迷宮 (新潮文庫)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101289557

作品紹介・あらすじ

胎児のように手足を丸め横たわる全裸の女。周囲には赤、白、黄、色鮮やかな無数の折鶴が螺旋を描く――。都内で発生した一家惨殺事件。現場は密室。唯一生き残った少女は、睡眠薬で昏睡状態だった。事件は迷宮入りし「折鶴事件」と呼ばれるようになる。時を経て成長した遺児が深層を口にするとき、深く沈められていたはずの狂気が人を闇に引き摺り込む。善悪が混濁する衝撃の長編。

感想・レビュー・書評

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  • 事件後の現場に、あざやかな折鶴が扮飾されていた事から“折鶴事件”と呼ばれる一家惨殺事件。妖しく美しい母親、その妻を異常に愛する父親、その家庭環境からか精神を病んだ兄。唯一生き残った少女は、沈黙を続けて、事件は迷宮入りとなる。
    作者が、幼児期自分の中に架空の人物を作っていたとのことで、それが小説の主人公の男性に反映されています。別人格との共存と離別も、一つのテーマなのかなと思う。彼女とこの事件に関わる男性達それぞれも闇を抱えて病んでいるようです。
    時を経て、美しい女性となった少女は、事件の真相を語ります。子供だからこその冷徹さを含んだ事件の有様は、思いの外納得できるものでした。
    事件、登場人物、読み手も迷宮に入れようとする不穏さがあります。作品が不穏なのか作風なのか、作者の小説に興味が残りました。

  • 表層的には気持ちの良い終わり方をする作品ではない。それでも、生き残ったニ人のような「元子どもたち」が、何かしら少しでも光明を受け取ることを望む。

  • 重いミステリーに、文学的なエッセンスをまぜ混んだ、興味深い作品。
    この人の作品をもっと読み込んでいきたいと思った。というか積読が何冊もある

  • 読みながら真綿でじわじわと首を絞められるような。読み進めるにつれて結末に近づいてしまうのが怖くなるような。異質なものに触れることへの恐れ。不気味な作品だった。
    登場人物の大半が狂気に満ちている。現実的ではない。リアリティは無い。異世界に迷い込んだような気分になる。幻惑的。

  • ただ幸福な人間は、時に乱暴で恐ろしい。
    この一文を読んでいて凄く共感してしまった。

    自分が不幸だと思っていたいから?
    幸福が身近にないと思っているから?
    孤独を感じるから?

    心を殴られて、不安に駆られて、自分の生きている意味を見失いそうになるから?

    主人公の新見が、普通であることを装っているサイコパスなんだろうけど、でも…どんな人にだって心の中に善と悪があって、どちらにだって簡単に転がれる。
    そんな不安定さに、とても共感した。

    日置事件の真相よりも、心の葛藤や周りの人への接し方が興味深くて、読む手が止まりませんでした。

  • あとがきまで素晴らしかった。
    彼の優しさがどこに向いているのかがずっとずっと分からなくてぞくぞくした。

    自分を蔑ろにすることによって
    人生を馬鹿にする温度
    ↑言葉選びが天才すぎる

  • うーん、期待するほどではなかったけど、前作の「王国」よりは良かった。未解決の殺人事件の裏に潜んだ色んな種類の人の闇、そしてそれらの闇の連鎖が生んだクライマックスがこの事件ということになる。

    主人公が掏摸ととても似ていると思う。暗い過去を持つ闇にやられていながら、どこかにまともな部分も持つところ。

    作品の中で繰り返して出てくる「終わった人間」や、「チック症」を持つ人間など、細かいところを色々駆使して暗い世界を意図的に構築しようとした。
    ホラー要素とまで言えないけど、こういった雰囲気作りがないと読んだ時の印象がきっと全然違うだろうなぁと思った。

  • 著者らしい不穏な歪みと人物像の描き方で、モチーフの事件やその周りの人々の描写も臨場感があってよかった。いつでも読めて、いつ読んでも面白い作品を常に書き続けている。

  • 相変わらず怖い作家だと思う。
    その辺を歩いている人間が押し並べて、まともなわけじゃないということを思い知らされる。

    隣で笑ってる誰かは心の心底に深い闇を抱えていないだろうか、自分もまた……。

  • 非常に危険なミステリー×純文学。私の好みドストレート。何度も読み返すのは確実。同著者「私の消滅」を純文学要素少し多めにしたくらいの配分。
    ある過去の迷宮事件を中心に物語は展開される。
    ひねくれた人間には刺さる(これは中村文則作品全般に言えますが)。

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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