近大マグロの奇跡: 完全養殖成功への32年 (新潮文庫 は 59-1)
- 新潮社 (2013年11月28日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101279619
作品紹介・あらすじ
「海のダイヤ」クロマグロが世界的乱獲で絶滅の危機にさらされるなか、2002年に近畿大学水産研究所が発表した、「クロマグロ完全養殖成功」の報は世界を驚かせた。長く不可能といわれた、マグロの生命サイクルの全てを人工的に管理する技術を確立するまでの、熊井英水所長(当時)率いる研究チームの苦闘の日々に迫る。「世界初! マグロ完全養殖 波乱に富んだ32年の軌跡」改題。
感想・レビュー・書評
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こちらの仕事理解の一環で、養殖についてリサーチ。
養殖っていっても何から調べたらよいのやら、
全然イメージが付かなかったので、まずは近大マグロから。
マグロの養殖って、こんなに難しかったのか。。
魚の中でもピカ一の難しさ。
(というか、魚によってこんなにも養殖の難易度が変わってくるのか、、
というのも新鮮な発見。)
完全にプロジェクトX的なノンフィクションに仕上がっています。
生き物を扱うのって、やっぱり繊細なんだなというのが
自分のような素人にもよく理解できました。
残念なのは、著者の筆力。
もうちょっとダイナミックに大変さが伝わってきたら、
もっと面白い本になっていたのに…。
例えば、「奇跡のリンゴ」のように。
本当は、「奇跡のリンゴ」並みに面白い話のような気がするのに、
そこまで感動はなかったです。いいネタなだけに、残念。
※奇跡のリンゴ
https://booklog.jp/users/noguri/archives/1/4344416457#comment詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
先日、銀座で昼飯食べるところぷらぷら探してたら、近大マグロの店を見つけた。1500円税込でマグロ三昧、こりゃお手頃だってことで食べた。食べてから気づいた。「完全」養殖ってどういう意味?
完全養殖というのは、養殖場内で育ったマグロが産卵し、孵化し、成長し、その成長したマグロがまた産卵し、と養殖場内で何世代も繁殖サイクルを繰り返すこと。いままでの養殖は、稚魚を自然界の産卵場から漁で捕ってきて、養殖場で餌を与えて太らせてから出荷してるだけ。だから乱獲や自然環境の変化などにより、激減する危険性がある。だいたい親になる前に稚魚を攫っちゃうだから、そりゃ減るわな。
なぜ近大だけが完全養殖に成功したのか。
①近大はマグロを養殖する前から、様々な海洋魚の養殖をしていた。ある程度の実績とノウハウがあった。
②私大だったため研究期間内(この場合4年以内)に成果をあげられなくても、打ち切りとはならなかった。同時期に研究をした国公立大は、4年で成果が出なかった時点で打ち切り。
もちろん5年目からは国から研究資金はもらえないので、自分たちで稼ぐしかないのだが、すでに養殖に成功している魚があったので、漁協の協力もあり、市場に流通させることができていてので、③研究資金が調達できた。
しかし長い年月をかけても失敗ばかりだった。
稚魚の突然死が多い原因が長いこと特定できなかった。最適な海水温度がわからなかった。黒潮の影響なども考えた。
地道な研究を続けたが何年も成果が出ない。研究に対して肩身の狭さを感じていた研究者を支えたのは近畿大学初代総長の言葉だった。
「不可能を可能にするのが研究だろ」
理解のあるトップに支えられ、折れそうな心を励まして研究を続けるうちにひとつひとつ原因を特定して改善していった。
突然死は生け簀内に近くを走る車のヘッドライトが入ることによって、マグロがパニックになることが原因だった。最適な明るさを見つけ24時間点灯にしたら壁に衝突死しなくなった。
大きい稚魚が小さい稚魚を食べていた共食いの問題は水槽を分けることで解決した。
海上より自然環境が安定した(コントロールし易い)陸上に巨大水槽をつくり、そこで養殖することにより、供給が安定した。
(ものすごくざっくりまとめたので大変そうに感じないかもしれないが、実際は試行錯誤の連続で途方もない作業量)
そして世界初のマグロの完全養殖という快挙を成し遂げた。
近大がこの研究を始めたのは今からおよそ50年前。研究者以外誰もマグロ資源が減るなんて危機意識を持ってなかった時代。
素人が何とかしろなんて騒ぎ出してから、研究を始めたって手遅れって話しだ。
近大は自然界で減った稚魚を、養殖の稚魚を放流して、回復させる試みもしている。
頭が下がる。
美味しいマグロをありがとう。マグロさんも尊い命をありがとう。 -
有名な近畿大学のクロマグロ完全養殖実現の記録。
いろいろ論争はあるが、世界中での乱獲・密漁でクロマグロが絶滅の危機に瀕していることはおそらく事実だろう。漁獲制限を厳格に守っている日本としてはフラストレーションがたまるところだが、結局密漁された魚を買い付けてその8割をたった一国で消費しているのもまた日本。
30年にわたる近大の研究は、このマグロの枯渇と軌を一にしており価値のあるものだと実感。
マグロの稚魚は本当に弱く、とにかくすぐ死んでしまう。苦労して大きくなっても、養殖池の脇を車がとおるとそのヘッドライトに驚いてパニックになり全滅してしまう。
「魚はものをいわないから死んで抗議するんだ。死ぬ前に察知できなければ魚飼いとは謂えない」(P168)ということばが印象深い、魚飼い、羊飼いのように海で魚をはぐくむ誇り。
これほど息の長い研究ができたのは、すでに養殖に成功していた魚を売って得た収益を回していたからだという。まさに大学ベンチャーの走りというか、国の予算だったら間違いなく打ち切られていたはず、ということで基礎研究のありかたについても考えさせられた一冊。 -
近畿大学水産研究所が成し遂げたクロマグロの完全養殖の物語。成功まで32年間、気の遠くなる月日です。もっと養殖が進んで、美味しい養殖マグロが家庭の食卓に並ぶようになって欲しい。
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海外でマグロ漁を規制しようという動きが数年前にあったのは、マグロが消える!という報道と共に記憶にあったが、日本においてクロマグロの完全養殖がたった11年前に32年の歳月を要した後に実現し今尚産業化の取り組みが進められているとは知らなかった。本書は近畿大学水産研究所の完全養殖実現までの足跡を辿るドキュメント。「不可能を可能にするのが研究」の精神の元、私学ならではの経営自由度が可能にした長期にわたる研究の実情を丁寧に取材しており、自然の生き物を対象とする研究の難しさが伝わる。グランフロント大阪のナレッジキャピタルと銀座に研究所の名前を冠した店があるというのでこれは是非行ってみたい。
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32年かけてマグロの完全養殖を成功させた、近大「魚飼い」研究者の執念に脱帽。
銀座にある近大マグロの店に行ってみたいなぁ。 -
ここ何年か、目にする機会も増え、気になっていたワード「近大マグロ」
世界初の養殖に成功した魚である事や、そこに至るまでの32年間の苦労、そして「魚飼い」達の情熱など、初めて知った事や驚きが沢山ありました。
著書は少し古い(2008年出版)ですが、その後近大は豊田通商と提携し、本格的に近大マグロの販売を始めるなど着実に拡大の道を歩んでいます。
今後も一マグロファンとして、近大マグロの動向に注目したいと思います。 -
「近大マグロ」につきましては、その完全養殖成功の一報以来、テレビなどでも喧伝されてゐましたので、広く人口に膾炙するところとなりました。まあもつとも、わたくしなんぞの認識では、「いやあ、てえしたもんだ」レベルで終つてゐましたが。
そこで、この一大プロジェクトの成功に至るまでを俯瞰してみませうと、本書を手に取りました。
まづ基礎知識として、マグロの定義やクロマグロを取り巻く現状などをレクチュアしてくれます。乱獲により天然ものはその漁獲量が激減し、絶滅さへ心配される状況、勢ひ価格はうなぎ登り、最大の消費国である日本としては手を拱いてゐる訳には参りません。
欧州では、稚魚を捕まへてから成魚に育てる「蓄養」と呼ばれる方法が主流らしい。しかしこれでは結局自然財産を喰ひつぶすことに変りはありません。どうしても「完全養殖」のサイクルを確立させる必要がありました。むろん、簡単なことではありません。何しろ、クロマグロの生態はまだほとんど知られてゐなくて、魚のプロほど「養殖なんで絶対無理」といふ意見でした。
その難関に敢へて挑戦したのが、近畿大学水産研究所であります。
1970(昭和45)年、水産庁が指定した養殖実験事業で、サケ、タラバガニとともにマグロが選定されました。期間は三年。前述の如く、未知の分野でありますので、当初は失敗の連続でした。まづ幼魚の「ヨコワ」を活け捕りせねばならぬのですが、このヨコワ、触つただけでも死んでしまふほどのデリケートなもの。結局最初の三年間では、捕まへたヨコワは全滅してしまひます。ここで水産庁の予算も打ち切り。
しかし当時指揮を執つてゐた原田輝雄氏は諦めませんでした。熊井英水氏をはじめとするメムバアたちもリーダーの心意気に応へます。近大では、養殖ハマチやタイを販売し、それを研究資金に回せるといふ利点があつたのです。
それでも産卵が11年も無い時期が続き、リーダーにも迷ひが生じます。この間に原田氏は他界し、熊井氏が指揮官を引き継いでゐたのですが、この熊井氏、近大の二代目総長・世耕正隆氏に相談しました。資金を費やすのみで、全く成果が挙がらぬ研究を続けて良いものか......
「もうやめろ」との指示も覚悟したところ、世耕氏は「生きものというのは、そういうものですよ。長い目でやってください」と励ましたといふのです。平凡な総長だつたら、ここで研究は終つてゐたかもしれません。やはり偉業の陰にはかういふ人物の存在がゐるものです。
待ちに待つた「完全養殖」が達成されたのは、2002(平成14)年のこと。研究開始から、何と32年の歳月が経過してゐました。
初代総長・世耕弘一氏の「不可能を可能にするのが研究だろ」といふ言葉を現実にした訳であります。
その後は養殖クロマグロも次第に安定供給が出来るやうになり、現在では大阪と東京で、近大マグロを食べさせる店を開店してゐるほどであります。熊井氏によると、最終目標は「現在天然界から獲っている年間三〇万尾のヨコワを、すべて完全養殖の稚魚で賄えるようになることと、天然の海洋資源を回復させること」だとか。
熊井氏は成功の要因として、忍耐・観察眼そして愛情を挙げてゐます。諦めずに、正確な観察を続け、研究対象や仲間を大きな愛で包む。分野は違へど、全ての研究者に当てはまる要素でせう。否、学究の徒に限りません。ビジネスの場でも同様ではないでせうか。
原田氏・熊井氏をはじめとするリーダー、精神的支柱である二代に亘る総長の存在、私学であることの強み、「魚飼」のプライドを持つたスタッフたち......いづれの要素が欠けても成功は難しかつたでせう。このプロジェクトに関つた人人すべてに、拍手を送りたい気持ちであります。
http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-624.html -
立派な先生のもとで頑張った方が良いね。