沼地のある森を抜けて (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (523ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101253398

作品紹介・あらすじ

はじまりは、「ぬかどこ」だった。先祖伝来のぬか床が、うめくのだ-「ぬかどこ」に由来する奇妙な出来事に導かれ、久美は故郷の島、森の沼地へと進み入る。そこで何が起きたのか。濃厚な緑の気息。厚い苔に覆われ寄生植物が繁茂する生命みなぎる森。久美が感じた命の秘密とは。光のように生まれ来る、すべての命に仕込まれた可能性への夢。連綿と続く命の繋がりを伝える長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 梨木さんの世界。

    はじまりは「ぬかどこ」。
    世界に一つしかない細菌叢の世界。
    しかも時間とともに変化し続ける。

    一つの細胞から細胞膜、細胞壁、細菌、麹菌、動物、人。
    脈々と続く時間の流れ。
    境界のない世界。
    とても大きな世界感。

    人と人の結合がこのように語られるのか と驚き。
    「かつて風に靡く白銀の草原があったシマの話」もすごい伏線だと思う。

    子どもの頃は100年なんて想像もできなかったけれど、梨木さんの世界に触れることで、今は1000年単位でも理解が出来るような気がします。

    この本も大切な一冊になりました。
    老若男女におすすめです。

    で、読み終わってすぐですが、もう一度読み返しています。。

  • 親族から相続したのはぬか床。そのぬか床から現れるものは。久美と風野さんはぬか床の秘密を求めて「島」へと旅する。

    ずっと以前に読んでいたのだけど、何か消化不良で心にひっかかっていた本。再読です。
    梨木さんは、今のモノ・コトについて、その記録のページを一枚一枚めくるように思索を掘り下げていくのが得意な作家さんで、けっこうなナチュラリストでもあると思います。この本ではその科学的知識と命の進化から、生命とは何か、生命はどこから来るのか、という根源的な問いを深める作品でした。
    確か前に読んだ時は「結局そこに落ち着くのか」みたいな、ちょっとしたガッカリ感を感じたのではなかったかと思いますが、まあ今回も、そこまで広げておきながら結論はそこかあ。という感想にはなりました。ただ、最後の誕生を言祝ぐ詩にはすごくグッときたのですが、これは多分このストーリー(落とし所)だったからこその効果だったんだろうなあ、と感じました。
    しかし改めて読み返して感じたこととしては、梨木さんがすごく真剣に命はどこから来るのか、どこへいくのかについて向き合いながら書いたんだな、ということでした。共生説や受精になぞらえたサブストーリーなんかをみても、その思索のあしあとは迫力がありました。
    同じく生命のゆくえについては「ピスタチオ」でもテーマにしていたと思うので、こちらも再読してみようと思いました。

  • 1月20日の大寒は全国ぬかづけのもと工業会が制定したぬか床の日。古来より大寒の日のあたりでぬか床をつくると良いぬか床ができると言われることに由来する。大寒は2017年から2052年までは1月20日である。 - 日本食糧新聞電子版
    https://news.nissyoku.co.jp/today/620738

    『沼地のある森を抜けて』(新潮社) - 著者:梨木 香歩 - 豊崎 由美による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS(2017/08/31)
    https://allreviews.jp/review/985

    梨木香歩 『沼地のある森を抜けて』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/125339/

  • 先祖代々伝わる"ぬか床"を受け継いだ久美は、毎日朝晩ひたすらに"ぬか"を掻き回す。
    ある日、いつものように"ぬか"を掻き回していた久美は、正体不明の卵を"ぬか"の中で見つけてしまう…。

    まさか"ぬか床"の話から壮大な生物誕生の神秘へ発展するとは思わなかった。
    確かに"ぬか床"は生きている、とよく聞く。
    温度や湿度、掻き回す人によって全く味が変わるらしい。
    だから同じ"ぬか床"は二つとない。
    代々の掻き回す人の手を通して、一族の歴史も染み込み醸成されていくのだろう。
    そう思うとぬか漬けを軽々しく食べれなくなりそうだ。

    "ぬか床"を譲り受けたばっかりに、掻き回す手を止められなくなった久美は、"ぬか床"の呪縛から逃れようと自身のルーツを辿る旅に出る。

    世界は最初、たった一つの細胞から始まった。
    その一つから無数の生物の系統へと拡がり、やがて次の新しい命へと希望が解き放たれる。
    「生」の神秘と受け継がれる「命」について、静かに思いを寄せる物語だった。

  • うむむむむ、難解・・いやいや、私の読解力や知識が不足しているだけ・・・

    初めの、フリオの話は面白くて一気に読んでしまった。
    梨木さんってこんな物語も書くんだ?と思いつつ、
    久美の自問自答がちょっとおもしろいところもあって、
    クスッと笑ってしまった。
    いやー面白い、と思いながら読み進めると、一気にトーンというか景色というか、物語の色みたいなものが変わる。

    カッサンドラの話は、口だけの三味線女がでてくるなんてホラーでしかないんだけど、叔母だけでなく両親の死までさかのぼって真相を、となると、もはやミステリーのようにもなってきて、心がかき乱される。後々わかったけれど、カッサンドラが久美にとってジョーカーで、ジョーカーを消したことで、ぬか床やその元の沼に変化が起きたってわけなのだな(と、書いておきながら、本当にその解釈でよいか、自信がない)。

    カッサンドラがそんな感じだったのに、次のシマの話。
    え?村上春樹?違うな。カズオ・イシグロ?(←ひと作品しか読んでないのに)小川洋子?と読書家の皆様から激怒されそうな的外れなとまどいを覚えつつも、そうか梨木さんには「裏庭」という長編ファンタジーもあったな、と思い出して、少し心が落ち着いた。

    クスッと笑えたフリオの話から、菌類、無性生物と有性生物、全宇宙のはじまり、最初の細胞の孤独、などなど、どんどん壮大な話へと広がっていき、「これは何のこと?何を表現しようとしているの?」と自問することをやめ、そのまま、文章通りに受け取ることにした。

    あらゆる生命体は、意図せずとも「孤独」を感じ、それゆえに繁栄へ向かっていくものであり、その過程で必ずやそのもの自身やまわりの環境に変化というものは訪れ、それはどうにも止めようのないもので、いずれは死、無に終着する。「生」の期間、自分と他者をどう区別しているのか。自分と他者を隔てるものは何なのか。

    などなど考えながら読み進めたけれど、やっぱり深くは理解できなかったと思う。
    ただ、読んで面白かったか、面白くなかったかと言われれば、面白かった。

    いつも思うけれど、梨木さんの頭の中の思考はどうなっているのだろう。

  • 亡くなった叔母のマンションと母方先祖から代々伝わる家宝の「ぬか床」を引き継いだ久美。両親は彼女が学生の頃に不審な事故死を遂げており、彼女自身の幼少時の記憶も曖昧なところがある。やがてぬか床に発生した卵から謎の少年が現れ・・・。

    序盤は単純に「不思議なぬか床」にまつわるファンタジーっぽい展開だったのだけど、どんどん壮大な話になっていってびっくり。自分探しなどという軽いノリではなく、生命とは!?みたいなところまでいってしまうのだからこれは大変大きな風呂敷。酵母や菌類・藻類や遺伝子などの話からジェンダー問題まで、有性生殖、自己と他の世界との境界など、全部ひっくるめて根源的なことを問いかける内容。島にある沼でだけ独自の進化をとげた「沼の人」という科学と民俗学の融合みたいな存在を設定したのは面白いと思った。

    専門的でディープな題材を柔らかめにまとめてあって凄いな、と感心する反面、ちょっとエピソードを多方面から盛りすぎかなと思う面もあり、個人的には素直に大感動とはいかなかった。自分は恋愛や結婚には向いていないししたいとも思っていないみたいな感じでクールめの主人公・久美ちゃんと、男性性を嫌悪するあまり、ゲイでも女装化でも性同一性障害でもないのに女性的にふるまっている男性・風野さんというどちらも独特の視点をもった男女キャラを配置しておきながら、着地点が結局男も女も生まれたからには子種残してなんぼですよね遺伝子を未来に引き継ぐのが生物の本能なのでセックスして子供産みましょうそれが使命です!みたいになってしまったのもちょっと残念。

    ところどころで挿入される「僕たち」のいる「シマ」のエピソードは太古の微生物の進化の過程のようでもあるし、アリやミツバチの活動のようでもあるし、藻類と潮の満ち引きの話のようでもあるし、沼の内部で起こっていたことのようでもあるけれど、結局つまり精子である「僕たち」が卵子である「アザラシの娘」と出会って結合すると「シ」にます、なぜなら合体して別のものになるから、それはシ=死であり、シ=子でもある、というように私は解釈しました。つまり有性生殖万歳と。

    ここまでくると、序盤のフリオや光彦はなんだったのかなあと思う。カッサンドラとかかなりいい感じに怖かったのに。風野さんのキャラクターはキライじゃなかったけれど、彼の語るジェンダー論みたいなのが主張が強すぎて、そこだけ「作者の言いたいことをキャラが代弁させられてます」みたいな印象を受けました。その内容の可否は別として、物語の中に突然「思想」をねじこまれるのがとても苦手で、もちろん作品とはすべて作者からのメッセージですと言われればそうなのだろうけど、物語から浮き上がってしまうくらい強い主張が突然挿入されることには違和感を覚えます。

  • 壮大な連綿と続く生命の繋がりを、酵母菌などといった生化学と融合させたお話。
    1つ1つが繰り返しで、けれど1つとて同じものは無く、全てがオリジナル。

    圧巻でした。
    生きること、生きていることに自信を失くしたとき、きっと心の支えとなってくれる。

  • 物語としては、「ぬかどこ」から始まる不思議なお話ではあるのだが、読んでいくうちに、現実の生命現象がすでに不思議な存在であることを再認識することになる。

    生命とは、性とは、個とは。現代の生物学的知識を踏まえた上でも、語り切れるものではない。では、その先、我々はどう考えたらよいのだろうか? その問いに対して、本書は、ひとつの方向性を示してくれるだろう。

  • ☆5じゃ足りないです
    読み終わって世界の見え方が少し変わるような 
    自分の心や体の様子とともに周囲に五感を働かせてみよう
    読後、ぬか床に挑戦したくなる!?

  • 最初はラジオドラマ「フリオのために」を聴いた。
    それが序章に過ぎないとは。

    生命の連続性に立ち会うのは、一度は性を放棄した男女。
    この男女の設定があるからこそ、生命が奇跡のように感じられる。
    ジェンダーを越えてセックスを越えて生命そのものがエロスであるような。
    結局は性交と出産かよ、と興ざめしないように、意外と巧妙な構成。
    (ハコちゃんこと岩下尚史さんを連想)

    ぬか床からクローン? え、ホラー? いやミステリ?
    という序盤からは思いもよらない壮大な終盤。
    これは「開かれている」終結。

    とはいえ、序盤のフリオがまるで自分かと思ってしまっただけに、フリオのその後が気になる。

    「シマ」のパート。
    細菌の存在をファンタジー仕立てにした話(タモツくんやアヤノちゃんの)かと思いきや、
    単性生殖から有性生殖への初めての移行(「シ」=「死」=「雌」=「子」)
    でもある、という難解さ。
    (初めての細胞の孤独、という発想を下地にして再読必要。孤独が源流にあるからこそ、暴力的に生物を増殖のための乗り物に仕立ててしまう。)

    まあ、「村田エフェンディ」や「家守」のほうが好み。

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著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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