東亰異聞 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.64
  • (447)
  • (539)
  • (978)
  • (75)
  • (18)
本棚登録 : 4642
感想 : 461
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (443ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101240220

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 東京ではなく、東亰(とうけい)である。決して東京の古語ではない。と気がついたのは、最早読み始め既に終わりに近づいてから。(←もはやネタバレのひとつ。すみません。でも、多くのレビューがパラレルワールドって書いている)ずっと気になっていた作品をやっと読めた。

    明治29年。基本的に当時の明治東京と変わらない。中江兆民という民権運動家も固有名詞で出てくる。ところが、昨今東亰界隈には火炎魔人や闇御前という無差別殺人者が跋扈する。謎の人魂売りや般若蕎麦、不審な読売り、黒い獣、辻斬り、黒衣の者‥‥夜中にだけ登場するそれらは、確かに現代の歴史書には出てこない。

    妖怪変化、魑魅魍魎の物語かと思いきや、話の中心はサイコキラーの正体を探っている帝都日報の記者・平河新太郎と香具師の万造の探偵物語だった。最終章までは。

    「電灯だとか瓦斯灯だとか。夜の端々に灯火を点して闇を追い払った気でいるようだが、灯火は畢竟、紛いものでしかない。夜はただ暗いだけじゃないのだからね」そう言って、黒鉄甲の手が娘の顎を軽く撫でる。「川面に板を浮かべて蓋をするようなものだ。板の上に土を盛って石を敷いて、それで川を無くしたことになるのだろうか」(15p)

    生きたような娘人形を抱えた黒衣の者は、例えばそう嘯(うそぶ)く。そう言えば‥‥リアル東京も、かつて川や運河は縦横に流れていただろう。それが総て「暗渠」になっているのだとしたら?今もその闇の流れの中で、魑魅魍魎が蠢いているとしたら?案外不思議はないのかもしれない。

    ほとんど、コレは「もうひとつの十二国世界」だ。それもそのはず、発表は1994年。91年「魔性の子」から始まった、神仙と妖魔とその世界の人間たちが住む十二国が縦横に語られ始めた頃と、一致するのだ。十二国は我々の世界と、僅かな道で結ばれている。本書の不思議な出来事が、「あの世界」の影響ではないと誰が言えよう。

  • はじめは、妖怪変化の仕業と思われた人殺し。
    しかし、やはり、家督争いの中で起こった事件。
    文明開化と共に、帝都も魑魅魍魎の恐怖から開放された?
    って感じで、段々とトリック殺人のミステリーかと思ってたら…
    亡くなった初子の血に呪われて、兄弟で揉めていたってのも別にどうでも良くなって…
    もっと、初子さんには、深い想いがあったとは…
    はじめ少しダレるけど…
    途中でトリック殺人かと思うけど…
    最後は…
    何か、呪術廻戦の
    「呪術全盛 平安の世が始まるよ」的な感じの終わり方。
    呪術全盛というより、魑魅魍魎全盛なんやけど。
    今から、呪術全盛頑張るやな。文明開化が壊していったものを。

  • 小野さんの伝奇ミステリ。

    時は明治。夜の闇の中で魑魅魍魎が跋扈する帝都・〈東亰〉。
    とりわけ、人を突き落とし全身火だるまで姿を消す“火炎魔人”と、夜道で人を切り裂く“闇御前”による連続殺人が民を戦慄させている状況です。
    新聞記者の平河は、知人の万造と共に事件の真相を追うことにしますが・・・。

    この物語の舞台は東京ならぬ「東亰」。
    そう、「京」の字に横線が一本入った異世界の都市でございます。
    レトロ且つモダンな雰囲気の中に、粘度のある薄暗さが漂って全体的に不思議な質感を醸し出している本書。
    うん、好きですね~、この風情。
    で、このねっとりした空気感に一役かっているのが、狂言回しのように合間に登場する、黒子&娘人形の浄瑠璃風の艶っぽい掛け合いで、この二人は何者なの?と思わせながら、これがまたいい味出しておりました。
    そして、前述の火炎魔人や闇御前の他にも、人魂売りやら生首遣等々・・闇の中で蠢く者達の存在もゾクっとさせるものがあって、この辺がさすが小野さんですね。
    と、一見ホラーっぽさを漂わせつつ、連続殺人の謎を追ううちに、鷹司公爵家の跡継ぎ争いが絡んできたりと、謎解き要素もちゃんとあります。
    真相解明部分で、鷹司家の兄弟の悲劇の背後にあった壮絶な“呪い(と言ってよいかと)”が明らかになった時は、その思惑通りに哀しい末路を辿ってしまった常と直が切なかったです。
    ただ、どんな事情があろうと“ダミー殺人”は許されませんよ。とは思いますけどね。
    あ、あと“黒子”の正体も驚きでした。“あんただったんかい!”という感じです。

    まぁ、いくら瓦斯灯などで無理やり夜を明るくしても、“闇の中”に潜む者達のテリトリーってものがある訳で、そこは文明・科学をゴリ推しする人間の傲慢さを省みるところなのかな・・なんて思いました。
    因みに、鷹司家の“京都の兄弟”として登場した輔くんは、登場少なめとはいえなかなかの存在感で美味しいところを持っていったので、その弟の煕くんと共に、彼らメインで続編なり番外編なりあったら良いのに・・と思った次第です(もしかして、既に出ていたりして?)。

  • わざわざ東京ならぬ東亰を作る意味?って思いながら読んでいたら、終盤にすごい展開が!そういう事だったのか〜

  • 小野不由美『東亰異聞』読了。

    架空の都市「東亰」。瓦斯灯が夜を照らしても、夜には魑魅魍魎が跋扈する。文明開化の時代に起きる連続殺人と、その犯人と目される怪人、その謎を追う記者と香具師。
    公爵家のお家騒動が見え隠れし次第に現実性を帯びていく「ミステリ」としての謎解きの面白さと、時代を感じさせる帝都東亰の妖怪変化の雰囲気が、絶妙なバランスで描かれ結末に向けて収束していくのが見事。
    終盤の物語としての構成の美しさと、カタルシスはこの一冊にどこまで没入したかによってその色を変える。
    「本格」を書ける作者の、ジャンルを横断した傑作伝記ミステリだった。

  • 初めは堅苦しい昔話なのかなと思っていた。でも数ページ読むともういつの間にかこの世界にハマっていた。
    何が引っかかったかと言うと、妖怪の仕業だと思われた出来事がどうやら人間が起こしたらしいということ。ありえないような事に、トリックが隠されている。

    「東亰」は一応パラレルワールドの設定だけど、明治まっただ中のクラシカルな雰囲気が好き。瓦斯灯、読売り、十二階、迷途、華族、パノラマ館、御一新等々。今では使わない通じない言葉ばかりで、例えば十二階にはこの時代にエレベーターが使われていたり、チロー館なんていう鏡の迷路があったりと、知らないことも多くて色々調べるのが楽しかった。

    途中からは華族の相続争いに移り、私は常と直のどちらの味方でもあったのに、その二人が一連の騒動を起こしていたなんて。兄弟を想い合う純粋さはあるけれど、何の関係もない周りの者を巻き込む手段を取ってしまった為に闇に堕ちた。何かを手に入れる為に何かを犠牲にしてしまうと、そのしわ寄せが必ずくる。こんな結末になるなら他にも方法があったのではと思う。

    後半、万造の怒涛の推理が特に面白かった。
    桜の描写が綺麗で、特に常さんの周りで散る桜が悲しいほどに印象深い。

    天皇崩御からの百鬼夜行、万造の正体や東亰の水没は私にとってはあまり重要でないと思われる事だった。廃仏毀釈はいただけないが、新しい文化を取り入れ、合理的な考えを持つことも日本にとって必要だったのではと思う。

    現実の日本はこれから大正、昭和、平成と激動の時代がやってくる。東亰の人々が妖怪に襲われることを強盗や病に襲われるようなものと考えたように、もしかしたら人が起こす事件や出来事は、妖怪が蠢く世界と同じぐらい厄介で、恐ろしい闇なのかもしれない。

    所々に十二国記ぽさを感じた。小野先生大好き。

    20170312

  • そうそう!こういう本が読みたかったのよ!
    小野不由美さんの真骨頂。背筋が凍るような怪談話。

    舞台は文明開化の花の開いた帝都東亰。
    人を火だるまにして殺す火炎魔人に、黒い犬を使い爪で人を引き裂いて殺す艶やかな赤姫姿の闇御前。人魂を担いだ蛍売りに、怪しい読み物を取扱う奇譚読売。

    ああ、なんという世界なんでしょうか!

    そして話の筋となるのは鷹司家の家督争い。
    人々の思惑と妖しい事件が絡み合い、思わぬ方向へ運ばれていく…。

    とにかく一気に読んでしまうほうが良いんでしょうが、いつまでもこの世界観に浸っていたくて惜しむように読みました。

    最後の最後まで目が離せませんので途中で読むのを辞めることは決してなきように。

  • 舞台は、明治時代の帝都・東亰。夜は街を魑魅魍魎が徘徊し、高所に火達磨で現れ火で人を殺し、最後には消えてしまう火炎魔人。夜道で長い爪で人を引き裂く赤姫姿の闇御前。
    それらの正体を調べる新聞記者・平河は、闇御前に襲われ幸いにも軽傷で済んだ青年を探し当てる。その青年は鷹司家の当主・常だった。しかし妾腹の常には同日生まれの、やはり妾腹の異母兄がいた。

    現実世界とは少しズレが生じた帝都・東亰というパラレルワールドを舞台に、鬱蒼とした空気が漂う。禍々しい世界観はさすが小野不由美さん。闇の者たちの描写がかっこいい…
    ホラー色が強い冒頭を抜けると、先の読めないミステリ調となり、ラストまで気が抜けません。怪作です。

  • 江戸幕府を倒して開国、文明開化が進む街・東亰。
    東京ではありません。
    微妙にズレた歴史を刻むその都市で、魑魅魍魎が跋扈する。

    読み始めてすぐに「これは夜に読んではいけない本だ」と思いましたが、怖いよりも続きが気になり、夜を徹して読みふけってしまいました。
    気がつけばこれ、ミステリでもありましたね。

    惨殺事件が多発し、一族のどろどろとした確執もあったにもかかわらず、なかなかに読後感は良かったのでした。
    いや、ラスボスの正体にはびっくりしたよ。

    だけど、ガス灯の灯りは闇を消失させたのではなく、ただ見えなくさせただけで、闇自体はずっとそこにあるのかもしれない。
    なんて思ってみると、もう少し人間は、世界に対して謙虚であるべきなのではないかな。

    というような難しいことはまったく考えなくても、つるつる読めて、ハラハラしたりどきどきできる本。
    ああ、楽しかった。

  • 妖怪が出てくるんだなフムフム→やっぱり全てにトリックがあって妖怪はいない世界線なんだな……→やっぱり妖怪だったー!!というジェットコースター的展開がおもしろかった。

    最後は妖怪の勝利のように見えるからバッドエンドなのかもしれないけど痛快と言えるラストで満足な読後感だった。

    輔がものすごい美形の陰陽師という設定が小野先生らしくて好き。
    新太郎がみんなの前で間違った推理を披露しちゃったのはちょっと可哀想……

    直が死んだ時のトリックが難しくて全ては理解できなかった。それでも面白いけれど。
    また時間を空けて再読しようと思います。

著者プロフィール

大分県出身。講談社X文庫ティーンズハートでデビュー。代表作に『悪霊シリーズ』 『十二国記シリーズ』『東亰異問』『屍鬼』など。重厚な世界観、繊細な人物描写、 怒濤の展開のホラー・ミステリー作品で、幅広いファンを持つ。

「2013年 『悪夢の棲む家 ゴーストハント(1)特装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小野不由美の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
小野 不由美
宮部 みゆき
小野 不由美
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×