ライオンハート (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101234151

感想・レビュー・書評

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  • 恩田さんの作品を読むのも3冊目。初めて映画とは関係のない作品を読んでみました。冒頭推理小説かのような出だしに若干困惑しましたが、最初の章である エアハート嬢の到着 で一気に作品の世界に引き込まれました。他の作品もそうですが、恩田さんの作品は自身がその世界に連れ込まれるような感覚が強いですが、このお話はあまりの緊迫感にこちらも冷や汗が出る思いでした。ところが、次の章である 春 は全く違う世界観。ただし、最初の章のような緊迫感もなくすっかり油断をしていたところにミレーの風景画、春?まさか?という展開にビックリ。全く意識に止めていなかった章の最初の挿し絵を思い出して、ページを戻した瞬間、とても興奮してしまいました。
    ただ、その後は私的には興奮が少しおさまった感がありました。若干ストーリーの難易度が上がって、作品の中から出て現実世界に戻ってしっかり読んだという感じでしょうか。また、最後の章は途中で結末が見えてしまったということもありました。
    でも総じて独特のファンタジックな雰囲気をただよわせながら、それでいて心地良い余韻を残すような結末はとても良かったです。作品のジャンルは違ってもこの心地良い余韻はいかにも恩田さんという気がしました。
    この作品も出会えてとても良かったです。

  • エリザベスとエドワードの二人が時空を超えて、何度も出会う不思議な、少しせつない物語。

    やっと出会えても、一瞬でまた離れてしまうのに、なぜそんなに互いにひかれるのか。。
    シチュエーションが様々で、途中で少し混乱ぎみになったが、最後の"記憶"の章は、そうとは知らず、長年夫婦として過ごしてきたエレンとエドワードが、晩年になり、互いに相手が夢の中で会いたいと求めていた相手だと気づく。

    生涯に1度、一瞬でも会いたいと思う相手がいるなんて、切ないけれどステキだ。
    輪廻転生とか、運命の出会いなどというものをちょっぴり信じてみたくなる。

  • 何度も生まれ変わっては、ほんの一瞬交わる男女の愛を描いたSF。
    17世紀初頭から20世紀後半まで、エリザベス・ボウエンとエドワード・ネイサンの魂は何度も何度も不思議な邂逅を果たす。
    しかしその逢瀬とも呼べないほどの出会いはほんの一瞬のうちに終わってしまい、二人が長い時を一緒に過ごすことはない。
    二人はその邂逅の瞬間について、過去から未来にわたって記憶を保持している。

    彼らの記憶には不思議な紋章が見え隠れする。
    そのモットーは、「魂は全てを凌駕する。時は内側にある」

    以下、各章について。
    章の始まりには実在の名画が添えられていて、読書時間を彩ってくれる。

    0.プロムナード
    各章のはじめと最終章の最後に挿入される、比較的最近の時代の二人が描かれる。
    現代にもっとも近いエドワードは、その生涯のうちに二度エリザベスと出会うことになる。

    1.エアハート嬢の到着
    物語の始まりにふさわしい、謎と驚きに満ちたドラマチックな物語。
    悲劇的な結末を迎えており、エドワードは何度もこの光景を思い出すこととなる。
    しかし、だからこそ今生のエドワードは、二度目のエリザベスとの邂逅を果たすことができたとも考えられる――そう思うと、希望の萌芽の見える物語であるともいえるだろう。

    2.春
    完璧に美しい物語。エドワード(エドゥアール)とエリザベス(エリザベト)の愛の完璧さが余すことなく描かれている。なお、エドゥアールが母から見せてもらった祖父の日記は、後の章「記憶」への布石となっている。

    3.イヴァンチッツェの思い出
    これまでと打って変わったミステリータッチの物語。本作のエドワードは偽名を用いているため、誰がエドワードなのか、あるいはエリザベスなのか、思索をめぐらすのが本章の楽しみ。

    4.天球のハーモニー
    誰もが知る女王の話。観念的な話が多く、抽象的な物語運びとなっているが、本章にどこまで入り込めるかが、エリザベスとエドワードの関係の原点を理解できるか、非常に重要なポイントだったように思う。

    「そう、私は、彼等の全てを解放したかった――彼等の魂の無垢なる部分を」
    「ええ、そして、それは彼等の魂であると同時に、あなたの魂の一部でもあった。そして、それらの象徴があなたのエドワードになった」
    「私の」
    「ええ。だから、私たちはいつも離れている。無垢なる魂の純粋な結合はあなたの望みだった。けれど、純粋なる結合というのは常に矛盾にさらされている。あなたの魂は何者にも所有されることを望まない。誰かと結びついたとたん、たちまち濁り始め、輝きを失う。離れているからこそ純粋でいられる。ほんの一瞬の逢瀬のみがその魂を輝かせることができる」

    5.記憶
    予定調和の物語ではあるが、添い遂げた相手が運命の相手であると気付いたときには、エドワードはあまりにも年をとり過ぎていた。胸に病を得ていた彼が、エリザベスとともにいられた時間は、ごく僅かだっただろう。しかし最後の最後に邂逅を叶えた彼の一生は、その瞬間に輝いたに違いない。

    0.プロムナード
    最新の――現代の(とはいっても1978年ではあるが)エドワードとエリザベスの物語。今生のエリザベスはエドワードに関する記憶がない。だからこそ彼女は未来に向かって歩いて行くことができるのだろう。

  • 物語の作りだけでなく、残す印象まで、とても不思議な物語。
    “時代を超え、深く愛し合った男女が出会い、すぐに引き裂かれる”というアイデアと1枚の絵画にインスパイアされて書かれた物語が、膨らまされて、時空を超えて織りなされる。
    1932年のロンドン、1871年のシェルブールのお話は、設定を引き受けた真っ当なラブストーリー。
    その2つの話でネタが明かされ、そこからどうやって展開していくかと思ったが、1905年のパナマでは設定を隠し味にミステリー仕立てで興を惹く。
    1603年のエリザベス女王の話はややくどい感じだけど、読み終えてみれば結構重要なパートだったと分かる。
    そして1855年のオックスフォード、この作者ならでは世界を感じる中で、予定調和的な話ながら、収まるべきところに収まった話にちょっと感動。
    その前に置かれた1969年のフロリダの話も良い感じ。

  • タイムトラベル×ラブなSFでした。
    永い輪廻の中で出会うエドワードとエリザベス。
    出会えても1人は全く分からない、なんてこともあるのに、輪廻の輪から抜け出せない。
    切なく美しい物語でした。
    SFは苦手だけど。
    これも映像化したら面白そう。

  • いやーステキなラブストーリーだった。
    特に、「春」と「記憶」が良かったな。「イヴァンチッツェの思い出」もこの中では異色な感じで良かったかな。「天球のハーモニー」はイマイチよくわからんかったけど。
    あと、なんというか全編通して翻訳小説っぽい文体が面白かった。

  • 初読→エヴァンゲリオンQを観終わった時のような混乱。
    2回目→自分の推測を埋める証拠を探しつつ、新しい説を見出していく感じ。
    老後を迎える頃に再読したらまた違う説となる気がする。。

    あとがき作者の昨今ではすれ違いものは難しく、だからSFものした、とあるがナルホド。。

    色々読みたいもの、調べたいことが増える。。

    解説:梶尾真治氏(『黄泉がえり』の作者)
    ジャック・フィニィ『盗まれた街』
    →『月の裏側』『黄泉がえり』
    ロバート・ネイサン『ジェニーの肖像』
    →『ライオン・ハート』『時尼に関する覚え書』
    アイザック・アシモフ『世界の年表』
    『たんぽぽ娘』
    『ジベールの日曜日』(映画)
    『展覧会の絵』(演奏)ムソルグスキー

    1603年エリザベス女王
    1855年老後
    1873年『春』(ミレー)
    1905年パナマ運河工事
    1932年エア・ハート嬢の到着(リンドバーグ愛児誘拐事件)
    1944年ロンドン空襲
    1969年アポロ11号打ち上げ
    1978年ケイト・ブッシュのライオンハート発売

    • solala06さん
      すれ違いものは恋愛小説の王道ですが・・・こ、これが恩田式すれ違い・・・(畏怖)
      いつものことながら、ハイレベルすぎますよね・・・!!

      ...
      すれ違いものは恋愛小説の王道ですが・・・こ、これが恩田式すれ違い・・・(畏怖)
      いつものことながら、ハイレベルすぎますよね・・・!!

      『きみがぼくを見つけた日』ですが・・・観たことないです、チェックしておきます!!
      転生というだけではなく、それこそ「時をかける少女」的なタイムリープものでもなく・・・。
      私も、2人が何度も生まれ変わり、その中で少しずつ重なり合っていく関係・・・??みたいな印象でした・・・。

      時間軸というか、たしかになんとなく違和感がある部分もあるんですよね・・・。
      それも含めて、2人が不思議なすれ違いを繰り返しているのかな~~と、私はなんの疑問も持たずに読み進めていました・・・。
      さすがf0314087さん、深い考察をしながら読んでいらしたのですね・・・!!すごいです!!

      エヴァは!笑
      考えるんじゃない、感じるんだの典型ですからね!!笑
      2016/07/16
  • 内容(「BOOK」データベースより)
    いつもあなたを見つける度に、ああ、あなたに会えて良かったと思うの。会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ…。17世紀のロンドン、19世紀のシェルブール、20世紀のパナマ、フロリダ。時を越え、空間を越え、男と女は何度も出会う。結ばれることはない関係だけど、深く愛し合って―。神のおぼしめしなのか、気紛れなのか。切なくも心暖まる、異色のラブストーリー。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    この作品は、書き出しがいい。
    まるでミステリーを思わせる、物語の始まり。

    突然、一人の老人が消えた。
    友人が探しに入った部屋の中は、今の今まで人のいた気配を漂わせながら、その中でも誰もいない空虚さを醸し出していて...

    彼はどこへ消えたのか?
    神隠しは本当にあるのか?

    「エリザベス」そして「エドワード」。
    二人の男女がキーワードとなって、ある時は出会い、ある時は別れ、待ち、驚き、そしてその時を超えた巡り合わせに涙する...

    加えてこの作品には、たくさんの絵画と曲が背後に流れます。
    各回のタイトルは、作者が選んだ絵画の題名で。
    そしてその絵画の中のような出会いがあります。

    「私のライオンハート」と言うセリフも素敵ですね。
    声はケイト・ブッシュと言う歌手のアルバムのタイトルだそうです。
    そこに収録されている曲が、「Oh England My Lionheart」です。

    思わずyoutubeで聞いてしまいました。
    こんな風になんでも気になるものがすぐ解決できる時代って素晴らしいですね~。
    世界は手の中に!です。

    曲の方は...正直ちょっと...(苦笑
    良くも悪くも、ちょっと病んでる感じでした(笑

    いろんな時代の、いろんな姿のエリザベスとエドワードが出てきます。

    時々違う人も出てきますが...
    「実は本名は...」って言うオチ、皆さん分かりますね(笑
    ←ネタばれごめんなさい

    最後の日記の下りはちょっと長いかな...
    でもそこが一番大事なところですもんね。

    そしてそしてイングランドのエリザベスと言えばもーうあの人でしょ。
    あの人ももちろん出てきますよ。
    と言うかその人の輪廻の話ですよ。
    ←またネタばれだ(・∀・)

    と言うわけで歴史好きにもぜひ。
    切なかったりあったかくなったり、ほろりと泣ける作品です!

  • 不思議な気持ちになる本だった。途中に挟んである絵と話が繋がっているのに気づいた時感動!歴史勉強して、また読み直したい。

  • 梶尾真治氏の解説「妄念の淵に沈む輪廻」が面白かった。
    『私と、この人は血を分けた兄妹ではないのか。』
    笑えました。梶尾真治氏の小説を読んでみたいなぁと思えました。取りあえず、「時尼に関する覚え書」読みたい。

    ライオンハートについて。カラーの絵画が文庫に挟まれているのが初めてでなんかいいです。恩田さん初の恋愛小説。なんだろう?「蛇行する川のほとり」で暁臣が毬子にキスするシーンや「黄昏の百合の骨」での理瀬がさらっと寝たことの方が驚きがありドキドキしました。(色んな意味で)
    何度も生まれ変わるなかで、一瞬出会える。ヨーロッパ、アメリカが舞台で女の子が好きそうな小説。設定としては嫌いじゃないし、大好きです。
    「わたしのライオンハート」って「わたしのユージニア」を思い出しました。

    ★は普通なら3ですが、解説が面白かったので+1します。

著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

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