日蝕 (新潮文庫)

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著者 : 平野啓一郎
  • 新潮社 (2002年1月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101290317

日蝕 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  •  史上最年少で芥川賞を受賞したデビュー作。その文体や文学的探求で「三島由紀夫の再来か」とまで言われたという。当時は興味がなかったのでタイトルを知っている程度だったが、平野啓一郎という作家を知りたくて読んでみた。

     どこのレビューをみても、難解な言葉を振り回して知識をひけらかしているとか、平易な言葉にすれば読みやすくなるというような批判がある。三島は彼の文学的センスから溢れ出るものだが、平野は無理に難しくしているというものだ。しかし私はそうは思わない。これは平野のスタイルであって、表現方法の一つだ。それを読みにくいからと批判するのはちょっと違うように私には思える。

     この『日蝕』には途中からぐっと引き込まれ一気に読んだ。言われている難しい表現など、ほとんど気にならなかった。さすがに三島の再来とまで言われ、芥川賞受賞作品だと思った。難解だと批評しているレビュアーさんたちは、そうは言いながらもきちんと読んでいる訳で、やはり平野のファンなのだろう。もしかしたら彼の才能に嫉妬しているのではないのか。

  • 15世紀頃、キリスト教の敬虔なお坊さんが
    信仰書籍を求めてフランスからイタリアに旅に出る物語。

    読了までにめちゃくちゃ時間がかかった。

    独特の擬古文的文体は決して読みやすくはないが、
    本作で描かれている「人間の求める聖性と業の表裏一体」は
    確かにこういった文体でなければ表現できないところとも思う。

    京大在学中に発表し芥川賞を受賞した当時は賛否両論だったようで、
    大きな「否」の論拠は作品が衒学的である、という点。

    確かに物語全体を通して訴えたいことは理解できたが、
    それが作者の真に言いたいことなのかどうかは判然としない。

    その意味で、衒学的と言われてしまうのかもしれないが、
    濃淡の差はあれど、人間の表現活動全般に
    衒学的要素は内包されるのであって、そこだけを論われるのは
    論評としてフェアではないと思う。

    登場する敬虔なお坊さん、研ぎ澄まされた寡黙な錬金術師、
    錬金術師に使える畸形の下男、下男の妻は村の堕落した司祭に孕まされ、
    生まれた子供は唖、更には洞窟に囲われる謎の生物と設定はド変態の極み。

    人間の業が聖性を生み、聖性が新たな業を生むというスパイラル。
    そのスパイラル自体の業性と一気にすべてを破壊する奇跡。
    衒学的だろうが、ここまで描ききれば見事と思う。

  • 一昔前の文豪のような言葉遣い、美しさを意識した文字の羅列。作者の意気込みが何よりもすごいと思った。デビュー作とのことですがかなり賭けていたのではなかろうか、と。

    前半は思索の杜をうろうろとする主人公に気怠さを感じておりましたが両性具有者登場後は焚刑と日蝕のエクスタシーを頂点にぐいぐい惹き込まれましたが、人間のえげつなさと信仰の恐ろしさと集団心理の怖さと、何だか怖い本でした。

    ボルゲーゼ・コレクションの眠るヘルマフロディトスが読んでいる最中、頭から離れてくれませんでした。この不均衡な美しさが両性具有者には必要不可欠なのでしょうね。

  •  思ったよりファンタジーだったのでびっくりした。もっともっと主人公が思索に耽るばかりの話かと思っていた。イヤ、十分耽っているわけですけれども。
     難しい文章、といわれることが多いけれども、明治時代あたりの小説を読み慣れていれば普通に読めるし、読み慣れてなくてもちょっと頑張ればすぐ慣れる。むしろ、どうしてそう同じ熟語を連呼するんだ! もっと違う言葉を出してくれ! と思った。個人的には、平野啓一郎は説明が上手な人だと思っている。ニコラの思索にみられるような難解で抽象的な話も、かなり分かりやすく書いてあると思う。
     ただ、そういった思索が非常に面白かったのだけど、最後のアレでパーンしてしまった。え、ええと、何が書いてあったんでしたっけ?

     以下、蛇足ながらこの作品について佐藤亜紀が自作『鏡の影』からの盗作疑惑をウェブ上で発言したことについて。
     私は『鏡の影』は未読なので、どうして佐藤亜紀がそう思ったのか分からない。『日蝕』が盗作で書けるようなものだとは思えないが、盗作である証拠もそうでない証拠も、提示しようがない。佐藤亜紀も提示できなかったようだ。
     にも関わらず他人の小説を盗作だと言う、これは創作をする人としてあるまじきことだし、普通ならば絶対にしないことだと私は思う。『鏡の影』絶版と『日蝕』発表等々が重なり、精神的に落ち込んだために生まれた邪推だろう。
     ただ、佐藤亜紀が何か自分の作品に通じるものを、この『日蝕』から感じとったということは確かなのだろう。少し心持ちが違っていれば、佐藤亜紀は平野啓一郎という新人作家にとって良き理解者となれていたかもしれないし、またお互い良い刺激を与え合うことができたかもしれない。それなのに、一度言われた盗作疑惑は晴れぬまま延々と残り続け、平野啓一郎は佐藤亜紀なんか知らんしこれからも読む気はないとか言ってしまう。
     どちらも素晴らしい作家なのに残念だ。とりあえず、佐藤亜紀は『天使』しか読んだことないので、そのうち『鏡の影』などの作品も読んでみようと思う。

  • 第120回芥川賞。
    15世紀フランスの話。
    パリ大学の学生がリヨン近郊の村を訪れ、謎の錬金術師と逢う。魔女狩りが行なわれ、両性具有者が火刑に遭う。その瞬間、太陽が月にむしばまれる。思いがけない日蝕に村はパニックになる。
    とにかく文章が難解。「~せられむ」「~せむとする」などの文語体、「抑(そもそも)」「辺幅(へんぷく)を脩(おさ)めぬ」などの難読漢字にかなり手こずる。ルビも豊富で、どのページもすみずみまで文字だらけだ。

  • この本を読んで、私は悔しさのような絶望感のような哀しさのような気持ちで涙が出た。
    物語の表層にではなく物語の内容とは別とでも言うべき深層に在るものに、文章という表現方法の中に垣間見られる、形の無い、例えば絵画を見て何かしらを感じる時のようなものが、私を涙させた。

    解説を読むと、私の感想は全く本質を捉えておらず、作者の意図や記されたメッセージを汲み取っていないらしいのだが、別に解説通りに読まなければ(感じなければ)いけないということはない。

    平野啓一郎氏の小説をいくつか読んで共通して感じることは、語り手となる主人公に、苛立ちのような不快感のような嫌悪感のような類の感情を抱かせられるということだ。
    そういった感情を抱くというのは、実は統ての人間の本質にある黒い塊を実に正直に顕しているからに他ならない。
    しかしながら人間は綺麗事が好きなのだ。真正面から自分の本質など見たくなんてないのに平野氏は平気で抉り出してしまう。圧倒される程の才能を持って、その美しい文章と毅然とした文体と緻密に構築された流れとで抉り出す。
    不快でありながら清く潔く美しいという相反する感情を抱かせる。
    そんな風だから、後味は決して良くなくて、心に重く苦しく行き場のない感情が残る。

    それでも私は平野氏の小説を手に取ってしまうのは、現代のくだらない情報が氾濫する中で、平野氏は人間に対して嘘偽りなく真正面から文章で向き合っているように感じるからだ。

    そういう真摯な姿勢で小説を書く若い作家はそういないだろうと思う。

  • 一般的に使われない様な言葉を多用していて、かなり読みにくく、硬質な文章だなと思っていたが、読み進めると存外分かりやすくスラスラと読んでいける。

  • 横光の『日輪』を読んで何処となく似ているような気がして再読。
    やはり本作は違う領域に到達している、賛否両論合わせて皆が語りたがる芥川賞作品かなと。題材・文体等、小説自身が自己を主張するというなかなかにお目にかかれない作品でしょう。結びのイマイチさ含めて作家の若さからくる才気に満ちてます。

  • 1999年、文藝春秋掲載号で読了

  • ストーリーに起伏もなく、新しい視点もなく、読み手側が受け取れるものがなにもない。ただ作者が自分の頭の中身を小説世界に構築するための手すさび、という印象以上のものが出てこない。

    三島由紀夫は二十歳前後ですでに起伏もあり新しい視点もあり、読み手をうならせる短編作品を世に出していたので、この作品だけで言えば、三島とは比較にもならない。
    ただし、自分の世界観を紡ぎあげて作品世界に昇華させるという作者の意図は肯定したい。
    三島ではなく平野での作品勝負なのだから、三島うんぬんの言及はナンセンスかな。
    私はこの作品では、平野氏の作品を今後も追って、さらなる作者の挑戦を見たいという思いにはさせられた。

    やるなら徹底的に。冀(こいねが)わくば、平野氏がその頭脳内宇宙をさらに自分流に展開してくれることを。
    (2007/1/16)

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