銃 (新潮文庫 な 56-1)

著者 :
  • 新潮社
3.56
  • (12)
  • (37)
  • (39)
  • (4)
  • (2)
本棚登録 : 274
感想 : 41
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (196ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101289519

作品紹介・あらすじ

昨日、私は拳銃を拾った。これ程美しいものを、他に知らない-。ある夜、死体の傍らに落ちていた拳銃。それを偶然手にした私は、次第にその"死と直結した機械"に魅せられていく。救いのない孤独と緊張。膨らみを続ける残酷な妄想。そしてその先には、驚愕の結末が待っていた…。非日常の闇へと嵌まり込んだ青年の心の軌跡を、確かな筆力で描く。若き芥川賞作家、堂々のデビュー作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 冷静に自分を分析する主人公
    銃を拾うことであらゆる可能性を手にしたと確信していた主人公がどんどん不自由へ向かっていく気づいていく姿、どことなく感じられる危うさ、その描写に圧倒された

  • 語り手である「私」は、川沿いで自殺したと思われる死体を見つけ、その手に握られていた拳銃を拾った。それ以来、退屈に満ちていた「私」の周囲の中にあっても、「機嫌がよく」なるようになり、「私」自身、自分の中で起きたその変化を自覚する。しかし一方で、拳銃は、心を惹きつけ拳銃を撃ってみたい、人を殺したいという物騒な想像を「私」に掻き立てるようになった。

    公園で猫を殺したあと、隣の部屋の女性を撃ち殺すことは思いとどまるものの、電車で隣に座った「汚い男」を衝動的に撃ち殺してしまう結末は、衝撃的であった。物語の途中、取り調べにきた警察官が、「私」に対して、拳銃を捨てるように忠告する。
    「猫を撃ったということは、次は人間です。」「あなたは次に、人間を撃ちたいと思っているはずです。」「人間を殺すとね、不思議なことかもしれませんが、普通の理性でいられないそうです。」
    物語は、警察官の忠告通りの結末に至ってしまう。

    「汚い男」を撃ち殺してしまったとき、「私」が思う「これは、なしだ」『私は打たなくてもよかったのだ』という言葉からは、彼が、本当に衝動的に撃ってしまったこと、自分のやってしまったことを一瞬受け入れられなかったことが伝わる。その後、彼は、自殺を試みるも、手が震え、銃弾を装填することができないところで、物語は終わる。
    養父母に育てられ、少し不真面目な大学生の生活を送りながらも、何も問題なく人生過ごしてきた彼が、人を殺してしまった理由は、ただ、手許に拳銃があったから、というだけだったように感じる。意外に、人が人を殺してしまうとき、というのは、そういうものなのではないか、と恐ろしい物語だった。

  • なるほど、たしかに最後え!?………ってなりますね。

  • 38866

  • 銃を持ったことでなんでもできるなんて、自然と洗脳されるその物の威力がストレートに伝わる.
    撃ったらどうなるんだろうってもやもや、破裂しそうな一歩前をもっと読みたい.

  • 中村文則のデビュー作。デビュー作でこの気迫はすごい。
    とある青年が拳銃を拾ってからの日常と心の変化をとことん描き尽くしている。
    ただこの場合は普通が異常に変わっていくのではなくて、もともとこの青年の中に潜んでいた闇が、拳銃をみつけたことで惑わされ、魅せられ、支配されていくことではっきりと目覚めてしまったかのような感じを受けます。
    「私」という一人称ですすんでいくのに、あくまでも第三者的なのが印象深い。
    犯罪心理学のような側面としても極めて秀逸な小説だと思いました。
    この小説における銃とは、自由と可能性のメタファーのようなものだと述べる解説も好き。

  • 初めて読む作家さん。
    図書館で見かけて、急に読みたくなって手に取った。

    「普通の」青年が、或る日ふとしたことで拳銃を手に入れる。
    本当に普通に。
    それで何かしようという下心など無く。

    彼はただ、そのフォルムの美しさに惚れぼれした。
    それを「お守り」のように持っているだけで、毎日が楽しくなり、前向きな気持ちになった。
    家に愛する女が待っているように、いそいそと帰って銃を磨く。
    眺める。
    撫でる。
    そう、彼の銃に対する気持ちは、得難いレベルの愛する女を自分の物にしたような…

    しかし、彼の心はだんだんと銃に支配されてくる。
    銃は自分を主張し始めるのだ。
    自分は磨かれるために存在するのではない。
    観賞されるために存在するのではない。
    早く本来の働きをさせて。
    …物がそんな事を考えるはずはないのだけれど…
    青年の心はどんどんと囚われて行く。

    なるほど芥川賞作家、と思った。
    この作品で取ったわけではないけれど、明治~昭和の文豪のような雰囲気を持った文章だ。
    内面に深く染み込むような心理描写が、淡々と書かれているようで、無駄が無くすごい。
    なんとなく現実感が無い感じがする中、聞きこみに来た警察の男だけが、生きている人間のような気がする。
    あとは、夢が醒めた瞬間と言った感じのラスト。
    この終わり方も、出来事としては予想の範囲内だけれど、描写がすごい。

  • 2015 4/28

  • 「私」はいつの間にか「自分」に凌駕され、侵される。
    「おかしいな、こんなことをするはずじゃなかったんだ」
    「自分」がまさに「私」を飲み込んだ瞬間。

  • 2014/07/06
    不安や動揺の描写が鮮明。泥酔した時のような気分になる。
    銃という機械が持つ目的に心が乗っ取られていく。携帯電話が無いと外に出られない僕らも同じかもしれない。

全41件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中村文則の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
桜庭 一樹
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×