土の中の子供 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.34
  • (91)
  • (236)
  • (348)
  • (105)
  • (21)
本棚登録 : 3268
感想 : 273
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101289526

作品紹介・あらすじ

27歳のタクシードライバーをいまも脅かすのは、親に捨てられ、孤児として日常的に虐待された日々の記憶。理不尽に引きこまれる被虐体験に、生との健全な距離を見失った「私」は、自身の半生を呪い持てあましながらも、暴力に乱された精神の暗部にかすかな生の核心をさぐる。人間の業と希望を正面から追求し、賞賛を集めた新世代の芥川賞受賞作。著者初の短篇「蜘蛛の声」を併録。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 新潮文庫の100冊。
    「キュンタうちわしおり」がほしくて購入。

    133回(平成17年上半期)芥川賞受賞作。

    実は中村文則さんの作品は「教団X」を挫折したことがある。当時は読書に時間が取れなかったのか、内容が合わなかったのか、理由は覚えていないけど、なんとなくアレルギーを感じていた。

    今回はリベンジの読書。
    字も大きいし、中編なのでスイスイ読める。
    冒頭の「私」を不良が容赦なく鉄パイプで暴行する残虐なシーンも、目を背けることなく読める。
    自らの恐怖を克服して生き延びる姿は感動的だし、希望を感じる結末には好感が持てる。結構面白く読めた。

    しかし、芥川賞選考委員の山田詠美は「不感症の原因が死産。いかにも若い男子が考えそうなことですな」と言っている。
    また、村上龍は「虐待を受けた人の現実をリアルに描くのは簡単ではない。」「そういう文学的な「畏れ」と「困難さ」を無視して書かれている。深刻さを単になぞったもので、痛みも怖さもない」とバッサリ。
    確かに、そういう軽さも感じるんだよなぁ。

    アレルギーも克服できたようなので、中村さんの他の作品も読んでみよう。

  • 表題の芥川賞受賞作と「蜘蛛の声」2編

    幼児期の厳しい虐待の記憶から、被暴力への依存性とも思われる主人公タクシードライバー、27歳。

    彼は、被暴力の中で思考する。
    自身の生の認証は、死との狭間で可能なのか。
    彼は、数々の死の欲動の中、抵抗し踏み留まる。

    実親を拒否し、「土の中の子供」としての出生を受容した時、僅かだが、現実の未来が訪れる。

    主題が幼児虐待になるので、読者を選ぶかもしれない。

    短編の範疇なので、仕方ないかと思うけど、ラスト近くの慰問会のエピソード、又、彼に肯定的な対応をみせた同施設の男の子の成長・自殺、彼の施設入所時の医師の話等は、もう少し書き込んでいたら、彼の屈折の遍歴を辿れたかもしれない。


    「蜘蛛の声」

    社会あるいは、自己との闘いからの逃避。
    存在自体を曖昧にしてしまう雰囲気が良い。
    まあ、蜘蛛をださなくても良いんじゃないか?

    何か期待してしまう作家さんでした。他の作品も読みたくなりました。

  • ⚫︎受け取ったメッセージ
    圧倒的な理不尽、人間の強さ、尊厳

    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)

    僕は、土の中から生まれたんですよ。

    親から捨てられ、殴る蹴るの暴行を受け続けた少年。彼の脳裏には土に埋められた記憶が焼き付いていた。新世代の芥川賞受賞作!

    27歳のタクシードライバーをいまも脅かすのは、親に捨てられ、孤児として日常的に虐待された日々の記憶。理不尽に引きこまれる被虐体験に、生との健全な距離を見失った「私」は、自身の半生を呪い持てあましながらも、暴力に乱された精神の暗部にかすかな生の核心をさぐる。人間の業と希望を正面から追求し、賞賛を集めた新世代の芥川賞受賞作。著者初の短篇「蜘蛛の声」を併録。


    ⚫︎感想
    幼少期の、あまりにも理不尽で一方的で悲惨な被虐体験から、生きるための自ら生むしかなかった防衛策の呪縛から、自らを解き放つ。

    圧倒的な悪の力を前に、「生きる」ということを究極に追い詰められながら、考え抜いた主人公を描いた素晴らしい作品だった。

    幼少期の被虐体験をされた10名ほどの方のインタビューを見たことがあるが、大人になっても傷が癒えるということはないと知ったし、その影響は大人になってからも計り知れない。逃げ場のない子供を追い詰める卑劣は許されるはずないが、起こりうることもまた止められない事実としてある。やはりなんとか行政や周りの大人が気づいて救うしかないと考える。

  • 中村文則「教団X」を2020年
    読もうと思いながら読めなかった、今年中村文則のこの作品に図書館でであった。

    冒頭集団リンチから始まる。
    あー辛い、読むのをやめたい。
    やめたい、やめよう。

    本文より

    ー殺したろうぜ
    ーいや殺さんでいい

    はるか遠のく意識の中で、主人公は聞いてる。
    苦痛を感じながらこのまま
    時間が過ぎていけば
    私は何か、他のものになるのではないか

    場面は変わりなんとか
    家にたどりつき同居人白湯子のもとに
    彼女もまともではない、アルコールに溺れ
    悲惨な過去に縛られ
    どちらを向いても希望などなく
    悲惨
    昔読んだ本にこんなことが書いてあった
    『幸せは一通り同じだけど
    不幸は幾重もなって訪れる』みたいなこと
    モーパッサンあたりの本、このわたくしめのいい加減さ。

    本文より
    二親はこの子を捨てた
    引き取った遠い親戚は虐待をし続ける
    虐待し続ける時にあげる声が可笑しいと彼らは笑った、よく笑った
    かれらが笑うことを喜んでくれることを、私は自分にとっての希望だと思っていた。
    この本の凄いところは
    虐待の最中でも、自分を見つめて、見つめて究極に自分を見つめる
    真っ向から対峙する。

    ここまで人として扱われず
    いじめられて虐められていくと
    本文より
    私の中の意欲のようなものか、段々となくなっていく
    主人公は、もはや27歳
    タクシードライバーである
    ある日強盗に会う、
    死ぬ?殺される?

    もうやめて、希望はないの?
    何か生きていくよすがでもでてこないと読者私は
    逃げ出したかった。ー

    本文よりーこの世界の、目に見えない暗闇の奥に確かに存在する、暴力的に人間や生物を支配しょうとする運命というものに対して、そして力ないものに対し、圧倒的な力を行使しようとする全ての存在に対して私は叫んでいた。私は生きるのだ、お前らの思い通りに、なってたまるか。
    いうことを聞くつもりはない。私は自由に自分に降りかかる全ての障害を、自分の手で叩き潰してやるのだ。ー

    極限、死のそこまで行き
    地獄を見続けたからこその主人公の行き着く境地。

    悲しいとかじゃない
    なんの涙かわからない
    ただただ感動で泣いていた。
    表題の「土の子供」の意味がわかる。
    途中でやめなくてよかった。











  • 相変わらず中村先生の本に出てくる人は暗い。前回読んだ「世界の果て」でも感じたことだが、喜怒哀楽も起承転結もかなり掴みにくい。まだまだ、私には難しかった。

    主人公の感じている"恐怖"は今までどんな場面でどのくらい身体や心を蝕んできたんだろう。そう考えるだけで心が痛くなる。
    白湯子と出逢ってお互いを知っていく過程で、誰かと生きることに幸せを感じるようになっていくのかな。最後のページのように彼がもっと強く、そして幸せに進むことを願う。

  • 癖の強い言い回しが多かったけど、慣れるとすぐに読むことができた。
    内容は面白かった。
    時間の無駄にはならない。

  • これ以上ない程、暗い。
    虐待がテーマだけに、主人公の気持ちの移り変わりに共感できる人と出来ない人がいると思った。でも自分にとってこの小説はほんとに出会えてよかった。ここまで暗くて陰鬱な現代の純文学に出会ったことが無かったし、これぐらいにリアルな心理描写が出来るのは中村文則さんだけだと思った。自分と自分が一致するために、自分から痛みを求める主人公。そのようにして、自分の生きる軸を見つける。彼はその方法しか生きるすべがなかったのだと思うと、泣けてくる。
    後ろ向きすぎる応援歌みたいだなと思った。

  • 2017年3月23日読了。
    養父母からの虐待の記憶を引きずり、死の淵ぎりぎりまで近付こうと、わざと殴られる主人公。鬱々とした、暗い内省的な文章が続きますが、決して退屈ではなく先へ先へ読ませる魅力があります。幼少時のエピソードを読むと、これだけ厭世的になるのも仕方ないと納得。最後は救いがあり、良かった。
    短編の「蜘蛛の声」は面白かった。ある日突然すべてを捨てて橋の下で暮らすようになる男の物語。

  • 古本屋でたまたま目につき、教団Xで聞いたことある作家さんだし、買ってみるかくらいの気持ちで購入した一冊。結果的にとても刺さった。村上龍とか筒井康隆とか重くてバイオレンスで漢臭くて繊細な感じが好みなのでタイプだった。
    内省の描写は細かくて、「私」からみた世界でしか描かれていないのでのめりこんでしまうような気がした。不感症の白湯子とのセックスのあと「私のセックスが終わると~」とか、わざとビルから転落したときの「なぜああいう行動を取ろうとしたのか。いや、その理由もわかっていたし~」とかとにかく主観的で、考えが二転三転するのも人間だなと思う。境遇が似ているわけでもなんでもないけど、細かく共感できる表現が多かった。土の中の子供の「私」は不幸に恵まれすぎてないか??と思ったが、こういう人生もあるのだろうか。。フィクションの世界であってほしい。
    これから中村文則の作品色々と読んでみたい。本作で何度か出てきて、ポイントと感じた箇所は以下。

    土の中の子供:(暴力、痛み、落下は)始まったら止まらない。決定した事柄をただ待つだけ。
    蜘蛛の声:隠れているという状態、その行為が、たまらなく快感だった。

  • 中村文則作品全般に漂う、陰鬱で湿り気を帯びた悪意を感じさせる。読んでいて、ズシンと重たくなり、日常の閉塞感で常に溺死寸前、空気の底を感じる。
    気づけば中村氏の描写に深く引き込まれていく。この物語最終は救いであると信じる。

全273件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中村文則の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
村上 春樹
村上 春樹
村上 春樹
伊坂 幸太郎
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×