津山三十人殺し―日本犯罪史上空前の惨劇 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (364ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101218410

作品紹介・あらすじ

その男は三十人を嬲り殺した。しかも一夜のうちに-。昭和十三年春、岡山県内のある村を鮮血に染め「津山事件」。入念な取材と豊富な捜査資料をもとに再現される、戦慄の惨劇。不朽のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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    ── 筑波 昭《津山三十人殺し ~ 日本犯罪史上空前の惨劇 20051001 新潮文庫》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4101218412
     
    http://d.hatena.ne.jp/adlib/20030521 津山事件 ~ 30+1人 ~
     
    (20181031)
     

  • 「八つ墓村」のモデルとなった事件のノンフィクション。聞き込みによる殺戮の経過は圧巻。2016.12.11

  • 自らのための備忘録

     青山一丁目の図書館で書棚の間をぶらぶら歩いていたら、突然一冊の本が「私を読みなさい」とまるで一種の啓示のように語りかけてきたので思わず手に取りました。背表紙には『津山三十人殺し 筑波昭』とありました。
     「津山事件」は、横溝正史の「八つ墓村」の物語のもとになった実話だということは知ってはいましたが、なぜ、なんの脈絡もなく、突然この本を読まなくてはならないと感じたのかは自分でもよくわかりません。
     ひとまず借りてきて読み始めてみると、いきなり筆者・筑波昭の筆力に圧倒されました。筆者の経歴を見ると、「1928年(昭和3年)、茨城県生れ。日本大学芸術学部中退。新聞記者を経て作家に。著書に『連続殺人鬼 大久保清の犯罪』『巣鴨若妻殺し 昭和戦前の最難事件』とありました。お元気だとしても今年95歳なので、もう現役は退かれておられることと思います。他の著書も読んでみたいけれど、大久保清に若妻殺しか…とちょっと躊躇してしまいます。

     さて、目次に続く本書の書き出しは、①事件の第一報を伝える昭和13年5月21日付の『大阪朝日新聞』夕刊記事、②西加茂村付近図の地図、③被害現場の見取り図(部落の家々の位置関係が明確にわかる地図と、各戸ごとの戸主名と被害者全員の氏名)から始まり、それに続き、④津山警察署長宛の巡査の「殺人事件受理報告書」、そして⑤現場で捜査を指揮した岡山地方裁判所津山支部検事局の主任検事の報告書、⑥検視の報告書、⑦犯人都井陸雄の複数の遺書、⑧犯人実姉の供述要旨、⑨被害者や難を逃れた村人の複数の供述要旨が続く。これが「第一部事件」の「第一章惨劇」です。
     「第二章事後」「第三章論評」がそれに続くわけですが、第二章、第三章もいずれも警察や検察、あるちは評論家、法医学教室の教授による報告書の引用のよって事件が語られていきます。
     ここで紹介された「ワグネル事件(1913年)」については私はこれまで聞いたことすらありませんでしたが、津山事件(1938年)に遡ること四半世紀前に南ドイツで起きたこの事件は、実にこの津山事件に共通点が多く驚きました。
     「第二部犯人」では、都井陸雄の出生から毎年毎年、生い立ちの背景を辿っていくのですが、「一歳(大正六年)」では、早速「日常の主食物」「日常の副食物」とあり、米と麦の割合や、漬物などのおかず、それに一日四食の食事時間など、今日ではなかなか知り得ない情報や、子どものわらべ唄に唄われた当時の世相などを知ることができて、私にとっては大変興味深いものでした。
     筆者は、このように事実を淡々と積み重ねていく手法で「津山事件」を書き記していくわけですが、犯行に及んだ当日の記述は、地図と被害者の氏名を照らし合わせながら読み進めていくと、まるで事件現場の映像、それも疾風怒濤の如く犯人が立ち回る様子が目に浮かびました。
     「あとがき」に、横溝正史の『八つ墓村』の犯行シーンの引用がありますが、本書を読み終わった直後に目にすると、それは間延びしていて凄味がないと感じました。

     このようなわけで、私にとっては大絶賛したい本書ですが、読後にあれこれ検索していたら、石川清著『津山三十人殺し七十六年の真実』という本が出版されているのを発見し、それのカスタマーレビューの中で本書筑波昭本についての批判もあり、またWikipediaにおいても次のように書かれています。
     《(前略)従来、本事件に関する基本的文献とみなされてきたが、下記の『津山事件の真実』による検証で、この本の「雄図海王丸」や阿部定関係など多くの部分が、著者による創作あるいは捏造であるらしいことが判明した。著者自身が、「よく調べずに書き良心がとがめている」「現地には一度行っただけ」と述べた。松本清張の書いた「姉はすでに死亡」を鵜呑みにしたのか、真偽を検証しようがない都井家の家庭での他愛ないエピソードが多く、姉の回想に基づくことを示唆するくだりもある。直接都井と関係のない歴史、風俗資料の引用が多い。(後略)》

     というわけで、手放しで絶賛すべきではないのかもしれません。しかしこのWikipediaの最後の一文などは、私にとっては本書の評価ポイントのひとつとなります。『…真実』を読んでからでは本書に対する評価も変わることもあり得ますが、とりあえず、読み終わった直後の感想としては、上に書いた批判を割り引いたとしても、4.5。暫定的ではありますが、四捨五入で星は5つに致します。


    2023年2月12日追記
     本書の感想を2023年2月7日に書いてから、先に述べたように石川清氏の二作品を読み終えました。非常に残念ながら、石川氏が主張するように、本書の後半部分は捏造あるいは創作であると信じるに足ると感じました。特に「内田寿」なる人物は、次のように紹介されています。
     《津山事件から三年後の昭和十六年、東京浅草警察署に二人組の窃盗犯が捕まった。この一人内山寿という二十一歳の青年は、加茂五郷の某村の出身であり、(後略)》とありますが、石川氏も指摘している通り、昭和13年に起きた事件の3年後の昭和16年に捕まった21歳の青年は、事件当時は18歳のはずですから、《内山は都井より一歳年長で、》という続く文章に矛盾します。都井陸雄は犯行時22歳でしたから、内山寿は23歳でなくてはおかしいのです。
     石川清著の二作には、他にも『雄図海王丸』について、あるいは阿部定事件との関係においての創作疑惑が述べられていますが、私にとっては、内田寿の創作疑惑だけで、本書への信頼度は地に堕ちました。
     本書は、二冊の石川本には掲載されていない部落の家々の位置関係が明確にわかる地図と、各戸ごとの戸主名と被害者全員の氏名の一覧が掲載されて、特に第一部は本事件を理解する上で大変有用なものですが、この種の作品で、事実の捏造は決してあってはならないことであり、この時点で評価対象外となります。今回は星の数を5つから1つに変更致しました。

  • あの有名な「八つ墓村」の直接的なモデルとなった津山三十人殺しのルポ。事件の様子や生存者の証言、犯人である都井睦雄の遺書などをまとめた章と、都井の一生を辿った章の二つにまとめられている。
    個人的な感想
    事件全体を通して不明なことが多すぎるように感じる。芥川の「藪の内」のようだ。周囲の証言や遺書などには被害者と都井との関係や名誉の保持のため明らかに食い違う描写も多く、解釈により事件の全貌を推測するしかない。特に都井の女性関係や、都井自身の病状であったりは明らかにおかしな記録が多く、それらを比較しつつある程度の形にまとめることができたのは筆者の努力と執念に因るものだろう。しかし、事件を決定つける重要な「なにか」が欠けているようにも感じる。あるいはそのもやもやがもやもやのまま事件へと発展したのかもしれない。センセーショナルな事件に対して「なにか」を求め過ぎるのは客観的でないが、「なにか」があるように感じざるを得ない点でもこの事件は不明な点が多い。
    個人的な都井についての考察
    彼は肥大した自意識と世間の現実の中に上手く折り合いをつけられなかったように思える。祖母による長男としての特別扱いや小学校での優秀な成績、彼は「特別」として育ったが家庭の都合で中学校(当時の高等教育である)には進学できなかった。そこから肺病を病み彼の「特別」にはケチがついた。それを女性関係を通して満たそうとしたが、彼はとうとう金銭的関係や武力(猟銃による脅し)を通じて以外の関係を築けず、その金銭的関係ですら裏切られた(彼の主観だが)。そこに不治の病(という認識がまだ残っていた)肺病への悲観から、自分の将来を信じられなくなり、もう自分は死ぬものと考えた。「無敵の人」の誕生である。これから彼は持っていた猟銃に加え刀剣を集め計画を立てた。一度はバレて水泡に帰すもそれすら油断を誘う策として用いた。念密に立てられた計画は不幸にも完璧に成功し、三十人という未曾有の悲劇が起きたのだ。
    私が分からないのは「無敵の人」から計画を立てるまでだ。なぜそこで衝動的なままに殺人をしなかったのか、なぜ念密に計画を立て装備を整えてまで実行しようとしたのか。どういった考えでそこまでの熱意を注ぎこむことが出来たのだろうか。これを「サイコパス」と一蹴してしまうのはあまりにも無責任で傲慢である。事件発生は1938年ともはや百年近く前でもあるが、新たな資料や類似の事件から再び分析の目が当てられることを期待したい。

  • 昭和十三年春に実際に起こった事件を取材、捜査資料を基に検証したもの。

  • これ、フィクションではなく、実際にあった犯罪なんだよな。

    そんなことはネットで見て知っていたはずだが、ここまでつまびらかに描写し語られることで、ある種の「実感」を持ち、それ故に陰惨たる気持ちになってしまった。

    筆者はジャーナリストらしく、文献と取材にあたり、状況からの推測は立てるが、憶測を含まず事実から淡々と事件の概要を構築し、事件そのものと、犯人・都井の人生に向き合う。その姿勢がすごく良い。阿部定事件に犯人が執心していたというのも唸らされる。

    30人殺しの描写は息が詰まるリアリティだった。

  • 時代なのか土地なのか両方なのか何なのか

  • 30人のうちほとんどが即死。
    真夜中の山村の中を自在に駆け回り、確実に獲物を逃がさず仕留めていく。
    これはもう物凄い体力と集中力でしょ!
    どこが病弱なんだか!
    村の中の男女関係の乱れも物凄い。
    田舎の黒い部分が呼んだ悪夢。

  • 横溝正史の「八つ墓村」のモチーフとなった事件が実際にあったと知り読んでみた。
    「八つ墓村」に登場する要蔵の奇妙なかっこうも、実は「津山事件」の犯人・都井睦雄が事件当時していたものとほとんど変わらないと知って驚いた。
    写真や殺害現場の見取り図などを効果的に使い、ひとつひとつの惨劇の様子を事細かに検証していて、申しわけないけれどちょっと気分が悪くなってしまった。
    それほど臨場感にあふれていたということだろう。
    犯人の生い立ちを丁寧に追っているのだが、動機らしきものはわかるのだけれど。
    出口のない迷路をぐるぐると回っているうちに、被害妄想的な発想に拍車がかかってしまったような気がする。
    しかし、これほどまでに用意周到な犯人の心理がとても怖い。
    犯行そのものも勢いに乗って…ではなく、ひどく冷静に淡々とこなしていたのでは?と感じる。
    わずかな時間内に多くの殺戮を繰り返すのは体力がいる。
    徴兵検査で実質的な不合格になったのに、人を殺すために体力には不自由しなかったんだなぁと。
    時代や土地に根づいた因習に縛られたことが影響しているかもしれないけれど、何となく薄気味悪さしか残らない事件だ。

  • 戦前の山村集落で発生した事件のデータをよく集めたなとは思うが、事件の本質に迫る何かが足りていない気がする。
    それはおそらく部外者では理解できない因習的な何かだろう。

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