華胥の幽夢 (かしょのゆめ) 十二国記 7 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (351ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101240602

作品紹介・あらすじ

王は夢を叶えてくれると信じた。だが。 才国(さいこく)の宝重である華胥華朶(かしょかだ)を枕辺に眠れば、理想の国を夢に見せてくれるという。しかし、采麟(さいりん)が病に伏すいま、麒麟が斃(たお)れることは国の終焉を意味する国の命運は──「華胥」。雪深い戴国(たいこく)の王が、麒麟の泰麒(たいき)を旅立たせ、見せた世界は──「冬栄」。そして、景王(けいおう)陽子(ようこ)が親友楽俊(らくしゅん)への手紙に認(したた)めた希(ねが)いとは──「書簡」。王たちの理想と葛藤を描く全5編。

感想・レビュー・書評

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  • 「冬栄」
    雲上の物語。青鳥と書いて「しらせ」と読む。おそらくホントに戴国と漣国との間で鳥のやり取りがされたのだと思う。往復で何日かかるのか。騎獣で半月なのだから、機動力があっても20日はかかったのだろう。
    精神年齢10歳としては、あまりにも責任感のある泰麒の初外交のお話。泰麒の自己肯定感の欠如は、一旦この短編では解決したかに見える。

    「乗月」
    雲上の物語。月渓がこの章の主人公ではあるが、彼の逡巡は4年の月日があったにしては幼いと思う。寧ろ描きたかったのは、祥瓊の手紙だろう。さあコレでケリがついた。あと100年ほどすれば、祥瓊がまた芳国に戻ることもなきにしもあらずだろう。

    「書簡」
    雲上と雲下の物語。さすが十二国。王様の使う鳥(便り)は、現代で云うボイスメモの機能が付いている。小野不由美女史が書いた頃には、テープレコーダーのイメージだったんだろうか。お互い背伸びをして、手紙をやり取りする友だち同士の物語。この半年後、慶国は動乱が始まる。

    「華胥」
    雲上の物語。華胥華朶(かしょかだ)は才州国にある宝。宝玉でできた桃の枝。それを枕辺に挿して眠れば花開き、華胥の夢を見せる。昔、黄帝が治世に迷ったおり、夢で華胥氏の国に遊び、そこに理想の世を見て道を悟ったと伝えられる。采王黄姑の前王の砥尚(ししょう)の二十余年の治世と、代替わりを巡る「殺人事件」ミステリを描いた一編。
    黄帝とは、古代中国における伝説の皇帝達、「三皇五帝」のひとり。「三皇」の治世を継ぎ、中国を統治した「五帝」の、最初の帝である。(ピクシブ百科事典より)十二国に於いては「伝説」ではない。何しろ、歴史的「遺物」が実際に使われているのだから。

    「帰山」
    雲上の物語。前半は、利広と延王の会話からなる。ここで、十二国の栄枯盛衰の傾向と、利広と延王の隠れた闇の心を垣間見、驚く。また(X16年ごろの)十二国の世界情勢報告が一挙にされたということでも重要な一編。

    さて、最後の短編集を終えて、怒涛の最大長編に、次回から突入するようだ。

    年表(加筆訂正)
    1400年ごろ 奏国宗王先新が登極 妻と3人の子仙籍に入る
    1470年 六太4歳延麒となる。
    1479年(大化元年) 雁国延王尚隆が登極
    1500年(大化21年)元州の乱 斡由誅殺
    1700年ごろ 範国氾王登極

    ーX96年 柳国劉王露峰が登極
    ーX75年  恭国供王珠晶が登極
    ーX 25年 舜国の王登極
    ーX18年ごろ 芳国峯王仲韃登極
          才国采王砥尚登極
    X元年   泰麒 胎果として日本に流される
    X2年 才国采王砥尚崩御
    才国采王黄姑が登極
    X9年末  慶国予王が登極
    X10年  泰麒 2月蓬山に戻る
    戴国泰王驍宗が登極
    X11年 泰麒 4月日本に戻る
    X 12年 芳国峯王仲韃崩御、娘の祥瓊の仙籍剥奪 
         芳国の麒麟卵果が触により流される
    X14年  5月慶国予王崩御
    X15年(1992年?)陽子日本より来たる
         10月慶国景王陽子が登極
    X 16年 功国塙王崩御
         慶国で和州の乱 
    X17年  泰麒 9月戴国に戻る

  • 十二国記【華胥の幽夢】EP7

    華胥の幽夢、5つの短編集。
    どのお話も大好きですっ!

    十二国記を読み進めていくと、

    『あれ?あそこはどうなってるの?』
    『あそこのあの部分もっと深掘りして欲しいなっ』
    というむず痒い気持ちになってきたのですが、そんな気持ちをしっかりと受け止めて、
    これでもか!ばばーん!とこたえてくれているような作品。笑!んー、つまり好きすぎるっ

    冬栄
    乗月
    書簡
    華胥
    帰山

    どのお話もぜんぶ好き。
    どうしても選ぶとしたら乗月と書簡。

    【乗月】は
    国を守る為に自国の王を討った月渓という男の話。

    王が不在になってから
    民から王を奪ってしまったという苦悩
    慕っていたからこそ許せなかった王への思い、ぐるぐる悩む月渓が決意するまで。

    月渓は王になるのか?
    ショウケイは珠晶に対してどう罪を償うのか?
    珠晶はそれに対してどう応えるのか?
    読み終えて、すっきり。
    小野先生、本当にありがとうございます(;_;)

    【書簡】
    陽子と楽俊のお手紙のやりとり。
    2人は手紙に書いていない事もわかりあえる親友。お互いの存在があるからこそ、また頑張ろうと励みにする。
    読むと十二国記を紹介してくれたお友達に無性に連絡したくなった。ジュウニコクキオモシロイヨーアリガトウって

    次はいよいよ、最後のエピソード
    【白銀の墟 玄の月】
    なんと4冊にわたる長編だっ。
    そして、十二国記の最後のエピソードだと思うと悲しいです( ; ; )ヤダー

  • 十二国、治世側を描写した短編集でした。
    短編とはいえ、十二国それぞれの国々の、歴史や背景を織り込み、一編の小説にまとめ、内容重め。
    これを読むと、まだ、通読できてないのに、1巻に戻って読み直したくなる。
    「冬栄」冬に咲く花
    北東の島国・戴国。幼い泰麒が、一生懸命悩んで泰王を選定した“風の海”
    泰麒は、未熟さから自分の役割について悩んでいた。泰王は、経験豊富な覇気ある大人。泰麒は漣での新しい出会いから、自分の役割に希望を見出し、泰王は、彼の性急さと頑なさを泰麒に癒される。
    「乗月」
    北西の島国・芳。圧政の先帝・峯王と麒麟を討ち、国の再建を望む月渓。“風の万里”ですね。彼は、仮としても王座に着くことを拒む。景王・陽子からの使者・青辛との対話の中で、彼の犯した罪を思考する。月に乗じて暁を待つ、“月影の朝”王のいない朝を照らす月とならんとする。
    「書簡」
    景王・陽子と、雁国で学ぶ親友・楽俊との往復書簡。(便利な鳥さんの口頭伝達) ”月の影”での出会いですね。二人の思いやりは深く、言葉の表面だけでないことも、読み取る。
    「華胥の幽夢」理想の夢を見せる
    才国は、揺らいでいる。華胥花朶は、使った人の理想の夢を見せる。使う人ごと違う夢を見せる魔性がある。理想の差異から生じた対立は根深い。
    ちょっと掴みにくいのは、ミステリー仕立てだからかな。
    「帰山」
    時折、十二国の傾きつつある国で出会う二人、利広と風漢。今回は、柳国。彼らは、母国に戻って、その余波の対策を講じていく。

    深い良い話ばかりなのだけど、本編読み込み足らずかな。

  • どの短編も心に深くささる言葉と、今は苦しくとも未来にはきっとそれだけじゃないとの思いが、胸を打つ素晴らしい物語だった。

    「冬栄」での幼い泰麒の悩み。期待されていることは分かってるのに、何をすればいいのか分からない。自分は無用の存在で、いれば邪魔になるだけだと思われてるのじゃないだろうか。大切な人たちに……
    泰麒は、漣の暖かい気候と廉王自らが育てる農作物に癒され、そして飾り気のない廉王との関わりの中でその答えを導き出していく。
    今の時代でいえば早ければ小学生?思春期を迎える辺りの子どもたちも、そんな思いに駈られることがあるのじゃないかしら。家族や両親、友だち、部活動のチーム……様々な集合体の中で自分の存在価値が見出だせず苦しんでいる。大人でもそんな悩みはあるけれど、子どもであればあるほど、その悩みからは簡単に抜け出すことの出来ない。
    泰麒は、広い世界に触れることが出来て良かったのだと思う。世界はまだまだ知らないことばかりで、いろんな価値観で人は生きている。悩みに対する答えって決して1つではないし、実のところ正解があるのかさえ分からない。それでも出会った人たちから、自分にはない考え方に触れることで、泰麒が求める答えへの道標は増えていく。

    「乗月」では、逆に既にたくさんのものを背負ってしまった大人の物語である。王を弑した月渓は、奪った咎によって、これから苦難を舐める民に王を返す義務がある。崇敬していたからこそ許せなかった。だからこそ、奪った罪を背負って生きていくことに臆病になる自分がいる。けれど、「言い訳とは、自分自身に対してするものかもしれない」そして「言い訳をする相手を間違っている」ことに気付く。そして「人は変われる」ことを月渓に身を持って教えてくれたのは、崇敬する王の公主、月渓の処遇を怨んだ祥瓊だった。
    月渓は立ち上がり進んでいく。罪を背負って。

    「書簡」では、陽子と楽俊の交流が描かれており、わざわざ触れなくたも分かりあえる絆、その上でお互いを思いやる心に温かくなる。

    「華胥の幽夢」王は無能であってはならない。「責難するは容易い、けれどもそれは何かを正すことではない」現代の風潮にも一石投じる言葉になるのではないか。国を治めるには理想ばかりを追いかけてもいけない。高い理想を掲げて人を責めることは、簡単なこと。そこから先をじっくりと考える。分かっていないのに、分かった気になること。それは許されることではないことなのだと。生涯忘れずにいようと思った言葉になる。

    「帰山」わたしには、奏国が傾くことが想像できない。この宗王(と家族)ならば、未来永劫太平の世が続くのではないかと思ってしまう。
    だけど、国は脆く、死なない王朝はないと利広は分かっている。それでも、ここは大丈夫だと。少なくとも、互いが支え合っている限りはと思うのだ。利広はまた旅に出る。そして戻ってくるのだ。

    • やまさん
      地球っこさん
      こんにちは。
      いいね!有難うございます。
      やま
      地球っこさん
      こんにちは。
      いいね!有難うございます。
      やま
      2019/11/15
    • 地球っこさん
      やまさん、こんにちは!
      いつも丁寧にコメントしてくださって、ありがとうございます。
      やまさん、こんにちは!
      いつも丁寧にコメントしてくださって、ありがとうございます。
      2019/11/15
  • 今回は短編集です。戴国の驍宗や泰麒、景国の陽子や楽俊などが登場します。
    それぞれの王や麒麟の苦労や苦悩などもわかり、本編のアナザーストーリー的な感じでしょうか。
    読後にはますます十二国記が理解できて、さらに好きになります。オススメ!

    • 松子さん
      hibuさん、こんにちは(^^)
      カショの夢、良いですよねぇ。
      ほんと、ますます十二国記好きになりますよね
      楽俊と慶子のお手紙のやりとりにジ...
      hibuさん、こんにちは(^^)
      カショの夢、良いですよねぇ。
      ほんと、ますます十二国記好きになりますよね
      楽俊と慶子のお手紙のやりとりにジンとしました。
      アナザーストーリーもっと読みたい!
      2023/01/31
    • hibuさん
      松子さん、こんばんは!
      どんどん好きになりますね!
      魅力的な王と麒麟が多いですし、楽俊と陽子の友情も良きですね♪
      松子さん、こんばんは!
      どんどん好きになりますね!
      魅力的な王と麒麟が多いですし、楽俊と陽子の友情も良きですね♪
      2023/01/31
  • 短編五編どれも良かった、一冊。

    だいぶこの世界観、国、人物が頭に入ってきたところだけにどの編も味わい深く読めて良かった。

    相変わらずの泰麒のいとけなさがたまらず、楽俊と陽子の「書簡」に涙が滲んだ。

    お互い、敢えて見せることのない心の奥深くを理解し思いやっているからこそのこの言葉、関係に涙せずにはいられなかった。「華胥」は奥深い数々の言葉が印象的。読み返したくなる。そして「帰山」で陽子の慶国をいい感じだって認めてくれる、あの人。
    それがなんだかうれしかった。奏国メンバー明るくていいな。ますますこの世界にハマった。

  • 4.4
    短編集、乗月が良かった。
    本題となっている華胥の幽夢だけが重すぎて辛かった。
    他はとても良かった。


    他は景王や俊英、利広など今まで登場した人のサイドストーリー的に読むことが出来て面白かったし、理解と世界観が深まりました。

    奏も600年続いて居ながら、王や家族は円満にやっているのがとても微笑ましく、締めの短編として読了感も良かった。

  • 5編の物語が収められた短編集です。

    泰麒の漣国への訪問を描いた「冬栄」。
    空の玉座を前に思い悩む芳国の月渓と、景王の親書を携えた慶国の将軍との対話を綴った「乗月」。
    楽俊と景王・陽子との文通に心が温まる「書簡」。
    才国の病んだ幼い麒麟と追い詰められていく采王の姿を描いた「華胥」。
    本シリーズ中の二大風来坊と言ってもよい2人の男の交流にしびれる「帰山」。

    人は変わることができるのだという希望を感じさせる物語もあれば、残酷なまでの事実を目の前に突き付けられる物語もありました。
    特に「華胥」は、時々読み返しては自身を省みる助けにしたい、苦いけれどよく効く薬のような1編だと感じました。

  • 「責難は成事にあらず」

    ホワイトハート版しか出ていなかった頃、
    短篇集の中で慶が関わってこない「華胥」が好きではなかったけれど、
    この言葉の意味を本当に理解してから、
    ずっと忘れることなく記憶に残している言葉です。

    誰かを、何かを避難することは容易い。
    でも、私は、何かを成し遂げることはできていない。

    一人驕り高ぶっていた頃に、頬を張られるような衝撃を受けて
    情けなくてわんわん泣いたことを思い出します。

    これだけ、仕事観や死生観、学ぶことや、人との関わり方を
    ファンタジーという世界のなかで説いている小説が
    そもそも、ティーンズ向けに書かれているという事実に
    毎度のことながらびっくりしてしまいます。

    逆に言えば、10代の中頃から十二国記に親しめたことが
    何より幸せなことだなと思っています。

  •  完全版十二国記7作目となる短編集。

     『冬栄』『書簡』は陽子や楽俊、泰麒が再登場し、彼らが厳しい十二国記内で自らの役割を見つけようとし、懸命に行動している様子が描かれます。過去作品を読んでいる身にとっては、彼らのその後が分かり、大満足であるとともに、彼らの頑張りや苦悩を見るにつれ自分もがんばらないといけないなあ、と思いました。特に『書簡』は陽子と楽俊の手紙のやり取りの話なのですが、二人のやり取りが読んでいる自分自身にも向けられているようで、なおさら頑張らないと、と思った作品です。

     過去キャラの登場で和んだ面もあるのですが、十二国の厳しさを描き切った短編もさすがの読み応え……。

     『乗月』は『風の万里  黎明の空』以降の芳国が舞台。
     十二国の設定ではたとえ暴君でも王がいないと天候不順が続いたり、国に妖魔が現れたりと国が傾く、ということは規定事項になっています。そんな中で行き過ぎた刑罰を作った王を倒した月淫の苦悩を描いた短編。

     月淫の苦悩と反逆という決断の重さがとてつもなく濃密に描かれています。そしてこれだけ自分の罪のことを考えられる彼が上に立っても、これから国は傾いていくのか、と思うとやり切れなくもあります。彼の覚悟と決断が少しでも早く天命に届いてほしい、と思わずにはいられませんでした。

    『華胥』は麒麟が倒れた才の国が舞台。麒麟が倒れたということはその国がまもなく倒れてしまうことを意味します。
     十二国記の厳しさがこれ以上ないくらい表現された話だったと思います。理想だけではどうにもならない現実、自責の念、後悔、国を背負うという責任の重さ、そういったものをこれまでのシリーズ作品以上に強く思わされました。だれも悪いとは言い切れない、ただ少しずつの間違いや思い込みが積み重なった結果、ということが余計に辛いですね……。そういう甘さを許さないのが十二国記らしいのかもしれませんが。

    『帰山』では『図南の翼』の利広が登場。このシリーズの深さを改めて伝えるだけでなく、伏線を張ったような作品で今後のシリーズがますます楽しみになりました。

     硬軟織り交ぜられた短編集で長編作品に引けを取らない作品だったと思います。ますます十二国記の世界観を広げてくれた作品でした!

  • 『本の雑誌』故目黒考二さん特集をきっかけに、周回遅れで読み始めた十二国記シリーズ。だんだん推しの登場人物や知ってるエピソードも増えてきて、思いがけないところであの話とこっちの話がリンクする事に驚いたり、後日談に(そういうことか‥)と感嘆させられたり。本シリーズで描かれる人々の喜びや苦しみはまさに、“現実社会”の合わせ鏡のようで‥いやほんと、責任ある立場の我々ひとりひとりが、ちゃんと“仕事”をしなければ!

  • 5つの短編集です。「乗月」から「書簡」がとても印象に残りました。十二国記の明るい未来を期待できる2作品でした。後書きの解説を読むと、当初講談社から発売された順番と新潮社のものは違うようですね。次に読むのは『黄昏の岸 暁の天』です。

  • 十二国記、5つの短編からなる一冊。それぞれの国について描写されるが、どれも深く刺さるものがあった。
    『冬栄』は幼き泰麒にただただ心があたたまる。自身のことを「じいや」と称し、好々爺然とする正頼とのかけあいもほほえましい。そして王とはこうも個性派ぞろいなのか。廉王・世卓も独特で魅力的だ。農夫と王、役目と仕事。その解説になるほど、と読者の私も納得させられた。
    『乗月』は『風の万里黎明の空』のその後の芳国の話。対話によって月渓の煩悶がほぐされていく様が、心に染みてくる。王の姿とは、様々な面があり、感情も一筋縄では行かない。そして供王はやはり供王だなあ。とても気持ち良い結末となった。
    『書簡』の陽子と楽俊とのやりとり、とても良い関係性だなあ、としみじみ感じる。離れていても拠り所になるのは本当にかけがえのない存在なのだろう。
    表題にもつながる『華胥』は、読み進めるほどにきりきりと辛くなってくる。志をもった晴れやかな王朝も、沈む。じりじりと悪化し、最終局面での遺言が重い。一貫して鋭い指摘をしていた青喜のキャラクターが印象的。慎思の語りで終わるこの一編は、本当に胸に来るものがあった。
    『帰山』は食えないツートップの利広と尚隆(本編内では風漢とあるが確実に尚隆本人だろう)のかけあいが楽しませてくれる。が、再会を果たした柳国は最高にきな臭い。長い年月を生きてきた見地から語られる国々の興亡の傾向は非常に興味深いものがある。五百年も六百年も生き続けるとはどういう感じなんだろうか。十二国のシステム的なものに、思いを馳せてしまう。奏国の円卓で色々な情勢がまとめられ、現在地点を把握するのにも役立った。この一冊の締めがこの話できれいにまとまっているように感じる。
    後日談や今後の布石となる物語。この先も読み進めなければ。

  • 後日談を多く含む短編集。外伝的な扱いかな。
    私は楽俊が気に入っているので
    彼が主役で出てくる「書簡」があったのが嬉しかったです。

    ちょっとした気晴らしには良い本ですね。

  • 短編集。どれを読んでも心に刺さる言葉が飛んできて痛い(嬉しい)。それらはどこかで耳にした格言に似た内容でもあるけれど、こうして物語の文脈のなかで拾う言葉として出会うと、こうも響き方が違う。これが楽しくて嬉しいことが、私がこのシリーズ、ひいては小説を読みたい理由なんだろうなと思う。

  •  既に講談社のXハート文庫、講談社文庫で出版されているものの新装版です。

     これは各国の王と麒麟にかかわる物語。

     美麗な表紙が『華胥』の悲劇を一層彩っているように私には見えました。

     解説はアニメの脚色を担当された會川昇氏。なかなかに興味深いお話を書かれています。(私、個人が彼のファンなので特にそう思うのでしょうが)

     来年の三月には『黄昏の岸 暁の天』が発行。そして次は書きおろし長編が待っています。楽しみですね。

  • より、12国記の世界を明確にした本。
    それぞれの国の体制などがわかる。
    どれも教訓があったし、面白かったけれど、やはり華胥でしょう。

    ・冬栄
    泰麒がカワイイ。とてもあの高里とは思えない。とても健気。
    けれど、11と考えると、珠晶が12で昇山したときとえらい心構えが違うなぁ。

    ・乗月
    月渓がずーーーーーーっとグジュグジュしているけれど、最後素敵な展開でした。

    ・書簡
    陽子と楽俊。こういう自立してて信頼しあえる仲っていい。
    励まし合うやり方が。
    それと、楽俊先輩最高!!!!!!

    ・華胥
    これだけ、「風の万里、黎明の空」より前の話だった。
    黄姑が起つ前の才。
    ショッキングで重い話だったけれど、
    それだけ残ると思う。
    「責難は成事にあらず」 正すことは、何かを成すことだけど、非難することは何かを成すことじゃない。
    非難するだけなら誰でもできる。
    自分もそういう風だったので共感します。

    ・帰山
    永遠に続くものはない。
    けれど、家族の支えは強い。

  • ・10月1日に読み始め、5日に読み終えました。

    ・泰麒が!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


    「冬栄」
    ・こんなの読んじゃっていいんですか!?ってなっちゃった。泰麒が本当にかわいらしくて、正頼になついてるのハチャメチャかわいいじゃん。一緒に近道して、見つかっちゃいましたね、って出ていくとこなんか、ほんとにふつうの子供じゃん…… 

    ・蓬莱にいたころに期待に応えることが出来ない存在であったこと、だいぶ引きずってて切ない。でも頑張ったらいいことがある、って正頼に言われて袖を引いておねだりできるのはなんなんだ。
    ・あったかいところはのんびりしてるというかおおらかというか、そういうのはやっぱりあるんだな~と思っう。まさかホントに昼寝でもしてたのかな…… 
    ・廉王にほろりと弱音吐いちゃったり相談してるところかわいかったな…… 廉王の「俺が国の番人だとしたら、廉麟は俺の番人です。」というの、このあとすぐに驍宗が似たようなこと言ってて、よかった。廉王、世卓がどうやって登極したのか気になるな~。昇山はしてないだろうし…… 廉麟も泰麒たちのお世話を手づからやってたし、気質が合ってるようでかわいい…… 
    ・あと驍宗がいる正寝のすぐとなりに越せてうれしくてぼんやりしちゃったりするの本当に愛らしい…… あと終わりのシーンが色っぽすぎる。春を持ち帰ってきただなんて…… 色っぽすぎるよ…… 
    ・戴の話が読みたいよ。と思ってたからめちゃめちゃほっこりかわいらしいものが読めてよかった。この先が不安だけど…… 


    「乗月」
    ・他作品でサブキャラクターとして出てきた人たちの話は嬉しい!! 月渓の苦悩も小庸の苦悩もどちらも理があるというか…… 王を討ったのだから、討とうと声を上げてくれたのだから、その穴を埋めてくれという思いも、王を討ったのだから、討った時点で自分の役目は終わったのだから、仙籍を返上するのはできなくとも州城に退去するという思いも、そうよねそうよね…… とウンウン頷きながら読んでしまった。
    ・「罪と呼べないほどの罪で刑場へ市民が引き出されることより、そうなったことによって市民が主上を恨むことのほうが辛かった」ってちょっと感情が巨大すぎる……
    ・祥瓊があのあと、恭で犯した罪を贖いに行くと行動したの、めちゃめちゃすごいなと。ほんとに変わったなと改めて思った。そりゃ月渓にとってはすごく驚きだろうな…… そのあと、祥瓊が受ける罰を考えて、自分が拒否したものの大きさ、重さに気づくとこよかった。
    ・供王…… 珠晶は祥瓊のことめちゃ嫌ってたからな…… どうなるんだろう…… とハラハラしてたけど珠晶らしく一蹴したというか、そういえば月渓に玉座に座っちゃいなさいなと言ったのはこの人だったわな、と…… 珠晶はどうやって恭を立て直していったんだろう。

    ・月渓がこれから抱えていく問題は、どうやっても荒廃していく国の傾きをいかに遅らせるか、次の峯王が立つまでにどれだけ持ちこたえられるかなんだよな。王が居ないだけでもものすごく大変っていうからな…… どうか荒廃のみに囲まれないようになってほしい。



    「書簡」
    ・めちゃめちゃほっこり…… 陽子と楽俊の友情関係はなんというか、真に相手のことを大切に思い気にかけていて、この二人が出会えて本当によかったなーと何度でも思っちゃう…… 
    ・雁は半獣に対しても海客に対してもなんの差別もなくてええとこやのう、って思ってたけど、それは制度のことで人の気持ちの上ではわからない、というの、すっかり忘れてたよ。やっぱり半獣のこと疎ましく思ったりそう扱う人はどこにでもいるんだなあ、まあ、それもまたどこもそうか…… 「雁に来て、がっかりしたろ」「功と大差ないとか思わないか?」って聞いちゃう鳴賢の気持ちも確かにわかる。
    ・陽子が揉め事もなくうまくやってる、って言ったのとか、楽俊が寮生は気のいいやつが多いし学校もいいとこ、って言ったのとか。決して嘘ではないんだけど、何の問題もないわけなくて、それをお互いなんとなく把握しながら励まされるの、素敵だな。

    ・なんとか元気でやっている、というのは、遠方に頼りを送るとき特有の意味合いがあるよなあ。あと楽俊が陽子のことをヨウコって子を訓で読むのが好きだな。相手が元気であるように、自分が元気でいられるように、願いと祈りが乗ったいい話だった……


    「華胥」
    ・麒麟失道からとなると、国が終わっていくさまをただただ眺めていくしかないの辛いな~…… 扶王のように、あからさまに罪と言えるような罪は犯していないし、登極以来真面目に国の未来を見据えているのに采麟は失道してしまったし国はどんどん傾いていくの、最初は不思議だった。でもこういう王朝も珍しくはないんだろうなー……
    ・青喜、めちゃかしこい子だな。かしこくてしっかりしている…… 私はミステリ的な読み方というか…… 謎解きや犯人探しみたいな読み方ができないので(シンプルにそういう作品を読み慣れてない)、青喜が推測していくのをエ!すごい。ア!なるほど。と読んでいた。もったいない気もするが楽しいからな……いいか……

    ・慎思の「主上を責める資格があるのは、主上よりも巧く国を治められる人だけではないのかしら」というの、まあわかりはするんだけど、具体的なことが言えなくとも「それは違うのではないか」と言うのもわりと必要なことではあると思うんだけどなーとも思う。文句だけ言っておしまいっていうのはたしかに良くないけどね。だからといって黙ったままなのは、たとえ手を貸さないにしても肯定だと捉えられちゃうよなと。でもまあ、この慎思の主張は扶王を責めることで培われた砥尚たちの華胥の夢に対するアンチテーゼなので、ムニムニ言うことではないかもな……

    ・これ読み終えて、本のタイトルが『華胥の幽夢』であることにう、うわ…… となる。センスすごすぎ。


    「帰山」
    ・利広出てきてうれしいな~! それで風漢、ちょっと誰だかわかんなかったよ。お互いふらふら(……)してるんだな…… 
    ・利広が想像する雁の終焉、たしかにな、ホントにありそうだと思ってしまうし、尚隆がそこまで徹底的に雁を滅ぼし尽くすところを見てみたいと思っちゃうのも恐ろしい。実際そうするやつだと言われている(思われている?)んだもんな。でも利広がそう言ったから、しないかもなとも思った。風漢が利広に対して言ったこともね。お互い本人を前にして好き勝手(?)言えるの、仲が良くてよろしいね。いや、遠慮がないだけか?でも親しげにしてるのはほっこりするよ。話の内容は全然ほっこりしないけど。

    ・柳が中途半端な年数で傾いているの、気になる…… 登極の経緯もわからないし、人物像も全然出てこない。名のある法治国家だったということだし、そんなに「パッとしない」で片付けられる人じゃない気がするんだけどな~。
    ・あと陽子が褒められてるとうれしいね…… 相変わらず戴が不安でしかたない。あんなにかわいい話を読んだのに…… 
    ・恭に物資の援助をするべきかという話を家族一丸となって議論していたところ、登極以前も以後もこうしてものごとを決めてきたんだなと思えてよかった。奏の話もっと読みたいよ~!!


    ・『丕緒の鳥』とは真反対に王を中心にした話で、あのときのあの人はどうなったんだろう、このあとこの国はどうなるんだろう、と思っていたものがどんどん読めてたいへんおもしろかった。もちろんこれまでに出てきてないところの話もすごくよかった。

    ・サブタイトルが良すぎる。『丕緒の鳥』でも思ったけど、1つの話を読み終えたあとにサブタイトルを見て「それでこのタイトルを付けますか!!!!」って内心叫んじゃう。「乗月」がかなりよかった。いや、「帰山」も良い…… でも一番は本そのもののタイトルだわ。すでに言ったけど、「華胥」読み終えるとこの本のタイトルが『華胥の幽夢』なことに唸ってしまう。すごすぎる……

  • 「戴」「芳」「慶」「才」「柳」五つの国に纏わる短編五作が収められた短編集。
    以前刊行された短編集『丕緒の鳥』は十二国で暮らす市井の人々を描いたものでしたが、今作は他のシリーズ作品と同じく王や麒麟やそれに与する人々を描いたものです。
    『丕緒の鳥』のレビューで、市井のイチ個人達の抱える苦悩についての物語なので現実的にあり得そうな話ばかり、というようなことを書きました。
    今作『華胥の幽夢』は王や麒麟や王朝関係者の抱える苦悩について描かれているのですが、彼らの抱える問題も、紐解いていくとやはり現実的にあり得そうな話で、普段の自分の生活においても為になったり身に染みるようなことばかりです。
    ただし、王や麒麟と市井の人々とで決定的に違うのは、その苦悩や過ちが国情に直結してしまうか否か。
    王や麒麟は重大な責任を背負っているんだなぁと改めて思いました。
    大人になってから改めて読むと、学生時代に読んだ頃とはまた違う箇所が心に響いたり、新たな発見と感動を味わえました。
    今作には心に留めておきたい名言がたくさんあります。
    やはり十二国記は私にとってのバイブルです。

    『冬栄』
    泰王・驍宗が登極して間もない頃のこと、泰麒が使節として漣を訪ねるお話。
    蓬莱からやって来て、十二国の決まり事がよく分からず、王を選ぶという役目も果たして他にどうすれば良いのか途方に暮れてしまって、自分の存在意義を見出だせない。
    大きくなること、ただ見守ることだけでは何もしていないような気がしてしまう。
    国の為に自分に出来る事がない、と悩む小さな泰麒が健気で切ないです。
    とはいえ、身の回りで波乱の多い泰麒の穏やかな日常が描かれているので、比較的和やかな気持ちで楽しめるお話。
    しかし戴のこの後の混乱を知っていると、読んでいて切なくもなります。
    WH版では戴のその後の話である『黄昏の岸 暁の天』がこの短編集より先に刊行されているのですが、今回は刊行順が逆になっているので、新装版から読み始めた方は『黄昏の岸 暁の天』が刊行されたらまたこの短編を読み返すことをお勧めします。
    戴の混乱に関わる重要な人物が今作にさりげなく登場していたりするので。
    小野主上は本当にえげつない(褒めてます)。
    泰麒は本当に優しくて良い子なので、幸せになって欲しいと切実に思います。

    『乗月』
    峯王・仲韃が倒れた後の芳が舞台で、峯王を弑した月渓のその後を描いた物語。
    学生時代に読んだ時には「月渓がぐたぐた悩んで玉座になかなか就かない話」という印象でしたが。
    改めて読んで、当時の自分を叱責したい気持ちでいっぱいです。
    道を失っていてもなお、峯王に期待してしまう。
    期待に背くようなことをして欲しくないのに、それを止められなかったという後悔。
    そんな自分が仮とはいえ玉座に就くことは、峯王を弑したうえに位を盗むことになる。
    大人になった今なら、月渓のこの気持ちが分かる気がします。
    人を諫めることは難しい、けれどそれでも諫言するのは、相手に対する期待と情愛があるから。
    本当にその通りだと思います。
    言ったことを聞いて貰えない、それで相手に嫌われたり、自分が嫌な思いをしたりするのは、誰しも避けたいことです。
    それでもそれを承知で、厳しいことを言うのは、やはり相手に対して期待していたり尊敬する気持ちがあるから、なんですよね。
    相手を期待することとそれを裏切られたときの気持ち、そして罪の重さを分かったうえで敢えてそこに踏み込むことの意味を、きちんと理解している月渓なら、芳の「月陰の朝」を支えられる。
    どうやら芳は次の王が起つまでにひと波乱ありそうな感じですが、次王が登極するまできっと持ち堪えると信じています。
    次の王様は月渓なのでは、という気もしますが…芳のその後の話もあるなら、いつか読んでみたいものです。
    それから今作には話題だけですが供王様が登場します。
    相変わらず物言いが素敵で、何度読んでも思わず笑ってしまいます。

    『書簡』
    景王・陽子と雁の大学に学ぶ楽俊が、互いの近況を伝え合う。
    『風の万里 黎明の空』の少し前のお話です。
    多少の悩みや問題はあるものの、お互い「とりあえず上手くやっている」と報告しあう二人。
    敢えて本音を曝け出さず、見栄を張ることによって自分を鼓舞する。
    弱いところを見せて慰め合うだけが友情ではないんだ、ということに気付かされる。
    仲の良い友人同士は、何でも弱みを見せられる間柄だと考えがちですが。
    友達も頑張っているんだから自分も頑張る、というこの二人の関係も、とても素敵で羨ましいなと思うのです。
    強がりだろうと背伸びだろうと大丈夫だと言って、元気を出す。
    『風の万里 黎明の空』で采王が鈴に言った「人が幸せであるのは、その人が恵まれているからではなく、ただその人の心のありようが幸せだからなのです」という言葉に通じるものがあるような気がしました。
    楽俊は大学を卒業したらどうするんでしょうね。
    何となく、巧に戻るのかなという気がするのですが。
    そういえば半獣は王様になれるんだろうか。
    少なくとも巧の次の王様に楽俊が選ばれることはないみたいですが、ちょっと気になります。

    『華胥』
    沈みつつある才の王朝を描いた物語。
    表題作であり、重いテーマを扱ったお話です。
    専横せず真面目に政務に取り組んでも、国が傾く…理由が分からずに苦悩する才の王や官吏の心情は、読んでいると苦しくなる。
    けれど王は国を治める者として、理由が分からない、という言い訳は決して許されない。
    小野主上の描く世界観は相変わらず、甘くないなと思います。
    理想を掲げたり、他人を非難することは、誰にでも出来る。
    問題は、実際に理想を実現出来るのか、実現出来る範囲で何をするべきか、ということ。
    国の運営とはすぐに実現出来ることばかりではない、だからこそこの世界の王や官吏は寿命が長い…そういえば延王もそんなことを言っていましたね。
    潔癖な官吏や民ばかりではない、そういう人々のことも織り込んで、多少の失敗は覚悟の上で、すぐに結果が出なくても気長に構える。
    そういう、多少の余裕を持っていないと、国は治まらないのかもしれないですね。
    潔癖な人には難しいことなのかもしれません。
    「瓢風の王は、傑物かそうでないかのどちらか」とはシリーズの至るところで見掛けた一文ですが、その理由の一端が見えたような気がします。
    理想を高く掲げ過ぎていたり、性急に結果を出そうとしたり…そういうところで却って蹉いてしまうのかな、と。
    砥尚もそうだし、同じく瓢風の王と呼ばれる泰王・驍宗も似たようなところがある気がしてしまう。
    峯王・仲韃は潔癖過ぎるが故に自分の過ちを認められなかったし、かつて雁で謀反を起こした斡由も、もし玉座を勝ち取っていたら同じような過ちに踏み込んでいたような気がします。
    潔癖過ぎる人、真面目過ぎる人は、実はあんまり王様に向いていないのかもしれないなぁ、なんて思ってしまったり。
    尚隆くらい適当な方が、向いているのかも。
    この話に出て来る「責難は成事にあらず」という言葉は本当に、いつも念頭に置いておきたい身に染みる言葉です。
    この言葉に纏わるエピソードで、才の前の王を非難する青喜に、養母である慎思が「では、もしも主上と台輔が身罷られたら、青喜は昇山するのですね?」と言った場面がとても印象に残りました。
    そして、国情を嘆きながらも昇山しない周りの大人に憤慨して家を飛び出し蓬山に向かった『図南の翼』の珠晶を思い出しました。
    言わんとすることはどちらも同じですよね。
    この短編『華胥』は、『風の万里 黎明の空』を読んでいると、終盤のとある一文に驚かされると同時にこれがいつの時代の事なのかが分かるという、シリーズを通しての読者にとっては嬉しい仕様です。

    『帰山』
    沈みゆく柳で偶然出会った、雁の風漢と奏の利広のお話。
    この二人、面識があったのか…と驚きつつ、諸国を放浪するのが好きで気になることには首を突っ込む性分は似ているもんなぁと、何だか納得してしまいました。
    会って当然の場所で対面したことがない、というのが何やら暗示的で気になりますが。
    二人が、柳の国情や互いの国の沈み方を予想しつつ軽口を叩き合う場面は、やり取りが面白いのだけれど、二人共たくさんの王朝が沈むところを見てきたのかと思うと切なさも感じてしまいます。
    「滅多に会わない人間に百度会ったら」というのは、利広と風漢のことなんですかね、やはり。
    あとは上にも書きましたが「会って当然の場所で対面したら」ということも、延王なら賭けていそうで怖いです。
    珍しく碁で勝った時の碁石集めを、阿呆らしくなって辞めたという事だから、もう同じような事はしないかもしれないですが。
    そして利広が奏に帰ってからの家族とのやり取り、『帰山』というタイトルの表す通り、このお話のメインはここなんだろうなと思います。
    (余談ですがこの『帰山』が初めて発表された同人誌では、風漢と柳で出会う場面はなく、利広が奏に帰ってくるところから始まります。)
    利広にとって、自国が沈むということは、家族団欒を失うことなんですよね。
    だからこそ奏の終焉を想像出来ない。
    けれどずっと王宮にいたら安寧に飽いてしまうから、他国を放浪して王朝の脆さに心を痛め、自国は大丈夫だと確認する為に帰って来る。
    その心理は何だか分かるような気がします。
    利広は繊細で危ういキャラクターだなと思います。
    そういうところが堪らなく好きなんですが。
    永く生きた王朝が倒れる時は悲惨、という話がありましたが、もし小野主上がそういう話を書くつもりなんだとしたら、奏なんじゃないかなという気がします。
    利広が何かをしでかすのではないかと思う。
    奏ではないにしても、シリーズの最後にどこかの王朝が沈む、という展開はあり得そう。
    そんな展開は悲しいと思いつつ、読んでみたいような気もしてしまいます。

    『華胥の幽夢』は、シリーズ作品との繋がりが強い短編集なんだなぁと改めて思いました。
    単純に、他シリーズに出て来るキャラクターが登場するということもありますが。
    シリーズ作品で描かれる、こうあるべきだという「考え方」とか「心の在り方」という精神的な部分が集約されているように思います。
    自分の至らないところを指摘されているようで、読んでいて辛い部分もあるのですが、それ以上に心に響くたくさんの言葉に出会えるから、読まずにはいられない。
    短編集ですが、長編に負けず劣らずの読み応えな一冊だと思います。

  • 理想とするものが、現実として上手くいくとは限らない
    過ちを、過ちだったと認めることって実はとても難しくてそれを素直にできる人は素晴らしいとも思う
    けれど
    じゃあ何が正しいのか、なんて実は誰もわからない、わからなかったということもあるんじゃないか
    やってみて、たまたまうまくいく、そんなこともあるだろうし
    本当に、ファンタジーなのに考えさせられるのがこの十二国記

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著者プロフィール

大分県出身。講談社X文庫ティーンズハートでデビュー。代表作に『悪霊シリーズ』 『十二国記シリーズ』『東亰異問』『屍鬼』など。重厚な世界観、繊細な人物描写、 怒濤の展開のホラー・ミステリー作品で、幅広いファンを持つ。

「2013年 『悪夢の棲む家 ゴーストハント(1)特装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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