閉鎖病棟 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101288079

作品紹介・あらすじ

とある精神科病棟。重い過去を引きずり、家族や世間から疎まれ遠ざけられながらも、明るく生きようとする患者たち。その日常を破ったのは、ある殺人事件だった…。彼を犯行へと駆り立てたものは何か?その理由を知る者たちは-。現役精神科医の作者が、病院の内部を患者の視点から描く。淡々としつつ優しさに溢れる語り口、感涙を誘う結末が絶賛を浴びた。山本周五郎賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 著者の作品、ブクログ登録は2冊目になります。
    本作を読んだのは2011年になります。

    著者、帚木蓬生さん、どのような方かというと、ウィキペディアには次のように書かれています。

    ---引用開始

    帚木 蓬生(ははきぎ ほうせい、1947年 -)は、日本の小説家、精神科医。

    ペンネームは、『源氏物語』五十四帖の巻名「帚木(ははきぎ)」と「蓬生(よもぎう)」から。本名は森山 成彬(もりやま なりあきら)。

    ---引用終了


    で、本作の内容は、次のとおり。

    ---引用開始

    とある精神科病棟。重い過去を引きずり、家族や世間から疎まれ遠ざけられながらも、明るく生きようとする患者たち。その日常を破ったのは、ある殺人事件だった…。彼を犯行へと駆り立てたものは何か?その理由を知る者たちは-。現役精神科医の作者が、病院の内部を患者の視点から描く。淡々としつつ優しさに溢れる語り口、感涙を誘う結末が絶賛を浴びた。山本周五郎賞受賞作。

    ---引用終了

    ●2023年4月24日、追記。

    登場人物は、

    ・秀丸さん
    ・チュウさん
    ・昭八ちゃん
    ・敬吾さん
    ・島崎さん

  • 帚木氏は、先日「ネガティブ・ケイパビリティ(答えの出ない事態に耐える力)」という著書を読んで初めて知り、精神科医で小説も書かれているんだ~という関心が、本書を読んでみようという動機となった。

    冒頭から、まったく関連性がないと思える話が3話展開される。

    産婦人科を堕胎目的で訪れた14歳の少女・島崎由紀にまつわるあるシーンの描写。続いて、戦争で負傷しながらも帰還した父親と、不貞な(というのは後に判明するが)母親を持つ・梶木秀丸の少年期のあるシーンの描写。そして昭八さん(苗字あったかな?思い出せない)の少年期の、よい思い出と忘れたいようなつらい記憶のシーンを描写している。

    それぞれが、短編小説のような展開だが、これが後々の「閉鎖病棟」で展開される出来事のための伏線となっている。

    「閉鎖病棟」とは、入所者の外出が制限されていたり、入所者との面会が制限されているような精神病棟のことを意味している。この表現そのものが適切かどうかということもありそうだが、若干古い小説でもあり、そこは触れないでおきたい。

    実は先の3つの話の主人公は、この病院へ通院する患者であったり、入所している患者であったりする。そして、その病院に入所する様々な患者の日常や、そこで従事する主治医や看護師などの日常、つまり病院での日常的な様子が小説に展開されている。そしてこの小説全体は、チュウさんという人物を中心に描かれている。

    チュウさんは、この病院の入所患者であり、多くの入所者からも、医療スタッフからも人気のある人物である。

    著者は精神科医であるだけに、著者自身の日常が、この小説の素材となっていることは明らかだ。もちろん、登場人物は架空の人物であろうが、その人物像については、著者の経験則からストーリー構築されているはずだ。それぞれの人物の家族構成とか、過去の出来事とか、そういうことが小説でありながら、リアリティを帯びている。

    島崎由紀には、想像を超えるショッキングな背景があった。このキャラクター設定をした著者について様々に考えてしまう。

    現実にもこのような悲劇の患者は多く存在するのだろうか。そういう患者のモデルを小説の素材として書ける著者は冷淡ではないのか。いやいや著者はそういう患者の心も十分理解したうえで、小説を通じて読者になんらかのメッセージを伝えようとしているのか。

    この小説の中に、読者を腹立たしい気持ちにさせる何人かの人物がいる。最も問題ありの人物像として描かれている重宗(やくざで、暴力的で、身勝手で、非情な行動をとった人物)でさえも、及ばないもっと醜いと感じる人物像が描かれている。

    島崎由紀の母親やその再婚相手の義父(これが最悪)、秀丸さんの浮気性の母親、聾唖の昭八さんを小ばかにする義兄、そしてチュウさんの退院を醜く拒否する妹夫妻。

    いったい心の病気とは何なのか。
    思いがけない人生の流れの中で、殺人者や放火者になってしまい、それが理由で「精神的に病むもの」となってしまうものがいる。一方、明らかに純粋な心を自分の身勝手のゆえに踏みにじろうとする「醜い心」を持つ者もいる。

    閉鎖病棟に隔離されてきた登場人物の中に、純粋な心が存在していたり、閉鎖病棟の入居者を外から見下す人たちの心の中に、醜さを感じたり。そういうことを考えさせてくれる小説であり、おそらくこれは、ごく一般的な日常の中にあるんだろうと思う。

  • 閉鎖病棟

    1.閉鎖病棟より
    「患者は、もうどんな人間にもなれない。
    だれそれは何なにという具合に、かつてはみんな何かではあった。
    病院に入れられたとたんに、患者という別次元の人間になっていしまう。」

    2.購読動機
    山本周五郎賞の作品を読み、「人間らしさ」を感じ、そのテーマの心地よさを覚えたからです。
    「光媒の花」もそうでした。

    3.読み終えて
    精神が通常と変化して支障をきたした人々の物語です。

    時期は戦後から40年間くらいでしょうか?
    それぞれの人が、なぜ、どんな背景があり、精神が壊れ、入院せざるをえなかったのか?の描写もあります。

    つらく悲しいことは、入院した人の家族がなかなか見舞いにいかない描写です。
    身寄りはある、しかし見舞いにこない、それが数十年間に及ぶとなると、人は人に対して何を感じてしまうのか、、、。

    後書きにもありますように、著者は精神病の医師です。

    そのため、物語のなかで起こる事件やイベント(年一回の病院の出し物発表会)を通じて、私たちがその世界で起こっていることの疑似体験ができます。

    その読書体験を通じて、同じ世界にすむ人の物語と理解することが大切と考えます。

    #読書好きな人とつながりたい


  • 作者の人間性を伺い知れるような作品。
    人間の枠付けへの拒否、どんな人へも注がれる慈しみの眼差し、そして希望。

    「閉鎖病棟」というタイトルは、社会がまだまだ「生きづらさを抱えた人」に対して閉鎖的であるという著者の思いの表れだと。

    暗く重い過去を不器用にも潔く生き抜いた者たちが、肩寄せあって陽だまりをつくっていく。厳寒を越えて春を迎える、そんな空気を感じられる小説。

  • 著者の「ははきぎほうせい」さんはTBSから大学に入り直しお医者さんになられたそうです。

    10代半ばの島崎由紀さんが堕胎するところから物語が始まります。

    秀丸さんや昭八さん、チュウさんの病棟に入るまでのいきさつなどを伝えながら、精神科病棟の日常を描いてゆきます。

    由紀さんとの接点はどのようにやってくるのかと読み進めるうちに、想像を超えて酷い展開が待っていました。

    読み終えて、世帯主の人柄の大切さや、 閉鎖病棟の壁の外にも病巣は存在すること、閉鎖病棟の中の平安も、実は法だけじゃ守りきれない現実があることも伝えています。いえ、閉鎖的な性質だからって諦めずに善良を導く法整備と見守りが必要だと思いました。

    新川先生や婦長、主任や裁判所の人々も暖かくて胸がいっぱいになりました。
    ただ、秀丸さんが奪った命、救った命は、どちらも測ったり比べられない大切な命。それは忘れてはいけないと思っていたけど、それを誰よりも理解しているのはおそらく秀丸さん。
    平気で幼い義理の娘を傷つけ続けた由紀さんの継父や、多くの患者を気まぐれに暴力で罪の自覚もない様子で傷つける重宗。自分が罪人かもしれないという自覚もないことの恐ろしさ。
    先生達が聞いた「自分はどこが病気だと思う?」の問いに「沈黙」するチュウさんにそれでいいと言う先生。
    その無言の空白のなかに確かにあるものを、私も持っていたいです。

  • 秀丸さんのチュウさんに宛てた手紙に感動!!!
    そしてチュウさんの返信の手紙にまた感動!!!
    そしてそしてチュウさんが秀丸さんの裁判で堂々と臆する事なく、力強く証言する場面に感動!!!
    どうか、秀丸さん・チュウさん・昭八ちゃん・敬吾さん・島崎さんが幸せになっていますように……
    感涙です。

  • 精神を病んでしまった事により家族・親類から見放され、病院での生活を余儀なくされる患者たち。
    身の回りに精神病患者がいないが、もし身内に発症したとして、今までと同じように声を掛けられるのか…と思う。
    開放病棟であっても社会から隔絶されているという意味では閉鎖病棟と同じ。
    でも中にいる患者は、確かに心を持つひとりの人間で、世捨て人になったわけではない。外に出たい、家族といたい、人らしく生きていたいはず。
    20年余りも共に過ごしてきた友人達が互いの「生きる未来」を支え合う姿に爽やかな気持ちになった。


  • 最近特に、精神科に興味がある。精神科医の名越康文先生のyoutubeにハマったのが原因だと思う。

    そんなこんなで手に取った閉鎖病棟。現役の精神科医である帚木蓬生さんが朴訥とした語り口で描く、精神科病棟の人々のおはなしである。

    帚木蓬生という名前から、何故か瀬戸内寂聴さんみたいな人だと思いこんでた。精神科医と知ってびっくり。閉鎖病棟も説教くさい自己啓発本だと思って数年間読まずに放置してたのは秘密である。恥の多い人生を送ってきました。

    読み始めていくと、はじめに地の文に対しての違和感を抱いた。群像劇だからなのかな。登場人物の個性が地の文に全然反映されない感じ、物凄く淡々としてる感じがした。でもそのうちストーリーが面白くなり過ぎて気にならなくなった。

    読者にちょっと不親切な群像劇がとても好き。え!この名前…ってなって前のページに戻るの楽しい。ルンルン気分で中間部は読み進めていった。

    精神科病棟に対して、漠然と怖くて汚い牢屋みたいなイメージを持っていたし、患者さんは自分にとって相容れない人達だと思っていた。この本を読んでいると、病棟にいる人たちだって、今まで生きてきた歴史があって、様々な感情を抱えて今を生きているんだよ。って優しく諭されてる気がした。


    「病院に入れられたとたん、患者という別次元の人間になってしまう。そこではもう以前の職業も人柄も好みも、一切合切が問われない。骸骨と同じだ。

    チュウさんは、自分たちが骸骨でないことをみんなに知ってもらいたかった。患者でありながら患者以外のものにもなれることを訴えたかった。」

    胸を突かれた。医師である帚木さんは、どのような気持ちでこの言葉を紡いだのだろうと思った。

    最後は本当に感動した。上手く言葉にできなくて小学生の感想みたいになってしまった。物語としても素晴らしく面白かった。

    帚木さんはどの程度現実の精神科病棟に即して書いたのだろう。私は今、精神科病棟やそこにいる患者さんに対して素敵な偏見を抱いてしまった。実際を見た時、私はどのような気持ちになるのか、今はまだ想像できない。

  • ある街の閉鎖病棟の物語。
    それぞれ、辛く重い過去があり、家族や世間から疎まれ遠ざけられながらも明るく生きようとする患者たち。
    互いの良いところを認め合いながら、不自由はあっても助け合いながら暮らしている。

    そんな時、殺人事件が起こる。
    彼が殺人事件を起こすきっかけは!?

    理由を知る患者たちがとった行動とは!?


    殺人事件と書いてあった為、推理小説だと思い込んでいた私は、最初から、あれ??あれれ??
    全然面白くなってこないぞ??という感じ。

    本も半ば過ぎて、あーきっとこれはそういう系ではないのだなと諦めてから(笑)だいぶ受け入れられるようになった。

    それぞれ不自由がある患者たちの日常が、ある事件をきっかけに少しずつ変わっていく。
    世間からは精神病だと忌み嫌われる彼らだが、中に入ってしまえば、それぞれ患者たちは綺麗な純粋な心を持っている。
    彼らの温かい気持ちに心洗われるストーリー。

  • こういう重い作品は好き。映画観た後に読んだけど、それでも原作は良かった。ただのヒューマンドラマじゃ終わらない。

    昭八くんがとても好きなんだけど、上手く伝えられないもどかしさが辛くて辛くて堪らない。

    就活の時に「好きな小説は?」って聞かれて、答えるくらい好きな作品。

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著者プロフィール

1947年、福岡県小郡市生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後、九州大学医学部に学び、精神科医に。’93年に『三たびの海峡』(新潮社)で第14回吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』(新潮社)で第8回山本周五郎賞、’97年『逃亡』(新潮社)で第10回柴田錬三郎賞、’10年『水神』(新潮社)で第29回新田次郎文学賞、’11年『ソルハ』(あかね書房)で第60回小学館児童出版文化賞、12年『蠅の帝国』『蛍の航跡』(ともに新潮社)で第1回日本医療小説大賞、13年『日御子』(講談社)で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、2018年『守教』(新潮社)で第52回吉川英治文学賞および第24回中山義秀文学賞を受賞。近著に『天に星 地に花』(集英社)、『悲素』(新潮社)、『受難』(KADOKAWA)など。

「2020年 『襲来 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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