六〇〇〇度の愛 (新潮文庫)

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著者 : 鹿島田真希
  • 新潮社 (2009年8月28日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101279718

六〇〇〇度の愛 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 三島由紀夫賞受賞作。
    豊崎さんがめっちゃ評価してたから気になって手に取りました

    今までいろんな小説、特に純文学誌を読んできたと自負していますが、こんなすごい小説は初めてです。ある意味。
    鹿島田さんのデビュー作、二匹、は合わなかったけど
    これはもう冒頭から引き込まれる。
    まず、登場人物にすべてに名前がない
    健康で善良な夫、できのいい人材になるのか、まだ将来が約束されていないほどの小さな子どもと団地で暮らす何不自由ない生活を捨てた女。子どもは近くの妊婦に預ける。
    女は長崎に向かう。そこでロシア人の血を引く美しい青年に出会う。
    そこでの性描写はリアルなのに美しい。いやらしいのに、気持ち悪くない。そこがうまい。
    アルコール依存症で自殺した兄、兄を愛していた母。
    最後の最後まで名前はない語り口調。それが奇妙でおもしろい。

    鹿島田さん本人がフランス文学に影響うけ、ロシア文学も好きなようでドストエフスキーが引用されてたりと結構堅く難しいし、読みにくいけど、私個人としてはおすすめします。
    芥川賞いつか、いや、近いうちに絶対受賞すると思います。
    彼女の作風はほかにない。素晴らしく美しく、哀愁漂う狂気に満ちた物語。

    ただ、嫌いな人は多いと想う。
    それと最後まで読めない人も。
    それくらい堅いというか読みずらいです。
    でも、読んで、この作品に出会えてよかったと思える本。

  • この小説、もしかしたら作家は、自分のなかで実体をつかむのに数年かかるような気がして、ぼくに瞬発力がないだけかもしれないが、気安く触ることのできない。それだけのことをしているのだろうと思う。それでもまだ目覚めていないようなところが恐い。顕在しているものより潜在するものを感じさせ、果てしないな、と思う。何を仕出かすか、もう仕出かしているのか、仕出かしているのだろうが何が起こっているのか目で追えない、もっと読め、と言われているような読書でした。

  • これは私と女、同じ人物の別視点の話が絡み合っている作品だ。片方は私が語る私の話でもう片方は私が書くであろう私を映した女を主体とした小説なのだろう、二つの話が交互に現れる面白い文体で書かれた二重構造の物語だ。六〇〇〇度の熱で長崎の街を焼いたあの原子爆弾と爆弾投下後にすべてを消し飛ばし溶かしたきのこ雲。そして私と女を繋ぐ教会。混沌とした物語は難解なふりをしていて読むたびに付箋が増え頁の耳が折れて鉛筆が入る。初めて読んだとき、予感を得た。この本はまた読み返すだろうと。予感は的中した。今度で三回目の再読だった。きっとこれこそが文学だ。そう今でも思っている。

  • 大変面白かった。物語はかんたんにいえば、主人公である女(私)と青年が長崎で出会い愛し別れる話だ。解説によれば、マルグリット・デュラスの小説二編が元になっているそうだ(ちなみに解説は明晰な文章で好感を持った)。

    この解説にもある通り、本作(というか鹿島田真希作品は、というのがただしいのだろう)「語り」の魅力にあふれている。畳み掛けるようなリズム、箴言のような力強さのある言葉の連なり。たとえば――「女は黙り込む。煙のような哀しみが彼女を横切っていく。女は青年の慮りを河に泳ぐ魚のように捕まえて、逃がす。それは自覚してはいけないことがらなのだった」(P176)――象徴的でもあり、毅然としている「語り」。

    とりわけ面白く読んだのは、ふたりの繋がりの距離感が文体において描かれている点だ。どういうことか。本作は三人称の語り(正確には複数人称?)なのだが、会話がカギカッコなしで、そのまま地の文で綴られる。
    ==========
    どうしたの? 女が尋ねる。
    僕、まだ乳香の匂いがしますか? 青年が言う。
    するわよ。女は嘘をつく。
    (P110)
    ==========
    それが次第に「女は言う」「青年は言う」などの発語主体の文字がなくなり、ふたりの会話がまるでモノローグのように一体となり、交歓する。

    しかしふたりの心の別離とともに、それは再び現れて、物語のなかでもふたりは別れてしまう。登場人物の交歓と別離を文体によって見せることで、読者としての自分も一体化し、そしれ切り離されていくような情感が湧き、他の小説のまったく違う体験をしたように感じた。

    他の鹿島田作品も読んでみたいと思わせる、すぐれた小説だった。

  • 初めから入り易く、カッコを使わない会話も好きです。難しいことはわかりませんが、私も渇いているんでしょう。長崎に行けないけど行った感じで楽しめました。

  • 平凡な主婦が唐突に夫と子供を置き去りに出奔。長崎に赴きそこでロシア人の血を引く青年とつかのまのアバンチュール、何事もなかったかのように帰宅する・・・という筋書きだけ抜きだしてしまうと昼メロみたいだけれど、内実は鹿島田真希らしい難解さ。すでに数冊読んでいるので慣れているけれど、この作品でもドストエフスキーや正教会の影響は登場人物たちに複雑に絡んでくる。

    この作者の作品ではお馴染みの「聖なる愚か者」である青年が登場し、作中の言葉を借りるなら「愚か者がくれる赦し」を主人公に与えるという基本ラインは『ゼロの王国』や『冥途めぐり』とほぼ同じではないかと思うのだけれど、比較的初期作品のこちらのほうが、最近の作品より難解だった印象。

    正直、なぜ主人公が長崎を選んだのか、その理由が「きのこ雲を幾何学的で美しいと思った」とか「六〇〇〇度の渇きをその目で見るために」だのという点は、ちょっと理解に苦しみました。解説は好意的にとらえてあったけれど、個人的にはそこに反戦メッセージがあるとは思えず。鹿島田真希には『一人の哀しみは世界の終わりに匹敵する』という作品がありますが、このタイトルになぞらえて言うなら、「個人のトラウマは戦争の悲劇には匹敵しない」と私は感じてしまう。

    しかしその違和感と、主人公の行動の唐突さ(まるで自分だけが不幸で、他の人間はなんの悩みもないバカであるかのような語られ方)に対する違和感を除けば、文体は好きなので自然に同調して読めました。アル中から立ち直りながらも自殺した兄、その兄を溺愛していた母、同様に兄を愛していた主人公のいびつな関係、とくに母と娘の関係性は自分の体験と重なって共感できるだけに身に染みました。しかしだからこそ、主人公の不幸への自己陶酔っぷりは少々鼻につきましたが・・・。

    最終的に主人公が少しだけ精神的に救済されるのは良かったけれど、完成度でいえばやはり後の『冥途めぐり』や『ゼロの王国』のほうが高いと思う。

  • 鹿島田真希氏の三島賞受賞作。最近ようやく『冥土めぐり』を読んだので、こちらも再読してみました。

    まずは凝りに凝った文章と構成に惹かれました。三人称の描写と一人称の回想を組み合せる手法によって、同一人物である「女」の意識が重層的に表現されています。また随所に表れる正教会や聖書に関する記述は、ストーリーの中に自然に溶け込んでいき、信徒である著者自身の思い入れをうかがわせます。

    全体としては、ある女性が抱いていた絶望が、奇妙な性愛を経過する中で消化されていく、といった感じでしょうか。お話そのものはとてもシンプルというか、何のことはないストーリーです。それでもいろんな要素が詰め込まれていて、途中で飽きてしまうことはありませんでした。

    「青年」と「兄さん」という二人の男の対比。ここにはキリストのための愚者、「佯狂者」というモチーフが変奏されているような印象を受けました、なんとなく。よく分からないといえばよく分からない小説でもあります。

    "(…)そんな無に近いものを吐き出しているうちに、絶望を忘れている。理由は知らない。美しいと盲信していた絶望を、記号の力を借りてあまりにも不正確に表現する。それを繰り返す。その行為が絶望すら無化する。形容不可能な現象に囲まれた世界で、ひとが辛うじて生かされるのはどのような奇跡によってだろうか"(P.177~)

  • 読みなれない文体、宗教的知識、感情移入できない登場人物…と完読するまで、時間かかった。ただ、ノーモア長崎、ノーモア原爆は共感。

  • 全てを理解する必要など全くない。きのこ雲の風景に重なる絶望の観念、乾いた虚無を満たさんと憂いを求める渇望と。その心情でじゅうぶん。読んでいてとても苦しかった。最後諦めにも似た魂の浄化が寂しい。私の肉体もいつか蒸発して透明になるだろう。六〇〇〇度の熱に侵されて。

  • 父は?

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