葬送 第二部(上) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (457ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101290355

感想・レビュー・書評

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  • ここでは各登場人物の紹介をしたい
    個人的な目線なので偏っていることをご了承いただきたい


    ■ショパン
    リサイタルを好まず、小さなサロンでの演奏会や作曲活動、教育活動の方が好きな音楽家
    教え方は熱心だったようだ
    繊細、優美、(この辺りは想像通り)感情的にならず、醜い心もできるだけ表に出さずジェントルな姿を披露
    大きなリサイタルが嫌いなのも納得ができるほどの繊細ぶり(悪く言えば神経質)
    一方身に着けるものなど、結構な浪費家
    それほどお金があったわけでもない割に贅沢さを随所に感じる
    人に対しては誠実な印象
    とにかく愛された音楽家であることがよくわかる
    皆がショパンを助けようと一生懸命で必死だ
    ショパンが気を回さないよう気づかれないようショパンを援助する人たちがいかに多いことか
    皮肉なことにショパンの愛情は報われなかった
    そう、サンド夫人とその娘に対する愛情だ
    さらに悲しいことに彼女らには届かなかっただろうが、長年にわたり相当深かったであろうと感じる
    そしてショパンの才能をあらわした文章
    ~六週間もかかって何度も書き直した数小節が、まるで一分と掛けずに書き上げられたかのような自然さ
    苦しみ抜いた挙句に発した声が賛美歌のように明るく美しい~
    ショパンは感覚的でなく、緻密にロジックを以て芸術を突き詰めるタイプだったようだ

    ■ドラクロワ
    画家
    「民衆を導く自由の女神」が有名で個人的にも好きである
    かなり理屈っぽくこだわりがあり、自分の芸術に対する強い思想を感じる
    寂しがりやで「孤独だ!孤独だ!」と嘆いている割に、人に愚痴ったり、人に会いに行ったりして、気を晴らしたりもする
    他人とのコミュニケーションより、無意識に自分の芸術が最優先してしまう…というタイプ
    人と考えを分かち合いたいのに、なかなかわかってくれないと寂しく思っているあたり、自分の才能をわかっているんだかいないのかしら?
    家族に恵まれないタイプだが、彼の性格の災いもある気がする
    それでもフォルジェ男爵夫人という、なかなか好感もてる愛人とそれなりにうまくやっていく
    内省的に思考(長考)するタイプで彼の独演会があちこちに出てくる
    悲痛な心の悩みだろうが、凡人からすると贅沢な悩みに聞こえる(だからひがまれ敬遠されるんじゃないのかなぁ 天才ゆえの悲しさである)
    ただ、芸術に対するウンチクは面白いし、参考になることも多々あった
    (どんなに激しい気持ちを表現しようとしても、綺麗に演出することの大切さ…など為になった)

    ■サンド夫人
    ショパンの愛人
    小説家
    女手で子供たちを育て上げ、小説家として独立し、政治活動にも参加する精力的な女性
    勝手はイメージはショートカットでパンツにピンヒール(時代が違うけど…)
    そのせいか自分の考えに自信満々で人からの意見は受け入れられないタイプ
    当然プライドも高い
    ショパンのことも「年下で子供を育てたこともないくせに!」と心で思っているため、聞く耳を持たない
    娘に対しても同様、「これだけ愛情をかけてあげているのに、どうしてわからないのかしら?
    一体何が不満なのかしら?…」
    本気で理解できないし、しようとしない
    うーん、困った人だ

    ■ソランジュ
    サンド夫人の娘
    母親からの愛情が希薄だと思い込み、素直になれず、ひねくれたものの見方をしている
    だが母親の存在を常に感じ続け、完全に母親を断ち切れない
    また思い込みが激しく、世間に疎く幼稚
    ショパンは彼女の性格をわかっている上で、それでもとても大切にしている

    ■スターリング嬢
    ショパンが大大大好きなスコットランド貴族
    この方は非常に厄介だ
    決して悪い人物ではない
    彼女のショパンにたいする愛情は純真で、誠実で、一生懸命だ
    ただ気持ちが純粋過ぎるせいか、その気持ちにばかり夢中になり、ある意味ショパンを追い詰める羽目に
    ええ、ショパンのことを思っての行動なんですよね?
    わかるんだけど、そこまでするとショパンがほらますます追い詰められるでしょうに!
    最後は彼女の善意がショパンをがんじがらめに追い詰め、体調が悪化する…
    この人をみていると愛情というのはバランスが大切だと実感

    他にも、魅力的な人物や、いけすかないやつや、面白い人や、素敵な女性や…
    たくさんの個性的な登場人物に事欠かない上、彼らの心理描写も深く掘り下げられるのでドラマ性がある内容になっている

    次回はとうとう最終巻となる

  • 第3巻。

    重苦しい空気が漂い、物語の展開も陰鬱であった前二巻とは打って変わって、第二部は華々しいショパンの演奏会で幕を開ける。
    著者自身が曲を聴きこんで聴きこんで、徹底的な取材と分析を重ねて書いたのであろう「紙上演奏会」は圧巻の一言で、読者は鬼気迫るショパンの姿をハラハラしながら見守ることになる。ここまで感情移入させられてしまうのも前二冊によって形作られた「ショパン像」が読者の中にあるからで、これぞ長編小説の醍醐味だと思わされる。

    復活を果たした病弱な音楽家に贈られる惜しみない拍手と歓声は、そのまま革命のシュプレヒコールに変わる。この華々しさと喧騒と、時代の変化を憂うかのような厭世感が物語を支配しているのだが、きっと当時のパリもそんな雰囲気だったのだろう。

    全体を通してみて、第一部はドラクロワを視点に据えた描写が多かったのに対し、この巻ではショパンを中心として物語が進行している。
    そのためだろうか。もしかして全四巻から成るこの小説は、四楽章で構成された一つの楽曲であるのではないか、という印象を新たに抱いた。
    初楽章と第二楽章は短調で書かれていたのに対し、この巻は第三楽章にふさわしく長調で書かれ、前述のような華々しい第一主題と、勇ましく野心的な第二主題を持っている。

    はたして最終楽章はどの調で書かれ、どのような響きの主題を持っているのだろう。とても楽しみだ。

  • 読み終わるのに半月もかかってしまった・・・。

    3冊目に入り、益々内容が濃くなっていく。
    私とショパン、ドラクロワ達と共有する時間もどんどん増えて、あらゆる想像を巡らせながらページを捲っていった。

    あぁやっとここまで来たか・・・

    でももう、あと残り一冊しかないのか・・・

  • ショパンの演奏会が開催されることになり、多くの人びとの注目が集まるなかで彼の芸術観が反映された演奏を、著者が緻密な文章で描写しています。しかしその後、フランス革命の勃発によってパリの街は混乱の渦に飲み込まれ、ショパンはジェイン・スターリング嬢にみちびかれてイギリスへわたることになります。しかしそこでの生活は、彼の意に染むものではありませんでした。

    一方ドラクロワも、フランス革命の混乱のなかでみずからの作品を守る術を考えます。そんななか、親友で銅版画家のフレデリック・ヴィヨが、ルーブル美術館の絵画部門部長に就任したという報せを受け、さまざまな思いが彼の胸を駆けめぐります。ヴィヨの家を訪れたドラクロワは、ヴィヨの妻を相手に「天才」についての思索を語ります。

    カントの『判断力批判』における天才論などを参照しながら展開されるドラクロワの議論では、創造能力と判定能力を区別して、前者をさずかった者こそが天才であり、自然はそうした天才を通じて創造を実現するという主張が展開されています。その一方で著者は、ショパンの演奏会の魅力をことばを通して緻密にえがきだすという試みをおこなっています。本作は、19世紀に完成された「小説」のスタイルを模倣する試みだとされていますが、上のような一見矛盾するかのような試みは、「小説」の形式にのっとりつつも、そうした「形式」そのものを内側から問いなおす試みということができるでしょう。そうした意味で、本作はやはり現代小説であるというべきであるように感じました。

  • 210125*読了
    第二部上巻の特筆すべき点は、前半のショパンの演奏会につきます。ピアノを弾くシーンはいろんな小説で描かれていますが、その中でもこの小説のこのシーンにおける描写の美しさは群を抜いている。こんなに緻密に、こんなに美しく表現できる平野さんの文章力!まるで当時、その演奏会で席に座り、ショパンの奏でる音色に耳を澄まし、感動に胸をいっぱいにしているかのような、そんな気持ちになりました。
    その後、革命が起き、ショパンはイギリスへ赴き、ドラクロワはフランスで自分の立場を守るために画策するわけです。病弱なショパンがますます弱っていく様子は胸が痛い…。社交や演奏会、もうやめてあげて…と仲裁に入りたかった。ドラクロワについては、ヴィヨとの関係や絵を描くことに対する気の浮き沈み、気難しさと自分としては正しいと感じる行動など、癖が強いお人だなぁと感じました。笑
    どちらにも愛着があるからこそ、次巻で終わってしまうのが寂しい…。「葬送」という題名の意味するところがきっと分かるわけで、ドキドキと最終巻を手に取ります。

  • 名文の嵐。天才を描けるのは天才だけなのだ。が、いかんせん読むのは苦行のようだった。タイトル通りで全編通してとにかく薄暗い。特に第二部は、ずーーーーーっとショパンが追い詰められてて死にそうで死にそうでなかなか死なない。つらい。

  • 第2部は、愛人と別れた傷心のショパンが久しぶりの演奏会を開催するところから始まる。この演奏会におけるショパンの内面、外面の表現がすごい。
    やがて革命が起こった影響で、イギリスへ向かうショパン。病は進み、イギリスの文化とも相容れない。一方、ドラクロワは、親友との関係に悩む。
    第一部後半からのストーリー展開で、読み応えたっぷり。平野啓一郎の筆も冴え渡る。さて、最後の下巻ではどんな物語が待っているか。。

  • だんだん盛り上がってきた!

  • 最終巻への序章。日々弱々しくなるショパンが儚い・・・。人間ショパンの生き様を感じてください。

著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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