- Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101289526
感想・レビュー・書評
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とある人のおすすめ
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苛立ちの共感。
メディアへ訴えかけているようにも感じ取れる作品だった。いくつか読んだあとに読んだせいか、洗練されているように感じた。ここから何作もの作品が展開されていきぶれてないところが好印象だった。メディアに向けた「土の中の子供」のラスト、振り切ったところがかっこよかった。
「あるいは、」の使いが特有の雰囲気を出していた。 -
暗いと思ったけど途中から一気にさわやかになってよかった
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虐待された経験が、無意識に自己を消そうとする衝動となっていつまでも自分を支配する。それは長い時間をかけて人から愛されることでしか解消できないのだろう。
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2023/1
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作者の中村さん特有の、登場人物の心理の表現がすごい。
少しの時間しか経ってないのに、ものすごい心理描写の量。
ただ、文章量がその分多いので、少し読みにくいかも。 -
中盤まで繰り返し描写される、自己同一性をつかむための破滅願望は生々しく生き生きとしていて、読んでいてとても辛かった。が、後半にいくに従って説明的なセリフが多くなり、読んでいればわかるようなことまで説明されて興ざめしてしまった。前向きに生きようとする転機も弱く、ドラマ性に欠けると思う。
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土の中の子供 3
蜘蛛の声 2 -
中村文則は、1977年生まれの小説家。2002年に『銃』でデビュー。2004年、『遮光』で野間文芸新人賞。2005年、本作で芥川賞を受賞している。
彼を知ったのは、彼が最新作の『掏摸(スリ)』で大江健三郎賞を受賞し、そのことを紹介した新聞記事でだった。彼はそこで、「小説を書くことで生きることができた」という趣旨のことを語っていた。書くことと生きることとの不可分を語る作家に久しぶりに出会った気がして、早速彼の著作を紐解いた。
この小説は、若いタクシー運転手が、虐待を受けた過去と自らの内部に巣食う暴力性を見つめる中で、生の意味に迫る作品。ドストエフスキーやカミュなどの影響があると言われるその文体と表現は、現代の作家としては古風であり、そのため、自己の内面に遡行し凝視してきた過去の作家たちの作品を模倣しているような「既視感」も感じてしまう。
しかし、それでもなお、この作家の作品を読む意義は大きい。なぜなら、まず、現代の中高生が、初期の読書体験としてこの作家を読むならば、それがむしろ将来の「古典」への入り口になり得るからだ。
そして、彼の小説には、読み手に「既視感」を乗り越えさせる「必然性」がある。書かずにおれない必然性が書き手の側にある時、読み手は何よりもそれに感応し、それによって小説を読み進める。中村文則を読むことは、書き手の必然性という推進力を受け取りながら、私たちの中に小説を読む時間を創出する体験である。(K)
紫雲国語塾通信〈紫のゆかり〉2010年6月掲載