レインツリーの国 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.68
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101276311

感想・レビュー・書評

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  • 聴覚障害者を扱っている作品ではあります。しかし、私はこの作品内では「聴覚障害」ってのはテーマというより「人の抱える闇」の一つだなと感じた(作品の中ではあくまでエッセンス的でメインは恋愛みたいな)素敵な恋愛小説です。

    たまたまヒロインが抱える一つの後ろめたいものが「障害」であっただけで、読者の方にも「障害」の部分に自分のコンプレックスや人に知られたくないことを当てはめれば、思い当たるふしはあると思います。

    しかし、その「後ろ暗さ」を「どうせわかってくれない」とやさぐれるのではなく、「これが私よ!」と堂々と自分で自分の事を受け入れたり、人に理解してもらえるよう努力することで世界の見え方も変わってくるのかもしれません。

    勿論人間万能ではないので、関わり方間違えて相手を傷つけてしまうこともありますが、ぶつかることで得られることがあるのもまた事実です。そのため聴覚障害の問題だけでなく、男女の関わりについても色々思うこともありました。読んでいるうちにヒロインの「ひとみ」は「私」なんじゃないかって思わされる作品でした。

    有川さんは聴覚障害についてとても勉強されてい(巻末に参考文献が載っていた)ました。
    聴覚障害に関する問題にも一石投じている作品だと思います!私は聴者ですが、聴覚障害者と多く関わる機会があります。そのため、この作品を通じて誰かが聴覚障害について考えるきっかけになれる本ではないかと思いました。

    有川さんの描く人間くさくて、でも暖かいやりとりが好きです。『レインツリーの国』もそんなやりとりがある作品の一つです。

  • 障害を持つということについて、どの程度まで知ればいいか、ということには答えはない。


    障害の有無にかかわらず、人と触れ合う時というのは、その「個人」と向き合うしかないのだと思う。
    一人一人、その時々で感じ方、捉え方は違うのだから。


    「がんばれ」と言われて苦しくなる人もいれば、奮起する人もいる。
    「がんばれ」と言われて苦しくなるときもあれば、奮起するときもある。
    それと同じ。


    そのことが、自分に対しても他人に対してもあてはまるということを忘れてはいけない。
    誰にだって苦しみはある。誰だって孤独。


    そして、送り手が傷つけることを恐れてなにもしない世界よりは、傷つける可能性をはらみながら歩み寄りの努力をする世界のほうが、余程ましだろう。


    だから、受け手として、傷ついたなら許せないならそれを伝えればいい。怒っていい。
    でも、否定はしてはいけない。それが傷つけようという意図を持って発されたのではない限り。
    歩み寄りの努力の副産物なのだから、そこには希望がある。


    その上で、送り手側の、あるいは受け手側の歩み寄りのとっかかりとして、一般的な知識は役に立つかもしれない。
    あくまで、とっかかりでしかないけれど。


    受け手として、送り手として、両方の立場で考えていたい。
    そう思った。

  • 聴覚障害をもつ友人に勧められて読んだ、初・有川作品。
    ・・・ですが、なんというか、自分の独りよがりな’わかったつもり脳’を、ガツーンと殴られたような気分でした。

    聞こえないという状態は想像できる気がしていたんです。きっと不便だろう、大変だろうって。だけどやっぱりそれは、’わかる気がする’程度であって、聞こえる人々との微妙なズレ(微妙なだけに声高に主張するにもはばかられ・・・)、当事者にしかわからない不安や悔しさ(わたしは悔しいという感情がわくこと自体、この本を読むまで想像できませんでした)、そんなことも知らずに、聞こえない辛さをわかったつもりになっていた自分が恥ずかしかったです。

    現実はこんなにうまくいくことのほうが少ないでしょう。だからこそ、2人を応援したくなるようなストーリー展開に自分を重ね、ちょっとだけ、希望を感じることができるのかもしれません。わからなくてもわかりたいと思うことが、理解への助けになると信じて。

  • 作者の有川さんは、あとがきで「二人の成長を〜」と書いていますが、私の印象ではヒロインの女の子の成長の方がメインな印象です。
    障害を持っていることに固執しすぎて自分の殻に閉じこもり、周りが理解してくれないことにイライラする…そんな面倒な性格のヒロインですが、自分にも当てはまる部分があるので、考えさせられます。また、耳に障害のある人が、こんな風に健聴者のことを思っていたのかとビックリする部分もあります。

  • 二人なら乗り越えられるなんて楽観的になれるほど現実は優しくないのも知ってる。


    綺麗で甘いだけじゃない恋愛小説。
    青春菌すごいなぁ(笑) 甘いけど痛いとこもついてくるね。
    終わりがある、って言うことを認識した上で始まったところで終わっている。
    健常者とか障害者とか関係はない。悩みなんかそれぞれのはずで。
    地雷は誰にでもあるんだなって。それ踏まれたときにせめて理不尽に傷つけることはしたくないものです。

  • べったべたの恋愛物(笑)
    でもそんなまっすぐな小説を書いてくれる有川さんが好きです。
    聴覚障害の人に対し考えさせられる場面もたくさんありました。
    自分は・・・たぶんそのような人たちを知らずに知らずに傷つけてしまったりするんだろうな。

  • 出会いが「阪急電車」で、

    その出会いがすごくよかったから、

    迂闊に次の作品へ飛び込めなかったところを、

    kamoshigiさんにきっかけをもらって手にしたこの作品。

    2時間あっという間に読みきりましたが、

    有川浩、やっぱり好きです。

    恋愛もので出会った彼女ですが、
    この恋愛ものも、やっぱりうまくて、というか好みで、
    冒頭の口当たりの良さとは裏腹に、
    ストーリーは思っているのとは全く違った、予期せぬ方向へ転がりましたが、その展開も、実に見事で、いつもながら思うんだけど、そこで交わされる人間のやりとりがしっかり描かれていて、なんというかまったなし!というか。そんで最後はやっぱり「きゅん」としてしまう。
    いい歳なのに「きゅん」
    恋愛小説を読んで「きゅん」だなんて・・・

    有川浩と湊かなえをついつい比較してしまうんだけど、
    全く違うんだけど、この2人にはどこかしこ、同じようなことを感じてしまう。
    この作品を読んでまたさらに感じた。

    まだまだうまくいえないけど、どちらもすごいのは間違いないと思う。
    すごいというか、やっぱすき。

  • 社会人3年目の「伸」と「ひとみ」の恋愛小説である。
    が、健聴者と難聴者(中途失聴)の恋愛を描いたものであることが、普通の恋愛小説と異なる点である。

    なんの予備知識も持たずこの小説を読み進めていったので、僕も「伸」と同じで第一章の時点では「ひとみ」が難聴であるということに全く気が付かなかった。エレベータの重量オーバーブザーに気が付かなかった「ひとみ」に、僕も「伸」と同じように、恥ずかしくも苛立ってしまった。僕の心も極めて狭いなあ(笑)。という感じで、主人公の気持ちと重なってしまうくらい、有川さんの心情描写は上手いなと感心してしまう。

    “伸さんって声は高いほうですか、低いほうですか?”(P56より引用)
    「ひとみ」がデートをする前に、「伸」にメールで訊いた台詞であるが、この台詞にすべてが含まれていたのだなと僕は思う。
    実際に会ったときに、相手の声が聞き取りやすいか、聞き取りにくいか、難聴者の「ひとみ」には重要なことだったのである。

    「伸」の提案で髪を切った「ひとみ」が、徐々に吹っ切れて、性格が前向きになっていって本当に良かったと思う。
    「伸」と「ひとみ」が聴覚障害というハンデを乗り越えて結婚してくれたらいいな。

    この小説は、健聴者と難聴者の恋愛という極めて難しいテーマを主題にしているが、本質は普通の健常な男女と変わらない普通の恋愛と全く変わらない。相手が難聴者でなくとも、相手を思いやることは大事だし、それが無くなったら恋愛としては続かない。
    読後は非常に後味が良く、きっと彼氏(彼女)、夫(奥様)を今まで以上に大事に思わねばという気持ちになると思います。

  • 学校の実習で聴覚障害の子と触れ合ったり、聴覚障害の友人がいる自分としては、純粋な『恋愛小説』というよりも、『聴覚障害』について改めて考えさせられる本でした。
    必ずしも全員が ひとみ や 伸 と同じ気持ち・考え方をするわけではないでしょう。けれど、そう言う気持ち・考えもあるんだ、という意味で、視野が広がったような気がします。

    好き嫌いは分かれると思いますが、私にとっては大事にしたい一冊です。

  • 今まで図書館戦争シリーズを始め様々な有川浩作品を読んできて、
    「この作品好きだ」とか「めっさ面白い!」と感じてきた。
    特に図書館戦争シリーズにはかなりはまり、それが初めて読んだ有川浩作品であったわけだが、その後どの有川浩作品を読んでも面白いと感じ楽しく読めるのだがそれを超えたと思うものはなく、「やっぱりこの本が一番好きだ」と改めて思うことが多かった。

    この「レインツリーの国」はそんな中初めてそのシリーズを超えると思った。
    他の有川浩作品の恋愛ものは、多少なりフィクション設定というか、自分の今の立場からは離れたものが多く、フィクションとして楽しんでいたと思う。
    今回のストーリーは自分にだってあり得ないことはない、自分にも十分置き換えられる話だった。
    どんな人でも抱える「コミュニケーション」の問題について考えさせられることが多く、それがただの恋愛小説を読んでときめくだけではない、自分にとって新しい、はっとさせられるような衝撃を受けることが多かったからかもしれない。

    私が本の中でやり取りされるメールを読んで、主人公の気遣いや優しさに素敵な人だと思っても、それに対するヒロインのメールを読んで、自分がそのメールを受け取ったときとは全然違う捉え方、感じ方をするのだということが身に染みて、言葉の難しさや人は違うということをとても強く感じた。
    2人のやり取りを見ているとあまりにも優しさが噛み合わないことを感じることが多くて、読者である私すら「もう駄目なんじゃないか」と不安に思うのに、お互いがお互いにそれでも尚真摯に向き合ってさらけ出して、2人の未来を続けるためにそうしているのが私にはとても新鮮で、感動した。
    我慢して良好にするのではない人間関係というものがとても素敵に思えた。

    また、自分自身以前に耳を悪くして低い音が聞こえにくくなってしまったことがあり、他にも色々と聴覚障害者(この本を読んだ後だとこの言葉を使うのに抵抗がある)とコミュニケーションする機会を得たこともあって、周りの人達よりは少しそういった立場の人のことを分かった気がしていたが、全然分かっていなかったと気付くことができた。
    また、もっと勉強したいという気持ちが強く湧いてきた。

    ボキャブラリーが少ないため、上手くこの本の素晴らしさや感動を言葉に出来ていないが、
    自信を持って人に勧められる、たくさんの人に読んで欲しい作品だということは、はっきり言うことができる。

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著者プロフィール

高知県生まれ。2004年『塩の街』で「電撃小説大賞」大賞を受賞し、デビュー。同作と『空の中』『海の底』の「自衛隊』3部作、その他、「図書館戦争」シリーズをはじめ、『阪急電車』『旅猫リポート』『明日の子供たち』『アンマーとぼくら』等がある。

有川浩の作品

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