警官の血 下 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 1999
感想 : 170
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  • Amazon.co.jp ・本 (467ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101223230

作品紹介・あらすじ

安城民雄は、駐在として谷中へと還ってきた。心の傷は未だ癒えてはいない。だが清二が愛した町で力を尽くした。ある日、立てこもり事件が発生し、民雄はたったひとりで現場に乗り込んだのだが-。そして、安城和也もまた、祖父、父と同じ道を選んだ。警視庁捜査四課の一員として組織暴力と対峙する彼は、密命を帯びていた。ミステリ史にその名を刻む警察小説、堂々たる完結篇。

感想・レビュー・書評

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  • 復員した清二は家族を食べさせるため警察官になる。民雄の父であり民雄の長男和也の祖父である。戦後の混乱期で左翼労働組合の過激な運動があったり上野に浮浪者がたくさんいた時代の清二の話しは、人気ないようだが当時の雰囲気が伝わるものだし、後に続く二代、三代の警官に重要な事柄です。清二が死んだ原因、民雄が死んだ原因は孫の和也にて明らかになる。幼児の頃、祖父に連れられて上野動物園に行ったとき義足でアコーディオンを弾く人たちがいたのを思い出した。和也の時代で携帯電話が出てくるのが時の流れを感じました。

  • 安城清二(祖父)、民雄(父)、和也(本人)の警察官三代に渡る長編。清二の不審死を民雄、和也が真相を暴く。犯人は途中から分かったが、壮絶な変態でした。時代背景によって警察官の役割は多様で、また警察官としての在り様が警察官個人のパーソナリティに大きく依存する。それが警察官の血となり遺伝していく。最後、和夫が犯人の子(キャリア)と対峙するが、警察官としての在り様が遺伝しているのだなと実感。和夫の場面、加賀谷、永見由香が逮捕され緊張感がほぐれた。佐々木譲さん2作目ですが。松本清張とかぶる重厚感。超おすすめ。

  • グイグイ読んでしまいました。初代・清二の断ち切られた志。二代・民雄を蝕み続けた任務。そして、三代・和也が拓く新たな道。と書かれていたPOPに偽り無しでした。個人的には和也と加賀谷の話をスピンオフで希望します。と書いたけどもうすでに『警官の条件』がでてました。さっそく読もうと思います。

  • (上下巻)
    「血」とは三代に亘って、地域警護に勤めた警察官の「血脈」を表す物語である。

    第一部 清二

    戦後の混乱を警戒して、警視庁は警官の大量募集をした。復員して定職のなかった清二は、それに応募して採用された。
    研修中に3人の親友ができ、希望通り谷中の派出所の巡査になる。公園には浮浪者が溢れ、孤児も住んでいた。
    ここで仲間同士の争いがあり、ミドリというホモが殺される。彼はこの事件の捜査を内偵していたが、捜査員でなく、巡査の身分では思うように進まなかった。
    派出所のすぐ裏にある天王寺の五重の塔が不審火で燃える。そのとき、不審な動きをする人物をつけていき、跨線橋から落ちて死ぬ。

    第二部 民雄

    父を尊敬し、自分も地域を守る警官になりたいと思っていた。成績が良かったが進学をあきらめかけたとき、父の同期で友人だった三人が「血のつながらないおじ」だと言って援助をし彼に高等学校の教育を受けさせる。
    無事、警察学校に入り訓練を受けることになったが、成績が優秀だったので、急遽北大に行けと言われる。そこではロシア語をべと命じられたのだが、内実は、北大内部の左翼グループの動きを探る役だった。
    この、学生生活と偵察員の二重生活は民雄を蝕み、精神を病む。
    やがて学生運動は鎮圧され、開放された彼は、父と同じ駐在所の警官になる。
    彼はなぜか殉職扱いされなかった父の死に強い不審を抱いてきた。
    だが、人質を取って立てこもった指名手配犯に向かっていき、射殺される。

    第三部 和也

    和也も大学を出て、地域警官になることを選んでいた。だが卒業間際に捜査官の素行調査を命じられる。
    彼が内偵を命じられた警官は、加賀谷と言った。加賀谷は一匹狼の刑事として数々の実績を上げていた、暴力団相手の刑事だった。和也は彼からさまざまな訓練を受ける。
    一方、祖父の不審死を父が探っていたことを知り、その遺志を継いで行こうとしていた。
    加賀谷は地域暴力団の顔になっている。やはり裏で繋がっているのだろうか。
    聞き込みで、父に援助した「三人のおじ」は亡くなったり引退していたりする。彼は当時のことを調べていく。



    警官三代の物語が、それぞれの時代背景の中でつながっているのが面白い。戦後の荒廃した街で生きている浮浪者や孤児に暖かいまなざしを向ける民雄。

    民雄は裏切りの生活の中で壊れていく。父が殉職扱いにならないという警視庁の判断のために、貧しい暮らしを余儀なくされた。しかし彼は父のような警官になることを目指した、だがあたら優秀な頭脳を認められたために特命を受けて利用される。貧しさ故といえるかもしれない。
    恵まれた頭脳が生かしきれない環境というものもあるだろう。

    和也もやはり組織の中では自由に生きられなかった、上司をスパイするという運命を受け入れなくてはならなかった。

    和也の最終章になって事件は解決するが、長い年月をかけた割にはあっけない。調査方法が進んだこともあるかも知れないが、話としてはいささか簡単すぎるように思った。
    祖父を殺したのは誰か、早くに思い当たる部分もある。

  • 下巻の3代目和也の話が一番面白かった!特に、最後、早瀬勇三の息子との駆け引きが良かった。こんなしたたかな男だったのか…!そして、ホイッスル!先に「警官の条件」を読んでしまっていたのが悔やまれる!ホイッスルにそんなに深い意味があったとは…。安城和也の今後の活躍が見たいです。

  • 「2008年このミス」1位に輝く作品だっただけに期待値が大きく、その落差も大きかった。
    上巻に山場はほとんどなく、下巻の和也が登場するあたりからやっと・・ここで既に全体の3分の2が。となると、俄然伏線回収に期待が高まる。ネタバレになるので避けるがその真実がショボい。さらに、証拠となる写真を提供した人物がその写真を見て顔色が変わった主人公をみながら、その写真に写る人物を吟味せず和也に指摘されるまで気づかないという設定にも無理がある。また、ラスト近くの和也の反撃だが、唐突感が否めない。
    佐々木譲を読むなら、まず「エトロフ発緊急電」をお勧めします。

  • 過去の「このミス」で一位だったこともあり、ずっと読みたいとは思いつつなかなか手を出せずにいたのだけれど、背中を押してくれた方がいたのでこの度チャレンジした。
    3代に渡り警官となった清二(祖父)、民雄(父)、和也(子)。清二の死の真相を3代目がようやくつきとめたのは良かったけど、汚名をはらせた訳では無いので残念だった。それはそれで自分の生き残りのためのやり方なのだけど。
    重かったけど、読んだなって感じの読後感。
    きっかけをありがとうございました。

  • ん~ん。
    軸となっていた
    祖父の死の真実が
    あまりにお粗末な理由だったのが
    残念だった。
    物語全体のスケールが大きかった為
    ギャップが・・・。

    しかし、全体を通じて
    3代60年の警官一家
    それぞれの親を理解しながら
    誇りに感じながら
    全うしていく姿がとても良かった。

    • hs19501112さん
      「祖父の死の真実があまりに・・・」

      全くもって、同感です(笑)。
      「祖父の死の真実があまりに・・・」

      全くもって、同感です(笑)。
      2016/08/26
  • 三代目の話が、とても興味深いです。
    警察の闇の部分が見え隠れします。

  • なるほど。
    三代の警察官の異なる職務内容、姿勢、過去との関係を通して、警察社会における正義とは何かを問う大作でした。
    三人の祖父の同僚、駐在所の近所に住む人々の変化に富む関わり方が絶妙な小道具となって、物語に厚みを出しています。力作だなあ。

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著者プロフィール

1950年北海道生まれ。79年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞しデビュー。90年『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を、2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞、10年『廃墟に乞う』で直木賞、16年に日本ミステリー文学大賞を受賞。他に『抵抗都市』『帝国の弔砲』など著書多数。

「2022年 『闇の聖域』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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