流跡 (新潮文庫)

  • 120人登録
  • 3.31評価
    • (4)
    • (12)
    • (10)
    • (2)
    • (4)
  • 14レビュー
著者 : 朝吹真理子
  • 新潮社 (2014年5月28日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (141ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101251820

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
フランツ・カフカ
三浦 しをん
三島 由紀夫
いとう せいこう
有効な右矢印 無効な右矢印

流跡 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • 好きな人と、そうでない人に分かれる作品だと思う。

    『きことわ』を読んだ時の、不思議な時間感覚が忘れられなくて、ずっと文庫化することを待っていた作品なので、嬉しい。

    書くこと、読むこと、から飛び出した何かがふらりふらりと、様々なカタチを取りながら彷徨い流れてゆく。
    川と海は違う。
    「行く河の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず。」読みながら、『方丈記』冒頭を思い出した。

    百年、の好きな人だ。

    「潜音」ひそみね、という語にどきどきする。

    そして、カタチはまた書くこと、読むことに収束してゆく。うーむ、面白い。

    言葉が恭しく祭り上げられて、顧みられないまま進んでいく小説は嫌いだ。
    けれど、形を為しては崩れてゆく世界を追うことは不思議なほど、不快でなかった。

    また、堀江敏幸との対談!
    ここで堀江敏幸が出てくることが、私にはニヤニヤまさに生唾ものであった。

  • <流跡>
    した‐え・む ・・ゑむ【下笑・下咲】
    〘自マ四〙(「した」は見えないところ、心中の意)心の中でうれしく思う。胸中でにこにこする。〔真福寺本遊仙窟文和二年点(1353)〕(精選版日本国語大辞典より)

    現代の小説を読んでいたのに、久々に電子辞書を引っ張り出した。大辞林や広辞苑はおろか、日本国語大辞典でも載っていないような単語まであって驚く。
    古い言葉があると意味が分からなくてテンポよく読みにくくなることもあるけど、現代語はあまりにも解釈の幅が広いのに対し、ある程度辞書を信用してしまえば良い的なところもあるし、上に挙げたような単語は、その文脈で適切に使われていると、カチッとはまっている感じがして心地よい。
    この小説の場合、古語も「なう」みたいなツイッター語(?)も含まれており、チュツオーラ『やし酒飲み』で意図されているであろう(日本人から見て)いびつな感じとは違うんだけど、何か読後感の中に創が残される感じがする。

    物語性は別段なくて、始まりも終わりもない、それでいて刹那的な寂しさ。主人公が誰かも登場人物が何者かも曖昧。冒頭と結末の一致には、夢野久作『ドグラ・マグラ』の「ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。 」を思い出した。
    何十冊何百冊の本を読んでも、この本の冒頭にあるように、すべては無為に流れて行ってしまうような感覚がある。もう小説とか読まなくてよくね?的な。
    しかしその一方で、この小説からは、何かが心に創を残していくという事実も伝わってくる。どっちやねんと思う。

    どちらにせよ、自分が立っている足場をぐらぐら揺るがすという意味で言えば、きっと良い小説なのだろう。つまらないんだけど、面白い小説。どっちやねんと思う。


    <家路>
    「流跡」とは異なり、一応ストーリーがあるので読みやすく、ちゃんとオチまで付いている。小説っぽいのはこちらだし、人に薦めるならこちらだろう(多分両方とも薦めない)。

    家に帰ろうとしていた普通の日本人サラリーマンが、帰り道を間違えたのか気が付くとイタリアの湖の傍にいる。

    主人公の回想が入り、回想の中の主人公が回想を始める。香水の匂いで前の女を思い出す。紅茶に浸したマドレーヌ食べて過去のこと思い出す的な。これはひたすら回想が進む地獄の読書体験が始まるのではと思った矢先に、今度は自分の記憶の不確実性を突き付けられる。そして時空は歪んでいき、夏、夏、夏、夏、夏。そしてようやっと回想が終わったらと思いきや。

    という話。怖かった。

  • 一語提示されるたび、イメージがまたたき、風景ががらりと変わっていく。単語レベルでの力強さが大きな文脈を舵取っていくような小説であり、読み応えはある。

  • 再読。水水しく、清艶にして典雅な言葉の連なりを目と口と耳で味わう甘美なひととき。 呼び起こされたむかしの言葉はいまの言葉と手を取りあい、かろやかになめらかに時間の膜をくぐり抜けては遊びに興じる。いくたびも形を失くし、形を変え、流れ落ちていくが、それは水平方向の落下であり浮上をともなうが故に、愉悦と快楽をもたらす。
    水が水に流れていくのならばまた言葉も言葉に流れていくのだろう。私は流れた跡に目を凝らす。ぼんやりとした輪郭さえとらえきれないうちに消えていくが、私の胸には生まれたばかりの唇の痕跡が金魚のように泳ぎ回っている。
    《2015.11.10》

  • 「家路」はなんとか読めたが、「流跡」は。
    解説も、意味不明。

  • 難解。読めない本に初めて出会った。これを理解できるようになるにはもっと読書量を増やさないといけないなと思った。

  • 古く、新しく、美しい文体の捉えどころのない物語。散文が偶然につながっていったような。自分にはちょっと難しすぎたかも。

  • 異世界。きことわとはまた違う雰囲気だが、夢の中にいるような感覚は、共通していると感じた。文語と口語が混ざっていて、使っている言葉の種類が多い。存在するものもしないものもすらすら言語化されていて、言葉ってこんなに自在なのかと驚いた。

  • 純文難しいな。明確な筋や結末がなく作者の思考が連綿と連なっていく。流れるのは言葉か感情か思考か、水か音か色か景色なのか、夢か現か、その痕跡を見ている。さらさらと流れているようだけど強い意識を感じる。

  • 少しも読み進めることのできない本を手にした、正体の分からない語り手の独白から始まる。
    意識に浮かぶとりとめもない言葉をただつらつらと並べたようなそれに、『徒然草』の序文のフレーズを思い浮かべた。その意味する通りに、「なんだかおかしな気持ちになってくる」ような、不思議な小説だった。
    流れるのは、水か、意識か、時か、言葉か。

    舟を運ぶ川の流れ、傘を伝う雨の流れ、常に傍には水が流れていた。
    前半の「もののけになるか、おにになるか」、「ひとになるのでなかった」というあたりは、もしかしたら人が人になる前、胎内で、得体の知れない塊(または魂)として漂っている時のことを言っているのではないだろうか。
    それがいつしか舟頭となり、川を下っていく。この「川」は、もしかすると「三途の川」なのかもしれない。

    羊水の海に浮かんでいた魂が、やがて三途の川の岸辺に辿り着く。

    流れているのは、そうした人の「魂」そのものなのかもしれない。

  • 表題作は、なんとも説明しがたい内容。くっきりと形のさだまったキャラクターや筋書きは存在せず、もやもやした混沌の中から生まれたなんだかよくわからない多分「ひとでないもの」が、ヒトとひとでないものが共存する世界で、そのうちヒトになったりもしつつ、どんどん形を変えて流転してゆく。そこに印刷されている文字がやがて溶けて流れだしてどこかに行ってしまいそうな、不思議な印象の読後感で、難解といえば難解、しかし好きか嫌いかというと、これは「好き」でした。

    同時収録の「家路」も不条理系だけれど「流跡」よりは一見わかりやすい。平凡なサラリーマンの男が帰宅しようとタクシーに乗ったはずなのに、いつのまにかイタリアと思しき海岸で寛いでいる。家に帰ろうと妻に電話するがその電話に出たのは・・・。今生きている現実が本当に現実なのか、誰かの見ている夢ではないのか、夢をみている自分と夢にみられている自分、さまざまな解釈はできるけれど、ありがちな夢オチともまた一味違って独特。

    巻末には堀江敏幸との対談も収録されています。

全14件中 1 - 14件を表示

流跡 (新潮文庫)に関連する談話室の質問

流跡 (新潮文庫)を本棚に「いま読んでる」で登録しているひと

流跡 (新潮文庫)を本棚に「読み終わった」で登録しているひと

流跡 (新潮文庫)の作品紹介

ヒト、密書、スーツケース。夜な夜な「よからぬもの」を運ぶ舟頭。雨上がりの水たまりに煙突を視る会社員。漂着した島で船に乗り遅れる女。私はどうしてここにいるのか。女房を殺したような、子どもの発話が遅れているような、金魚が街に溢れている、ような――。流転する言葉をありのままに描き、読み手へと差し出した鮮烈のデビュー作。芥川賞受賞前夜の短篇「家路」を同時収録。

流跡 (新潮文庫)の単行本

ツイートする