくお願いします!

      2018/01/28
  • 動物に纏わる短編集
    動物といってもビーバーの頭蓋骨やブロンズ製の犬など生きてないものに対しても想いを寄せる。
    「ビーバーの小枝」亡翻訳家を偲ぶ。印象的。
    「愛犬ベネディクト」ブロンズ製の犬を愛する妹が入院。彼女が作るドールハウスに圧倒される。
    「チーター準備中」冒頭から切ない

  • 今まで読んだ中で1番静かな作品だった。いつもより重く深く静か。ページをめくる音すらたてたくない。深夜ひとりでただただ読んでいた。風の音や鳥の羽ばたく音、そしていつもどこかにいるであろう彼らを感じながら。

    3話目まで正直きつかった。面白くないわけではなくきつかった。なかなか浮上出来なくてもがいている感じ。特にハモニカ兎は…。4話目から話に入り込めて楽しめるようになった。
    「目隠しされた小鷺」と「愛犬ベネディクト」がとても好き。

    「帯同馬」
    帯同馬と言うのがあるという事を初めて知った。その立場、その役割、重要だけど切ない。そして帯同馬としてなら遠くに行けるかもしれないと考える彼女の事も切なく思う。
    「ビーバーの小枝」
    ビーバーの頭蓋骨が送られてきたらびっくりするだろうな…小説家のように大切に使っていけたらいいなぁ。
    「ハモニカ兎」
    寂しそうなハモニカ兎。うさぎの話は楽しい話がいいと思う私はわがまま。この村にくるオリンピック競技については笑えた。盗み…確かに。
    「目隠しされた小鷺」
    美術館の受付女性と移動修理屋アルルの老人、画家Sと魚屋の女主人、移動修理屋アルルの老人と『裸婦習作』の関係が好き。
    どの関係にもはっきりとした決着はなく色んな事を想像してはため息をつく。
    「愛犬ベネディクト」
    『ええ、いいのです。いつまででもいいのです。私の背中はそのためにあるのですから』ベネディクトの背中を私もいつまででもなでたい。
    ベネディクトは生きていてこの話は全部本当の話、そう思わせる力が小川洋子さんにはある。
    「チーター準備中」
    hを亡くした女性がhを求め探している姿が切ない。いないものを誰よりも大切に思える人。
    「断食蝸牛」
    この話は苦手。想像したら鳥肌が立ちそうだから。ひゃー。
    「竜の子幼稚園」
    身代わり旅人、何らかの理由で旅ができない人の代わりに旅をする仕事。素敵な職業だ。身代わりガラスの中に依頼人から預かった物を入れて旅をする。
    代わりに旅をしているのではなく、その人に付き添って旅をしているのだと思う優しい彼女の今回の旅は何処へ…妄想に耽ったまま読了。

  • どこかの国でひっそりと静かに暮らす誰かの側にはいつも彼ら(何か)が寄り添っている。それは生きた動物だったり、物であったり…。 大きな出来事はおこらない、物語の結末もよくわからない。けれどその世界観にじわっ〜と浸れるような短編集。
    特別なことがなくても平凡に暮らす私たちでも小川洋子さんの手にかかれば素敵な物語になるのかもしれない。自分の心にそっと寄り添ってくれているものって何だろう…

  • 再読。

    小川洋子さんは好きすぎて、
    図書館で借りて読み、購入しても読む!

    動物を絡めた短編。
    少し悲しかったり、ほっこりしたり、
    この人の描く物語と独特な文章の世界観が
    どれもステキな一冊です。

  • 小川洋子さんの世界観が爆発しています。『断食蝸牛』は『薬指の標本』のにおいがして「この感じ!」となる作品でした。

  • 心温まりたい時に読みたい一冊。

  • 小川洋子の小説は、喪失感からくる寂しさと、薄っすらとした気味悪さやグロテスクさの塩梅がきれいで好きだなあと、この作品を読んで、また実感しました。

    実在はしない、もしくは私自身は見たことがないものや景色なのに、ハモニカ兎が広場に佇んでいる様子や、ミニチュアハウスと愛犬ベネディクト、蝸牛であふれる風車小屋が目に浮かび、チーター準備中は物語に漂う寂しさからか冬の空気感を感じるような気がして、ゆっくり1編ずつ読みたくなる1冊でした。

    個人的には最後の「竜の子幼稚園」が好きでした。
    いつかふとした瞬間に、脳裏にひっそりと蘇りそうなシーンがたくさんある1冊でした。

  • お気に入りは静かなぬくもりを感じた「ビーバーの小枝」
    なんだかぞわっとしたのが「断食蝸牛」
    いつもの小川作品のように、見つめるのはにぎやかな大通りではなく、どこかの片隅。気づかずにいるかもしれない世界をすくい上げてくれる。
    タイトル通り、どこかにいる彼らを感じた短編集。

  • cheetahの話がすき
    読まれない最後にそっといるh

  • 身近にある動物たちを、ひっそりとモチーフにした短編集。

    メインを人の想いや人生に置き、そこに寄り添うように様々な価値で動物たちを忍ばせ、悲しい寂しい話も充実した読後感を演出しているように思う。

    不在なるものを想うことによる、人生が紡いだ物語、ここに極まれり、という感じかな。

    この作品の中に潜む静謐な世界観も含めて、言葉はいらない、ぜひ読むべし。

    小川洋子さんの持つ、世界観の演出、いろいろんな世界があって、読むたび楽しませてくれる。

    さて、次は。

  • 小川洋子さんによる動物がテーマの短編集。2013年発行ですからちょい前のものです。

    ・・・
    作りとしては短編集となっています。相変わらず不思議な物語を綴ります。

    タイトルに動物が絡みますが、物語は時として重層的に進みます。

    あらすじを書こうと思ったのですが、上記の重層性の関係で説明しきれんと思い、このようにバッサリやりました。

    帯同馬・・・タイトルは『フランスの凱旋門賞で優勝が期待されるディープ・インパクト。慣れない土地への移動のストレスを緩和するためにピカレスクコートが帯同場として出国した。』という点より。主人公は(おそらく)大阪モノレール間のみ移動できる電車恐怖症の女性(職業;実演販売)。

    ビーバーの小枝・・・主人公はとある作家。タイトルは、彼の翻訳を担当した外国人が翻訳の際にさすったという、ビーバーが表皮をキレイに食った小枝より。

    ハモニカ兎・・・主人公は、とある村の朝食屋の主人の話。タイトルは、この男の村で開催されるオリンピック競技の開催までの日めくりのボードより。ここにかつてハモニカ兎という特産兎がいたという話から、この動物が日めくりボードになっている。

    目隠しされた小鷺・・・主人公はとある私立美術館の受付係。タイトルは、ここに訪れるうらびれた修理屋で何をやってもダメそうな「アルルの女」が機敏に助けた動物から。

    愛犬ベネディクト・・・主人公は若い男の子(大学生くらい?)。タイトルは彼の妹が可愛がる陶製の犬の名前より。

    チーター準備中・・・主人公は動物園の受付で働く女。タイトルは、彼女の失ったhがチーターcheetahに含まれていており、また彼女が好きなのは展示の主人のいなくなった「展示中」の檻とその看板だったことから。共有されない「喪失」の悲しみが痛い作品。

    断食蝸牛・・・主人公はとある断食施設に身を寄せている女性。タイトルは、彼女が足しげく訪れた近くの水車小屋、そこで買われている蝸牛と、彼女が入っていた施設の目的から。

    竜の子幼稚園・・・主人公は身代わり旅行人のおんな。タイトルは、若くしてなくなった弟が通っていた幼稚園から。

    ・・・
    今回も、美しくも静謐に満ちた表現の花園にうっとりしたのですが、読中ひらめきました。小川氏の表現は、ナチュラル・メイク的表現だな、と。

    通常描写というのは隠喩であれ直喩であれ、手を変え品を変え、時に複数の角度から物事を表すと思います(違うって!?)。

    でも小川さんの表現はこんな厚化粧ではないのです。もっとシンプルで美しい。あ、でも薄化粧というわけではないのです。
    そこにはきっと計算と試行があり、一番質の良い表現が意図をもって配置されているのだろう。そして表現は適切に間引かれ、ミステリアスな雰囲気をまとうのだろう。

    ああ、これって、(薄化粧でなくて)ナチュラル・メイクじゃないのか、と。という一人合点でした笑

    ・・・
    表現が適度に間引かれているせいか、最初の「帯同馬」以外、舞台がどこであるか分かりません。

    特に幻想度が強いのが、最後の「竜の子幼稚園」でしょうか。身代わり旅行人なんて聞いたことが有りません笑 でもあったら素敵だなあとも思いました。最後に死んだ弟と再会するかのような出会いも幻想度を高めていたと思います。

    また、学校に通わなくなった妹がドールハウス世界に没入する「愛犬ベネディクト」もちょっとした狂気を感じます。妹の没入に祖父も陰に陽にサポートし始める点です。

    ・・・
    ということで二週間ぶりの小川氏の作品でした。

    今回も美しい静謐感に満ちた表現を頂きました。決して起伏が激しい展開ではありませんが、このワードチョイスあってのこの展開だと思っています。

    ことばを楽しみたい方にはお勧めできる作品です。

  • 「彼ら」とは動物。
    8篇とも人の傍に寄り添い重要な役割をする。
    静かで温かい。
    中年女性が主人公の「帯同馬」と「竜の子幼稚園」が特に良い。
    自然と小川洋子本人が主人公のように想像してしまい不思議な感覚になる。

  • 短編集。人間らしいというか、人間も一つのただの生き物として生々しく描かれるお話と、
    一つの生き物としてとにかく美しくこの世のものでは無いくらい神秘的に描かれるお話もあり、
    それらが小さな箱にぎゅっと詰まっている、感覚。
    この感覚何かに似てると思いながら、なかなか思い出せなかった。とにかく繊細に微細に作り込まれたすぐに壊れてしまうような美しい芸術品のような、
    それぞれの個性が際立つ小さなチョコレートとか、クッキーと、そんなお菓子たちが詰まってる箱をゆっくり味わっているような感覚かも、と、一つ一つをいただきながらたどり着いた。

    この手の短編は一つ一つがとにかく心に残りながら読み進めるのに、あまりに素晴らしい表現力で、脳に描きすぎて、じんわり自分のものになり
    どんな話だったっけ?と具体的なところは忘れてしまうから、一つ一つに感想を残しておいた方がいいのだろうか。

    江國香織さんの解説。
    これも一つの魅力でこの本を手に取ったのだけど、

    小川さんの短編集は
    一つ一つが全く違う世界観であるが、
    一つ一つが磨きあげられている、
    確かな質量がある、という一文を見て、
    これが答えだと思ってしまった。
    余韻が、とかそういうことではなく、
    それもそうなんだけど、それ以上のもの。
    たしかにそこにある。という感覚になる小川さんの小説は本当に素晴らしいです。

  • 少しふしぎで、奇妙な人々のおはなし。
    ほの暗さよりも、もっと光があるから、くらいおはなし。

  • 文庫版を読みました。
    この表紙で、「動物が出てくる短編集」と聞いて、ほっこり系や感動系を思い浮かべない人は居ないと思うんです。
    しかしこれは小川洋子さんの小説なのでどこか奇妙で薄気味悪く、それでいて綺麗で美しい。ある種の表紙詐欺ではと思いますが、私としては良い意味での裏切りです。
    出てくる小道具(モチーフ?)と心情が絶妙に絡み合うところはさすがとしか言いようがないです。どこか逸脱した人々と、その人々へ向けられた愛ある目線というか…隅々まで愛ある筆致なのもさすがです。


    帯同馬
    モノレール、厩舎、帯同馬、ビーズのバッグを下げたおばさん…ラストのやりきれなさがたまらない

    ビーバーの小枝
    森に行きたくなる 森に、行きたい

    ハモニカ兎
    本当に気になる。この競技見てみたい。

    目隠しされた小鷺
    こういう、奇妙な友情っていうか、形容しがたい関係、共犯が一番近いような気もするけど、なんか、良いよね…!

    愛犬ベネディクト
    読んでいるあいだ、「そうはいってもこれ小川洋子さんが書いてるから何が起こってもおかしくはないよな…」と何度も思った この「どっちなんだろう」のスリルがたまらん

    チーター準備中
    冒頭から続くhの不在、たっぷりと予感させておいて最後には「あぁ…!」って思わせてくれる 決定的というか直接的な言葉は一切ないのに本当に心が抉られるし想像を掻き立てられるしマジですごい

    断食蝸牛
    ダントツでやばい
    恋じゃん…!ってそわそわ起立したのに着席するしかなかった
    誰が悪いとか決めることに意味はないけど、あの、これ、全員悪くないすか…?
    あとかたつむり これがカブトムシとかカエルとか別の生き物じゃなくてかたつむりだからこそのやばさがすごくて…
    たぶんこの先何度か読み返すと思う

    竜の子幼稚園
    ネタバレになるかもしれませんが読後にすぐ「じゃあどこからそうだったのか?」を探してみたら割とすぐに「ここかな?」と探せました 国語の文章題じゃないけど、過不足ない文章なんだな〜と感心した さすがすぎる

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/682292

  • 小川節全開の短編。どの話にも何らかの形で動物が出てくる。ちょっと切なくて、でも心温まる作品。

  • この本読んだこと忘れて何度も読んであれ?知ってる なんで?ってなる。

  • 博士の愛した数式を書いた作者の短編集
    どこか欠落しつつ、どこかにひっそりと他人の人生の通行人程度にしかならないような人たちの愛らしいこだわりや考え方を、何か別の事象や出てくる生き物に重ねて描く。
    一番好きな作品はビーバーの小枝
    ビーバーの勤労と物書き、翻訳家との心の交流がとても丁寧に描かれている

  • お気に入り
    「ビーバーの小枝」
    「ハモニカ兎」
    「愛犬ベネディクト」
    「断食蝸牛」

    「断食蝸牛」は以前その寄生虫を調べたことがあったので、もしかしてという予感と同時にゾッと鳥肌が立った。

  • ブロンズ製の犬、cheater、蝸牛、竜の落とし子‥それぞれの主人公のそばには動物たちがいる。
    ここではない何処かで繰り広げられる、不思議かつユーモラスな8つの物語。

  • 最後のタツノオトシゴが良かった。

  • きれいな文章の短編集だけど、読みやすいとは言えない独特の雰囲気。
    普通の日常らしい静けさの中の、優しさやら不穏やら・・・「大好き」にはなり得ないけど、好き。

  • 小川洋子の短編集。本タイトルが、小川洋子らしくなく、内容の一部もそんな感じ。

    スーパーで試食を作ると、派手でも積極的でもないのに飛ぶように売れる試食販売員。スーパーの試食が配られ始めると、どこからともなく現れて、何周も食べる女性。いつの頃か、2人には固い絆が作られていく。

    年末年始に読んだ本が、ことごとくハズレであったので、心の安らぐことこの上ない1冊。サウナのあとの1杯の水と言う感じで、ごくごくと読んでしまった。

    冒頭のスーパーの2人とディープインパクトに対する帯同馬の話は、どう思いついたのかがすぐわかるところが、創作の参考になる。ただ、小川洋子にしてはツッコミが浅いな…とおもっていたら、頭に入ってこない作品が有って、ちょっと戸惑った。

    ほとんどの作品は、☆4以上の出来なのに、やはり頭に入ってこない、突拍子もない展開のある作品については、減点。また、いつもの小川洋子らしからぬ浅い作品、例えばカタツムリはオチが分かっちゃったなあ。でも、寄生虫にはライフサイクルというものが有るから、純な環境では繁殖できないんだよなあ、などと要らないことを考えてしまう。

    我々は小川洋子には、いつものように、もう少し薄ら怖い作品を求めているのだと思う。

  • 野球って、言われてみれば変なスポーツだよなあ。

  • 「ビーバーの小枝」綺麗で爽やかな文章のなんと心地よいことか
    「ハモニカ兎」なんてことのない村にだって人の凶器がしっかりと潜んでいる
    「竜の子幼稚園」一体誰の身代わりとして旅をしていたのだろうか。優しい言葉と足取りで、失った弟との思い出を旅する女性。そして竜の落とし子は、ずっと彼女の傍らにいる。

  • 何度読んでも好きです。
    癒し系ではない動物の短編集ですが、仄暗い世界に癒されました。
    「帯同馬」と「ビーバーの小枝」が好きです。
    「帯同馬」で、ディープインパクトとピカレスクコートという固有名詞が出てくるのが小川作品では珍しい感じがしました。あ、でも数式の江夏もそうか…。帯同馬、という関係性も密やかで好きです。
    この作品は日本でしたが、他の作品は国がわからなかったです。
    江國香織さんの解説もとても素敵でした。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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