臓器農場 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (617ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101288062

感想・レビュー・書評

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  • 現役精神科医の医療系のヒューマンサスペンス。

    臓器農場というタイトルからはもう少しグロい感じを想像していたが、近未来を予測したフィクション作品という感じ(未来に決して起こって欲しくはないが)。

    無脳症という奇形の存在を知った衝撃は大きく、まして臓器移植の為に意図的に無脳症の子供が出来るようにして移植用の臓器を生産するという行為にはおぞましさを感じた。

    自分が勤める病院で行われている臓器移植の裏に何か秘密を感じ、その真相を解明しようとする規子と同僚であり友人の優子。

    そこに加わった的場医師と障害を持つ藤野。

    単なる謎解きサスペンスだけでなく、臓器移植という最新医療と、そこに関連する狂気に加えて、患者と共に成長する看護婦や叶わぬ愛の物語など、内容盛りだくさんで読み応え十分の作品でした。

    説明
    内容紹介
    新任看護婦の規子が偶然、耳にした言葉は「無脳症児」──。病院の「特別病棟」で密かに進行していた、恐るべき計画とは何か? 真相を追う規子の周囲に、忍び寄る魔の手……。医療技術の最先端「臓器移植」をテーマに、医学の狂気と人間の心に潜む“闇”を描いた、サスペンス長編。現役医師としてのヒューマンな視線、山本周五郎賞作家の脂の乗り切った筆致が冴える、感動の名作。

    内容(「BOOK」データベースより)
    新任看護婦・規子が小耳に挾んだ「無脳症児」のひと言がきっかけだった。この病院で何か途方もないことが進行している―。周囲で頻々と起る奇妙な出来事、そして親しい者たちの死。涙の渇くひまもなく襲ってくる「臓器農場」からの魔の手。マッドサイエンスを食い止める者はいないのか…。本邦医学サスペンス史上随一の熱血小説。

  • いわゆる医療サスペンスの系譜に分類される小説である。この分野の小説は、あまり読んだことがなかった。同系列のドラマもあまり得意ではない。手術の場面など、いわゆる臓器手術の場面(描写)の生々しさが苦手だからである。
    本書の著者は現役の精神科医である。もちろん医学的な知識は豊富で、それがこの小説にリアリティと重厚感を与えている。恐る恐る手にした小説だったが、読んでよかったと感じている。ナースの日常、病院の院内描写、論文の内容の細部に至るまで、あたかもノンフィクションのごときリアリティである。しかし、小説が備えるべき物語性も十分に盛り込まれている。病院の闇を巡る物語にもかかわらず、ラブロマンスの要素も(決して甘くなり過ぎない程度に)入っているのだから、この小説だけで幾通りもの楽しみが詰め込まれているといっていい。
    臓器移植を巡る倫理性を読者に突きつける話であり、「無脳症児」といういわば奇形の赤ん坊が登場する。寡聞にして、「無脳症児」なる症例は初見であり、医学的な知識が皆無な自分には医学百科的な楽しみもあった。何せ無脳症児の作り方まで書かれているのだ。
    医療の世界が舞台ということで食わず嫌いになっていた時間がもったいないと思えるほど、引き込まれる作品である。丁寧で、奇を衒うことのない描写も好感が持てる。エキセントリックなタイトルも、読後には印象が変わっているだろう。

  • 「ぼくらはそれでも肉を食う」の後に読んだので、テーマに重複する部分があり、興味深かった。現役の医師による、医療小説である。
    タイトルからも想像できるように、臓器移植が主題だ。山の中腹にある新設の総合病院には秘密の部門があり、そこでは臓器移植が行われていた。ドナーはどんな人なのだろうか。
    倫理的にとても難しい問題である。死が確定している人と臓器移植が無ければ死ぬ運命の人の命のどちらが尊いのか?この本の中で書かれていることが、これから本当に起きるかもしれない。そういう意味では、カズオイシグロの「わたしを離さないで」を思い起こした。
    本書はミステリー仕立てになっているが、ミステリーとしてよりも医療小説としての方が評価が高いのではないか。

  • 現代医療の抱える課題を、現役医師の立場からのリアルな設定と、作家・帚木蓬生の立場からの文学性で描く大作。「閉鎖病棟」では精神病棟を取り巻く人間の在り方を、「安楽病棟」では安楽死の観点から医学の倫理観を問い、今作では臓器移植という大きな課題へ立ち向かった。臓器移植を中心に蠢く黒い信念がじわじわと主人公に姿を見せていく描写には思わずページをめくる指も早まった。
    安楽病棟も臓器農場も厚みのある超大作で、医学用語も少なくないが、不思議とするする読めてしまうのが帚木文学の面白さだ。単なるミステリではなく、ノンフィクション性すら感じさせる設定と、確かに読者へ伝えようとしている医療の課題が感じ取れるのも大きな魅力である。

  • 面白かった!!!
    いのちとはどこに宿るのか、深く考えさせられました。
    欠陥を持った藤野くんが、一番地に足を着けていて、だからこそ最後の言葉がとても印象に残りました。
    的場先生の手記がとても切なく、悲しかったです。

  • ーー「母がよくききます。茂、赤ん坊のとき死んだほうが良かったか、それともこうやって生きているほうが良いかって」藤野茂はそこまで言って初めて表情を緩めた。「ぼくは、死んだほうがいいと思ったことは一度だってありません。頭が弱くても、毎日ケーブルカーに乗れるから、やっぱり生きていて良かった」(8)

  • 的場医師も敵なのかな!?と最初は思っていたけど、本当に勇敢で素敵な人だった。疑ってすみません、、
    脳がなければ人権はないのか、という倫理的な問題を考えさせられる本。
    フィクション感が弱く、すごく面白かった。
    どんどん先を読みたくなる感じ。
    廃棄庫やリネン庫、研究室に忍び込んでいる時のドキドキ感が最高でした。

  • 読後の満足感がすごい。憧れの聖礼病院に勤務することになった新人看護師。そこは驚異の臓器移植率を誇る病院だった。ある時ふと耳にした無脳症児というワードに興味を持ち、同期の看護師と先輩医師と病院の実態を調べていく。その後医師と看護師が次々に事故死、自殺と亡くなる。自分達は触れてはいけないエリアに首を突っ込んでしまったのかもしれない…。無脳症児を中心に置いて様々な人間の思惑が交差する。それぞれのキャラの立ち回りもすごく良かったし、脳がなければ人権はないのか?というテーマもすごく良かった。

  • 無脳症児と臓器移植。倫理的にどうなのか、考えさせられた。

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    ・<希望>という薬にはお金もかからず手間もかからないのですよ p.37
    ・「母も、ぼくにいつも根性をもてと言っています」p.198
    ・「ぼくは頭は弱くても根性だけはあるのです」「根性は頭にあるのではなく、心臓にあるからです」p.201
    ・新入りの看護婦にとって、目をかけてくれる医師がいるというのは心強いものだ。たとえ勤務する科が違っても、自分の存在を的場医師が知っていてくれるのだと考えると安堵感がわいた。p.280
    ・「その赤ん坊は死にたくなかったのです。生きたかったのです。泣くのは生きたいからです。生きたくて泣いているのです。お母さんはそれを反対に考えてしまいました」p.369

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著者プロフィール

1947年、福岡県小郡市生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後、九州大学医学部に学び、精神科医に。’93年に『三たびの海峡』(新潮社)で第14回吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』(新潮社)で第8回山本周五郎賞、’97年『逃亡』(新潮社)で第10回柴田錬三郎賞、’10年『水神』(新潮社)で第29回新田次郎文学賞、’11年『ソルハ』(あかね書房)で第60回小学館児童出版文化賞、12年『蠅の帝国』『蛍の航跡』(ともに新潮社)で第1回日本医療小説大賞、13年『日御子』(講談社)で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、2018年『守教』(新潮社)で第52回吉川英治文学賞および第24回中山義秀文学賞を受賞。近著に『天に星 地に花』(集英社)、『悲素』(新潮社)、『受難』(KADOKAWA)など。

「2020年 『襲来 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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