東洋の至宝を世界に売った美術商: ハウス・オブ・ヤマナカ (新潮文庫 く 47-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (456ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101278919

作品紹介・あらすじ

東洋の国宝級名品を欧米で大量に売却した伝説の美術商――山中商会(ハウス・オブ・ヤマナカ)。19世紀末のニューヨーク進出を機に世界中に顧客を持つまでに成長。ロックフェラーや英国王室ら大富豪に愛され「世界の山中」と称されるようになった。が、今やその名を知る者は少ない。なぜ山中商会は姿を消したのか。近代美術史最大の謎に迫る。『ハウス・オブ・ヤマナカー東洋の至宝を欧米に売った美術商―』改題。

感想・レビュー・書評

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  • 一般にはあまり知られていないかもしれないが、古美術好き・骨董好きだったらよく知っている、日本の古美術商の山中商会の実態について調査し紹介した一冊だ。

    戦前のはじまりから、日本美術や中国美術を世界に売って売って売りまくって名を馳せた絶頂期、そして戦争に巻き込まれて多くのものを失っていく凋落期までを、多くの資料にあたりながら丁寧に語っていて非常に興味深い。

    古美術店の店主と話していたら、現在でも「山中商会」で取り扱った品だ、というだけで古美術品の商品価値が上がる、と言っていた。
    本書を読んでいると、すべてにおいて高品質なものを商っていたわけではなく、「質より量」であったり、安価なスーベニア品のようなものも取り扱っていたようだけれど、そういった商売の仕方も含めて、凄い商売人たちの集合体であった、としみじみする。

    面白かった。

  • 明治から大正、昭和初期にかけて日本美術品をアメリカで商った山中商会の興亡史。功罪に偏りなく「日本美術を世界に広めた」「国宝級の浮世絵や仏像を流出させた」の両面から、山中商会の活動を描く。有名なあれやこれやがアメリカのコレクターや博物館・美術館に渡っていく具体的な道筋は非常に興味深い。

  • すごく面白い冒険物語のような、それでいて論文のような不思議な本。
    論文を書く前に書き方の参考として読んでも良いような感じ。

  • 面白かった!

  • アメリカの美術館に日本美術の名品が収められているのは岡倉天心が関係しているのだと思っていたけれど、実際のところは山中商会がお金儲けのビジネスとして大量に輸出していたことを知りました。明治以降の日本では仏像や屏風や浮世絵なんて見向きもされなかった一方、欧米では日本熱が流行していたのだから、そこにビジネスが生まれるのは自然なこと。でも、大恐慌や戦争によって翻弄され、消えてしまった山中商会。丹念な調査でその軌跡をよみがえらせた1冊です。文体は読みづらいし、ページ数も多いですが、ドキュメンタリーが持つ力でなんとか読み進めることができました。フリーア美術館には必ず行きたい、との思いを強くしました。

  • 随分前に買ったが途中で積読状態に。また最近通勤中に読み始めた。山中商会はもし真珠湾戦争がなかったらどうなっていたのだろう…と考えずにはいられない。日本を含んだアジアの芸術の流失が止まらなかっただろうな。

  • 本書で取り上げられている山中商会について、本書を読む前は、日本の国宝クラスの美術品を海外に売ったとんでもない悪徳商人との印象を持っていた。しかし、読んだ後は、東洋美術を海外に紹介し、大成功したが、戦争により在米の全資産を失った極めてまっとうな美術商であったとの印象に変わった。美術品は、その時の国家間の優劣、コレクターの嗜好等により移動するもので、美術商にその責任を被せるのは無理があるようだ。数少ない資料を発掘し、不明であった山中商会の戦前の具体的な活動について再現した著者の努力は、特筆に値する。

  • アメリカのボストン美術館やフリーア美術館、メトロポリタン美術館には、日本美術を含む東洋美術のそうそうたるコレクションがある。とりわけ、メトロポリタン美術館の日本美術コレクション構築には岡倉天心が中心となっていたから、ポリシーと審美眼はしっかりしているのだろうが、だからといって、一から十まで天心がモノを買いつけたということはありえない。誰か目利きの美術商が入っているとは、美術に興味を持ち始めたころからずっと思っていて、当の人物らしき男性が天心らと写っている写真もちらっと見たことがあるのだが、ちゃんとした評伝やレポートというのを読んだことはなかった。これは、その「当の人物」が率いた、「山中商会」という美術商のアメリカでの盛衰を追ったノンフィクション。

    ご維新で手元不如意となった公家・武家の所有する美術品や、辛亥革命で揺れる中国から流出する美術品を扱う美術商として、山中定次郎をあるじとする山中商会は、WWⅡまでの欧米で大活躍する。山中商会については、1967年の『芸術新潮』に特集記事があるのみといえる状態で、あとは山中家の自費出版の社史くらいしか、目立った国内の資料はない。まして、美術商の慣例として、克明な売買の記録は残されていないので、日本側の記録はきわめて乏しい。そこを、アメリカに公文書として残った(美術品とともに関連書類を美術館に寄贈すると、公文書として残るらしい)記録を丹念に追い、日本ではあまり顧みられていないが、かつて世界の東洋美術界を席巻した美術商の足跡を明らかにしようとしている。アメリカには、日本よりはそういう記録が多く残っているだろうが、それを時系列でつないでいく作業は、ひたすら根気のいる作業だったと拝察する。引用は米国公文書使用のルールにのっとったものということだが、研究者にも十分活用できるガイドになると思う。

    いくつかの名品の売買・移転(provenanceという)を例に挙げ、山中商会の活動を追った序盤よりも、山中商会が欧米、特にアメリカで商売の幅を広げたさまを追い、どう閉じられていったかに重きが置かれている。特に、日中戦争から商売の雲ゆきが怪しくなっていき、日米開戦で敵国資産管理人局の支配下に入り、法人が清算されていく動きをここまで克明に追った著述作品は、学術論文も含めてきわめて少ないんじゃないかと思う。それに、驚くのは、清算のために山中商会に入った米政府の関係者が、敵国財産の処分を命じられたからといって、それほど高圧的に見えないところ。「ハウス・オブ・ヤマナカ」の名前でアメリカの美術コレクターの信用をがっちりつかんでいる山中商会の評判を落とさぬよう、できる限りの誠実な対応を、清算の最後まで取っていたように感じられる。そこは美術好きの関係者が派遣されたからなのか、「古き良きアメリカ」の精神だったのか、山中商会の顧客でもある、大富豪たちの機嫌を損ねないためなのか、詳しくはわからないけれど、殺伐とした雰囲気が感じられなくて意外だった。それに、「こんなに素晴らしい日本人/企業が!」という昨今の、海外日本人無条件称賛系の本じゃなく、美術商の「火事場泥棒」的なダークな側面も指摘してされているのもフェアだと思った。そうなのよー、美術商って、美を扱いながらも、適当だし強欲だし、ドロドロの世界だからー。

    細野不二彦『ギャラリーフェイク』や佐伯かよの『燁姫』といった美術マンガがお好きなかたには、熱烈におすすめできると思うけれど、こういった作品のような、絵画にまつわるうんちくの開陳を期待すると、結構拍子抜けすると思う。でも、国境を超えて美術品を動かす人たちがいて、その苦労の末に私たちは美術を楽しめるわけだから、こういった美術品を動かす人々の歴史も知ることができるということは、とても刺激的で楽しいことだと思う。

    気分的には☆5つをつけたいところですが、美術品の図版にサイズと材質、技法といったメモがついていなかったので(本文では述べられているんだけど、探しにくい)、ひとつ引いてこの☆の数です。ちょっとごめんなさい。

  • 祝文庫化

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    「東洋の国宝級名品を欧米で大量に売却した伝説の美術商――山中商会(ハウス・オブ・ヤマナカ)。19世紀末のニューヨーク進出を機に世界中に顧客を持つまでに成長。ロックフェラーや英国王室ら大富豪に愛され「世界の山中」と称されるようになった。が、今やその名を知る者は少ない。なぜ山中商会は姿を消したのか。近代美術史最大の謎に迫る。『ハウス・オブ・ヤマナカ―東洋の至宝を欧米に売った美術商―』改題。」

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