- Amazon.co.jp ・本 (412ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101253312
感想・レビュー・書評
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久々にファンタジーを読んだので、もう読んでるだけでとても楽しかったのだけれど、そういえば日本人作家の長編ファンタジーは初めて手にしたのかもしれないと思い、その不思議な世界においてこそ浮き彫りになる現実感に納得したような気持ちになった。ファンタジーというカテゴリに関わらず、推理小説よりも"現実"を読んでいるようで、ワクワクドキドキというよりも、目が醒めるような冴え冴えとした心持ちで読み進めることになったが、ファンタジー特有の、理解を通り越して心で納得する快感は全編に通じていたように思う。とても栄養価の高い物語。
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昔は英国人一家の別荘だったものの、今では荒れ放題の洋館。そこは近所の子供たちにとって絶好の遊び場となっていた。その庭を久しく避けていた少女・照美はある出来事がきっかけに洋館の秘密の「裏庭」へと入りこみ、とある声を聞くが、その声を境に照美は不思議な世界へと迷い込んでしまう。元の世界に戻るために裏の世界で出会った人々と者たちと「竜の骨」を探す旅へと出る。
テーマは「傷」。裏世界の住人たちは元いた世界の人物たちとリンクし、それぞれが傷を抱えている。旅の道中で各々は試練や葛藤を経て自身の傷と向き合っていく。「傷」は深ければ深いほど時間を掛けて自分自身で向き合うもの、そして自分で解決するもの。それは決して一人で抱え込むという意味でもなく、周囲に素直に吐き出すことで、自身も周囲も救われることがある。 -
2年ぶりくらいで再読。
児童文学というけれど、50代の私が読んだら、積み重ねてきた年月を思いつつ、考えさせられる事がたくさん詰まったお話だと思います。
ファンタジーのような展開に目を奪われるけど、その一つ一つに出来事は、自分の心の奥深くを眺めていく作業のよう。
人は誰でも自分だけの裏庭を育て続けている・・・そうだよねえ。
今からでも、美しい裏庭を育てていきたいと思わせてくれます。 -
清々しいと同時に苦い物語だった。
死をめぐって話しが動く。家族どうしの困難の克服が示される。いやこれは陳腐な言い方だ。ある抽象概念を振りかざして、分かった気になってはいけないのだ。
照美の挑戦に敬意を表したい。創作にも胆力がずいぶんと求められただろう。
解説に心理療法家の河合隼雄さんを持ってきたのは、至極適切。物語と心理療法は深いつながりを持つことを改めて認識した。 -
ことばつかいの気持ちよさにやられます。カタカナのうまさ。
『テルミイ』
『スナッフ』
『カラダ・メナーンダ』
『ソレデ・モイーンダ』
『ハシヒメ』
『コロウプ』
『テナシ』
『タム・リン』
『クォーツアス』
まだまださまざま。
読んでいるだけでふかふかした羽毛みたいな、猫が喉をくすぐられてるような、感覚。梨木さんのどれを読んでもこの感覚はこれでしか感じない。というか何を読んでもこの感覚はない。最高級の文章のご馳走。
どこまでも少女が自己を掘り下げる作風はできればもっと若いときに読みたかった…子供としての年齢で読んでどうなのか、読み切れるのか、むずかしいですが。せめて10代のうち(できれば小学生…照美とおなじ年頃)に読みたかった本です。
不満とか不安とか達成感とか罪悪感とか子供として親への不審不可思議、心配をかけたくない思い。それとは別に心配をして欲しい欲求。甘え。あたりまえにあるべきもの。
『フー・アー・ユー』
に象徴されるいりぐち。
はいり込んだ者への厳しさとそれでもたどりついたものへの救い。
あるべく世界はあり、だから生も死も認められるものになったのだという。永遠もあり、けれどない。それでも銀の手は居る。庭に関わったひとたちはそこに居る。
文庫の解説が河合隼雄さんでそれがまたものすごく読み応えあります。
いまでも梨木さんのイチオシ代表作だと思っています。
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2002年1月22日読了。以下、過去の日記から抜粋。
この『裏庭』という作品は、実はずっと読んでみたかった本だったのだ。
梨木香歩という名前を知らない頃から、本屋の片隅でひっそりと。
そして、今読み終わってみて、「ほぉっ」と溜息を吐くばかりである。
私はかつてバーネットの『秘密の花園』について書いたとき、
すべての少女は心の中に「庭」を持っている、と述べた。
この作品も、少女の内なる庭について描いているのだが、
バーネットの庭と比較すると、現代に生きる少女のかかえている
課題の深刻さが強く感じられる。(河合隼雄「解説」より)
さすが河合先生、上手いことをおっしゃる。
この小説はファンタジーでありながら、多感な少女の心の内を反映している。
現在と仮想世界の二重構造であるから、純粋なファンタジー小説よりも
ずっと生々しく、痛々しく、且つ懐かしく、そして少しだけ切ない。
「なりたいのは、私しかいない」
自分を望みどおりの姿に変えてくれる服を着ていながら、少女は言った。
彼女は自分は他人のいろいろな部分の寄せ集めのようだと思って生きてきた。
顔のパーツは親戚の一部ずつに似ていて、衣服は従兄弟のお下がりばかり。
そんな彼女が長い冒険の果てに、やっと自分自身であることを求めた。
それを自我の芽生えとでも私達は言うのだろうか。
私達はいつだって自分というものを探り当てるようにして、大人になる。
「真実なんて・・・・・・。真実なんて・・・・・・。一つじゃないんだ。
幾つも幾つもあるんだ。幾つも。幾つも。幾つも。
そんなもの、そんなもの、つきあってなんかいられない」
少女は叫ぶ、現実に向かって・・・私に向かって。
私は彼女の言の中に真実を見つけ、「ほぉっ」と溜息を洩らした。 -
死ぬ事。家族が死ぬ事、感情が死ぬ事。それを、どうやって受け入れて、どうやって生きて行くのか。他人の様子を伺っている少女の照美の感情と、成長と共に、両親や周りの人たちの様々な関係性にいろんな形が与えられる。裏庭での見事なファンタジー世界観の広がりと、細やかな心理描写で、少女の心の内を描く大作でした。
中学生くらいの頃に、同著者の『この庭に 黒いミンクの話』を読んで、実は『裏庭』の続きだったらしく読もう読もうと思っててやっと読んだ……んだけど、読んでから調べたら別の作品『ミケルの庭』の続きだったらしい。庭違い……。 -
学生時代に挫折したのですが社会人になり完読できました。
学生の頃とは違い、テルミィを我が子のように見守りながら読みました。
ショッキングなシーンもありましたが、それ以降のシーンで救いもあり、最後には一緒に冒険をしたかのような読後感がありました。
梨木香歩さんの他の作品と少しテイストが違い普段読みなれないブラックファンタジー?な世界観なのと、時代や世界、語り部が交差するので少し読みづらかったです。