遮光 (新潮文庫)

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著者 : 中村文則
  • 新潮社 (2010年12月24日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (155ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101289533

遮光 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 限りなく5に近い★4つです。

    いや~…

    まじでこの人すごい。
    24でこの世界観、完成度の作品を書くとは本当にすごい人が現れた。

    個人的な好き嫌いはあろうかと思うが、
    少なからず読書をするものであれば、
    この小説が(というか作者が)他とは明らかに違うということがわかると思う。

    大衆文学やら純文学のそもそものカテゴリ分けなどは知ったこっちゃないが、
    もし分けるとするならば大衆とは一線を画するのは必至だ。

    限られた登場人物、限られた場面、
    進展しない物語の中、
    ここまで世界が広がる小説こそ、私が読みたい小説であり、
    本当の物語は外にではなくやはり内にあるのだと、
    改めて思い知った。

    本作は、恋人を失った虚言癖の男がその恋人の指と共に行動を共にするという
    かなり変わった物語であるが、
    その異常性如何よりも、陰鬱なものを秘めながら社会と関わる姿に全てがあるように思えてならない。

    タイトルが『指』とかでないのも、重点がそこではないことを物語っていると思う。

    虚言癖でありながら、簡単に狂人然としないところにも好感を覚えた。
    小説でもリアルでも、簡単に人が狂いすぎる昨今だから。

  • 亡くなってしまった彼女の指を瓶に入れて持ち運ぶ青年。
    彼は突拍子のない嘘を繰り返す、虚言癖だ。人から聞いた話を、あたかも自分の体験のように他の人に話したり、亡くなった彼女を留学していることにしたり、何が本当かわからない。多分、本人もわからないんじゃないだろうか。演じるように彼は生きる。
    必要以上に人を傷つけることが出来る、いわゆるサイコパスのような行動も多く、その行動はいつ彼を破滅させてもおかしくなかったが、最終的には人を殺してしまう。
    やり場のない怒りのようなものを終始感じさせる小説だった。

    ---------------------------

    あとがきで中村さん本人が言っているように、何かを持ち運ぶ、という設定が前作『銃』と似ていた。主人公が持ち運ぶものに依存しているという部分と、最後に突発的に人を殺してしまうところも同じかな。読みだしてすぐに引き込まれる、魅力的な設定。
    破滅に向かっていく人間。壊れていく人間の視点が実直に言って面白かった。彼女が亡くなる前から、両親を亡くしたときからもうおかしくなっていたのか、もしくはそれ以前から狂っていたのか。
    考えながら読むのが楽しかった。明るい内容じゃないのに楽しかった。

    ---------------------------

    「嘘について」
    Yahoo!のトップページを見ると、下のほうにYahoo!知恵袋の名作編みたいな特集が表示される時がある。暇な人が時間を持て余してなんとなく眺めるもので、ダラダラと眺めてしまうことが多い。
    そのときはゲーム『どうぶつの森』に関する知恵袋が並べられていて、なかなか面白かった。
    「妻がどうぶつの森から帰ってきません。どうしたらいいでしょう」みたいな質問だったと思う。”奥さんがゲームに没頭していて何もしてくれない”という旦那からの質問なのだが、質問文がとても洒落てるなと思ったのを覚えている。

    その知恵袋を見た日の夕方、洒落てる質問文と同じことを知人に言われた。
    「最近彼女がどうぶつの森から帰ってこなくて、何もしてくれないんですよぉ」
    知恵袋に投降したのがその知人だという可能性もあるだろう。でも、その知人はまだ結婚していなかった。知恵袋には妻と書いてあった。つまり、知人は知恵袋を見て、つじつまが合うように修正して自分の話として喋っていたのだ。
    「へえ、そんなにハマっちゃうゲームなんだ」なんて合わせながら、なぜこの人は意味のない嘘をついているんだろう、と考えていた。気持ち悪さも感じた。

    それ以来、その人のことを信用できない人、として考えている。表面的には悪い人ではないのだけど、内面的な部分というか、奥のほうで周囲を嘲るような人に思えてならない。
    嘘の力はすごい。

  • ある種の錯覚を生み出す狂気を持った作品です。あるべきではないのにそこに佇んでいるような感じにさせられる・・・ある意味すごいと思います。

  • すっかり熱烈な文則ファンになりました。
    今年に入って、えーと、5冊目になりますか。
    この調子ですと、恐らく年内か来年中には中村文則の全著作17冊を読破するでしょう。
    そんなに面白いのかって?
    どういう意味で面白いって言ってますか?
    読後に訪れる圧倒的なカタルシス?
    思わず溜飲を下げる爽快感?
    元気をもらえるビタミン剤みたいな感動?
    すみません、そんなものはありません。
    本書も、例によって救いのない物語です。
    主人公は、事故死した恋人が忘れられず、小指(!)を小瓶に入れて持ち歩きます。
    恋人は、米国で留学していると周囲に嘘をついて―。
    主人公は明らかに狂れていますが、その狂気の中に、私は最も純度の高い愛の形を見ました。
    もっとも、その愛ですら、最後は主人公自らの狂気でほとんど粉みじんに打ち砕かれます。
    読後、胸が苦しくなりました。
    ただ、強く魅かれました。
    これが中村文則の魅力であって、多くの読者を獲得している理由でありましょう。
    中村文則は、読み手の負の部分を強く刺激してきます。
    普段、生活をしていて、あまり他人には見せない負の部分。
    そこを解放してくれるのです。
    安易に読者に救済の手を差し伸べる小説が多い中、中村文則は貴重な作家だと思います。
    恐らく日本を代表する大作家になるでしょう。
    いや、もう、なってるか。

  • 読後(厳密には)第一声は「こいつキチガイか…」。作者の本は初めてだったので実際はそうでもないのかもだが。西加奈子を初めて読んだ時もこいつはやばいと思ったが、それとは違う絶望に近い嵐の前の曇天の地球の色のようなヤバさ(のが多い。)話の暗さも相まって本当に狂気を感じた。
    内容としては主人公の気持ち悪い性質も理解出来るところがあるわけだが、それでいて圧倒的な狂気を感じるところがまたヤバい。主人公の自我のない「ような」感覚を作者も持っているんだろうなと感じる。
    話の筋としては総じて美しいと思う。期待の裏切りあり、期待通りあり。でもそれら全てを許してしまえるのはこの本に圧倒されているから、というのは多分にある気がする。
    中村文則は他の本も読まないと好みの判断をつけられそうにない。こうして人は読書という迷宮〜ラビリンス〜に迷い込んでいくのか…あな恐ろし。

  • 幼い頃に両親を亡くした不幸な生い立ちの青年。
    内面の虚無感を隠すため嘘を重ねるうちに、
    現実と虚構の区別があやふやに。
    そして徐々に精神の均衡が崩れ、
    正気と狂気の間をふらふらと綱渡りしているようだったが、
    恋人の死をきっかけにとうとう向こう側へ落ちてしまう。

    狂気に飲み込まれていく様が、あまりにも生々しく恐ろしく、
    鉛を呑まされたような読後感。
    人は精神を病むと太陽に背くDNAが組み込まれているんだと思う。

  • 久々に鬱々とした小説だった。

    自分の行動すべてが嘘っぽくなることってあると思う。俯瞰してみているような冷めた感じ、そんな感情を演じてみてるような感じとか。主人公の嘘は、嘘として機能させているわけじゃなくて、どっちでもいいような適当なものなのだと思う。世の中すべてが自分にとってどうでも良いから。ただ死んでしまった彼女以外は。

    彼女の死をきっかけに絶望に陥って、それでも最後は救われるって話じゃないのね。最後まで、幸せな方向には向かえない、彼女への愛は偽れないから壊れてしまう。

    読んでで感情があっちこっち飛んでいっててまとまりも結論もないけど、そうなりたいからそうするっていう描写。ちょっと分かるような気もする。

  • 死んだ彼女の小指をホルマリン漬けにして持ち歩き、彼女が生きている妄想にすがりながら日々を消費していく青年の話、といったところでしょうか。

    「ホルマリン」「死者」というキーワードがあると、いつも大江健三郎「死者の奢り」をイメージしてしまいます。実際、ラストシーンで主人公がとった行動のグロテスクさは、「死者の~」にある吐息のような気持ち悪い湿り気があって、微妙に救われた感が漂いつつも底知れない生理的嫌悪感がねっとりと感情にまとわりついてきました。

    それでも全編通しての印象としては、今まで読んだ中村文則作品「銃」「掏摸」と同じく、空虚・ドライといったもののほうが近いかも。

    彼女が死んだという現実を受け入れられない主人公がとる行動はイミフな点も多く、共感しづらい部分も見せてくれます。けれども「彼女が死んだ」というショックから立ち直れないということがその要因であるなら、さらに言えば幼いころに両親も亡くしていることもそれに関わっているとしたら、多少同情する部分もなくはありませんし、理解できなくもない部分もあります。

    ただ、これだけの不幸を抱えて、かつ淡々と時間を消化していくだけのような生き様を見ると、そこまでして生きる必要ってあるのかという絶望感すら覚えてしまいます。それがとてつもない空虚感を覚えた要因になっているのかなと思っています。

    作品自体は後味のよい内容ではないものの、むぅ…と唸らされる渋イィものだったとは思いますが、唯一「うーん」と首をひねったのは著者本人によるあとがき。

    小説の感想だとか解釈は読み手に委ねさせてほしいと思っているのですが、著者本人が作品解説をしちゃうと、自分の解釈が異なっていた時に国語のテストで間違っちゃったような気まずさがあるんで、できればやめてほしいんですよね…ここが本作一番の不満点でした。

  • 小説全体をおおう切なる感じに、何度か泣きそうになりました。

    主人公にとって嘘をつくことは、自分の異質性や現実世界への違和感が表に飛び出さないような膜を張って、その中に自分を安置することのように思えました。現実を照らし出す太陽光をさえぎるもの。衝動的に何かをしても、演技だと自己暗示をかけて、膜を死守しているかのようでした。死という圧倒的な事実の前であがく姿が、本当に切なかったです。

    この作家の小説を初めて読みましたが、とても純粋な方なのだろうな、という印象を受けました。他の作品も読んでみたいです。

  • 隣室と間違えて部屋に入ってきたデリヘルの女、美紀。そんな成り行きから付き合い始めた2人だが子供のように喜ぶ美紀に知らず知らず依存していた私は、彼女の事故死を周りに告げられず虚言を撒き散らしながら日々を過ごす。

    事故で亡くなった彼女の遺体から指を持ち帰ってホルマリン漬けにして持ち歩く主人公は不気味で哀しい。

    中村氏の作品を読むのは二作目だけどやっぱり暗い…芥川賞作家とは相性悪いのかなぁ…
    上手いんだけど積極的に読みたいお話ではないなぁ。

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恋人の美紀の事故死を周囲に隠しながら、彼女は今でも生きていると、その幸福を語り続ける男。彼の手元には、黒いビニールに包まれた謎の瓶があった-。それは純愛か、狂気か。喪失感と行き場のない怒りに覆われた青春を、悲しみに抵抗する「虚言癖」の青年のうちに描き、圧倒的な衝撃と賞賛を集めた野間文芸新人賞受賞作。若き芥川賞・大江健三郎賞受賞作家の初期決定的代表作。

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