日本文学100年の名作 第7巻 1974-1983 公然の秘密 (新潮文庫)

制作 : 池内紀  松田哲夫  川本三郎 
  • 新潮社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (555ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101274386

作品紹介・あらすじ

石油危機、ロッキード事件、日航機ハイジャック――。混乱と狂騒のなか生まれた17の名作。筒井康隆「五郎八航空」、柴田錬三郎「長崎奉行始末」、円地文子「花の下もと」、安部公房「公然の秘密」、三浦哲郎「おおるり」、富岡多惠子「動物の葬禮」、藤沢周平「小さな橋で」、田中小実昌「ポロポロ」、神吉拓郎「二ノ橋 柳亭」、井上ひさし「唐来参和」、色川武大「善人ハム」、阿刀田高「干魚と漏電」、遠藤周作「夫婦の一日」、黒井千次「石の話」、李恢成「哭」、向田邦子「鮒」、竹西寛子「蘭」

感想・レビュー・書評

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  • 途中までで断念

  • いずれ劣らぬ佳作揃い。まずは最初の筒井御大で、このアンソロジーは”決まった”と言っていいであろう。柴田、円地、神吉、向田。

    この頃までの作品て、単語1つ1つの使い方や文章が”濃い”と感じる。現在に下ってくるにつけ、どんどん薄まってきているような。。。

    阿刀田「干魚と漏電」見事。

  • ようやく「日本文学100年の名作」の名に恥じないものが出てきた。
    もちろん今までも、作品単位で素晴らしいものはあったが、この巻は全体としてのレベルの高さとハズレの少なさという点で、満足感が1番大きかった。
    ただし、あいかわらず「読みどころ」には不満。

  • 筒井康隆『五郎八航空』B
    あは。いひ。いひ。気ちがい。

    柴田錬三郎『長崎奉行始末』B
    拾い子を差し出した上で切腹。
    凄まじい美談だからこそ小説になるのだろうけれど。

    円地文子『花の下もと』B
    情感たっぷり。
    あの人はあの人をパトロンにしながらあの人を恋していてパトロンはパトロンで誰かを補佐しながら誰かに手をつける。
    この網の眼がある社会ならではの情感。

    安部公房『公然の秘密』A
    「当然だろう、弱者への愛には、いつだって殺意がこめられている」至言。

    三浦哲郎『おおるり』B+
    消化活動の最中に死んだ同僚を想いながら、暇に任せて鳥を買う消防団員と、そこに現れた女性。
    そこに関係が潜んでいたら。

    富田多恵子『動物の葬禮』A
    指圧師のヨネ。水商売をする娘サヨ子。娘が持ち込んできたのは、キリンと呼ばれていた男の死体……。
    ちっとも「いい話」にならないのが面白い。

    藤沢周平『小さな橋で』B
    父は家出。姉は駆け落ち。母は新しい夫を迎えようとする。
    男女が「できた」という言葉がぽんっと軽快に挟まれて、味わい深い。

    田中小実昌『ポロポロ』S
    いやーこれは凄い話であり、凄い文章。
    柔らかくて潤いがあり味わいのある文体。
    大好き。

    神吉拓郎『二ノ橋 柳亭』B-
    架空の店を文章で発表する美食評論家。
    その苦々しさを語り手が察知したところで、なんとその文章通りの店が出来た、と聴く。
    なんだか説教くさい。美食に興味がないせいか。

    井上ひさし『唐来参和』S
    少しでも酒が入ったら言われたことに逆上して、逆をしてしまうという苛烈な酒癖の持ち主。
    に、一度は嫁いだ女が語り手。
    達観した女性なので小説化できている。逆に男が語り手なら距離がとれず上滑りするギャグにしかならないだろう。

    李恢成『哭』

    色川武大『善人ハム』A
    戦争で勲章を受けてしまったために戦地で農民を殺してしまった。
    それが夢に出てくる。いっさい自分を主張しない生き方をする。
    こういう善さんについてはありがちといえばありがちかもしれないが、終盤、年取って結婚した妻がよい。
    勘違いからもうすぐ死ぬと喚く夫に、ええもう駄目みたいね、でも安心して、一足先に向こうに行って、私も行くわ、と。
    安心して死ねと言うんだとしょげる夫だが、妻は死ぬ人を勇気づけようとしていたのだ、と。
    このちぐはぐさにちょっと感涙しそうになった。

    阿刀田高『干魚と漏電』B
    冷蔵庫の奥に干魚→漏電→探すと……
    人情話が比較的多い中に唐突に差し挟まれた驚愕。

    遠藤周作『夫婦の一日』B+
    ふいに「これが人生だ」と感じる瞬間。小説の見本のような作品。

    黒井千次『石の話』B
    これは地味ーに嫌ーな話だ。

    向田邦子『鮒』C+
    ひどく虫のいい話でむしろびっくりした。

    竹西寛子『蘭』B+
    大切にしていた扇子を引き裂いて楊枝にするという場面よりも、
    大事な人のお葬式にも出られないでひっそり働く女の人に気づいたり、
    親が子のために大切なものを犠牲にしたのは人類の歴史の方々で起こっていたのだと気づいたり。
    少年ひさしの気づきが新鮮で奥行きがある。

  • 第7巻は1974年~1983年に発表された短編を収録。表題作『公然の秘密』は安部公房の短編から。
    世の中の変容に合わせ、作風にもかなり変化が見られる。そう考えてみると、前巻までは、なんやかんや言っても、まだ何となく共通するものが残っていたのかもしれない。
    収録作家は筒井康隆、安部公房、田中小実昌、井上ひさし、遠藤周作、向田邦子など。本巻の印象としては、個人的なことや家庭のことなど、スケールは小さいが、人間や人情の機微を丁寧に描写した作品が多いように感じた。その観点から見ると表題作は異色。筒井康隆『五郎八航空』も異色か。また、戦争、戦後をテーマにしたものでも、この時代になると、書き方も変化しているのが実感できる。
    本巻で印象的だったのは田中小実昌『ポロポロ』、神吉拓郎『二ノ橋 柳亭』、向田邦子『鮒』。

  • 日本文学の100年の中短編セレクト集、第7巻。1974年から1983年に発表された17編を収録。

    高度経済成長期から経済の習熟期に掛けての時代。経済的にも満たされた、この時代は様々な事件があった。こうした時代に描かれた作品は、家族や夫婦、自分自身を題材にしたものが目立つ。冷静な目で内面を観察しているかのようでもあり、外に向かっていたエネルギーが内に向かっているかのようだ。

    筒井康隆『五郎八航空』。筒井康隆の作品をむさぼり読んだ時期があり、笑わせてもらった作品。こういう航空会社があったら面白いが、乗りたくはない。筒井康隆の絶頂期の作品。

    柴田錬三郎『長崎奉行始末』。フェートン号事件を題材にしたフィクション時代小説。現代社会にも通じる寓話性を感じる物語。

    円地文子『花の下もと』。歌舞伎の世界を舞台に描かれるじっとりした女の情念…こういう物語を描ける小説家が少なくなった。

    安部公房『公然の秘密』。誰もが知りながら、知らぬふりをしていたことが白日の下に曝される時…有り得ぬ話なのだが、有り得ぬだけでは片付けられない寓話めいた味わい深い傑作。

    三浦哲郎『おおるり』。突然、身近に感じる死と少しずつ迫り来る死を哀しく、切なく描いた秀作。

    富田多恵子『動物の葬禮』。指圧師の母親と男と同棲している二十歳の娘の物語。母と娘の微妙な関係がリアルに描かれている。

    藤沢周平『小さな橋で』。父親の家出、姉の駆け落ちで、男として母親を守らねばという健気な決意を胸にした広次の成長の物語。藤沢周平ならではの味わい深さがある秀作。

    田中小実昌『ポロポロ』。田中小実昌の経験を元にした物語だろうか。ポロポロとは…感性のなせる業か。

    神吉拓郎『二ノ橋 柳亭』。食味作家がしたためた架空の名店を小文を巡る物語。現代社会では、こういう事を本当に商売にしてしまう。先見性を感じる作品。

    井上ひさし『唐来参和』。女の独り語りという形で綴られる切ない物語。女の旦那の愚かな振る舞いが滑稽にさえ見える。やはり、女性の方が男性より、強く、達観しているのだろうか。

    李恢成『哭』。主人公のわたしは、李恢成自身であるようだ。在日二世のわたしが、在日一世の義母の苦労を知り、義母の故郷へと足を運ぶ。それは、わたしのルーツを知るための旅でもあったようだ。内に向かう強い情念が迸るような物語。

    色川武大『善人ハム』。不器用で真面目な善人の肉屋の善さんの物語。善さんは、戦争で自らが犯した罪に苛まれ続けるのだが…救いのある物語…感涙。

    阿刀田高『干魚と漏電』。寡婦を主人公にした日常生活に潜む恐怖を描いたホラー短編。何よりも結末が良い。これ以上は語るまい。

    遠藤周作『夫婦の一日』。夫の病気、お手伝いさんの急死と不幸が続く夫婦。妻は占師に見てもらい、一緒に鳥取に行くことを夫に懇願する…寄り添いながらも、時には違う方向に向かい、再び寄り添うのが、夫婦の姿なのだろう。

    黒井千次『石の話』。決して、仲の悪い夫婦ではないのだが、夫婦の間に流れる年月が、二人の価値観を変えていく。時間と共に欲しいモノがより現実的なモノに…

    向田邦子『鮒』。ごく普通の家庭に起きた奇妙な出来事。或る日、勝手口のバケツに鮒が放りこまれる。かつて、夫が愛人と暮らした部屋で飼っていた鮒吉であった。夫は過去の過ちが妻にバレるのではとやきもきする姿が滑稽である。息子の守が指摘した通り、妻が洗剤を…ユーモラスでもあり、ブラックでもある。

    竹西寛子『蘭』。戦時中、父親と列車の旅をする小学生のひさし。帰りの列車で、ひさしは歯痛になるが…掌編ながら、父親の思い掛けない行動に息子への愛情を窺い知ることの出来る作品。

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