日本人はなぜ戦争へと向かったのか: 果てしなき戦線拡大編 (新潮文庫)
- 新潮社 (2015年7月29日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101283760
感想・レビュー・書評
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なぜ日本は太平洋戦争という無謀な戦いに突っ込んでいってしまったのかを考察したNHKの5本の特集番組を書籍化したもの。3冊セットの、本書は3冊目。
緒戦の真珠湾奇襲攻撃に成功した後の戦い方の基本的な考え方が、陸軍と海軍では全く異なっていたことが本書で示されている。陸軍が資源獲得を目的に占領した南方領土をベースに、いったん戦線を落ち着かせることを考えていたのに対して、海軍は、いずれ来るアメリカ軍の反撃を想定し、勝てる間に出来るだけ南太平洋地域に戦線を拡大するべきと考えていた。陸軍がいったん現状維持、海軍が戦線拡大である。両者は戦略として相容れない。現状維持しつつ拡大ということは不可能な訳であり、現状維持なのか、拡大なのか、あるいは、それ以外の方策をとるのかを、日本の「国」としては決めないといけない。
当然、陸軍と海軍の間では、現状維持なのか戦線拡大なのかの大きな議論・論争が起こる。そして、最終的に「長期不敗の政戦態勢を整えつつ、機を見て積極的方策を講ず」という内容、すなわち、足場を固めことに注力し、かつ、戦線拡大する、という不可能な方針が、公式に打ち出される。結局は、陸軍は陸軍の方針に従い、海軍は海軍の方針に従うという意味であり、「国」としての方針は打ち出されなかったということである。かつ、陸軍はその後ビルマに攻め入るなど、方針に反する戦線拡大も行っている。
戦争をすること自体がどうなのか、という議論は置いておき、この状態は、いったん始めてしまった戦争の戦い方がなかったということを示している。フォーメーションを決めずにサッカーの試合を始める、バッテリー間のサインを決めずに野球の試合を始めるというような話であり、これでは戦いにならない。
本書では、なぜ、そのようなことが起こり得るのかということが考察されている。陸軍と海軍それぞれの部分最適思考、陸軍と海軍を統合できる組織の実態的な不在、日本全体のことを考えるリーダーの不在といったようなことが挙げられている。それは、今の日本の、例えばコロナ対応の際の政治のリーダーシップの不在によく似ているなという感想を持った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
リーダーシップが欠如したまま、定見なく、
ひたすら戦線を拡大してゆく・・・
この組織的な問題は、現代においても変わらないと思う。
それが多くの人の直接的な死を伴わないだけで。
たとえば、ある企業が経営難に陥った原因が、
経営者のリーダーシップの欠如に由来するのであれば、
その会社の倒産によって多くの社員は路頭に迷う。
もちろん、すべてをリーダーの責任にするのは酷かもしれないが、
誰かが決めなければならない状況があれば、
それはやはり、リーダーの最たる仕事だと思う。 -
太平洋戦争開始後、なぜ戦禍に突き進んでいったのかがテーマ。統帥権と軍、陸軍と海軍の不仲、意味不明な戦争方針の策定。歴史を知り、教訓今後に生かさねばならない。2015.10.19