東亰異聞 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (443ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101240220

作品紹介・あらすじ

帝都・東亰、その誕生から二十九年。夜が人のものであった時代は終わった。人を突き落とし全身火だるまで姿を消す火炎魔人。夜道で辻斬りの所業をはたらく闇御前。さらには人魂売りやら首遣いだの魑魅魍魎が跋扈する街・東亰。新聞記者の平河は、その奇怪な事件を追ううちに、鷹司公爵家のお家騒動に行き当たる…。人の心に巣くう闇を妖しく濃密に描いて、官能美漂わせる伝奇ミステリ。

感想・レビュー・書評

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  • 東京ではなく、東亰(とうけい)である。決して東京の古語ではない。と気がついたのは、最早読み始め既に終わりに近づいてから。(←もはやネタバレのひとつ。すみません。でも、多くのレビューがパラレルワールドって書いている)ずっと気になっていた作品をやっと読めた。

    明治29年。基本的に当時の明治東京と変わらない。中江兆民という民権運動家も固有名詞で出てくる。ところが、昨今東亰界隈には火炎魔人や闇御前という無差別殺人者が跋扈する。謎の人魂売りや般若蕎麦、不審な読売り、黒い獣、辻斬り、黒衣の者‥‥夜中にだけ登場するそれらは、確かに現代の歴史書には出てこない。

    妖怪変化、魑魅魍魎の物語かと思いきや、話の中心はサイコキラーの正体を探っている帝都日報の記者・平河新太郎と香具師の万造の探偵物語だった。最終章までは。

    「電灯だとか瓦斯灯だとか。夜の端々に灯火を点して闇を追い払った気でいるようだが、灯火は畢竟、紛いものでしかない。夜はただ暗いだけじゃないのだからね」そう言って、黒鉄甲の手が娘の顎を軽く撫でる。「川面に板を浮かべて蓋をするようなものだ。板の上に土を盛って石を敷いて、それで川を無くしたことになるのだろうか」(15p)

    生きたような娘人形を抱えた黒衣の者は、例えばそう嘯(うそぶ)く。そう言えば‥‥リアル東京も、かつて川や運河は縦横に流れていただろう。それが総て「暗渠」になっているのだとしたら?今もその闇の流れの中で、魑魅魍魎が蠢いているとしたら?案外不思議はないのかもしれない。

    ほとんど、コレは「もうひとつの十二国世界」だ。それもそのはず、発表は1994年。91年「魔性の子」から始まった、神仙と妖魔とその世界の人間たちが住む十二国が縦横に語られ始めた頃と、一致するのだ。十二国は我々の世界と、僅かな道で結ばれている。本書の不思議な出来事が、「あの世界」の影響ではないと誰が言えよう。

  • はじめは、妖怪変化の仕業と思われた人殺し。
    しかし、やはり、家督争いの中で起こった事件。
    文明開化と共に、帝都も魑魅魍魎の恐怖から開放された?
    って感じで、段々とトリック殺人のミステリーかと思ってたら…
    亡くなった初子の血に呪われて、兄弟で揉めていたってのも別にどうでも良くなって…
    もっと、初子さんには、深い想いがあったとは…
    はじめ少しダレるけど…
    途中でトリック殺人かと思うけど…
    最後は…
    何か、呪術廻戦の
    「呪術全盛 平安の世が始まるよ」的な感じの終わり方。
    呪術全盛というより、魑魅魍魎全盛なんやけど。
    今から、呪術全盛頑張るやな。文明開化が壊していったものを。

  • 小野さんの伝奇ミステリ。

    時は明治。夜の闇の中で魑魅魍魎が跋扈する帝都・〈東亰〉。
    とりわけ、人を突き落とし全身火だるまで姿を消す“火炎魔人”と、夜道で人を切り裂く“闇御前”による連続殺人が民を戦慄させている状況です。
    新聞記者の平河は、知人の万造と共に事件の真相を追うことにしますが・・・。

    この物語の舞台は東京ならぬ「東亰」。
    そう、「京」の字に横線が一本入った異世界の都市でございます。
    レトロ且つモダンな雰囲気の中に、粘度のある薄暗さが漂って全体的に不思議な質感を醸し出している本書。
    うん、好きですね~、この風情。
    で、このねっとりした空気感に一役かっているのが、狂言回しのように合間に登場する、黒子&娘人形の浄瑠璃風の艶っぽい掛け合いで、この二人は何者なの?と思わせながら、これがまたいい味出しておりました。
    そして、前述の火炎魔人や闇御前の他にも、人魂売りやら生首遣等々・・闇の中で蠢く者達の存在もゾクっとさせるものがあって、この辺がさすが小野さんですね。
    と、一見ホラーっぽさを漂わせつつ、連続殺人の謎を追ううちに、鷹司公爵家の跡継ぎ争いが絡んできたりと、謎解き要素もちゃんとあります。
    真相解明部分で、鷹司家の兄弟の悲劇の背後にあった壮絶な“呪い(と言ってよいかと)”が明らかになった時は、その思惑通りに哀しい末路を辿ってしまった常と直が切なかったです。
    ただ、どんな事情があろうと“ダミー殺人”は許されませんよ。とは思いますけどね。
    あ、あと“黒子”の正体も驚きでした。“あんただったんかい!”という感じです。

    まぁ、いくら瓦斯灯などで無理やり夜を明るくしても、“闇の中”に潜む者達のテリトリーってものがある訳で、そこは文明・科学をゴリ推しする人間の傲慢さを省みるところなのかな・・なんて思いました。
    因みに、鷹司家の“京都の兄弟”として登場した輔くんは、登場少なめとはいえなかなかの存在感で美味しいところを持っていったので、その弟の煕くんと共に、彼らメインで続編なり番外編なりあったら良いのに・・と思った次第です(もしかして、既に出ていたりして?)。

  • 明治29年、急速に近代化が推し進められた帝都東亰(トウケイ)で、闇夜に現れ人を切り裂く『闇御前』、近ごろ流行りの露台で火だるまになって人を突き落とす『火炎魔人』、子供の失踪と人魂売り、辻斬りなど物騒な事件が話題となっていた。
    その謎を追う新聞記者の平河新太郎と、大道芸人を取り仕切る万造は、これらの事件が華族鷹司家のお家騒動と関連しているのではないかと思うようになる。

    平河は旧会津藩士の家に生まれた。父は藩から冷遇されたにもかかわらず、政府との戦いに喜んで出かけて命を落とし、貧困の中で弟妹は亡くなった。残った母の再婚により居場所をなくした彼は、娯楽新聞の記者として気ままに暮らし、都市計画により整備され瓦斯灯が煌々と輝く近代化された東亰を歓迎している。
    幕府は滅び、新しい時代が始まった。それなのにどうしてこのような不可思議で恐ろしい事件が起きているのか。平河は現実的な解決を求めようとするが、その真相は恐ろしい闇をはらんだものであった。

    以前読んだ畠中恵さんの『明治妖モダン』でも描かれていたテーマであるが、江戸の価値観を引きずりながら強引に近代化した明治期の日本には相当なひずみが生じていたのだろう。
    美しく整備された街の中でどれほど近代的な生活を送っていたとしても、人の心はそれほど簡単に割り切れるものではないし、圧倒的な負の感情に対するといとも簡単に飲み込まれてしまう。

    本書は、事件の謎を解くミステリの体裁をとりながらも、価値観の混在した時代に理屈では測り切れない人の心の複雑さを描き出す。さらに、本書には全編を通して事件を俯瞰する語り部役の人形と人形遣いが登場する。彼らの正体が明かされたとき、人間のおろかさ、小ささを思い知らされることになる。
    真相が明らかになった後の東亰は、現代にも通じる首都の脆弱さを象徴しているようで、皮肉が効いている。

  • 物語の舞台は東京ならぬ、帝都「とうけい」。闇が濃く残るこの街に跋扈する異形のものたち。おぞましく、また悲しい陰謀。赤く焼けた空、黒い板塀…どこか郷愁をさそわれる風景には汚猥の臭い。連続殺人の謎が明らかにされたと思いきや、予想もしなかった悪意が正体を現す。悪夢と酩酊のエンディング。

  • わざわざ東京ならぬ東亰を作る意味?って思いながら読んでいたら、終盤にすごい展開が!そういう事だったのか〜

  • あらすじ読んで面白そうと購入。
    思っていた感じとは違ったけれど
    帝都東京の雰囲気は味わえてなかなか良かった。
    パラレルワールドだったのね…。

  • 小野不由美『東亰異聞』読了。

    架空の都市「東亰」。瓦斯灯が夜を照らしても、夜には魑魅魍魎が跋扈する。文明開化の時代に起きる連続殺人と、その犯人と目される怪人、その謎を追う記者と香具師。
    公爵家のお家騒動が見え隠れし次第に現実性を帯びていく「ミステリ」としての謎解きの面白さと、時代を感じさせる帝都東亰の妖怪変化の雰囲気が、絶妙なバランスで描かれ結末に向けて収束していくのが見事。
    終盤の物語としての構成の美しさと、カタルシスはこの一冊にどこまで没入したかによってその色を変える。
    「本格」を書ける作者の、ジャンルを横断した傑作伝記ミステリだった。

  • 架空の東京・トウケイ。
    文明開花が進み明るく開けた世界になった一方で、闇に蠢く魑魅魍魎。人間の業。
    そんなものが時折姿を見せ、人間を襲う。
    ホラー?ミステリー?色んな表情が楽しめる作品。

    ◉レトロで怪しい雰囲気満載の闇の者たち
    発火しながら高所より人を突き落とす『火炎魔神』
    白塗りに赤い着物に隠した爪で切り裂く『闇御前』
    生きている様な精緻な娘の人形と会話する『人形遣い』
    特に人形遣いと娘の人形とがイチャイチャしながら闇の者たちについて語らい合う場面はエロく怪しく濃密な雰囲気。
    これで人形遣いがただの人だったら単なる危ないおじさんだな…と読者を戦慄させる。

    ◉嘘か本当か分からない…曖昧だから面白い
    これは主要人物のひとりのセリフ。
    その小説はこの言葉を正に体現している。

    ガス灯のあかりが届かないところで殺人を行なっているのは、妖怪か、人の仕業か…
    鷹司家のお家騒動絡み?犯人候補も簡単には絞れない…そんな時、説明がつかない様な不可解な事件が起こってやっぱり心霊現象?
    と、読者も翻弄される。

    ◉とにかく小野先生は凄かった
    途中推理もののような理路整然と犯人を絞っていく場面は面白かった。
    小道具の用意や、演出が凝りすぎていること
    その割に動機がなんか弱く感じること
    個人的にはそこに引っかかったけど良かったわぁ…と思っていたら。
    あらあらどうして…

    言えないけど、キッチリキッチリ積み上げてきたものを完成間近で自らブチ壊して
    その跡に凄く個性的な作品をズダダダっと即興で作り上げ
    そしてワハハハと残響を残して去っていった…
    そんな感じ。やっぱり小野先生すげえや。
    これは…何かトリックがどうとか、細かいことを気にする作品ではないね。
    どうでもいいか、と何か幻でも見ていた気分。

    曖昧なものに翻弄される。
    作品の雰囲気を楽しむ。
    自由民権運動など、史実が登場するところもありもう一度勉強したくなった。
    ドップリと怪しい世界に浸れました!

  •  帝都・東亰では火炎魔人や闇御前といった、人とは思えない者たちの起こす事件で不安に包まれていた。一連の事件に興味を持った新聞記者の平川は、大道芸師の万蔵とともに調査を開始するが…

     面白い要素はいろいろあったものの、不満点も多かったのが正直な印象。

     ミステリとして面白かったのは、犯行の動機。お家騒動が裏にあるのは、平川の調査の過程で分かってくるのですが、なるほど、そっちか! と虚を突かれました。

     ただ、動機については伏線はあったものの、ややとってつけた感があったのも事実。本の中ではさらりと触れられたくらいにしか書かれていなかったので、「え? そんなに追い込まれていたの」と、ちょっとぽかんとなってしまったのがもったいなかったです。もうちょっとその部分の書き込みがほしかったかなあ。

     平川と万蔵のキャラも今一つ伝わってこない。読んでいて、どっちがどっちか分からなくなることもあって、少し感情移入しにくかったです。

     そして、この本の評価を分けるのはラストだと思います。これをどうとらえるかによって作品の印象は、大きく変わると思います。

     個人的には、風呂敷広げるだけ広げて、終わらせたという印象。読んでいて「残りページ少ないのに、こんな展開にして大丈夫?」と思ったのですが、その不安が当たってしまった、という感じでしょうか。

     読み終えた後のもやもや感が、どこか同じ小野不由美さんの作品『魔性の子』に通じるものがあります。

     十二国記シリーズの序章的作品ということで読んだ『魔性の子』だったのですが、描写力はすごいものの、作中よくわからないワードや回収されない伏線、唐突な展開などが多く、読み終えて非常にモヤモヤしたのを覚えています。(こうしたもやもやはのちに本編を読んで解消されたのですが)

     そのもやもやと、この『東亰異聞』を重ね合わせると、もしかして東亰の物語はもっと続きがあって、これはプロローグだったのではないか、とも思えてしまいます。

     東亰の話がこれ一冊で終わっているのが、もったいなく思えてしまいました。

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著者プロフィール

大分県出身。講談社X文庫ティーンズハートでデビュー。代表作に『悪霊シリーズ』 『十二国記シリーズ』『東亰異問』『屍鬼』など。重厚な世界観、繊細な人物描写、 怒濤の展開のホラー・ミステリー作品で、幅広いファンを持つ。

「2013年 『悪夢の棲む家 ゴーストハント(1)特装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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