二十世紀と格闘した先人たち: 一九〇〇年 アジア・アメリカの興隆 (新潮文庫)
- 新潮社 (2015年8月28日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (390ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101261423
作品紹介・あらすじ
二十世紀初頭、アジア太平洋で「アメリカの世紀」が始まる。日本は近代化の道をひた走り、ガンディー、孫文、魯迅などアジアの巨星は解放と独立を目指した。新渡戸稲造、鈴木大拙、津田梅子……激動の世紀を懸命に生きた先人の足跡を追い、今を生きる智慧と歴史の潮流を問う一冊。新潮選書『二十世紀から何を学ぶか〈下〉一九〇〇年への旅 アメリカの世紀、アジアの自尊』改題。
感想・レビュー・書評
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図書館で何気なく手にとって一度は棚に戻しかけたが、やはり気になり借りた本。それだけにそれほど期待はしていなかったが、読んでみてグイグイ引き込まれた。クラーク博士から、ルーズベルやマッカーサーといった日本近代史に多大なる影響を与えた米国人の章から始まる本書。歴史の教科書では1,2行の記述で事実だけが教えられるが、そこに至った過程が本書の人物達が育った環境や生い立ちにも大きく関係している事が度々指摘されている。
印象に残ったのは、TimeやLife誌を創刊したヘンリー・ルース。20世紀初頭に上海で生まれたアメリカ人で、生まれ故郷が日本に蹂躙される姿は苦い目で見ていた事は想像に固くない。大戦前のアメリカで日本悪玉論がメディアで展開され、参戦への世論形成に大きな影響を及ぼしたという。歴史にifは無いと言われるが、著者は本書であえてそれを語る場面が見られる。ルースの件では、もし彼が日本生まれであればアメリカの世論も別になった可能性があると指摘している。
日本が幕末に列強からの植民地支配の脅威を打ち砕き、日露戦争で白人国家を打ち負かした姿はアジア人に大きな勇気を与えたはずである。本書では孫文やチャンドラ・ボーズ、周恩来が取り上げられているが、自分たちの祖国が列強から蹂躙されている状況を変えられる事を願い、日本からの支援を期待していた。しかし、日本は列強の一員に加わる事を選び、同じことをアジアの同胞にやってしまった。そして国民も日本が名誉白人のような立場になった事を喜んだ。アジアのリーダー達の失望の様は、本書でも随所に描かれている。リー・クアンユーは英国に代わって日本が君臨統治し始めて支配の時代の方がまだマシだった、同じアジア人として日本に幻滅した書いている。
20世紀は帝国主義による植民地獲得競争の時代から、国民主権、国民国家に移行した世紀でもあった。著者はここでもifを提起する。日本がそうした趨勢の流れを世界で主導し、リーダーになりえる立場にいたにも関わらず、その道を選ばずに遅れて帝国主義の最後尾に追随してしまったことを嘆いている。
魯迅は当初医者を志して日本の仙台医学専門学校に留学していたが、「幻燈事件」によって医学の無力さ知り、文芸家になることを決心することとなる。仙台で魯迅を指導した教員について書かれた「藤野先生」という作品に本件が描かれているという。いつか読んでみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示