- Amazon.co.jp ・本 (309ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101247069
感想・レビュー・書評
-
11の市井物短編集。
著者の後書きの中、故郷での年越しの思い出が語られている。
数々の神の訪れがあり、その時々の行事を執り行った後に
「といった夜が幾夜かあったあとに、ようやく人間の年越しの夜と正月が訪れるのである。
そしてそのころに、それまでためらうようだった冬空が、一夜おともなく雪を降らせ、朝目がさめると外が真白になっている。
郷里の冬はそんなふうにして来た。」
お〜、なんという素晴らしい文章だろう。
本編以上に心がスーッとする惚れてしまう文章だ。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
やっぱり面白い。
-
藤沢作品のすべてに共通しているのは「仄暗い」人間の性。
裏店で身を潜めるように暮らす市井の人だったり、
身を売られて落ちて行く女の人だったり、
妻に逃げられその日をただ生きる人だったり、
とにかく主人公は生きる事に投げやりな毎日を送りながら、
その中で「ある日」、特別なことが訪れる。
それは良い事だったり、反対の事だったりするのだが。
作家藤沢周平は、平凡な日常が次第に変わって行く様を実にイキイキと丁寧に、そして哀しく描いていきます、、、
読者は主人公や作中の人物にスンナリと感情移入して、
「あっ、それをしちゃいけない」とか「早く、はやく逃げて」とか思わず声を出してしまうような、切迫した緊張が
ところどころに鏤められているにもかかわらず、
物語自体は淡々と進んで行きます。
本当に淡々、、、
気がついたら読み終えて、ため息ばかりが出てきます。
そして胸に落ちるのは、
愚かであればあるほど愛おしくなる人間への思いを書き続けた藤沢周平その人のことです。 -
藤沢らしさが薫る作品集。初期のものなので後年の深くてしみじみといった読後感は薄いものの、その片鱗をみせてくれる。読めばいい時間が過ごせる。
-
江戸の町での市井の哀歓を情感深く描き出す江戸庶民十一景。
-
短編集。藤沢周平の作品はもしかしたら初めてかも。短編集も普段はあまり読まないのですが、短いながら1つ一つが結構ずっしり来ました。
醜いと蔑まれてきた女の子が匿った武士に恋をして、離れがたくなったが余りに迎える残酷で哀しい結末。
長年連れ添った女房の、昔の小さな秘密を聞き出して、ちょっと?複雑な気分になる旦那さんの心の動き。
大事に育てた孫の帰りを待ち続けた老婆がやむを得ず取った行動、後顧の憂いを失くそうとして却って災いを呼び寄せた男の話。
幸せに生きようと、何事もない毎日を大切にしている人たちがつまづいてしまう、そんな切ないような侘しいような。
どの人物の気持ちの揺らぎも伝わってくるようでした -
久しぶりに藤沢周平を読んだ.短編小説だが物足りなさを感じることなく読んだ。印象に残ったのは「鬼」という作品で不器量なサチがかくまった武家と男女の中になり、その武家への思いが思わぬ結果になる。切なく残酷な恋心でした。
-
1983(昭和58)年発行、新潮社の新潮文庫。11編。市井物(『桃の木の下で』は武家物に近いが)で人間の関係が主題。そしてそのほとんどは男女関係。男女関係は男性側から描くものがほとんど。これは作者が男性ということか。武家物だと女性主人公ものも少しはあるとは思うのですが。最近は女性作者の女性主人公の市井物(男女関係もの)も多いから、男性中心なのは余計にそう感じるのかもしれない。
収録作:『拐し』、『昔の仲間』、『疫病神』、『告白』、『三年目』、『鬼』、『桃の木の下で』、『小鶴』、『暗い渦』、『夜の雷雨』、『神隠し』、他:「あとがき」(昭和54年1月)、解説:「解説」伊藤桂一(昭和58年8月、作家) 初出:『拐し』「問題小説」昭和51年4月号、『昔の仲間』「小説新潮」昭和52年4月号、『疫病神』「問題小説」昭和52年5月号、『告白』「別冊小説新潮」昭和53年春季号、『三年目』「グラフ山形」昭和51年8月号、『鬼』「週刊小説」昭和49年7月26日号、
初出(続き):『桃の木の下で』「週刊小説」昭和50年3月28日号、『小鶴』「小説現代」昭和52年12月号、『暗い渦』「小説現代」昭和53年3月号、『夜の雷雨』「別冊小説新潮」昭和53年夏季号、『神隠し』「別冊小説新潮」昭和51年春季号、備考:昭和54年1月青樹社から刊行された作品、 -
本当に短い短編集。
女の不思議が垣間見れる本。 -
藤沢周平「神隠し」、1983.9発行、11話。第4話「告白」、第9話「暗い渦」は長く寄り添う夫婦の若き日の出来事で面白かった。第8話「小鶴」は読み応えがあった。ダメな人間の3部作は第1話「拐し」(ダメな娘)、第3話「疫病神」(ダメな父親)、第10話「夜の雷雨」(ダメな孫)。読後感悪し。第6話「鬼」は後味が最悪。全体として、相性の悪い作品でした。