さよなら渓谷 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101287546

感想・レビュー・書評

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  • 読み進めるとすぐに、既視感を覚えた。あれ、読んだかしら?と思い、調べると読んではいない。もしかしたら映画かなと調べるとそうだった。映画はかなり小説に近かったようだ。高校生の時に数人にレイプされずっと引きずる不幸な女性と、大学生だった加害者。加害者も自分の罪に苛まれる日々を送っていた。2人が出会い一緒に暮らし始める。重い小説だった。

  • 吉田修一作品は深い傷と事情を背負った男女(同性愛も含む)の逃避行が驚くほど多くモチーフとして使われる。
    そこに感じるのは本文にもあるように、ある種の羨望だ。
    追い詰められ、明日をもわからぬ男女の、なんと耽美なことか。具体的に死にはしないものの、心中前の情交に近いかもしれぬこの世のものとも思えぬ悦楽を想像してしまうのだ。
     映画を見た後で、プロットに瑕疵があるような気がして原作である本作を読んでみたが、いや実に原作を忠実に色付けして映像化していた。特にラストのシーケンスは原作以上に饒舌であった。

  • 途中までなかなか入り込めませんでした。
    大体のオチも途中で読めてました。
    それでも私はこの作品が大好きになりました。
    映画やドラマと違って登場人物の心情や些細な挙動、心の動きが言葉になっているのが小説にしかない面白さだと私は考えています。
    この小説は誰もがビックリするようなことは起こりませんし、登場人物もそこらへんにいそうな人ばかり出てきます。
    日常にいそうな人たちの少しのボタンのかけ違いを、登場人物が最後までブレないまま私の期待を軽く上回ってきました。
    例えるならば、白米だとわかっていて白米を食べたのに思っていたのの二段階くらい美味しくて自分のごはんの概念が変わった時のような感覚です。
    これこそが小説の面白さだったよなあと久しぶりに感じました。

  • 読みはじめ、この男が主犯格だとは思っていなかったので、そんなことがあるだろうかと思わずにはいられなかった。もちろんその衝撃がこの本の肝なのだろうけれど。レイプシーンは本当に辛かった。女の本音はちやほやして欲しいだけで、男の本音はセックスがしたいだけで、その違いに酒と暴力がからむとろくなことにはならない。

  • 集団強姦の加害者と被害者が一緒に暮らす、というあらすじから興味を持った作品。
    幸せになりそうだったから出て行ったかなこの心情をもう少し知りたいと思った。

  • とある渓谷のそばに 奥という団地があった。
    小さなこどもが渓谷で殺されていた。
    その犯人は 母親 立花里美かもしれない。
    その母親は派手で、めだつ化粧をしている。
    テレビに写るのに モザイクされていることが、気に食わない。
    その隣に住んでいる男女は 俊介とかなこと言う。
    俊介は、近所の工場に勤め、少年野球のコーチをしていた。

    俊介が里美とつきあっていたかもしれないと言う噂が出始める。
    俊介の過去のことが 明らかになる。
    俊介は、大学生の時に 野球部で集団レイプの主犯だった。
    それで、退学になったが、先輩の紹介で、きちんとした会社に就職し、
    通信大学を卒業していた。仕事を順調にこなし、婚約も決まっていたが、
    そのまま 失踪していたのである。
    ところが、かなこが 警察で、俊介は 里美とつきあっていたと証言するのだった。

    記者 渡辺は、それがニュースバリューがあると思い、
    俊介の大学や友人にあったって 真相を つかもうとする。
    実は、かなこが レイプにあった被害者であることを知る。
    かなこは、つねに レイプされたと言う噂がつきまとう。
    一度受け入れて、結婚したオトコも 結局 暴力を振るうのだった。
    かなこの前には 『強いオトコ』 が現れなかった。
    なぜ、俊介はかなこと 住んでいるのか?
    なぜ、かなこは俊介と 住んでいるのか?
    なぜ かなこは 俊介と里美がつきあっていたというのか?

    俊介は 法的な裁きは受けている。
    しかし、俊介の過去は 消すことはできない。
    被害者と加害者。贖罪と自虐。こころの傷は癒されない。
    そのことに 向き合いながら 生活している。
    『幸せにはしない』といいながら
    『しあわせになりそうだから』と さよならとさっていく かなこ。
    かなこを 受け入れてくれる ところはあるのか?

  • 汗がとめどなく流れる夏、隣に住む立花里美は4才になる息子が失踪したと届けを出した。風光明媚な渓谷に打ち捨てられた萌君の遺体。マスコミはセンセーショナルに子殺しの犯人として美里を追った。逮捕された美里は赤いワンピースを着、豊かな乳房を誇示しパトカーに乗せられていった。

    隣室に住む尾崎俊介は、契約社員として工場で働く傍ら少年野球の雇われコーチをし生計を立てている。化粧っ気は無いが色気のある妻、かなこと2人暮らしている。
    そんな中、逮捕された美里は俊介との肉体関係を供述し、かなこはそれを裏付けるような証言をする。

    俊介は大学野球で将来を嘱望される野球選手だったが、大学時代にチームメイトと共謀し女子高生を集団レイプした過去を持っていた。その後大学を退学し、伝手を頼り就職するが過去に犯した犯罪から逃れる事は出来なかった。
    たまたま今回の萌君殺害事件の取材で運転手として雇われていた須田は、俊介のチームメイトでレイプ事件の首謀者の一人であった。須田からその情報を得た雑誌記者の渡辺は、俊介の犯罪への関与への確信を深めて行く。
    渡辺は記事にすべくレイプ被害者の女性の足取りを追うが、その後の彼女の人生は幸せなものでは無く、渡辺はのうのうと生きて隣人と情事にふけっていた俊介への怒りを深めて行く。
    被害者の女性はその後失踪し足取りがつかめていない。
    俊介は殺害に関与しているのか?俊介の被害者女性は一体どこへ消えてしまったのだろうか?


    読み始めから超ブルーで、「ああ、後味悪そうな話じゃのう・・・」と意気消沈して読んでいました。電車に乗る前に本が読み終わってしまったので、古本屋で時間ぎりぎりで手に取ったこの本、さよなら渓谷という爽やか目な題名だったので安心して買ったのにですよ、なんですかこのどんよりした雰囲気は。超憤慨!!と、思っていましたらばそんな事有りませんでした。
    最後まで読んだ時の悲しみと爽やかさと希望が同居する心内には渓谷の風が吹き抜けます。

    ちなみに僕が一番嫌いな犯罪の一つに強姦がございます。どういう言い訳をしても絶対に許してやらないと心に誓っております。もしも死刑でないのであればちょん切ってしまえと心から思っております。やり過ぎ?イヤイヤそれぐらいやらんと分からんでしょう

  • 胸にがつんときました。

    「私は、私を許してくれる人が欲しかった。」
    「私たちは幸せになろうと思って、一緒にいるんじゃない」

    呪わしい過去が引き合わせた男女の間に生まれたものは一体何?
    俊介のもとを去った「かなこ」の想い。夏美の選択に切ないとも儚いとも悲しいともいえないなんとも苦しい気持ちになります。

    「……あの事件を起こさなかった人生と、『かなこ』さんと出会えた人生と、どちらかを選べるなら、あなたはどっちを選びますか?」

    胸がぎゅっとつぶされるような問い。

    ぬらぬらといた夏の暑さの描写が作品の狂おしさに拍車をかけています。
    それに対して河原での最後の場面。静かに切り取られた感じ、俊介の静かな決意が印象に残りました。

    どうかどうか、幸せになってほしいです。

  • 映画化されると聞いたので、読んでみた。吉田氏の作品は好き系となんじゃこれ系、はっきりわかれるが、こちらは好き系。「パレード」「悪人」のように明らかに狂っているのに普通を求めそうになったり、感じそうになったりする錯覚感が好み。

  • 良い意味でも悪い意味でも(悪い意味若干強めだけど)男性にしか描けない展開な気がしちゃうね、

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著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

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