華胥の幽夢 (かしょのゆめ) 十二国記 7 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (351ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101240602

作品紹介・あらすじ

王は夢を叶えてくれると信じた。だが。 才国(さいこく)の宝重である華胥華朶(かしょかだ)を枕辺に眠れば、理想の国を夢に見せてくれるという。しかし、采麟(さいりん)が病に伏すいま、麒麟が斃(たお)れることは国の終焉を意味する国の命運は──「華胥」。雪深い戴国(たいこく)の王が、麒麟の泰麒(たいき)を旅立たせ、見せた世界は──「冬栄」。そして、景王(けいおう)陽子(ようこ)が親友楽俊(らくしゅん)への手紙に認(したた)めた希(ねが)いとは──「書簡」。王たちの理想と葛藤を描く全5編。

感想・レビュー・書評

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  • 「冬栄」
    雲上の物語。青鳥と書いて「しらせ」と読む。おそらくホントに戴国と漣国との間で鳥のやり取りがされたのだと思う。往復で何日かかるのか。騎獣で半月なのだから、機動力があっても20日はかかったのだろう。
    精神年齢10歳としては、あまりにも責任感のある泰麒の初外交のお話。泰麒の自己肯定感の欠如は、一旦この短編では解決したかに見える。

    「乗月」
    雲上の物語。月渓がこの章の主人公ではあるが、彼の逡巡は4年の月日があったにしては幼いと思う。寧ろ描きたかったのは、祥瓊の手紙だろう。さあコレでケリがついた。あと100年ほどすれば、祥瓊がまた芳国に戻ることもなきにしもあらずだろう。

    「書簡」
    雲上と雲下の物語。さすが十二国。王様の使う鳥(便り)は、現代で云うボイスメモの機能が付いている。小野不由美女史が書いた頃には、テープレコーダーのイメージだったんだろうか。お互い背伸びをして、手紙をやり取りする友だち同士の物語。この半年後、慶国は動乱が始まる。

    「華胥」
    雲上の物語。華胥華朶(かしょかだ)は才州国にある宝。宝玉でできた桃の枝。それを枕辺に挿して眠れば花開き、華胥の夢を見せる。昔、黄帝が治世に迷ったおり、夢で華胥氏の国に遊び、そこに理想の世を見て道を悟ったと伝えられる。采王黄姑の前王の砥尚(ししょう)の二十余年の治世と、代替わりを巡る「殺人事件」ミステリを描いた一編。
    黄帝とは、古代中国における伝説の皇帝達、「三皇五帝」のひとり。「三皇」の治世を継ぎ、中国を統治した「五帝」の、最初の帝である。(ピクシブ百科事典より)十二国に於いては「伝説」ではない。何しろ、歴史的「遺物」が実際に使われているのだから。

    「帰山」
    雲上の物語。前半は、利広と延王の会話からなる。ここで、十二国の栄枯盛衰の傾向と、利広と延王の隠れた闇の心を垣間見、驚く。また(X16年ごろの)十二国の世界情勢報告が一挙にされたということでも重要な一編。

    さて、最後の短編集を終えて、怒涛の最大長編に、次回から突入するようだ。

    年表(加筆訂正)
    1400年ごろ 奏国宗王先新が登極 妻と3人の子仙籍に入る
    1470年 六太4歳延麒となる。
    1479年(大化元年) 雁国延王尚隆が登極
    1500年(大化21年)元州の乱 斡由誅殺
    1700年ごろ 範国氾王登極

    ーX96年 柳国劉王露峰が登極
    ーX75年  恭国供王珠晶が登極
    ーX 25年 舜国の王登極
    ーX18年ごろ 芳国峯王仲韃登極
          才国采王砥尚登極
    X元年   泰麒 胎果として日本に流される
    X2年 才国采王砥尚崩御
    才国采王黄姑が登極
    X9年末  慶国予王が登極
    X10年  泰麒 2月蓬山に戻る
    戴国泰王驍宗が登極
    X11年 泰麒 4月日本に戻る
    X 12年 芳国峯王仲韃崩御、娘の祥瓊の仙籍剥奪 
         芳国の麒麟卵果が触により流される
    X14年  5月慶国予王崩御
    X15年(1992年?)陽子日本より来たる
         10月慶国景王陽子が登極
    X 16年 功国塙王崩御
         慶国で和州の乱 
    X17年  泰麒 9月戴国に戻る

  • 十二国記【華胥の幽夢】EP7

    華胥の幽夢、5つの短編集。
    どのお話も大好きですっ!

    十二国記を読み進めていくと、

    『あれ?あそこはどうなってるの?』
    『あそこのあの部分もっと深掘りして欲しいなっ』
    というむず痒い気持ちになってきたのですが、そんな気持ちをしっかりと受け止めて、
    これでもか!ばばーん!とこたえてくれているような作品。笑!んー、つまり好きすぎるっ

    冬栄
    乗月
    書簡
    華胥
    帰山

    どのお話もぜんぶ好き。
    どうしても選ぶとしたら乗月と書簡。

    【乗月】は
    国を守る為に自国の王を討った月渓という男の話。

    王が不在になってから
    民から王を奪ってしまったという苦悩
    慕っていたからこそ許せなかった王への思い、ぐるぐる悩む月渓が決意するまで。

    月渓は王になるのか?
    ショウケイは珠晶に対してどう罪を償うのか?
    珠晶はそれに対してどう応えるのか?
    読み終えて、すっきり。
    小野先生、本当にありがとうございます(;_;)

    【書簡】
    陽子と楽俊のお手紙のやりとり。
    2人は手紙に書いていない事もわかりあえる親友。お互いの存在があるからこそ、また頑張ろうと励みにする。
    読むと十二国記を紹介してくれたお友達に無性に連絡したくなった。ジュウニコクキオモシロイヨーアリガトウって

    次はいよいよ、最後のエピソード
    【白銀の墟 玄の月】
    なんと4冊にわたる長編だっ。
    そして、十二国記の最後のエピソードだと思うと悲しいです( ; ; )ヤダー

  • 十二国、治世側を描写した短編集でした。
    短編とはいえ、十二国それぞれの国々の、歴史や背景を織り込み、一編の小説にまとめ、内容重め。
    これを読むと、まだ、通読できてないのに、1巻に戻って読み直したくなる。
    「冬栄」冬に咲く花
    北東の島国・戴国。幼い泰麒が、一生懸命悩んで泰王を選定した“風の海”
    泰麒は、未熟さから自分の役割について悩んでいた。泰王は、経験豊富な覇気ある大人。泰麒は漣での新しい出会いから、自分の役割に希望を見出し、泰王は、彼の性急さと頑なさを泰麒に癒される。
    「乗月」
    北西の島国・芳。圧政の先帝・峯王と麒麟を討ち、国の再建を望む月渓。“風の万里”ですね。彼は、仮としても王座に着くことを拒む。景王・陽子からの使者・青辛との対話の中で、彼の犯した罪を思考する。月に乗じて暁を待つ、“月影の朝”王のいない朝を照らす月とならんとする。
    「書簡」
    景王・陽子と、雁国で学ぶ親友・楽俊との往復書簡。(便利な鳥さんの口頭伝達) ”月の影”での出会いですね。二人の思いやりは深く、言葉の表面だけでないことも、読み取る。
    「華胥の幽夢」理想の夢を見せる
    才国は、揺らいでいる。華胥花朶は、使った人の理想の夢を見せる。使う人ごと違う夢を見せる魔性がある。理想の差異から生じた対立は根深い。
    ちょっと掴みにくいのは、ミステリー仕立てだからかな。
    「帰山」
    時折、十二国の傾きつつある国で出会う二人、利広と風漢。今回は、柳国。彼らは、母国に戻って、その余波の対策を講じていく。

    深い良い話ばかりなのだけど、本編読み込み足らずかな。

  • どの短編も心に深くささる言葉と、今は苦しくとも未来にはきっとそれだけじゃないとの思いが、胸を打つ素晴らしい物語だった。

    「冬栄」での幼い泰麒の悩み。期待されていることは分かってるのに、何をすればいいのか分からない。自分は無用の存在で、いれば邪魔になるだけだと思われてるのじゃないだろうか。大切な人たちに……
    泰麒は、漣の暖かい気候と廉王自らが育てる農作物に癒され、そして飾り気のない廉王との関わりの中でその答えを導き出していく。
    今の時代でいえば早ければ小学生?思春期を迎える辺りの子どもたちも、そんな思いに駈られることがあるのじゃないかしら。家族や両親、友だち、部活動のチーム……様々な集合体の中で自分の存在価値が見出だせず苦しんでいる。大人でもそんな悩みはあるけれど、子どもであればあるほど、その悩みからは簡単に抜け出すことの出来ない。
    泰麒は、広い世界に触れることが出来て良かったのだと思う。世界はまだまだ知らないことばかりで、いろんな価値観で人は生きている。悩みに対する答えって決して1つではないし、実のところ正解があるのかさえ分からない。それでも出会った人たちから、自分にはない考え方に触れることで、泰麒が求める答えへの道標は増えていく。

    「乗月」では、逆に既にたくさんのものを背負ってしまった大人の物語である。王を弑した月渓は、奪った咎によって、これから苦難を舐める民に王を返す義務がある。崇敬していたからこそ許せなかった。だからこそ、奪った罪を背負って生きていくことに臆病になる自分がいる。けれど、「言い訳とは、自分自身に対してするものかもしれない」そして「言い訳をする相手を間違っている」ことに気付く。そして「人は変われる」ことを月渓に身を持って教えてくれたのは、崇敬する王の公主、月渓の処遇を怨んだ祥瓊だった。
    月渓は立ち上がり進んでいく。罪を背負って。

    「書簡」では、陽子と楽俊の交流が描かれており、わざわざ触れなくたも分かりあえる絆、その上でお互いを思いやる心に温かくなる。

    「華胥の幽夢」王は無能であってはならない。「責難するは容易い、けれどもそれは何かを正すことではない」現代の風潮にも一石投じる言葉になるのではないか。国を治めるには理想ばかりを追いかけてもいけない。高い理想を掲げて人を責めることは、簡単なこと。そこから先をじっくりと考える。分かっていないのに、分かった気になること。それは許されることではないことなのだと。生涯忘れずにいようと思った言葉になる。

    「帰山」わたしには、奏国が傾くことが想像できない。この宗王(と家族)ならば、未来永劫太平の世が続くのではないかと思ってしまう。
    だけど、国は脆く、死なない王朝はないと利広は分かっている。それでも、ここは大丈夫だと。少なくとも、互いが支え合っている限りはと思うのだ。利広はまた旅に出る。そして戻ってくるのだ。

    • やまさん
      地球っこさん
      こんにちは。
      いいね!有難うございます。
      やま
      地球っこさん
      こんにちは。
      いいね!有難うございます。
      やま
      2019/11/15
    • 地球っこさん
      やまさん、こんにちは!
      いつも丁寧にコメントしてくださって、ありがとうございます。
      やまさん、こんにちは!
      いつも丁寧にコメントしてくださって、ありがとうございます。
      2019/11/15
  • 今回は短編集です。戴国の驍宗や泰麒、景国の陽子や楽俊などが登場します。
    それぞれの王や麒麟の苦労や苦悩などもわかり、本編のアナザーストーリー的な感じでしょうか。
    読後にはますます十二国記が理解できて、さらに好きになります。オススメ!

    • 松子さん
      hibuさん、こんにちは(^^)
      カショの夢、良いですよねぇ。
      ほんと、ますます十二国記好きになりますよね
      楽俊と慶子のお手紙のやりとりにジ...
      hibuさん、こんにちは(^^)
      カショの夢、良いですよねぇ。
      ほんと、ますます十二国記好きになりますよね
      楽俊と慶子のお手紙のやりとりにジンとしました。
      アナザーストーリーもっと読みたい!
      2023/01/31
    • hibuさん
      松子さん、こんばんは!
      どんどん好きになりますね!
      魅力的な王と麒麟が多いですし、楽俊と陽子の友情も良きですね♪
      松子さん、こんばんは!
      どんどん好きになりますね!
      魅力的な王と麒麟が多いですし、楽俊と陽子の友情も良きですね♪
      2023/01/31
  • 短編五編どれも良かった、一冊。

    だいぶこの世界観、国、人物が頭に入ってきたところだけにどの編も味わい深く読めて良かった。

    相変わらずの泰麒のいとけなさがたまらず、楽俊と陽子の「書簡」に涙が滲んだ。

    お互い、敢えて見せることのない心の奥深くを理解し思いやっているからこそのこの言葉、関係に涙せずにはいられなかった。「華胥」は奥深い数々の言葉が印象的。読み返したくなる。そして「帰山」で陽子の慶国をいい感じだって認めてくれる、あの人。
    それがなんだかうれしかった。奏国メンバー明るくていいな。ますますこの世界にハマった。

  • 4.4
    短編集、乗月が良かった。
    本題となっている華胥の幽夢だけが重すぎて辛かった。
    他はとても良かった。


    他は景王や俊英、利広など今まで登場した人のサイドストーリー的に読むことが出来て面白かったし、理解と世界観が深まりました。

    奏も600年続いて居ながら、王や家族は円満にやっているのがとても微笑ましく、締めの短編として読了感も良かった。

  • 5編の物語が収められた短編集です。

    泰麒の漣国への訪問を描いた「冬栄」。
    空の玉座を前に思い悩む芳国の月渓と、景王の親書を携えた慶国の将軍との対話を綴った「乗月」。
    楽俊と景王・陽子との文通に心が温まる「書簡」。
    才国の病んだ幼い麒麟と追い詰められていく采王の姿を描いた「華胥」。
    本シリーズ中の二大風来坊と言ってもよい2人の男の交流にしびれる「帰山」。

    人は変わることができるのだという希望を感じさせる物語もあれば、残酷なまでの事実を目の前に突き付けられる物語もありました。
    特に「華胥」は、時々読み返しては自身を省みる助けにしたい、苦いけれどよく効く薬のような1編だと感じました。

  • 「責難は成事にあらず」

    ホワイトハート版しか出ていなかった頃、
    短篇集の中で慶が関わってこない「華胥」が好きではなかったけれど、
    この言葉の意味を本当に理解してから、
    ずっと忘れることなく記憶に残している言葉です。

    誰かを、何かを避難することは容易い。
    でも、私は、何かを成し遂げることはできていない。

    一人驕り高ぶっていた頃に、頬を張られるような衝撃を受けて
    情けなくてわんわん泣いたことを思い出します。

    これだけ、仕事観や死生観、学ぶことや、人との関わり方を
    ファンタジーという世界のなかで説いている小説が
    そもそも、ティーンズ向けに書かれているという事実に
    毎度のことながらびっくりしてしまいます。

    逆に言えば、10代の中頃から十二国記に親しめたことが
    何より幸せなことだなと思っています。

  •  完全版十二国記7作目となる短編集。

     『冬栄』『書簡』は陽子や楽俊、泰麒が再登場し、彼らが厳しい十二国記内で自らの役割を見つけようとし、懸命に行動している様子が描かれます。過去作品を読んでいる身にとっては、彼らのその後が分かり、大満足であるとともに、彼らの頑張りや苦悩を見るにつれ自分もがんばらないといけないなあ、と思いました。特に『書簡』は陽子と楽俊の手紙のやり取りの話なのですが、二人のやり取りが読んでいる自分自身にも向けられているようで、なおさら頑張らないと、と思った作品です。

     過去キャラの登場で和んだ面もあるのですが、十二国の厳しさを描き切った短編もさすがの読み応え……。

     『乗月』は『風の万里  黎明の空』以降の芳国が舞台。
     十二国の設定ではたとえ暴君でも王がいないと天候不順が続いたり、国に妖魔が現れたりと国が傾く、ということは規定事項になっています。そんな中で行き過ぎた刑罰を作った王を倒した月淫の苦悩を描いた短編。

     月淫の苦悩と反逆という決断の重さがとてつもなく濃密に描かれています。そしてこれだけ自分の罪のことを考えられる彼が上に立っても、これから国は傾いていくのか、と思うとやり切れなくもあります。彼の覚悟と決断が少しでも早く天命に届いてほしい、と思わずにはいられませんでした。

    『華胥』は麒麟が倒れた才の国が舞台。麒麟が倒れたということはその国がまもなく倒れてしまうことを意味します。
     十二国記の厳しさがこれ以上ないくらい表現された話だったと思います。理想だけではどうにもならない現実、自責の念、後悔、国を背負うという責任の重さ、そういったものをこれまでのシリーズ作品以上に強く思わされました。だれも悪いとは言い切れない、ただ少しずつの間違いや思い込みが積み重なった結果、ということが余計に辛いですね……。そういう甘さを許さないのが十二国記らしいのかもしれませんが。

    『帰山』では『図南の翼』の利広が登場。このシリーズの深さを改めて伝えるだけでなく、伏線を張ったような作品で今後のシリーズがますます楽しみになりました。

     硬軟織り交ぜられた短編集で長編作品に引けを取らない作品だったと思います。ますます十二国記の世界観を広げてくれた作品でした!

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著者プロフィール

大分県出身。講談社X文庫ティーンズハートでデビュー。代表作に『悪霊シリーズ』 『十二国記シリーズ』『東亰異問』『屍鬼』など。重厚な世界観、繊細な人物描写、 怒濤の展開のホラー・ミステリー作品で、幅広いファンを持つ。

「2013年 『悪夢の棲む家 ゴーストハント(1)特装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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