屍鬼(五) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (478ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101240275

感想・レビュー・書評

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  • 読了。
    静信がようやく自分の意思で動き出したが、やはりそちら側につくのか…といった思い。結果、何もしていない母達が殺される事になるのだが、それに対して動揺するわけでもなく後悔するわけでもなく、人間も屍鬼のことも、俯瞰する視点になったということか。

    尾崎医師は一転攻勢に出るが、今までの流れから、人間が屍鬼を退治しめでたしめでたしとなるわけがなく、狩る側の怒りや狂気、狩られる側の一抹の期待と絶望、屍鬼として生き残る事を拒否した者も、屍鬼だと言うだけで問答無用に狩られる悲哀、読んでいく中で目を背けたくなることも起きる。

    人はいつどこで生まれるかを選ぶことはできず、人としてしか生きられない。屍鬼も、起き上がってしまったからには屍鬼としてしか生きられない。それを拒絶することは生を終わらせること。
    もし、初めから屍鬼として生まれたのならば、まだ割り切ることもできるかもしれないが、人として生きた記憶を持ちながらというのは、あまりにも残酷。
    沙子は、生を終わらせることもできず、屍鬼として神に見放された存在だと開き直って生きることもできず、人として生きていくことももはや叶わない。
    あの廃屋で決着をつけられていた方が良かったのではないかと思ってしまう。

  • 昨年8月に著者の「ゴーストハント」シリーズを読破、独特の世界観、恐怖とダークファンタジーを楽しませていただいた。今年はこの「屍鬼」を読んで少しでも涼しい夜が過ごせればと手に取ってみる、書店ではいつも気になっていた、表紙から漂う雰囲気に何度も読もうと思ったが、なかなか現実に至らなかった。あまりにも「ホラーの色が濃い」のではないかと不安もあった。実際に読み進めていくと忍び寄る謎と恐怖何とか現代医学で究明しようとする登場人物、村自体が孤立していく閉塞感、大きな闇に物語が覆われていく。自分としても先が気になって仕方ない、夜一人で読んでいると屍鬼が現れるのではないかとゆうような臨場感、非常にスリリングに楽しめた。
    しかし読み進めていくと著書はただ単にホラー小説ではないことがわかってくる、ミステリーかというとまた違う、哲学に近い表現が心にのこる。
    「屍鬼は自らの残虐性に自覚的で、人間は己の残虐性を自覚していない、その分人間の方が恐怖の存在である」(著書引用)なるほどと感心する。
    物語の中で人間は目に見えない恐怖や不安、無力感や憤りを感じながらも耐えに耐えて、終盤では大きく逆襲に転じる爽快感のようなものを感じながら、本当にこれでいいのか?これでいいんだ!と考え不安になるが非常に満足出来た、中盤から終盤にかけての展開にはほぼ一気読みしてしまう。いつの日かまた寝苦しい夏の夜に著者の新たなる恐怖を楽しみたい!

  • ついに屍鬼vs村人の闘いに決着!
    鬼狩りを決めた村人たちが鬼のようだった。
    律子と徹の屍鬼になっても良心を捨てきれなかったシーンがよかった。

    それぞれのキャラクターを通していろんな価値観、考え方が表現されていて、とても考えさせられる話でした。
    とりあえず面白かった!

    室井拝って静信のペンネームかな?

    2021年3月21日

  • 反撃に参加する者、村を出る者、他にも様々な選択があって興味深い。加奈美と律子の選択が非常に印象的。自分が加奈美だったらきっと同じことを考えるだろう。誰もが律子のように願いながら、やり遂げるのは至難の業。
    敏夫の執念が実っていよいよ始まった人間側の反撃だが、集団特有の狂気が纏わり付いてどっちが鬼だかわからなくなる。人も屍鬼も自分たちの生きる場所を守るという点においては同じ。自分が人間側なら生き残るために反撃するし、屍鬼側なら自分のできることをして恵のようにしぶとく生き延びようとすると思う。
    怒濤の最終巻。

  • 1~5巻通しての感想です。
    非常に読み応えのある、良い小説だと思います。

    分類上はホラーに区分していますが、単に怖がらせるだけのホラーやエンターテイメントを超えたく(実際に怖さはあまり感じない)、生きるということ、生きるために殺すということについての苦悩と苦痛を描き出した「小説」である感じました。

    これだけの長い間この小説を放っておいたのが悔やまれるくらい、面白く読ませてもらいました。

    少し残念だったのが、特に序盤の文章が硬めで若干の読みづらさがあったことと、登場人物が多すぎて焦点が少しぼやけてしまったことでしょうか。
    しかし基本的に文章の上手い作家であるだけに、説明パートを終わる頃には硬質な文章が気にならなくなってきます。
    ただ、登場人物に関しては、やはりごく簡単でいいので一覧が欲しかった気がします。

    ラストの部分も個人的には不満が残りますが、総じて言えばかなり高評価の作品といえるでしょう。

    (以下ネタバレあり)










    ここから少しネタバレあり。

    いくつかの点で描写不足・説明不足を感じました。

    まず尾崎(医師)が屍鬼の存在を確信する部分が説明不足だと思います。
    それまで科学的に思考していた人物だったため、いささか唐突であった感が否めません。
    尾崎の思考の転換がこの作品のひとつのターニングポイントである以上、もう少し自然な流れにして欲しかったと思います。

    また、クライマックスの屍鬼への逆襲からラストまでも、筆が足りないように感じました。
    疫病を疑うパートや屍鬼が跋扈するパートなど、それまでは描写が丁寧で細にいっていたのに、そこからは雪崩を打つような急展開となってしまいました。

    急展開であっても、例えばそこに疾走感が感じられるようならまだ良かったのかもしれませんが、そういったカタルシスはなく、むしろページ数に合わせるために一気に詰め込んだような感覚を覚えてしまいます。

    もう少し、人間と屍鬼の争いを描いて欲しかったのが正直な感想です。
    それまでせっかく村人の何人かに焦点を合わせて描写してきたのですから、このパートでも個々人の葛藤と狂気に焦点を当ててほしかった。

    この部分が星5つに出来ない点です。
    このパートが前半と同じような描写であったなら、おそらく5つ星の傑作と感じたと思われます。


    ただ、全体としては非常に良くできた作品ですので、多少なりとも興味がある方には一読をお勧めします。

  • そこそこネタバレが含まれるので注意。




     「病め医者死ね坊主」という言葉がある。医者は病人がいなければ、坊主は死人がいなければ食えない職業で、つまり、他人の不幸によってしか生計を立てていけない。この物語の主人公になる敏夫と静信が、まさにそれ。そんな二人が、人間を狩ることによってしか生きていけない屍鬼の存在を追うというところがミソだよなぁ。彼らはある意味、一番屍鬼に近い人間なのになぁ。
     私は神様仏様の類は全く信じていなくって、考え方的には辰巳が一番近いような気がする。だから、この世は流刑地なのだとか、神に見放された存在なのだとか言われても、その考え方を理解はするけど、共感はできないので、「ふーんかわいそうに」程度の感想しか出ないわけですが。。。

     ただ、アレだなぁ、細々と生きているぶんには、沙子ら屍鬼もこんな報復を受けなかったわけで、自らが生きていくのに必要最低限な以上に人間を犠牲にしてしまったからダメだったんだと思うけどなぁ。「どうして」も何も。そりゃーあかんよぉ、としか。

  • 終始敏夫の立場から読んでいたので静信や村の人たちにイライラしてしまった
    でも実際にこんなことが起こったら私は村の多くの人たちと同じように現実から目を逸らすと思うし、静信の「呼吸や心拍が止まっていたら本当に死んでいるのか?」という問いには答えられないと思う。
    屍鬼は操られているわけでもなく、生前の記憶を引き継ぎ、思考があるというところが厄介だと思う。桐敷家の人々はともかく、起き上がりの人々たちもまた被害者で、生きたかったはずなのに殺されて、また生を得て。それに執着することの何がいけないのか。どうしても人間の敵とは割り切れない。

  • 4.5

  • アニメから原作へ。
    原作には当然アニメにはないシーンや心理描写もあったからその分長くなるし、事が起こり始める一巻後半までの間や静信の小説部分は正直つまんなくて怠かったけど、この後面白くなるって知ってたから何とか読み進められた。
    伝染病じゃなく屍鬼だって気づいてからが特に面白い!
    ただ登場人物が多いから、アニメ観てなかったら名前や関係がなかなか頭に入らなかったかも…笑
    ホラー的な怖さはないけど、生死について考えさせられる描写が多くて、そういう意味でちょっと怖かったかな。
    怖さで言うならアニメの方が普通に怖い^^;

  • 小野不由美はホラーを書いても怪談は書けないという印象。何が言いたいかと言うと、読み物として面白いし、構成も文章も巧みだが、怖くないのだ。死に囲まれた山奥の村、外場で起こる謎の病気。そして続く葬式。それと戦う医師と僧侶。小野不由美は文学的感傷に溺れやすいのかもしれない。もったいない

著者プロフィール

大分県出身。講談社X文庫ティーンズハートでデビュー。代表作に『悪霊シリーズ』 『十二国記シリーズ』『東亰異問』『屍鬼』など。重厚な世界観、繊細な人物描写、 怒濤の展開のホラー・ミステリー作品で、幅広いファンを持つ。

「2013年 『悪夢の棲む家 ゴーストハント(1)特装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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