何者 (新潮文庫)

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著者 : 朝井リョウ
  • 新潮社 (2015年6月26日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101269313

何者 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 痛い、いたい、イタイ…。読みながらずっとキリキリヒリヒリ。読み終わった時やっと楽になれた。凄い作品だった。

    膨大な量のEC、正解のない面接、駆け引きのグルディス、短い言葉で自分を表現し相手に伝える事は難しい。頑張っても頑張ってもかかってこない電話が彼らを追い詰め、自分が何者かどんどんわからなくなっていく。

    自分が落ちてばかりの時友達の内定を心から祝福出来るだろうか。自分だけが内定を取った時どんな気持ちになるのだろうか。

    私だって拓人や理香と同じ事考えてしまう。この作品が痛くて仕方がない。自分の嫌なところをグリグリえぐられて泣きたくなってしまう。私たちは弱い人間なのだ。

  • 「就活」が、いちばん汚い感情を暴き切る。
    文庫の帯文句の一文が印象に残り、正直躊躇するところもあったのだけど、朝井リョウの長編をまだ読んだことがなかったので、手に取ってみた。
    予想以上にどす黒い感情の交錯に、毒気に当てられたような状態になり、読了後しばし呆然としてしまったのだけれど…これまで朝井さんの爽やかな作品しか知らなかったので、痛さや苦さに満ちた本書は鋭く心に突き刺さった。
    「就活」という言葉すらまだない20年以上前に大学生だったもので、就職活動にSNSが絡んでくるということがピンとこなかったけど、不採用続きで内定が出ないことへの焦り、意外に器用に活動をこなす友への嫉妬、内定にこだわって数打ちゃあたるで臨みながらも、どこかで自己実現にこだわりたくなる過剰な自意識…当時感じていた負の感情が甦り、それはいつの時代も変わることはないのだなと思い知らされた。だけど時代の流れか…現代、そんな本音はSNSを通じて醜く形を変えて自分に、誰かに、襲い掛かることもあるのだと怖くなった。
    男女4人のメインの登場人物、なかなか共感はできなかったのだけど、一番理解できたのは瑞月かな。「私ね、ちゃんと就職しないとダメなんだ。」この言葉に込められた彼女の置かれている立場の切実さ。就活に臨む姿勢が、当時の自分と比べて一番近く、彼女の発する言葉の一つ一つが胸に響いた。理香と隆良のおしゃれカップルは、アンソロジー「この部屋で君と」所収の“それでは二人組を作ってください”で出会っている(本書を手に取ったのもこの短編がきっかけ)。『何者』のエピソードゼロ的な作品のため、頭でっかちながら不器用なところが印象的な2人は好感が持てたのだが、『何者』では気取った感じとか型にこだわる様が途中まで痛く感じられて、正直戸惑った。読む順が逆だったら印象も変わっただろうか。
    クライマックスの展開にはただただ脱帽。朝井さんの恐ろしさ(いい意味で)を存分に感じた。心がバラバラになりそうだったけど、何だか泣きたくなった。徹底的に苦いのに、不快にならないのは、解説の言葉を借りるならば朝井さんの「どうしても隠し切れない優しさが滲み出ている」からだと思う。
    登場人物らに共感できないと言いつつも、彼らのその後が気になる。後日談のような形でスピンオフを読みたいなという気にさせられたのは…彼らの姿に、己の若かりし頃のみっともなさを見たからかな。

  • 読み進めるうちに自分は何者なんだろう・・と主人公と一緒に考えてしまう作品。大学生の就職活動がテーマ。就活前は演劇活動に夢中だった分析系男子の主人公拓人が、同居人であり天真爛漫なバンドマンの光太郎、光太郎の元カノで拓人の想い人でもある素直な瑞月、上の階に住む意識高い系女子の理香&空想クリエイター系男子の隆良カップルと就活仲間として5人で過ごしていく中で繰り広げられる人間模様が現実世界とツイッター世界を行き来しながらリアルに描かれている。当初は拓人に感情移入しながら周囲の人々を分析し、「確かにこういう人いるなあ〜」と私自身も拓人と一緒になって理香や隆良の事を批評家目線でみていた。しかし終盤になるにつれ拓人に対しモヤモヤした感情が大きくなり、理香と一緒になり拓人、そして自分自身に喝を入れたくなる気持ちになっていた。拓人のように自分自身を否定されること、自分が何者でもないことを受け入れるのが怖くて、スタートラインにも立たずに高みの見物ばかりしていた過去が自分にもあった。必死で頑張っている人達の事をどこか羨ましく思う一方で、逃げてばかりいたような気がする。そして、社会人になっても楽な方へ、できるだけ自分が否定されない方へと逃げる癖がついてしまっている。「何者」は私のように自分と向き合う事から逃げた経験のある人には突き刺さるものがあるだろうし、光太郎や瑞月のような人にはそこまで感情移入できない作品かもしれない。

  • ちゃんと就活する人、ESガーOB訪問ガーって就活に洗脳されたような人、そんな人を馬鹿にしつつも就活する人、そもそも就活せずに自分は人とは違うと思い込んでる人、なんだかんだでちゃっかり内定を貰う人…
    皆知ってる。登場人物皆、心当たりのある人ばかりだった。もちろん自分もどれかに当てはまっている。

    私は、就活を馬鹿にしてダサいダサい言ってる人だが、そう言う姿こそダサくてかっこ悪いということも知ってるつもりだった。
    それと同じように、私みたいな奴に馬鹿にされている、就活に毒されたような人も、そんなことしてる自分がダサいって気付いてるんだ。気付いてて媚売って内定に群がってるんだ。

    なんだ、お互い様じゃん。

    結局、何してもダサいかっこ悪いと思われるなら、もう何したっていいじゃん、と思えて少しすっきりした。
    その代わり、皆ダサいんだから、特定の人をダサいって笑うのはやめなきゃな。

    それにしても朝井さんの観察力って凄いな…


    「「就活をしない」と同じ重さの「就活をする」決断を想像できないのはなぜなのだろう」
    「ダサくてカッコ悪い今の自分の姿で、これでもかってくらいに悪あがきするしかないんだよ、もう」

  • 就活生時代、マネキンみたいになりたくなくて、何者かになりたくて、苦しんでいた自分を思い出した。社会人になった今、何者かになれた気はしないし、自分は自分でしかないのだ、とわかった。

    SNSがない時代に生きていたら、今よりもっといろんな友だちと直接会って、喋っているだろうなぁと思う。会ってもいないのに、あの子の日常を知っている(気になっているだけ)、不思議(不気味)な世の中だよ。昔のトレンディドラマみたいに、いきなりどうしてる?って電話してみたり、フラッと友だちの家を訪ねたり、お喋りしたいんだけどなぁ…私は。

  • 初の朝井リョウ作品。面白い、怖い、そして両親が読んでも理解できないだろう、若者らしい作品。
    人間ってこんな感じ、みんな頭の中で考えてることってこんな感じ、とあえて誰も言及しなかった卑しいとまでいかなくても人間の小さい部分が非常にリアルに描かれてる。

    最後のあとがきに書いてある、
    この作品の魅力は、主人公の立場で感情移入し、安全な場所で傍観していた読者が、いきなり当事者になり変わる点だろう
    というところが、そうまさに。

    人間っていろんな考えの人がいてそれがいいというし、私もそう思ってるけど
    結局のところ自分の考えが一番好きだし、自分が一番正しいと思ってる。言葉には出さずとも。

    ううん、少し不気味だけど読んでよかったと思った小説です。

  • 澄んだ水がどんどん濁っていくかのような物語だと思いました

    249ページからの瑞月から隆良に、299ページからの理香から拓人に放たれた言葉達が、自分が言われてるような気分になり苦しく刺さる。

    読後に思わず「…凄ぇ」と漏れた

    映画化も決まったようで楽しみ。

    「十点でも二十点でもいいから、自分の中から出しなよ。自分の中から出さないと、点数さえつかないんだから。これから目指すことをきれいな言葉でアピールするんじゃなくて、これまでやってきたことをみんなに見てもらいなよ。自分とは違う場所を見てる誰かの目線の先に、自分の中のものを置かなきゃ。何度も言うよ。そうでもしないともう、見てもらえないんだよ。私たちは。百点になるまで何かを煮詰めてそれを表現したって、あなたのことをあなたと同じように見ている人はもういないんだって」

    「頭の中にあるうちは、いつだって、何だって、傑作なんだよな」

    「お前はずっと、その中から出られないんだよ」

  • 第148回直木賞受賞作。

    就職活動をテーマにSNSが日常にある若者たちの本音を描いた作品。

    テーマもタイトルもTwitterの組み込み方も、時代を象徴している。『桐島~』より好きだった。これまた映画向きだと思っていたら、解説を書かれた三浦大輔さん監督で来年映画化が決定しているということでこれまた愉しみ。

    父親から借りたのだが、親世代でも面白いと感じる、というのはなかなかだな、と。SNSはまったく疎いはずなので、それでもこの世界観を楽しめたというのは作者の力量が問われ実証されたのだとおもう。

    いままで「学生」として守られていた子どもたちが、バイトではなく働く観点から無理に大人になるよう強いられる感覚のある就活をよくここまで文章に、物語に落としこんだなと素直に感動した。
    内定をもらえるまでのフワフワとしたあの独特の感触をリアルに思い出した。
    そのなかに、恋愛や、友情や、人間同士の葛藤がこれでもかと詰め込まれていて、小見出し16からの展開は読者のこれまで読んできてモヤモヤしていたものをバシッと回収してくれる心地よさと、怖いものみたさが存分に発揮されている。

    あと、ジンジャーエールが飲みたくなる。


    朝井リョウという作家をもう一度見直そう。

  • 新入社員一年目で、働き始めた私にとって、まさにタイムリーな小説だったように思う。

    ちょうど、就職活動を終えて、しばらく時間が経っているながらも、まだはっきりと記憶している時分だから、頷ける場面が多かった。

    この小説が描いているのは、決して就職活動そのものじゃない。
    あくまでそれは背景であって、本当のテーマは、人間の汚さみたいなところだと思う。

    現代のSNS社会が、他人を見下す土壌になっていることを示唆している。

    実際、自分自身にも当てはまるところがあって、はっとしてしまった。

    何もすることなく、ただ他人を批判して、優位に立っているような錯覚を覚えるようなことが、SNSというツールのうえでは簡単に成立してしまう現代。

    それでいて、その行為がどんなに醜い事か、当人は気付かないでいる。

    誰かを叩き、それを叩いている人を叩く、そんな連鎖ばかりが続いて、何が正しいのか良く分からなくなってくる。

    結局、自分が思うように頑張って、何か目標に向かうのが健全なのであって、他人を叩く事で得られる自信なんてものは、所詮は他人に依拠しているために脆いのだと、この小説のテーマはそういうことかなと思う。

    現代の泥沼を鮮明に描いている感じがして、とても良かった。

    登場人物が、表面上仲良くしていたのに、突然、堰を切ったように感情を吐露する場面が、ある意味爽快だった。カタルシスってこういうことなんだろう。

  •  現代の就活に挑む大学生たちの姿を描いた群像劇。

     この小説のテーマは就活から浮かび上がる「かっこ悪さ」そしてそれとどう向き合うか、ということだと思います。

     なぜ就活とかっこ悪さが結び付くかというと、あくまで個人的な見解ですが「就活ほどかっこ悪くならないとできないことはないから」です。

     何がかっこ悪いって、社会的には何の実績もないのに、面接になると「自分はこんなに立派な人間ですよ」「学生時代こんなに頑張りましたよ」と相手がどれだけ本気で聞いてるかも分からないのに、アピールしなければならないこと。

     自分の就活を振り返ると思い出すのは、とある面接で最近読んだ本を聞かれ、その感想を述べると「それは大変大事なことに気づかれましたね。仕事にもつながってくることだと思います」と言ってもらったのですが、その面接は落とされたことです(笑)。

     落とされたのはまあいいとして、面接してくれた人はあの言葉はどういう気持ちで言っていたのか気になります。本心から言っていたのか、それとも内心「何言ってんだこいつ」とせせら笑っていたのか…。そして、そんな面接官の言葉に対し少しだけ手ごたえを覚え「これはもらったな」と思った自分の気持ちを思い出すと……、そんなかっこ悪いことを延々と続けなければなりません。

     自分の面接やエントリーシートに書いたことを就活を終えた今、振り返る勇気はありません。もし面接の様子を録画していたDVDなんてあったら粉々にして散骨よろしく海にでもばらまきますし、エントリーシートはシュレッダーにかけてから、燃やします(苦笑)。それだけ恥ずかしく、かっこ悪く思ってるのに、就活をする以上そうしたものは避けては通れないんですよね。

     作中の大学生たちの就活の様子、そして心情はとてもリアル。作者の朝井リョウさんも近年の就活体験者、ということもあるのだと思います。就活や就活生のかっこ悪さをしっかりと描き切っています。

     しかし、この小説の一番の読みどころは、ラスト近くのどんでん返しとたたみかけ。自分の就活を思い返しながらそれまで作中の就活生のかっこ悪さを、そして過去の自分を嗤っていた僕に、まるでブーメランのように返ってくる言葉の数々。そして最後に本当にかっこ悪かったのは誰なのか気づかされるのです。その場面は作中の登場人物のように自分のライフもゼロになりそうでした。

     ほとんどの人は今の自分とは違う、もっとカッコいい”何者”かになりたいんですよね。そして、それが敵わない場合どうするのか、それを就活とSNSという現代のテーマを使って見事に書かれていたと思います。

     たとえどんなにかっこ悪くても、そんな自分を受け入れてあがき続けなければならないのは就活でも、そしてこれからの人生でもきっと一緒のハズ。これから長い人生を歩む自分に改めてそうしたことを気づかさせてくれた小説でした。

     血反吐を吐きそうになりましたが(笑)、就活を終えたタイミングで読めて良かったです。

    第148回直木賞

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