裏庭 (新潮文庫)

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著者 : 梨木香歩
  • 新潮社 (2000年12月26日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (412ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101253312

裏庭 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 読み始めて5ページで「この話好きかも!」と思った
    。一人の女の子が古鏡から裏庭に迷い混むお話。『鏡の国のアリス』のような『オズの魔法使い』のようなファンタジー。梨木さんの世界観は好きだ。
    人は心の中に裏庭を持っている。裏庭を育てるにはエネルギーが必要で、時には傷付く事もあるけれど、それを恐れてはいけない。支配されてはいけない。大事に育んでいく。裏庭って結局、自分自身(人生)なのかなと思った。

  • 私にとって世界観に違和がない作品。のみならず変化や導きを感じる作品。誘導される際の抵抗感は全然ない。きれいな丸みを帯びた、すべすべした鉱物を一個ずつ世界に配置したら、こんな物語になる気がする。それを一個ずつ指先で押さえるような嬉しさ。ときに拾い上げて掌に収めるときの安堵感。いつの間にか、私にとっての地図を広げている。

    石の持つ、硬さ。清潔さ。冷ややかさ。沈黙。

    それなのに、描写は木々や花々を追う。土くれ。そして風の感触。水辺も。ときに火が上がる。

    そのときに、その炎がどれほどのものか、水の決壊がどれほどのものかと、なぜかその感情が真に伝わってくるようだ。

    石、という自分の本質を横に一度置いてでも、この世界の鮮やかさを語りたいと願うその切実さに息を飲む。それほどの献身に胸が震える。母だ。物語を産む母なのだと思う。この子のためなら、と宝を差し出す母。

    母は何を差し出すか。梨木香歩が、母が、母を語る。祖母から母へ。その母から娘へ。贈り物の内容を語る。

    贈り物は「私は誰?」という問への「教えよう、君に」という応答だった。物語のはそもそもの始まりは、主人公である孫娘に祖母が授けた名前。照美。「Tell me」なのだ。

    祖母が最後に渡そうとする物は、磨き上げられた鉱物。たくさんの研磨を、傷を受け入れて輝く魂。「こんなにきれいに仕上げてくれた」と祖母が主人公に労いのことばをかける。
    美しい抽象化を書き綴る、その淡々とした調子に不思議なほど冷静な私がいた。でも、やっぱり「これはママへ」は衝撃だった。がつんと後頭部を殴られたような驚きだった。梨木香歩はすごい。絶対ニヒリズムに屈しない。素朴な感情の愛しさをこんな風に書いてしまうのか。すべてを兼ね備えた直球。ここでも鮮やかなコントラストが際立っている。

    確かに、戦争を始めようと決めた人間は、宣戦布告の当事者は、民間人にはいないだろう。でも、名指しはされないはずなのに、当事者だって「自分じゃない」と言いかねないというのに、戦争は私たちの中でこそ起きた。起きている。戦争で犠牲になった祖母とレベッカの女性性は浄化の道を歩み始めた。両国の女性性が共に、その道を。

    舞台となる町を覆い尽くした大空襲の炎の因縁さえ、レベッカの裏庭で、クオーツアスの炎が制していく。

    子孫は、生命の更新として、生まれたとき何もない地平に立たされるようだけれど、やっぱり幽霊たちは期待している。願いを込めている。そしてそのために生まれたいと思う子供たちもいる。照美は裏庭から帰ってから悟る。誰の役に立たなくても、もういいんだ、と。だけど、それは照美が課題をこなしたからだ。

    誰かを助けるために得た、銀色の両腕。彼女は裏庭でそれを見た。

    その課題は、誰の役にも、の誰、が誰なのか。他人と自分の境界線を見極める力を得ること。そのあるようで、ないような境目、を知ること。

  • こどもでも読める平易な文章で、こんなにも深い世界を描いてしまう梨木香歩さんに驚いた1冊。

    双子の姉として生まれた照美に象徴されるように、表と裏、現実と異世界、傷つけられる私と傷つける私、というふうに、「ふたつの相反するもの」がモチーフになっていて、ストーリーに巻き込まれながらも、作中の「ふたつのもの探し」に夢中になってしまった。。。

    この本をきっかけに、本棚に一気に梨木さん作品がふえたという、大切な1冊です。

  • もう随分昔に読んだ本で、細かいことは忘れているのだけれど(汗)
    英国ファンタジーにハマっていた頃に「日本にこんなファンタジーが書ける人がいるなんて!」と驚いた記憶だけがやたらと残っている。
    もうそれだけでワタシ的には☆5つ。

  • 伊集院静さんの描く「生と死」は、「からっと無常観、さらっと諸行無常」って感じがするんだけど、
    梨木香歩さんの描く「生と死」は、「輪廻転生、現世と来世、魂の救済」ってところを強く感じました。
    静謐な世界と、持続低音の響く世界の違いというか、「ぴーん」と「ぴちょん」の違いというか。
    (これでは余計わからなくなる)

    3代にわたって祖母、母、子どもと引き継がれる「業」が、ねっちょり感をだしています。
    あちら側とこちら側を行ったりきたりしながら、心の中にあるどろどろしたものを浄化していきます。
    そういうところを深く読んでしまうと、ちょっと苦いかも。

    冒険小説としての読み方もできます。
    謎解きの要素もたくさんあって、面白いです。
    スナッフの正体はすぐにわかりましたが、おかっぱの少女の正体にはかなり驚きました。
    おかっぱの少女の正体を知ると、話し全体がさらに光り輝きます。

    2013/03/31

  • 大好きなお話。
    たぶん、ミヒャエル・エンデを意識して書いた話じゃないかな、と思います。

    テーマがあって、でもそれを言葉で伝えないで、
    読者に考えさせる物語。

    初めて読んだときと2回目読んだとき、3回目と考えが変わってきて、
    それも楽しいです。
    読んだ時の気分によっても変わってくるし。

    1回読んで満足するのにはもったいないお話です!!

    私は、人生で出会えてよかった物語を何か挙げろと言われたら、
    真っ先にこのお話を挙げると思います。

  • キャロルもボームも、たぶんエンデですら、ここまで現実世界とファンタジー世界を並行して見せ、なおかつ現実での死者がファンタジーでは誰、と厳密にイコール関係を結んだりはしなかった。
    そういう意味でこれは童話ではなく、童話の形式を借りながら、「喪の仕事」を全うする現代小説、にアップデートされている。
    ただし古き良き児童文学を好む人には、あまりにも図式的な寓話、言葉遊びなどの不足、いわば息苦しさが物足りないのではないかと忖度したりもした。
    個人的には童話ではなく小説としてロジカルに読んだ。

    各個人の不思議な体験が表明され、それがひとつの裏庭に端を発し、世代を経て裏庭も更新されていくという推移が描かれるが、
    通底するのは、人の死をうまく悲しめない状態だとわかってくる。すなわち傷。
    これはファンタジックな舞台を使わなければ、たぶん何年何十年かかるし、ちっとも劇的でなく、
    忘れたように受け容れているのか忘れているのか見ない振りをしているのか、極めて不分明な状態になる。
    まあ現実における喪の仕事とはそういうものだ。

    ここにおいて、大人が見て見ぬふりをした傷を、最も年若い者(照美)が自分の傷に向き合うことで「他者の傷への向き合い」を促す。
    それが創作でありファンタジーであり小説の効果だ。
    親子という負の遺産・元凶を断ち切る旅は、創作物でしか成し遂げられまい。

    個人的に最も感動したのが、失踪した照美を探してバーンズ屋敷に入った照美の母幸江が鏡を見て、鏡像に自分の母の姿と自分の娘の姿を見出す場面。

     第1世代。バーンズ夫妻。水島先生。
     第2世代。レベッカ。レイチェル。丈次。夏夜。君島妙子。マーチン。マーサ。
     第3世代。幸江。桐原徹夫。
     第4世代。照美。純。綾子。

    と整理されるが、母娘二代ではなく三代を網羅しなければ、ここまで重厚な感動は得られなかっただろう。
    双子の弟を死なせたという特殊な設定があるが、なぜ死んだのは自分ではないのか、死んだ人に対して生きている自分は何なのか、生きている自分に罪はあるのか、と読み替えていくことで特殊な経験をしていない自分に置き換えることができる。
    きっと他者の死に向き合うという生の根源的な問いがあるのだ。

    それにしても「双子であることが当然の世界」という設定は、彼女の心をどんなにちくちく痛めつけたことだろうか。
    弟と一緒に私がいる、現実の状態ではなく鏡を経ることで、すでに死んだ弟としての私がいる、という状態で、冒険をしなければならない。
    こんなアクロバティックな経験をしたあとの少女が、「自分を取り返」さなくて、何が自己実現といえるのだろう。よかったね。

    父母が死児を思い涙を流すことで裏庭の世界に水が流れるという終盤は、巧み。
    というより、少女ひとりの内面が人類全体の内面と通じているというユング式の世界観は、憎い。

    少女は照美の冒険を、大人は照美の母の生活を、さらに年を重ねればすべてを包括して、読める。
    きっと毎回違った味わい方ができる、とってもおいしい小説。

  • 昔は英国人一家の別荘だったものの、今では荒れ放題の洋館。そこは近所の子供たちにとって絶好の遊び場となっていた。その庭を久しく避けていた少女・照美はある出来事がきっかけに洋館の秘密の「裏庭」へと入りこみ、とある声を聞くが、その声を境に照美は不思議な世界へと迷い込んでしまう。元の世界に戻るために裏の世界で出会った人々と者たちと「竜の骨」を探す旅へと出る。

    テーマは「傷」。裏世界の住人たちは元いた世界の人物たちとリンクし、それぞれが傷を抱えている。旅の道中で各々は試練や葛藤を経て自身の傷と向き合っていく。「傷」は深ければ深いほど時間を掛けて自分自身で向き合うもの、そして自分で解決するもの。それは決して一人で抱え込むという意味でもなく、周囲に素直に吐き出すことで、自身も周囲も救われることがある。

  • 清々しいと同時に苦い物語だった。

    死をめぐって話しが動く。家族どうしの困難の克服が示される。いやこれは陳腐な言い方だ。ある抽象概念を振りかざして、分かった気になってはいけないのだ。

    照美の挑戦に敬意を表したい。創作にも胆力がずいぶんと求められただろう。

    解説に心理療法家の河合隼雄さんを持ってきたのは、至極適切。物語と心理療法は深いつながりを持つことを改めて認識した。

  • ことばつかいの気持ちよさにやられます。カタカナのうまさ。
    『テルミイ』
    『スナッフ』
    『カラダ・メナーンダ』
    『ソレデ・モイーンダ』
    『ハシヒメ』
    『コロウプ』
    『テナシ』
    『タム・リン』
    『クォーツアス』
    まだまださまざま。
    読んでいるだけでふかふかした羽毛みたいな、猫が喉をくすぐられてるような、感覚。梨木さんのどれを読んでもこの感覚はこれでしか感じない。というか何を読んでもこの感覚はない。最高級の文章のご馳走。
    どこまでも少女が自己を掘り下げる作風はできればもっと若いときに読みたかった…子供としての年齢で読んでどうなのか、読み切れるのか、むずかしいですが。せめて10代のうち(できれば小学生…照美とおなじ年頃)に読みたかった本です。
    不満とか不安とか達成感とか罪悪感とか子供として親への不審不可思議、心配をかけたくない思い。それとは別に心配をして欲しい欲求。甘え。あたりまえにあるべきもの。
    『フー・アー・ユー』
    に象徴されるいりぐち。
    はいり込んだ者への厳しさとそれでもたどりついたものへの救い。
    あるべく世界はあり、だから生も死も認められるものになったのだという。永遠もあり、けれどない。それでも銀の手は居る。庭に関わったひとたちはそこに居る。
    文庫の解説が河合隼雄さんでそれがまたものすごく読み応えあります。
    いまでも梨木さんのイチオシ代表作だと思っています。

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