祖国とは国語 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101248080

感想・レビュー・書評

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  • 「小学校における教科間の重要度は、一に国語、二に国語、三、四がなくて五に算数、あとは十以下」の有名なフレーズが全てを物語っている。国語学者ではない、数学者の言葉であることに説得力がある。この本が世に出て20年近くなる現在においても何ら状況が変わっていないことに強い危機感というか、絶望感に近いものを覚える。
    他のエッセイも面白い。他の著書も一通り読もうと思う。

  • 「祖国とは国語」藤原正彦 (3周目)
    以下たそ解釈
    ・国語教育は現代日本にとって緊急かつ最優先の事項である

    ・国語以外での他教科での思考・論理もそもそも母国語の言語をもとにしている

    ・その土台である国語、つまり語彙や情緒といったものが貧弱であるとそもそも全ての思考に影響を及ぼす


    ・いくら方法論や英語、ゆとり教育などの個性を重要視しても肝心の中味が無い。コンテンツなしのガワだけになる
    ・詰め込み教育は害悪ではない。子供はそもそも悪い癖のほうが多い。方向づけは大事。
    ・読書は教養、教養は大局観を与える。一見無駄な教養も切り捨てるべきではない。

    ・満州国建国から崩壊までの歴史がよくわかる
    ・当時の列強の価値観を現代の価値観からジャッジして過去の人を非難するのは間違い、振り返り、未来に活かすべき

  • 数学者にして文筆家、そして新田次郎と藤原ていの息子である藤原正彦の、2000~2003年に朝日新聞、産経新聞等に掲載されたエッセイをまとめたものである。
    うち約半分が、持論の「国語教育絶対論」を熱く語ったものであるが、斎藤孝があとがきに書いている「ああ、この人に、文部科学大臣になってもらいたい。これが、私の切なる願いだ。数学者にして、華麗なる文章家。学問、文化、科学を愛すること、並ぶ者なし。そして何よりも、この日本をよりよくしていこうという強い志にあふれている。その志は、火山の溶岩のように、腹の底からやむことなくわき上がってきてしまう。それがこの『祖国とは国語』から、はっきりと伝わってくる」という思いに大いに共感する。
    「国家の浮沈は小学校の国語にかかっている」
    「言語は思考した結果を表現する道具にととまらない。言語を用いて思考するという面がある。・・・人間はその語彙を大きく超えて考えたり感じたりすることはない、といって過言ではない。母国語の語彙は思考であり情緒なのである」
    「『論理』を育てるには、数学より筋道を立てて表現する技術の習得が大切ということになる。これは国語を通して学ぶのがよい」
    「脳の九割を利害得失で占められるのはやむを得ないとして、残りの一割の内容でスケールが決まる。・・・ここを美しい情緒で埋めるのである」
    「祖国とは国語である。ユダヤ民族は二千年以上も流浪しながら、ユダヤ教とともにヘブライ語やイディッシュ語を失わなかったから、二十世紀になって再び建国することができた」
    「小学校における教科間の重要度は、一に国語、二に国語、三、四がなくて五に算数、あとは十以下なのである」等
    世界的な数学者である岡潔が『春宵十話』で語った「人の中心は情緒である。・・・数学とはどういうものかというと、自らの情緒を外に表現することによって作り出す学問芸術の一つであって、知性の文字板に、欧米人が数学と呼んでいる形式に表現するものである」に通じる。
    世界を知る数学者の国語に対する思いが、強烈に伝わってくる。

  • 藤原ていの「流れる星は生きている」に影響を受け「満州再訪記」が含まれる本著を購入。
    気軽に読めるウイットに富んだエッセイも多いのだが、教育論、生きる上での価値観・考え方について示唆に富む発信が多く自分の中での整理にも役に立つ。
    ウイット満載だが、留学していた英国仕込みなのだろうか。「満州再訪記」の最後もそのウイットで終わりその才能に感嘆。

    以下引用~
    ・日本の誇る「もののあわれ」は英国人には難しいと言う。英国にもこの情緒はもちろんあるが、日本人ほど鋭くないので言語化されていないらしい。
    古典を読ませ、日本人として必須のこの情緒を育むことは、教育の一大目標と言ってよいほどのものである。

    ・高次の情緒とは何か。それは生得的にある情緒ではなく、教育により育まれ磨かれる情緒と言ってもよい。たとえば自らの悲しみを悲しむのは原始的であるが、他人の悲しみを悲しむ、というのは高次の情緒である。

    ・家族愛、郷土愛、祖国愛、人類愛も、ぜひ育てておかねばならない。これらは人間として基本であるばかりか、国際人になるためにも不可欠である。どれか一つでも欠けていては、国際社会で一人前とは見なされない。地球市民などという人間は世界で通用しない。

    ・読書に得られる情緒の役割は、頼りない論理を補完したり、学問をするうえで需要というばかりでない。これにより人間としてのスケールが大きくなる。
    人間としてのスケールは、この本能(利害得失ばかりを考える)からどれほど離れられるかでほぼ決まる。
    脳の九割を利害得失で占められるのは止むを得ないとして、残りの一割の内容でスケールが決まる。

    ・言語を損なわれた民族がいかに傷つくかは、琉球やアイヌを見れば明らかである。祖国とは国語であるのは、国語の中に祖国を祖国たらしめる文化、伝統、情緒などの大部分が包含されているからである。

    ・祖国愛や郷土愛の涵養は戦争抑止のための有力な手立てでもある。自国の文化や伝統を心から愛し、故郷の山、谷、空、雲、光、そよ風、石ころ、土くれに至るまでを思い涙する人は、他国の人々の同じ思いをもよく理解することができる。

    ・英語で愛国心にあたるものに、ナショナリズムとパトリオティズムがあるが、二つはまったく異なる。ナショナリズムとは通常、他国を押しのけてでも自国の国益を追求する姿勢である。私はこれを国益主義と表現する。
    パトリオティズムの方は、祖国の文化、伝統、歴史、自然などに誇りをもち、またそれらをこよなく愛する精神である。私はこれを祖国愛と表現する。家族愛、郷土愛の延長にあるものである。
    わが国では明治の頃から、この二つを愛国心という一つの言葉でくくってきた。これが不幸の始まりだった。愛国心の掛け声で列強と利権争奪に加わり、ついには破滅に至るまで狂奔したのだった。
    戦争は一転し、愛国心こそ軍国主義の生みの親とあっさり捨てられた。かくしてその一部分である祖国愛も運命を共にしたのである。心棒をなくした国家が半世紀経つとどうなるか、が今日の日本である。言語がいかに決定的かを示す好例でもある。

    ・父の価値観の筆頭は「卑怯を憎む」だった。

    ・我が家では親子は、昨今流行の友達関係でなく、完全な上下関係だった。母が様々な日常の出来事に応じ善悪を示したのに対し、父はそれらを統合する価値観を教えた。それは上からの押しつけであった。私はいま押し付けられてよかったと思っている。押し付けられたものを自らの価値観としてとりこむにせよ、反発して新しいものを探すにせよ、あらかじめ何か価値観を与えない限り、子供は動きようがないからである。

  • 普段は図書館で借りて本を読んでいるけど、この人は数少ない買って読む著者の1人。文章が本当に華麗。日本語で思考する重要性に共感。素読ではないけど、今回の管理職試験準備のため、過去の解答例を丸暗記したことは無駄ではなかったと思う。学問にはある程度の丸暗記も必要だと思う。最後の、「満州再訪記」も味わい深いエッセイだった。歴史書としても読み応えがあるものだと思う。

  • 人から借りっ放しです。買った直後に借りてそのままです。返さなきゃ。
    ご自身は数学者でありながら、国語こそすべての基盤であるということを主張してゆく前半、家族や周りの人との生活を綴るエッセイとしての後半。どちらも硬すぎず柔すぎない文体で、楽しく読めます。
    ところどころに出てくる息子さんたちがとても素敵です。

  • 「祖国とは、血でも、民族でもなく、国語である」
    小学校における国語教育についての重要性をといた一冊。科学的根拠とかはなく、首をかしげるような主張もいくつかあったが、それでもこの一冊は最高。
    なぜ文学や歴史に触れるのか。哲学をするのか、芸術を愛でるのか、、など深く「教養」について考えさせられた。

  • 「祖国とは国語」5

    著者 藤原正彦
    出版 新潮社

    p65より引用
    “大学の本領は直接の応用を視野にいれない基礎研究にあり、
    それこそが国家の科学技術力の基盤なのである。”

     数学者である著者による、国語の大切さをとくとくと説いた一
    冊。
     国語教育についてから著者の生地を訪ねる旅についてまで、真
    ん中に愉しいエッセイを挟んで書かれています。

     上記の引用は、大学の産学協同の進み過ぎに関する一文。
    目先の利益ばかり考える学問では、段々先細りしていくというこ
    とでしょうか。大学生活4年の内、2年近くを就職活動に使うよう
    な今の状況にいる人達は、この事についてどう思われているので
    しょうか?
    職につかなければ、食べていけないというのが現実なので、難し
    い問題だとは思いますが。
     非常に堅い内容の間に、エッセイが挟まれているので、丁度い
    い息抜きになっています。

    ーーーーー

  • 小学生の国語の授業を削って英語を教えるなんてバカバカしいと感じていたが、数学者の立場で驚くほどきっぱりと国語の重要性を唱える。お見事。
    解説の最初の文「ああ、この人に、文部科学大臣になってもらいたい。」(齋藤孝明治大学教授)に全く同感だ。
    一に国語、二に国語、三四がなくて、五に算数。これまたお見事。数学者がいうからますます説得力がある。
    日本では昔から識字率が世界トップレベルだったという話をよく聞く。読み書きそろばんという方針は決して間違っていないんだろう。

    なんでこんな単純なことが、文部科学省だか教育学者だかのいわゆる有識者といわれる人たちにはわからないんだろうか。
    ほんとうに外国人とのコミュニケーションで苦労した経験があるんだろうか。
    言葉は使いこなせれば便利には違いないが、自分自身の考えをしっかり持つこと、相手の考えや主張を受け止めて理解できることが大切でしょ。
    小学生には英語より先に絶対国語だ。
    英語は大学か就職したあとでも十分。

  • 日本人はこうあるべし、といつもズバっと言ってくれて気持ちいい。藤原節炸裂。

著者プロフィール

お茶の水女子大学名誉教授

「2020年 『本屋を守れ 読書とは国力』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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