かなしぃ。 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101251424

感想・レビュー・書評

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  • 日常の些細な心の動きを静かな文章で描き出す蓮見圭一の作品を読むとき、私の頭の中には何故か、ふかふかの黒い土に優しい雨が静かに降りかかるイメージが浮かぶ。作者の文章は慈雨のように心にしっとりと沁みて心地いいのだ。

    「かなしぃ。」「詩人の恋」「スクリーンセーバー」「セイロンの三人の王子」「1989、東京」「そらいろのクレヨン」の6作からなる短編は、技巧に走らず、奇を衒わず、抑制の効いた文章で語られて心地いい。時々、はっとするような文章に出会えるのがなにより嬉しい。

    「スクリーンセーバー」ではさめた大人の顔をした少年が、「そらいろのクレヨン」では自分をちっぽけだと言った娘が、病で亡くなっていく場面が無性に哀しくて泣けた。

    児玉清さんの解説が読める文庫は、お得感あり。

  • この本を読んでいたからではないかもしれないが、最近はすべての人を友達だと思うことにするようにしている。もちろん、けして馴れ馴れしくなるわけではなく、友達のようなつもりですれ違う人、触れ合う人と接するのだ。
    だから友達が困っていると助けたくなる。友達が楽しそうだとうれしい。
    友達が悲しそうだったり、具合が悪そうだと心配になる。

    世界は優しいけど、平等ではない。
    無駄に過ごしている今の時間は、昨日死んだ人が行きたかった時間かもしれない。
    著者が淡々と確信的に展開させる起伏に飛ぶ誰もの普通の人生が、自分と照らし合わさざるを得なくなり、”今”にが愛おしくなる。
    それが鼻につく人もいることもなんとなくわかる。

  • 友達の結婚式のために故郷に戻った僕は
    沖縄からの転校生、加代子のことを思い出す。
    彼女が小料理屋を営むことを聞き早速父を伴って会いに行った。
    表題作「かなしぃ。」他全6編。

    静かな語り口です。いい雰囲気が漂っていると思う。
    特別珍しいことが起こっているわけじゃないのに心に何かを残す。
    でもそれを説明するだけの言葉がわかりません。
    好きな作品はスクリーンセーバーです。

    「病院での検査待ちの時間が退屈だと聞いて、奥さんが「コラッツの問題」の話をした。ある整数を考え、偶数なら2で割り、奇数なら3倍して1を足す。これを繰り返していくと、どんな数も最終的に4→2→1となるのだという。」
    バイト中暇なとき試してみてます。

  • 一言で言えば大人の情感を描いた短編集。



    生きるということは何かを失い続けるということでもある。そんな切なさを基調として、その人生の中で、切なさを自覚した大人同士がしばし寄り添う。ここで描かれるのはそんな静かな物語たち。



    あと、この小説中では大人同士の友情の場をお酒が仲介する場面が多くて、あまりお酒が飲めない身としてはしみじみ羨ましく思った。

  • 若さを手放しつつある青年たちの心情を描く、みたいな短編集なんだけど、読んでると、作中年齢の30過ぎよりかはもっと年寄りっぽいよ。今時の30は青春真っ盛りなんじゃないすか。

  • 初めての作家。短編6編が収録されている。一番好きだなと思ったのは「スクリーン・セイバー」スクリーン・セイバーに現れる名言や意味のない言葉。それらを見ながらふとしたことからであった塾講師やその塾に通っていた少年を思い出す。その少年の結末は以外で少し悲しいが、「あなたが無駄に生きた今日は、昨日死んだ人が痛切に生きたかった明日である。」という言葉が響く作品。「そらいろのクレヨン」も子供が病気で死ぬ。人生を方向転換しようとした矢先にできた子供は思っていた以上に多くの感情を彼に与えた。愛しく思うものに先立たれた彼の悲しみが伝わる。「詩人の恋」、知的な若い編集者が年の離れた妻の恋の話なのか何の話なのか私にはわからず消化不良な感じなのだが、雰囲気のある作品。「1989、東京」二人の女の恋の話。とても激しい恋なのに何故か静かに感じるのは文章のせいなのだろうか。「かなしぃ」友人の結婚式に帰省した男が同級生たちと会う話。「セイロンの3人の王子」急に異動になった男は友人の同期入社の男の最近の様子を調べる。どの話の中にもいろんな著作の中の名言が書かれていたり引用されていたりする。それが妙に物語にしっくりしている。

  • 単行本時のタイトルは「そらいろのクレヨン」。書き下ろし短編「スクリーンセーバー」を加えて全部で6編の小説から成り立っている一冊。評判の高い「水曜の朝、午前三時」は読んでいません。「詩人の恋」から、気になった文を紹介します。「子供たちの友情はどこか切ない。待ったり、待たせたり。謝ったり、許したり。どことなく大人の恋愛に通じるところがある。いや、むしろ恋愛をしている大人が子供たちに似るのかもしれない」(64ページ)一番好きなのは「スクリーンセーバー」でした。

著者プロフィール

1959年、秋田市生まれ。立教大学卒業後、新聞社、出版社に勤務。2001年に刊行したデビュー作『水曜の朝、午前三時』が各紙誌で絶賛されベストセラーになる。他の著書に『八月十五日の夜会』などがある。

「2023年 『美しき人生』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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