- Amazon.co.jp ・本 (181ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101290324
感想・レビュー・書評
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泉鏡花の高野聖の世界に迷い込んだような。
世界観から文体まですべてが戦前の文豪の作品のようで、この作品を書いた頃の作者の年齢を知って二度目の吃驚。
敷居は高いかもしれないけど、好き。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
擬古文のリズムと幻想的な雰囲気がとてもよい。真拆と高子が最後に会う場面の盛り上がりと勢いがものすごい。解説にあるところの能でいう「急」にあたるのだろう。
理屈はよく分からないが神話的な悲恋の話。
とにかく面白く読めた。 -
明治三十年の日本。十津川へ旅をした青年が、妖かしに惑わされるように迷い混む幻想的な時間のお話。古風な言葉や表現を駆使した文体は相変らずで、でも今回は舞台が日本ということもあり、かなりそれがハマる感じで、単純にあーやっぱこのひと上手いなあと感心。
たとえば泉鏡花の『高野聖』なんかを思わせる、隠れ里じみた山奥に棲む美女の妖怪(ここでは西洋でいうところのいわゆるバジリスクですけども)とそれに恋してしまう青年の悲恋というシチュエイションだけでなく、幾重にも交錯した時間軸…夢と現実の区別がつかなくなってゆく青年の、そのどの時点で見ている夢なのか、というのがどんどんわからなくなってゆく多重のパラドックスのようなものに、かなり惑わされます。
ラストは、青年の存在そのものが女性のほうの幻想だったのはないかという、さらなる入れ子構造的夢オチのニュアンスもあり(解釈によってどうとでも受け取れるでしょうけども)不思議な読後感が残ってとても面白かったです。 -
解説がとてもわかりやすい。
『平野啓一郎「一月物語」は現代の神話である。』
高子は人間と、何か得体の知れない恐ろしい力、つまり自然の究極のようなもの、とのあいのこで、「自然の最も深遠な美」に恋い焦がれる真拆と惹かれあうのは、運命であるというか、それこそ自然の求める終着だったのだろう。
真拆は山を登り、高子は死ぬ。ふたりが行き着くのは、水音というかたちで何度か示唆されたような、澄みきった異世界だろうか。
「日蝕」のぎらぎらした世界と対比して、一月物語は暗闇の物語であるので、闇の描写が印象的。時間の止まったように静寂な庭の草花や、"緋色の二点" の印象が読後もくっきりと脳裏に映し出される。
漢字の密度の高いレビューは、明らかに平野啓一郎小説の副作用…… -
ストーリー的なものではなく「言葉による表現」を味わうことが読書の目的になってきたと思う。
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不思議と美しい、少しだけ哀しいお話でした。
熊野を舞台にした幻想小説です。 -
夢と現が入り乱れる中。愛こそが人間の支え。
「真拆は、死を逃れることを微塵も願ってはいない。却って、死を熾烈に望んでいる。女を手に入れ、その後に更に生が続くことは、真拆の最も虞れる所である。女と死とは、その刹那、両つながらに得られねばならぬのである。」 -
文体ですべてを持っていく力がある。この物語で登場する刹那的な運命の愛は、いささか安っぽい愛にも捉えられたのだが、現実と幻を交錯させ、山に囲まれた十津川村を不思議な雰囲気とともに描き、神話的な世界観を構築させ、その世界観で一気に読ませてしまう力量。堅苦しい文体に思えるが、すごくテンポが良く、夢に裸体の女が登場するなどの重要な場面では鳥肌が立つほどの起伏がある。『日蝕』でも感じたが、この高ぶりが末恐ろしいほどだ。
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聖性と幻想のハイブレッド