遮光 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (155ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101289533

感想・レビュー・書評

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  • 新年から暗い気持ちになることが、僕にとっては
    重要なんじゃないかと思い、読みました。 
    素晴らしい読後感でしたね、何かに導かれるように、陰鬱な気持ちになりました。 
    デビュー作の「銃」に通ずる、衝撃のラストですね。愛する人の死を受けいられずに、常に自分を
    偽り続けて、死んだはずの人が生きているかのように、周りに嘘を言い続ける、虚言癖のある男性が主人公で、狂気じみた言動が心に響きます。
    中村文則作品の原点でもあるような気がします。

  • 最近は後味のいい、軽い小説ばかり手に取っていたので、陰影の濃い、狂気を孕んだ小説に圧倒されました。
    今さらながら初読みの中村文則さんでしたが、読了後まだ心臓がばくばくいってます。

    そもそも読んだきっかけは、又吉さん。
    どこかでとてもお勧めされていたのを目にしたのですが、帯にも又吉さんのコメントで、「もし、世界に明るい物語しか存在しなかったら、僕の人生は今よりも悲惨なものになっていたでしょう。自分の暗い部分と並走してくれる何かが必要な夜があります」と、書かれています。

    絶望的な、取り返しのつかない出来事に対して、器用に蓋をして一定の距離を取れる人ばかりではないんですよね。
    ギリギリ正気の淵で生きていた彼が、絶望に背中を押されて狂気の海で溺れてしまうのが、この作品。
    息継ぎをするように正気を吸い込むけど、海の底から足を引っ張られるように狂気の海に飲まれていくのは、読んでいて恐怖を感じました。その恐怖は、彼自身を怖いと思う恐怖ではなく、理解ができてしまう気がすることへの恐怖な気がします。自分もまたぎりぎりの淵に立っているのかも。

    あとがきでも書かれていますが、印象的なのは太陽を背にした男性の映像。脳内に焼き付くほどくっきりと残っています。彼が彼として見た映像だからでしょうか。それとも男性の助言が、彼の人生を左右するほど大きかったからでしょうか。全体的に暗い中で、とても眩しく、また濃い陰影を作っていて、印象的でした。

    レッテルを張られることは著者の本位ではないかもしれませんが、解離性障害、境界性パーソナリティ障害という単語が頭に浮かびます。
    きっと、美紀がいたら、なんだかんだで平凡で、幸せな人生を歩んでいただろうし、彼が、彼らしく生きていくことができたんでしょうね。人生は、ままならない。寂しいですね。

  • 中村文則の2作目、野間文芸新人賞受賞作品。作者自身も認めているように、暗いし癖もある。生きながら此岸と彼岸のボーダーに立っている男の話。

  • 正直、主人公の気持ちを理解できるとは言えない。
    最後の殺人についても正直分からないし、指を持ち歩くということもわからない。
    しかし、死んだ人を忘れられずにいる姿だけは少し理解できる。
    しかし、所々で描かれている演技をしているという表現から本当に本人が望んでいたものは何だったのか、本当に彼女さえ生きていればよかったのか……
    確かに私達は少し演じているところはある。本音と建前を使い分けこの人に対してはこういう態度を試みよう、この言葉や表現をしてみようなどと半ば調整とも取れるようなものをすることもあるだろう。
    もしかしたら、それの延長線上には自分を見失う主人公のような結果が待ち受けているのではと少し怖くなる。

  • 人の「死」を理解する、ましてや愛し愛された人の場合は非常に辛い。それを乗り越えるために人は何をして、何を忘れたいと思うだろうか。人にはそれぞれの苦しみや悩みがあり、往々にして「時」が解決していくと言うが・・・「死」に対する理解、納得だけは違うような気がする。
    人はいつか「死」を迎える、看取り、看取られる立場に変わる時、人間の儚さを知る・・のか。

  • 恋人が死んだことを周囲に隠し、あたかも彼女が生きているかの様に振る舞う青年の話。

    ただ、青年は虚言癖があって、常に何かを演じている様な生き方をしていて…急に暴力的になったり、笑い出したりなど、狂人みたいな感じなんだけど…

    でもこれ、ただの虚言癖って言うのはちょっと違う気がする。
    彼は彼なりに恋人を大事にしていただろうし、もっとやりたいこともあっただろう。

    終盤、女友達?に、恋人が死んでいることと、自分の想いを喋るところは、胸がギューッとなった。

    明るい場面とかは全然ないし、寧ろ全体的に暗いと思う。
    でも、もう一度読みたくなる、不思議な話だった。

  • 没入感がすごい。
    主人公の嘘や周囲の人々の言動との矛盾に最初は違和感を覚えるが、段々と世界観に飲み込まれ、何が本当だったのか分からなくなる。
    自分が同じ立場になったとき、どうするか考えさせられた。

  • 冒頭から「多分『まとも』な人間ではないのだろう」と感じた主人公が、進めば進むほど狂気性を増していく。
    このまま「ああ、頭のおかしな人間の様を見る話なのだな」というところで終わらせてくれないのが恐ろしいところで、過去をやんわりと見せつつ終盤畳み掛けるような展開の中で、ふと主人公と感情を分け合えるような場面も出てくる。『銃』を読んだ時も思ったが、「もしかしたら、明日私はこちら側の人間になってしまうかもしれない」と思わせる瞬間を見せながら崩壊していく主人公にいつも翻弄されている気がして読後放心してしまう。

  • 電車の中で、指の入った瓶を落としてしまい、多くの人がその瓶に注目する中、主人公は瓶の持ち主であることを悟られないように寝たふりをしていた。しかし、無視し続けるとこはできず、その瓶を回収するが、周りから鋭い視線を浴びる。その視線に対して、同意を求めるように、ニヤニヤしながら独り言を喋り、ついには女の人に話しかけるシーンは最高に気持ち悪く、とても好きなシーンだった。

  • 初めて読んだ中村文則作品。終始暗く危ない雰囲気が続く物語ですが、主人公に憑依する感覚になるくらい惹き込まれました。(想像し続けると、メンタルもっていかれますし頭も疲れますね 苦笑)

    個人の人格は、その人の経験した出来事が積み重なったうえにできているものなんじゃないかと改めて思いました。

著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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