大洋に一粒の卵を求めて: 東大研究船、ウナギ一億年の謎に挑む (新潮文庫 つ 33-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101260068

作品紹介・あらすじ

海で孵化して半年、その後姿をかえて川で十年、再び海へ産卵に戻る不思議な生態のウナギ。何千キロも大洋を回遊するウナギ最大の謎はその産卵場だった。海の塩分濃度、海底山脈の位置、月の満ち欠け。様々な仮説の検討の結果、浮かび上がってきたのは西マリアナ海嶺の南端部の海山域だった。広大な海で直径1.6ミリの卵を探しあてた世紀の大発見の軌跡。「世界で一番詳しい ウナギの話」改題。

感想・レビュー・書評

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  • ウナギ、美味しいんですがなかなか口にする機会がないです。土用の丑の日にスーパーにズラッと並んでいるのを見ても、絶滅危惧種になっている魚を(しかも旬でもない夏に)買い叩いて食べる気持ちにはどうにもなれず。。
    地方出張した際に、昼食を取る場所が鰻屋さん以外存在せず、4,000円ちょいを払うコトになって、美味しかったけど複雑な気持ちになった記憶があります(笑

    本著は、ウナギ研究の第一人者が、ウナギの生態を追い求め、ついには大海原で産卵直後の卵を採集するに至る研究記。
    「(資源が減ったからと言って)ウナギのかわりにタイやヒラメを研究するわけにはいきません」と言い切る矜持と探求心で、ウナギの産卵について様々な仮説を構築し、それを実証していく過程はまさにサイエンスで、専門用語が飛び交う本著ではあるものの、ドラマチックで読みやすいと感じました。

    研究者のモチベーションについても正直に書かれていて、成果を求めて厳しく管理することは、研究を委縮させ、目先の小さな利益を求める矮小な研究ばかりになると警鐘を鳴らしています。
    つまり、著者は「ウナギ資源の減少を踏まえ、完全養殖を達成するために産卵のメカニズムを解明しよう」というのが主目的という訳ではないのです。(経済的な完全養殖も、めざしていない訳ではないでしょうが)
    駆け出しの研究者だったら、資金の拠出元におもねってそういうタテマエを言わざるを得ないのかもしれませんが、著者くらいの大家だからこそ言えるというコトでしょうか。
    個人的には、様々な研究が行われることは、社会として必要な余裕なんじゃないかと思います。もし、その中に将来のブレイクスルーを生み出すモノがあればラッキーでしょうし。ただ、食い詰めていく日本社会ではなかなか難しい面もあり、だからこそ、社会を食い詰めさせないための為政が必要なんだなと思います。

    解説がウナギ好き繋がりでラズウェル細木さんというのもまた面白く、著者と細木さん両名が「天然ウナギはとらない方が良い」「ウナギは鰻屋で食べた方が資源保護につながる」と同意見なのも勉強になりました。
    たまに目先を変えた本を読んでみたい、という場合に適書ではと思います。

  • うなぎは美味しいです。大好物の一つです。出来れば月一くらいで食べられるようになりたいななんて思います。
    15年くらい前からうなぎが将来取れなくなると言われ、食べるなら今の内などと駆け込んでいた人たちもいましたが、なんだかんだ今でもうなぎが食べられるのは本当にありがたい事であります。

    さて、うなぎはどこで生まれてどういう生態なのか。とても謎の多い魚である事は皆さんご存じかと思います。
    そんな謎多きうなぎを長年研究し続けて来た成果を、分かりやすく一冊にまとめてくれています。
    これほどまでに産卵地の特定が難しいとは・・・。読んでいて気が遠くなる思いです。
    無限に広い海を碁盤の目に塗りつぶして行くような作業。凄い。

  • 2015年(底本2012年)刊。著者は日本大学生物資源科学部教授。

     マリアナ海嶺からフィリピン沖、台湾を経由して列島に回遊する二ホンウナギ。回遊距離3000とも6000㎞ともされる中、産卵海域は僅かに1000㎥と推測され、「卵」は未見の謎の存在であった。
     かような二ホンウナギが絶滅危惧種に指定される中、完全養殖を採算ラインに乗せる観点からも二ホンウナギの産卵場所の特定とその生態環境の確定の重要性が叫ばれている。本書は、長年、研究者としてウナギを追跡してきた著者が卵を発見するまでの過程をドキュメントしたもの。
     群れを作らないウナギが、産卵時だけは非常に近接した海域に集結する。それはおよそ10万匹と推定される。この特定海域への集結行動は、微細な海水の塩分濃度の差と水温に左右され、かつ、それは卵から孵ったばかりの稚魚の食性に適した空間(塩分濃度の違いで各々の海水塊が混じり合わないことから、境界面においてマリンスノー=プランクトンの死骸が密集している)でもある。

     この事実が自然の神秘と微妙な匙加減で左右される危うさを秘めていることを物語っている。◆一方、ウナギの回遊可能性、つまり生命の持続可能性も海洋の性質に左右される。すなわち、地球温暖化の影響に加え、河川の環境激変(汚染のみならず、護岸工事やダム建設)にも影響される魚種でもある。という点で、僅かの人為的な変動が生息数や持続可能性に大きく影響することを解き明かしていく過程は極めてスリリング。かような真摯に探究する研究者の姿勢にも感服させられる。◆①ウナギを食べるのは専門店だけに限ろう、②生息数を回復させ絶滅危惧種から外していくためには、天然ウナギを獲らないこと(少なくとも数年間)、そのための補償や社会的な手当てを施そうという著者の指摘にも、残念ながら頷ける点が多い。◇しかも、ウナギ研究を越えた学者の有り方一般と社会の目線に関し、著者が真摯に訴える示唆にも納得させられる。

  • うなぎの話がなぜか好き。釣り師ということもあるし、地元でうなぎの稚魚を獲っているのも見たことがある、もちろん食べるのも好き。それ以上に、うなぎの卵を探す物語はロマンがあると思う。そのうなぎのロマンの第一人者の語る、うなぎの卵さがし、科学の意味するモノのお話。

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著者プロフィール

東京大学名誉教授・前日本大学教授

「2019年 『ウナギの科学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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