乙女の密告 (新潮文庫 あ 75-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (102ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101273518

作品紹介・あらすじ

ある外国語大学で流れた教授と女学生にまつわる黒い噂。乙女達が騒然とするなか、みか子はスピーチコンテストの課題『アンネの日記』のドイツ語のテキストの暗記に懸命になる。そこには、少女時代に読んだときは気づかなかったアンネの心の叫びが記されていた。やがて噂の真相も明らかとなり…。悲劇の少女アンネ・フランクと現代女性の奇跡の邂逅を描く、感動の芥川賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 本の紹介にもある通り、「アンネ・フランクとの邂逅」ということばがぴったりの物語でした。しかも、生の切実感を伴った「邂逅」です。
    意識的なのか、描かれている世界が少女チックな世界で少々とっつきにくかったのですが(笑)、解説の方も書いておられるようにスポ根物に近い背景と、ところどころに繰り出されるユーモア(特に、バッハマン教授の常軌の逸脱ぶりが面白い!)で、何とか物語に馴染むことができました。(笑)中盤の衝撃的告白には、自分もみか子同様、「ええっ!」と思ってしまいました。(笑)
    社会の中で認められ働きたい。しかし、その「社会」は人を「他者」として疎外する側の集団でもある。そして、いったん「他者」と指定されてしまったら・・・。それでも、やはり「社会」の一員でいたい。しかし、名前のない「他者」ではなく、「私」と認めてくれたのは、皮肉にも密告者だった!「ユダヤ人 アンネ・M・フランク」であると!主人公・みか子の現実の世界と、「アンネの日記」のスピーチを通して絡み合う2人の切実な想いを、綺麗に融合した作品だったと思います。

  • ⚫︎受け取ったメッセージ
    「真実とは乙女にとって禁断の果実だった。」

    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)
    ある外国語大学で流れた教授と女学生にまつわる黒い噂。乙女達が騒然とするなか、みか子はスピーチコンテストの課題『アンネの日記』のドイツ語のテキストの暗記に懸命になる。そこには、少女時代に読んだときは気づかなかったアンネの心の叫びが記されていた。やがて噂の真相も明らかとなり……。悲劇の少女アンネ・フランクと現代女性の奇跡の邂逅を描く、感動の芥川賞受賞作。

    ⚫︎感想
    すごい短編小説だった。ユーモアとシリアスをこのように巧みにブレンドし、密告する側とされる側という葛藤と統合を描く。深刻なホロコーストというテーマを自分たちの生活に引きつけて考えることは、普段の生活ではなかなかできない。それを「乙女」な女子大生という「清純」を密告者側とと置きかえ描かれた作品。いつ誰が「乙女」と見なされなくなるか、わからない。

    真実は多くの人が夢見ていたい中で隠されなくてはならないものである。
    人は同じ美しいと思える幻想をみんなで信じて安心したがる生き物だということを改めて思った。

    面白く読ませてくれる漫画風なところがありながら、実はメタファーを盛り込み深いテーマを描いている。ぜひ再読したい。

  • 外大生のスピーチコンテストまでの日々と、アンネの日記に綴られた日々。
    忘れてはならないことが何か、真実の追求。

  • 『アンネの日記』を読んだことはないけれど

    アンネの日記をベースにした、女子の、いや、乙女の群れのお話。

    京都の外語大学では、スピーチゼミのスピーチコンテストが控えている。スピーチゼミの乙女たちは、外大の中でも乙女の精鋭部隊である。みか子は、憧れの麗子様の隠れファンだ。

    ある日、事件が起きる。みか子は乙女を剥奪されるのか。乙女の群れから迫害されるのか。匿わなければならないのか。みか子は密告者なのか、密告されるのか。

    みか子が練習するアンネの日記の暗唱は、あるところで止まってしまう。次の一言が出てこない。その言葉、とは。

    乙女の群れから、名前を得ること。ひとりの“個”として存在すること。

    って、たおやかな京都弁で、真剣にやり取りするんだけど、なんか、かわいい。

    そうそう、乙女の群れって、こんなささやかな微風にも向きがくるりと変わる。

    スピーチゼミの教授、バッハマン教授は激怒する。
    「ミカコ!あなたは血を吐きましたか!」
    「いいえ。わたしは血を吐いていません」
    どんなスピーチゼミだよ。

    ところどころ、本人たちの真剣さとはうらはらに、なんか、笑っちゃう。

    芥川賞受賞作、ぜひ乙女たちを感じてほしい!


  • なんということだろう。
    「じゃむパンの日」でファンになり手に取った、赤染さんの数少ない著書。ユダヤ人であることを否定され短い人生を生きた、アンネ・フランクの日記を読み解く女子学生の話だ。
    彼女を美化してはいけない。彼女の人生を悲劇だとひと言で済ませてはいけない。ユダヤ人として生きることを許されなかった人たちの名前。みか子の葛藤はわたしたちが抱えなければならないものでもある。なぜかわたしも、彼女たちと同じ壇上にひとりで立っている。忘れてしまう恐怖を突きつけられて身動きひとつできないでいる。
    まばたきも邪魔になるほど物語に入り込んでしまった。
    何気なく選んだ本に、こうして現実の目の前に放り出されることがある。
    赤染さんは今の世界、戦争をみて、どんな思いでいるだろう。

  • ナチスの政権下で奪われてしまった名前たち、そんな中でアンネ・フランクは決して彼女の名前を失わなかった。
    異なるものとして排除されてしまうという歴史は繰り返されていると思う。そんな世界でどのように生きていくのかを再度考えるような作品だった。

  • 短めの文章のリズムと登場人物たち(特に教授)の強い言葉が強く印象に残った。

    主題となっている『アンネの日記』とともに、読み継がれて欲しい本。
    『アンネの日記』は未読の状態だと「悲劇的な少女」のイメージを持ち、実際に読むとあまりに等身大な小女性に驚くもの(と勝手に思っているけれど)。
    本書はその後もう一度、余計なイメージを捨ててアンネを読み、アンネと向き合う時に最適ではないかと思う。

  • いつか読もうと思いながら忘れていた。まさか作者の早すぎる死でそれを思い出すとは思わなかった。
    密告者はあなただ。本書はひやりとするメッセージを送ってくる。
    私たちが人生において演じている役割というのは成り行きにすぎないこと。私たちは他者との関係において、救済者にもなりうるし、密告者にもなりうる、そんな危うい生を生きていることを、『アンネの日記』というプリズムを通して暴いてみせた。
    とこう書いてみたが、まだまだ言い足りないことがたくさんある。再読したい。

  • アンネ・フランクの日記と、現代の女子大生のオーバーラップが見事な作品。
    乙女というのは清らかで、それと同じぐらい汚らわしいものでもある。
    帰国子女である貴代が、かつての言葉を忘れていく様は、アゴタ・クリストフの自伝「文盲」を思い出しました。

  • 私が初めて、受賞時から読みたいと思った芥川賞作品です。
    外大の女子学生達が繰り広げるお話、
    とのことで、気持ちの上で、
    近年の受賞作より何となく敷居が低いというか。

    そうして「読みたい」「読みたい」とは常々言っていたものの、
    結局、本屋さんで遭遇したのは、文庫本になってから。
    買う予定だった本を戻してしまって(ごめんなさい~!)
    即刻購入ののち、帰宅後一気読みしました。

    まず、執拗に繰り返される、
    「乙女」という言葉が印象的で癖になる。
    そういえば、最近では最早死語のような気もする程、
    歪に聞こえる言葉だけど、私達は乙女なのだー。

    少し前に、アンネの日記を読んだところだったので、
    彼女のユダヤ人としての誇りや葛藤、
    「オランダ人になりたい」という本音、
    アツい叫び声を読む中で圧倒される、
    その気持ちはよく分かりました。

    そして、彼女の周りで起きる「事件」や「密告」と、
    アンネの周りで起きたことやミープの存在等を、
    熱に浮かされたように重ねて、
    突き動かされていく様子は、あまりにリアル。
    読書家って、こういうところがあると思うのです。
    実際起きていることは大した話じゃない。
    だけど脳内では勝手に壮大なドラマになっている。
    誰か、強烈な人物と重ね合わせてみたりして。

    個人的に衝撃を受けた部分として、
    主人公のお友達(貴子さんだっけ、、、)で、
    ドイツからの帰国子女の方のエピソードがあります。
    彼女は、ほぼ母国語と同じようにして、
    ドイツ語を学んだ経緯がありながら、
    長い間触れる機会がなかったために、
    発音なんかは完璧だけど半端に忘れてしまっている。
    その「忘れている」という事実を強烈に恐れている。
    「○○ってドイツ語でなんていうんだっけ」
    に答えられないとき、
    「答えられなかった」「単語を忘れてしまった」
    という事実に驚愕し、おびえる。
    みんなとは異なる結び付き方をしているからこそ、
    日本人目線でのドイツ語の授業には違和感がある。
    これをフランス語に置き換えたら、
    完全に私になりそうなんですもの。
    最も、まだ、私は大学生ではないけれど、
    フランス語を完全に取り戻すために、
    専攻語にするつもりでいます。
    だけど、これを読まなかったら、
    彼女と同じになっていたかもしれない。
    変に、やさぐれていたかもしれません。
    どれだけ意気込んでいても、
    自分の記憶と正面から向き合ったときに、
    失ってしまったものに愕然として、
    背を向けてしまっていたかもしれません。
    今だってふと冷静に、
    自分がどれだけフランス語を覚えているか考えてみて、
    単語が抜け落ちすぎていることを思うと、
    胸が苦しくて、自分の一部がどこかに行ってしまったような、
    喪失感に襲われるものです。
    だけど、今はその事実と、
    わざわざ向き合う必要は無いからいいのです。
    もしも、大学で勉強するとなれば、逃げられなくなるのです。
    その「来る日」を前にこれを読めて良かった。
    勿論、失ったものと対峙するのは、
    どれだけの覚悟があっても足りない位、怖いことです。
    だけど、一度、やさぐれてしまった人を見て、
    それを反面教師にして、自分なりに戦ってみるのと、
    何も無くしてぶつかるのとでは大きな違いです。
    赤染さんがこの作品の中に、そんな人物を生んでくれたこと、
    本当に感謝しています。
    「なり得たなりたくない自分」を見せてくれたこと、
    本当に感謝しています。
    (赤染さん自身外大出身とのことで、ひょっとしたら、
    赤染さんの周りにそんな方がいらしたのでしょうか。)
    ありったけの★を差し上げたいです。

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著者プロフィール

1974年京都府生まれ。京都外国語大学卒業後、北海道大学大学院博士課程中退。2004年「初子さん」で第99回文學界新人賞を受賞。2010年、外国語大学を舞台に「アンネの日記」を題材にしたスピーチコンテストをめぐる「乙女の密告」で第143回芥川賞を受賞。著書に『うつつ うつら』『乙女の密告』『WANTED!! かい人 21 面相』がある。2017 年急性肺炎により永眠。エッセイの名手としても知られ、本書が初のエッセイ集となる。

「2022年 『じゃむパンの日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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