ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.51
  • (288)
  • (531)
  • (842)
  • (120)
  • (32)
本棚登録 : 4648
感想 : 633
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101292342

作品紹介・あらすじ

ニシノくん、幸彦、西野君、ユキヒコ…。姿よしセックスよし。女には一も二もなく優しく、懲りることを知らない。だけど最後には必ず去られてしまう。とめどないこの世に真実の愛を探してさまよった、男一匹ニシノユキヒコの恋とかなしみの道行きを、交情あった十人の女が思い語る。はてしなくしょうもないニシノの生きようが、切なく胸にせまる、傑作連作集。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 『恋とは、いったい何だろう。わたしが恋をしていたのは、ニシノさんという、ひとまわりも年うえのひとだった』。

    『恋』とは何かという質問はなかなかに難しいものだと思います。それを”特定の相手のことを好きだと感じ、大切に思ったり、一緒にいたいと思う感情”のことです、と説明されても、はあ、としか言いようがありません。私は中学生の時にクラスのある女の子に『恋』をしました。いわゆる初恋というものです。好きで好きでたまらない、でも相手がどう思っているかなんて全くわからない、そして他のクラスメイトには決して知られてはならないこの想い。なんとも悶々とした日々を過ごしたことを覚えています。結局、その想いは叶うことなく、今頃彼女はどこで何をしているのだろう?という想い出に変わってしまいました。しかし、私にとって『恋』とは、もちろんそれだけではありません。高校時代にも、大学時代にも、そして社会人となってからも、それぞれの時代にさまざまな形で『恋』を経験してきました。そして、今となってはそんな過去の『恋』を懐かしく振り返ることもあります。

    人によって『恋』というものの経験、歴史とは多種多様であって、それが同じである人はこの世に一人としていません。したがって、私の中学時代の初恋のように、何もせずに終わるというような『恋』を良しとはせずに、積極果敢に打って出る!ことを当たり前のこととしている人だっているかもしれません。そう、この世には、次から次へと女性遍歴を繰り返す人だっているのだと思いますし、『恋』のあり方として決してそれが間違ってもいないのだと思います。

    この作品は『西野くん、いっぱいガールフレンドとか恋人とか、いるでしょ』と訊かれて、『そりゃあ僕は一種のなんていうか女たらしに近いものなのかもしれない』と答える一人の男の物語。そんな男が十人の女性とさまざまな『恋』の関係を見せていく物語。そしてそれは、十人の女性たちが、そんな男と出会ったことを思い出の一コマとして振り返る様を見る物語です。

    『あのころ、みなみは七歳だった』と『わたしはまだ二十代』だった頃のことを思い出すのは、この章の主人公・夏美。そんな夏美は『あのころ、わたしは恋をしていた』と、『ひとまわりも年うえの』『ニシノさんに何回も抱かれた』時のことを思います。『わたしがニシノさんを好きであるほどはニシノさんはわたしを好きでないことがつらかった』と『ますますニシノさんを恋しくおもった』夏美。そんな夏美は『一度、夫が家にいるときにニシノさんから電話がかかっ』てきた時のことを思い出します。『保険会社の人』と夫から手渡された受話器に『はい』『ええ』『いいえ』と『言葉少なに』話す夏美の電話の向こう側で『きみをいますぐ抱きたい』などと話すニシノ。そんなニシノが『女の子がいいな、子供は』とみなみを連れてきて欲しいと願うのに従って、『みなみと一緒にニシノさんに会いに行く』夏美。しかし、そんな『みなみはニシノさんのことを何も訊ね』ませんでした。そして、レストランでは、『「パフェ」を「パフェー」とのばすように発音』しながら勝手に注文するニシノ。一方で『みなみは必ずパフェを残し』ました。そんなみなみが『おかあさん、ニシノさんて、不思議なひとだったわね』と言ったのは『十五歳になった春のころ』。その時、すでにニシノと会うことはなくなっていた夏美は『みなみがまだ十歳だった冬に』ニシノと別れたのでした。『ニシノさんと、おかあさんは、恋人どうしだったんだね?』と『わたしの目をまっすぐに見ながら』聞かれて戸惑う夏美は、『恋をしていたのか』、『好きだったのか』、そして『ニシノさんという人がほんとうにいたのかどうかすら』わからなくなります。『ニシノさん、元気かな』と訊くみなみに『元気でしょ、きっと』と返す夏美は、『あのころのみなみの目に、ニシノさんはどのようにうつっていたのだろうか』とも考えます。そして、『久しぶりに、わたしはニシノさんの声を聞きたくなった』という夏美。時は流れ、『みなみは、二十五歳になった』というある日、『おかあさん、庭に誰かが』と、みなみが呼ぶのを聞いて『ニシノさんだ』と直観した夏美。そこに『一陣の風が起こり、草がそよいだ。それから、全部の音が止んだ』という瞬間が訪れます。『おかあさん、来て』と庭から呼ぶみなみに、『ニシノさんらしき影が、繁った雑草の中に座ってい』るのに気付く夏美。『そのひとは、端然と座っている』という姿を見て『生きていたころのニシノさんはもう少し落ち着きがなかった』と思う夏美。『あれは、なに?』と訊くみなみに『みなみは、知っているでしょう』と返す夏美。『ニシノ、さん?』とつぶやくみなみ。そんな衝撃的なニシノとの再会が描かれるこの短編。この先に繰り返し登場するニシノの存在を強く印象づける好編でした。

    「ニシノユキヒコの恋と冒険」というなんだか子供と一緒に読みたくなるようなほっこりした書名のこの作品。しかし、その書名とは裏腹にこの作品は決して子供と一緒に読むわけにはいかない男と女の『恋』の物語です。十の短編が連作短編の形式をとるこの作品は全編を通して登場する『西野幸彦』という男性の恋愛遍歴を、それぞれの短編に一人づつ登場する女性主人公たちと彼との関わりを通じて明らかにしていくという非常に面白い構成をとっています。似たような発想の作品としては、”四人(実際には五人)それぞれの視点で一人の男を描くのって斬新だし面白そうじゃないですか?“とおっしゃる柚木麻子さんが描く「伊藤くん A to E」という作品が思い起こされます。同作では主人公の伊藤誠二郎に視点が移動することはなく、それでいて最初から最後まで影の主人公の如く登場するという不思議な構成をとっています。そして、この作品で川上さんが描く西野幸彦も存在感は圧倒的で、最初から最後まで主人公たちを、そして読者をイライラさせたりモジモジさせたりするにも関わらず、決して彼に視点が移動することはなく、彼が取る行動の真意を読者が知ることなく物語は幕を下ろすというとても面白い立て付けです。

    そんな川上さんのこの作品は柚木さんの作品よりさらに大胆、かつ面白い工夫がなされています。では、そんな全体の構成をそれぞれの主人公が西野幸彦をどう呼ぶかと各主人公との年齢差という視点も含めて各短編ごとの一覧にしてみたいと思います。

    ・〈パフェー〉主人公: 夏美(みなみの母親)(20代)、呼び方: ニシノさん(40歳)、関係: 浮気相手

    ・〈草の中で〉主人公: 山片しおり(14歳)、呼び方: 西野君(14歳)、関係: 中学の同級生

    ・〈おやすみ〉主人公: 榎本真奈美(33歳)、呼び方: ユキヒコ(30歳)、関係: 西野の上司

    ・〈ドキドキしちゃう〉主人公: カノコ(20代)、呼び方: 幸彦(20代)、関係: 大学の同期

    ・〈夏の終わりの王国〉主人公: 須永例子(30代)、呼び方: 西野くん(20代)、関係: セックスフレンド

    ・〈通天閣〉主人公: タマ(昴と同居)(21歳)、呼び方: ニシノ(31歳)、関係: ニシノと付き合う昴の同居人

    ・〈しんしん〉主人公: エリ子(飼猫:ナウ)(40歳)、呼び方: ニシノくん(35歳)、関係: いいお友達

    ・〈まりも〉主人公: 佐々木早百合(50代)、呼び方: ニシノくん(37歳)、関係: 省エネ料理の会に共に通う

    ・〈ぶどう〉主人公: 加瀬愛(19歳)、呼び方: 西野さん(50代なかば)、関係: 年の差カップル

    ・〈水銀体温計〉主人公: 御園のぞみ(20歳)、呼び方: 西野くん(18歳)、関係: 西野の学部の先輩

    以上のような感じです。この一覧を見ながら西野の年齢と呼び方の二つの側面から見てみたいと思います。まず、年齢です。西野の年齢には若干の推測も入っていますがいずれにしても西野との関係もバラバラ、そして主人公の年齢も10代から50代と多彩です。連作短編としてさまざまな人物に視点が移動するのは当然ですが、そんな移動先の人物と関係を持つ西野の年齢が見事にバラバラであるのみならず、14歳から50代半ばと、西野からみると実に約40年という時代に渡って彼の女性遍歴を、彼から見ると順番バラバラに描いていくのがこの作品、ということになります。これは読んでいて非常に摩訶不思議な印象を受けます。ある話で西野は38歳なんだ、次の話で50代なかばになった、それが次の話では18歳の西野が描かれるというまるでジェットコースターに乗っているかのようにアップダウンする彼の年齢。この作品は元々「小説新潮」に連載されていた作品のようで、それを『本にするときに並べかえています』とおっしゃる川上弘美さん。そう、この不思議感は川上さんの意図的な短編の並べ替えから生じているものでした。しかし、40年にも渡る時間を描いているにも関わらず物語に時代感があまりないために違和感を全く感じさせません。そして、そもそも一体いつの時代の話なのだろうかというヒントが本文中に存在します。『生まれた年によど号がハイジャックされて、四歳のときにスプーン曲げの関口くんが登場した』と31歳の西野が語るこの場面。”よど号ハイジャック事件”は1970年3月31日に発生しています。この作品で西野は50代なかばの姿で登場もします。ということは、なんと西野が50代半ばで登場する短編では、舞台が202X年という、まさかのSF!の未来世界が描かれていることになります。これにはビックリです。

    つぎに、それぞれの主人公が西野をどう呼ぶかです。一覧の通り、『ユキヒコ』、『ニシノくん』、そして『西野さん』と、主人公が西野を呼ぶ呼び方はそれぞれの主人公との年齢差、立場によってさまざまに変化します。呼び方が変わっても西野が西野であることに何ら変わりはありません。しかし、『ユキヒコ』と呼ばれる西野と、『西野さん』と呼ばれる西野から思い浮かぶ人物像はどこか揺らぐのを感じもします。『その人がニシノくんをどう呼ぶか、その人のニシノくんへの気持ちや距離をあらわしていると思います』と続ける川上さんは、『女の人たちの良さを書きたいなと思ったんです』ともおっしゃいます。そう、この作品はそれぞれの短編に登場する女性たちそれぞれの人生の物語であって、決して『西野幸彦』という人物を描いたものではない、だからこそ西野基準での年齢時系列になっているわけではなく、また、彼の呼び方もあくまでそれぞれの女性基準で変化していく、そういうことなのだと思いました。もちろん、『西野幸彦』という人物も、年を経る中で成長もすれば変化もあるのだと思います。『西野くんは食欲と同じく、旺盛な性欲の持ち主だった』というのは、全編に渡って感じられる彼の特徴だとは思います。また、『次の女を好きになったら、西野さんて、すぐに前の女と別れるの』と、半年くらいで次々と女性遍歴を繰り返す西野という男の軽いイメージは年が変わっても驚くほどに一貫性を感じます。『なんでニシノくんはこんなに浮気性でどんどん女の子を渡り歩くんだろうと、多少反発みたいな気持ちもあった』という川上さんの気持ちは恐らくそんな西野の40年にもわたる行動を目にする読者も同様だと思います。『失礼な質問だとは思うんですが、御園さんが誰とでもセックスをする、というのは、ほんとうですか』などと本人に平気で訊く無神経極まりない西野の存在には呆れを通り越して諦めの境地が湧く人もいるかもしれません。しかし、この作品を読み終えて感じるのは、そんな西野という男に対する軽蔑の感情以前に、それぞれの短編に登場した女性たちのどこか人生を諦観した生き方でした。年齢も境遇も、生き方も全く異なる十人の女性たち。そんな彼女たちの人生の、長い目で見ればほんの一瞬、ほんのひとときをある種彩った西野幸彦という男の存在。

    『恋とは何だろうか。人は人を恋する権利を持つが、人は人に恋される権利は持たない』。

    西野幸彦という影の主人公が接してきた女性たち、西野幸彦の女性遍歴をまとめたこの作品。『ユキヒコは、恋というものによって手負いにされたわたしを、飛び道具も使わずに、爪も牙も使わずに、いともかんたんに手に入れた』と恋に堕ちていく女性たち。しかし、それは『身のうちからわきでる、ふるえ。ユキヒコにとらえられたよろこびによって溢れでたふるえ』と感じる女性たちそれぞれにとって、そんな恋をする権利が満たされる喜びをそこに見るものだったのかもしれません。

    男と女の『恋』の物語にあって、『そのまま蝉は、空へとのぼっていった。かすかな蝉の羽音が、いつまでも、わたしの耳に残っていた』といった美しい情景描写がそこかしこに登場するこの作品。川上さんらしい文章表現の魅力と構成力、それでいてぐいぐい読ませる推進力にすっかり酔わせていただいた素晴らしい作品でした。

  • 全てにそつがなく、ストレートに愛情表現したかと思えば、子供のように心にスルスルと入り込む。情を交わした10人の女性の視点によって描かれる、モテる男ニシノユキヒコの生き様。ニシノさんを背景に、各章の女性の個性が浮かび上がっていると感じた。
    きまって去られてしまう。女は生涯寄り添えない相手と本能的に察知しているから。それはそうでしょうね…思い出はせめて綺麗にしたいから。
    読み終えるまでに、ニシノさんの魅力に触れればと思ったけど、なかなか難しかった。関わった女性側の気持ちもあまりわからない(人の気持ちなど、他所のものが容易に理解出来るものではないという事だろう)。しかし、不適切な関係であるのに、生臭さを感じさせない川上弘美さんの品のあるさらりとした心情描写すごくて、特に「しんしん」から面白く読み入った。
    愛に満たされることなく飢えて怯える心情が、女性との関りから読み取ることが出来た(なんとなくだけれど)気がする。
    強いようで弱い。人の呼び方が様々なように、人は多面的で色々な面を持ち、相手側からの見方で浮き彫りにされるということが伝わりました。
    必死に自分を模索しているのに、ふわふわ不思議な空気に包まれ宙を浮いているような余韻が残った。自分の居場所をみつけることは難しそう。

    • 5552さん
      kazekaoru21さん、こんばんは。

      原作、映画と観て、どちらも良かったです。
      映画はニシノユキヒコが竹ノ内豊さん!
      あの顔と...
      kazekaoru21さん、こんばんは。

      原作、映画と観て、どちらも良かったです。
      映画はニシノユキヒコが竹ノ内豊さん!
      あの顔とあの声であの雰囲気で演じられて、たまらなかったです。(別にファンという訳ではないけれど)
      川上弘美さんも、ずいぶん読んでないな、読みたいな、と、思いました。

      2022/11/20
    • kazekaoru21さん
      5552さん、こんばんは。

      映画も観られたとのこと!私も是非観たいと思いました。
      読んでいてニシノさんは、ずっと竹ノ内さんの声でした...
      5552さん、こんばんは。

      映画も観られたとのこと!私も是非観たいと思いました。
      読んでいてニシノさんは、ずっと竹ノ内さんの声でした。
      イメージぴったりですね!あの顔、声・・
      個人的には他の俳優さんも当てはめてみたりして。文章だと、自分で自由に想像できるので楽しいですね。
      コメントをありがとうございました!
      2022/11/20
  • ニシノさん、
    西野君、
    ユキヒコ、
    幸彦、
    西野くん、
    ニシノ、

    などなど、
    呼ばれ方は違うけど、
    様々な時代の
    様々な歳の女性たちの
    恋愛話の中から

    ニシノユキヒコという
    ひとりの男が見えてくる構成。

    いやぁ〜
    面白かったです(^_^)


    どこか
    「100万回生きたねこ」を連想したし、
    (様々な女性たちのもとに現れては、結局誰も愛せない様は
    真実の愛に気付く前の絵本の中のねこそのもの)

    女性たちから見れば、
    興味を惹かずにはいられない
    野良猫のような人だと思いました。



    甘い顔と清潔さと几帳面さと
    全天候型の抑揚のない声

    そして少しの冷気を併せ持った
    ニシノユキヒコ。


    クールに振る舞いながらも努力家で、

    褒めたり甘えたり
    叱ったり、
    女性が望む様々なことを
    いとも簡単に
    またとないタイミングで
    見事に叶えてあげられる技術を持つ。


    誰かに愛されたいと願いながらも
    いつも上の空という
    掴みどころのない男。


    いや、実際どうなんでしょう(笑)

    世の女性たちは
    ニシノユキヒコのような男性を
    どう思ってるんやろ?

    ちょっと聞いてみたい気がします(笑)



    コレはニシノユキヒコの辿ってきた
    中学時代から
    50歳を過ぎ亡くなってしまうまでの恋愛遍歴を、
    年代をシャッフルした
    構成で並べた連作短編集です。



    それにしても
    過不足なく行き届いた
    心地いい言葉、

    それでいて高ぶらず品のある
    川上弘美さんの文体は
    この作品でも健在で、

    上手いなぁ〜っと
    思わずにはいられませんでした。
    (ただ、川上作品の特徴であり、柔らかさを印象づけていた
    心地よい食事の場面がほとんどなかったのは少し寂く感じたなぁ〜)


    どうしようもないダメな男性の
    恋と冒険を描きながらも

    裏を返せば
    実は凛とした
    カッコいい女性の生き様を描いた
    小説でもあるんですよね。



    恋って
    いい人だから好きになる、
    大事にしてくれそうだから好きになるというものでもない。


    どうしようもない人で
    周りは反対するけど、


    「でも好きやねんっ!!!」


    って胸を張って言える瞬間は
    誰にでもあるだろうし、


    男でも女でも
    誰の中にも
    ニシノユキヒコ的なものは必ずあるのです。



    しかし、歴代彼女が
    俺のことを語った話を
    もしまとめたらと思うと、

    ああ〜っ怖〜っ!!!

    です(≧∇≦)

  • ニシノさんと関係を持った女性たちによる、ニシノさんにまつわる話。

    次々と女性が登場して時系列もばらばらに語られるのに、徐々にわたしの中でニシノさんの人格が出来上がっていって面白かった。不思議な構成の物語だった。

    川上弘美さんの本は初めてだったが、登場人物に深い悲しみのようなものが漂っていて、江國香織さんの描く文章に似ている気がした。好み。
    他の本も読んでみようと思う。

  • 再読でもやっぱりニシノくんが元彼と重なります。
    寂しがりやで人の懐にすっと入ってきて居着いて、でも寂しがりやだから近くにいる人をすぐ好きになってしまう。
    ニシノくんはいつも女の人の方から去られていましたが、彼女たちの心の隅っこにはいつまでもニシノくんはいました。
    わたしはもう思い出すこともほとんどなくなりましたが、このお話を読むと彼を思い出して少しぼやぼやとなります。
    女の子は自分自身によってしか、幸せになれないらしい。わたしはわたしを幸せに出来るだろうか。

  • ニシノユキヒコが主人公(?)ながら、ニシノユキヒコの心情は一切記されておらず、ニシノと交流したさまざまな女性たちの視点で、ニシノが語られます。
    1番最後に配された「水銀体温計」で、ニシノの少し屈折した女性への態度の背景が明かされ、その一つ前の章「ぶどう」で、唐突に訪れた彼の冒険の終わりが綴られます。姉への気持ちを明確にするのが怖かった、ということなのでしょうか?ただ、思えば、1番最初の「パフェー」で成仏しきれず他の女の元へ行くあたり、もうその浮ついた性分はもう自制の効く類のものではなく、生まれついた性質なのでしょうか。
    ニシノと女の儚い関係の中の穏やかな熱情に、なんだかやつされるような想いがしました。愛って少しドロドロとしていて暑苦しいけれど、恋はサラサラ、キラキラしていて、ひだまりのようです。愛するって、きっと一定程度は能動的なものなんですよね。ニシノは、そのドロドロが怖くて、心の全部を相手に委ねないように、愛さなかったのかなと思います。
    愛したいのに、愛せない、その絶望と孤独がわかるが故に、ニシノが可哀想で可哀想で、ドキドキしてしまいました。その可哀想が、多くの女を虜にするのでしょうか。

  • しゃぼん玉のようにふわふわとさまよって、掴もうとすると消えてしまう、ニシノユキヒコの持つ不思議な空気が、文章から漂ってくる。

  • イケメンで優しくてセックスも上手くて、そして良い声の持ち主、ニシノユキヒコ。
    彼と関係のあった女の人達が、ニシノユキヒコとの思い出やら本人について語るのだが…

    こういう男って、現実にいるよね。ってのが感想。
    生粋の女たらし。めちゃくちゃモテる。
    女の人から別れようって言われると、途端に寂しそうにする。いるわー。笑

    さて。そんなニシノユキヒコだが。
    人を愛するっていうのはどういうことなの?とか、お姉さんのこととかで、彼なりに様々思い悩んでいた。
    読んでいて、何だが掴み所のない男だなと思った。
    自分の欲求に素直に従っているような感じなんだけど、それだけじゃないんだよね。

    読後感は、何か夏の夕暮れを見ているような、爽やかなセンチメンタルさがある。

    彼は結局、自分の居場所を見つけることと、人を本当に愛することは出来なかったんだろうけど、でもそれでよかったのではと思う。ニシノユキヒコってそういう感じの人だった(ただの読者だけど)

    読みやすくてよかった。


  • とんでもない浮気男を取り合う10人の女の話だと思ってました。全然違いました。

    川上弘美さんの手にかかると、部屋に二人でいるだけ、ご飯を食べてるだけのシーンがとってもロマンチックな場面になる。さすがです。

    側から見ると順風満帆なニシノユキヒコくんの垣間見えるさみしさと、それに付随する10人の女たちの美しさと自立心。
    ぶどうという話がとってもすきです。
    飄々としている男を壊すような、自立した女になりたいな。

    出てくる女の人たちもみんなとっても素敵な人ばっかりなんだよな。憧れる。

    ただの下世話な話じゃなかったです。
    美しいけどさみしい恋物語でした。

    2018.01.31

  • ダメでしたね。
    これまで川上作品では理解はできなくても、物語の中で一緒に流されることができたのですが、この作品にはついに入り込めませんでした。結構、一般的な評価は高いのですけどね。
    こういうグダグダした恋の物語はもともと苦手な上に、どうも、この主人公ニシノ君が好きになれないのです。ですからその周りに集まる女性陣もどうも苦手。
    こんなこと書くと怒られそうな気もしますが"女性向けの作品"そんな気がします。

全633件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

川上弘美の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
島本 理生
伊坂 幸太郎
伊坂 幸太郎
川上 弘美
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×