帰還せず: 残留日本兵 六〇年目の証言 (新潮文庫 あ 63-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (476ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101276618

感想・レビュー・書評

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  •  内容からみてもう少し古い(昭和)時代の著作かと思っていたら、平成になってからの、それも割と最近(2006年)の刊行だというのは意外だった。著者の青沼氏は、戦後60年の節目にあたり自らの足で現地を訪れ、14人から直接インタビューしている。彼らは実はこれまでも日本のメディアから取材されているそうだ。しかし青沼氏の取材はそれらよりかなり突っ込んだものであったようだ。

     終戦後にそれぞれ派遣されていた外地から帰還しようと思えば出来たのに、自らの意志で現地に留まった日本兵がこれほど多数存在することに、筆者と同様に驚きを禁じ得ない。その動機はそれぞれ異なるが、中でもインドネシアの独立闘争に加わった人が比較的多かったようだ。一度は死んだはずの命、今度はインドネシアの再植民地化を目論むオランダに抵抗し独立を勝ち取るため、インドネシアの人々のために捧げようというものだったという。なんと純粋なそして健気な心意気だろうか。他にもインドシナ諸国の独立戦争に加わった人たちも多い。

     また中には二・三男である(長男ではなかった)ために、日本に帰っても自分の居場所がないという人もいた。当時は家長制度がまだ残っていて、長男優先の社会であった。長男以外は出ていく運命にあったのだ。こんな行き場を失った青年たちが現地に残り、自分の活躍する場を見つけたのかもしれない。やっとの思いで故郷に帰り着いたのに、肉親から「何しに帰って来たのか?」または「何故死ななかったか?」と言われた人もいた。どんな気持ちになっただろう。その人は現地へ舞い戻って行くしかなかった。心中はいかばかりであっただろうか。察するにあまりある。

     それにしてもこれだけ多くの日本兵が終戦後現地に残留し、ひっそりと暮らした人もいれば、独立運動に加勢し大きな成果を挙げた人もいる。当然新たな戦争で命を落とした人もいた。そういう人たちがいたということを忘れずにいることも重要だと思った。戦争そのものだけでなく、こんなことも風化させてはいけないのだろう。

     先日テレビの『こんなところに日本人』という番組で、本書にも登場する小野さんが出演していた。本に書いてある通り、小野さんは左腕と共に視力をも失っているが、それでも家の周りにはどこに何があるのかわかっていて歩くことができるそうだ。現地で家族にも恵まれ、幸せな暮らしを送っているという。重苦しい話題の中で、一つの光明であった。

     感動と共に読み終えた。そしてそれぞれに異なった理由で現地に残留したことを知った。それを丁寧な取材でこのような記録に残した筆者に敬意を表したい。今年は戦後70年、この本が書かれてから10年の歳月が流れたが、ちょうどこのような年に本書に出逢ったことに感謝したい。


  • 終戦後、なぜ日本に帰らなかったのか?
    この問いを残留日本兵14人にインタビューする。その理由はさまざまであり、その理由により当時の日本の空気を感じることができる。なかなか興味深いエピソードが沢山ある。今、戦争を経験した人がいなくなるなか戦争というものを知ることができる。戦争が日常だった。今の人が考える戦争と当時の人が考える戦争は違う。当時メディアも一般の市民も戦争に熱狂したであろうことが窺い知れる。祖国のために戦争で死ぬことを教えられ、それを厭わず戦地に向かう。敗戦の混乱で、ある者は異国の独立戦争に身を投じた。またある者は逃亡した。そして異国の地で家族を持ち、その地で骨を埋めた。日本のことを思いながら。
    彼らが戦ったからこそ、今の日本がある。
    それを強く思った。

  •  単純に非常に面白かった。各人でそれぞれ映画や小説になる程だと思う。
     戦争や軍人としての事実や詳しい内情より、一人の人間として、その時々の本音と心情に沿って語って&追ってくれている証言者と著者に敬意を表したいと思うし、著者の世代の方がインタビューに来てくれたからこそ彼らもそう語ってくれたのだと思うと、本当に貴重な一冊。 
     想像を絶する苦労と葛藤を秘めて南の地で静かに人生を全うする彼等に、失われた真の大和魂(軍人としてではありません)を感じ、エピローグでは涙が流れていた。
     
     ただ、若い世代や東南アジアに行ったことがない方が読まれると現地の人や空気感が想像しにくいと少し思う。

  • 2009年(底本2006年)刊。

     軍の命令ではなく、(一応)自発的に現地に残留した日本兵の戦時中及び戦後の体験を聞き取り調査したもの。
     残留理由も様々。軍を脱走(インパール等苦悶に耐え切れず)、台湾出身・ブラジル帰朝組で日本に帰国しても国内に住む所もない、独立義勇兵への勧誘(特にインドネシア・ベトナム)、軍事法廷逃れ(戦犯とは限らず。隊内でのいざこざ・傷害事件も)など。


     戦前・軍体験者が減り記憶が風化していく中、本書に書かれる人物らは例外的存在ではあるが、かかる記録は大切だと思う。
     ただ、一人に一章という構成でも良かったのでは。という気もする。
     本書の良さは体験談的叙述であり、そこから特に抽象化・普遍化する理由は見いだせないからだ。

     戦中においては、
    ① 米軍の落下傘部隊にジープが降下してきたことに驚く様(落下傘降下は勿論、大八車しかなかった日本軍にはジープの存在自体驚異)、
    ② 後送の食糧輸送隊が、米英軍の空中からの輸送食料品をかっぱらって食い物にありつけて涙する件、
    ③ 士官クラスへの下士官らの冷たい目線とこれに関連する軍隊への嫌悪(明快ではないが、負傷兵を殺し食人した可能性も想起できる記載あり)等
    が体験談として印象に残る。

  • P470
    南方アジアで終戦を迎え、帰国せず現地に留まった日本兵の話。

  • 逃亡した理由は。。いや言葉がちがう。逃亡しかなかった理由は配属されてすぐ戦争が終わってしまった。婿に出されるのがいやだった。先輩に連れ出されて気がついたら脱走兵になっていた。帰る場所がなくなっていた。日本に家族がなかった。女を貰って弱くなった。日本人じゃなくなった。国家がどうだとか、天皇がどうだとか、大義名分がどうだとか、そういうのじゃなくって。個人の生活と密着したところに戦争の終わりは突然告げられて。何かを一気に見失った。腰には手榴弾だけがあとはお前次第だと陽気にぶらさがってる。「お前らは離陸だけしっかりできればいい。着陸は。。。いい。」心の居場所を探すことは本当に逃亡なのか彼らは今でも日本のことを愛している。

  • いろんな生き方があるんだなあ、
    というのが率直な感想。
    帰れないのではなく、
    帰らないという選択。
    そこに至る経緯や、
    その後の生き方、
    人それぞれで、決して良いとも悪いと思わないし、
    ただ、力強く生きていらっしゃることに、
    敬服します。

    ☆☆☆ ホシ3つ

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