センセイの鞄 (新潮文庫)

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著者 : 川上弘美
  • 新潮社 (2007年9月28日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101292359

センセイの鞄 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 現実はこうもうまくいくまい、と思いつつ年のはなれた(元生徒と国語教師)男女の恋を描いた恋愛小説。ツキコのセンセイへの恋慕にページをめくる手が止まらなかった。恋敵への嫉妬、同級生への違和感と反発といった第三者の存在を通してツキコのもやもやした恋情を明確にさせる。恋愛文学の王道を踏みつつ、二人の佇まいが静謐で清潔。それに季節と食べ物とお酒が美味しそうで、思わず鱈と春菊が食べたくなる。著者の文章も魅力的でくせになりそう。文章は書き出し一文目が肝要というが、冒頭一文で物語世界に読者を引きずり込む。句点で心情を表現する機微も繊細で一文ずつ噛みしめながら読んでしまった。
    ひらがなや漢字でもないカタカナの"センセイ"表記もおもしろい。カタカナ表記は口承や伝承といった声音を思い浮べるが、この小説では片仮名表記で声の届く範囲=センセイとツキコの距離感を表したのかなと。ツキコとセンセイの偶然の出会いは居酒屋で隣あったのがきっかけ。ぼそぼぞと声が届く距離感はツキコとセンセイの恋愛模様そのもの。と、ごちゃごちゃ考えることもできる素敵な小説でした。

  • センセイという言葉の響きが、とても遠いものを感じさせるのに、実は、普通の人と同じような恋愛感情をもってくれているということが、ゆっくりとしたペースで伝わってきて、何だかすごーく感動しました。
    この物語に漂うゆったりとした空気が、上品で、知性的で、ユーモアもあって、とても心地よかったです。

  • 静かな小説だった。静かに、降り積もる時間に、確かに熱い人間の感情が細く絡みつく。そういう小説だと私は思う。

    私が惹かれた点はまず、肴の描写だった。日本酒が好きな酒飲みなので、ひとり飲み、しかも落ち着いた日本居酒屋を選ぶところに好感を抱いた。

    そこで出会ったセンセイと肴の趣味が合うことから知り合うのもいい。食べ物の趣味が合うことは大事だ。それで長く続く関係もある。

    お互いが自立していて、ほどよい距離感があるのがとてもいい。お互いを認めているのが伝わる。

    対比であろう、ツキコさんの昔の恋人である小島孝の「男女」の付き合いは違う。くどくて、もつれてて、型にはまっている感じがした。

    私は生臭いものが好きじゃない。
    17の章にわかれた小説には海の幸の肴も、島の海も、生臭さはない。ドロドロした感情の生臭さもない。心地よい風が吹いている。


    段々とセンセイが心を占めてきてバランスを崩すツキコさんは本人も言う通り子供のようだ。

    ツキコさんとセンセイの距離は遠い。それは「因った環境」でもなく、年の差によるものでもなく、遠くにある。

    「たまたま」近くにあった。
    だんだん、「たまたま」が重なった。
    そして、「たまたま」が重なるようになればいいと思うようになった。

    そういう関係を読んでみませんか。

  • 居酒屋で久しぶりに出会った高校時代の先生とアラフォー女性の恋物語。30歳以上離れた大人の恋愛ゆえに、静かにゆっくりと心が動いていく様子を丁寧に描いているのですが、料理の描写が細やかなのも特長の一つかなと思います。

    まぐろ納豆と蓮根のきんぴら、塩らっきょうから始まる二人の料理の遍歴は、きのこ鍋、湯豆腐、おでん、花見のおかず、鮎料理などなど、季節の移ろいとともに変化していく。

    そんな数々の料理の中で個人的に惹かれたのは、湯豆腐とトビウオの刺身。主人公のツキコさんの湯豆腐は、醤油と酒を混ぜて削りたてのかつお節を散らした小さな湯のみを豆腐とともに温め、そこに浸して食べるんですって。なんとも美味しそう♪今年の冬にきっと再現するはずです。
    トビウオの刺身は今まで食べたことがないだけに興味がむくむく。

    二人の心の距離とともに二人の料理の好みもより近づいていく、ほっこりと心温まる小説でした。

  • 好きだなーこの静かな雰囲気。
    と思った、そういう小説。

    リタイアした元国語教師と30代後半女性の淡い恋。
    派手さは全然なくて、ゆっくり進む。
    行くべきか、行かざるべきか、でも心は…という。

    言葉の使い方が好きだと思える作家さんの本って純粋にいいなと思うし、とにかく読みやすくてするする吸い込むみたいにして読める。
    この小説が流行った当時、60~70代の男性に夢を与えたらしい。30歳以上年下の女性との恋愛物語だから。
    確かにそのくらいの年齢の男の人で本気で口説きにかかる人たまにいるなと思って。笑
    男の人はとくに、いつまでも夢を追いかける性質のイキモノなのかなと思ったりする。
    この物語の場合、絶対にありえないことではない、というのがまた読者をそうさせるのかも。

    センセイとツキコさんの、お互いに孤独な感じ。独立しつつも、寄り添いたいと思う感じ。
    「お正月」の章がとくにさみしくて好き。

    作中のセンセイの言葉
    「心意気さえあれば、どんな場所でも、人間は多くのことを学べるものですよ」
    印象に残った。
    こんなこと言ってくれる先生がいたらいいなって。

  • 高校生の時に恋愛小説をとにかく貪るようにして読んでいた時季があって、その時に初めて文春文庫で読んだ。
    さっぱりとして可愛いく感じた表紙と、最高の恋愛小説という評判に胸を高鳴らせて読んだのを覚えてる。
    でも正直高校生の時の自分がこの小説に対してどんな感想を細かく持ったのかまでは覚えてないのだけど、
    これが最高の恋愛小説??
    なんか大人な恋すぎてわかんないな・・・ぐらいな気持ちだった気がする。

    あれから10年くらい経って、今また読み返したら最高の恋愛小説だと仰々しく言う感じではないけど、でもこの小説にはいくつになっても人が恋する気持ちってきっと変わらないんだ・・・と言う思いがじんわりと胸に広がって、
    高校生の時20歳を過ぎたら凄く大人になるんだと漠然と思っていたあの日から、実は案外気持ちの上では大人になるってよく分からないんだなと思う気持ちが思い返されて、高校生の時にはよくわかんないやと感じた気持ちが、今はちょっと分かって切なくなってる自分がいることに気付いて、
    自分も気持ちの上ではやっぱり高校生の時と比べると少し大人になったんだなと思った。
    そう、だからきっとこの本は、一度若い時に読んでほしい。
    そしてたっぷりと時間をあけてある時にふと読み返してみてほしい。

  • ゆっくり育まれるセンセイとツキコさんの日々が暖かくて、良かった。
    カタカナのセンセイ、ツキコさん、
    の表記が好きです。

    季節感が、音や空気、酒の肴から目に浮かぶ様で、うまいなと思いました。

    個人的には、センセイの気持ちが、ツキコさんにまっすぐ向かうようになるまでが良かったかな。
    二人が気持ちを確認しあってからは、少し生々しい感じがして、ふんわりと乾いた関係が壊れるようで、ちょっと残念な気がしてしまいました。

  •  ツキコさんは、文房具を扱う会社に勤務するOLだ。アパート一人住まいの三十七歳。モテないというわけではないのだが、交際相手がなんとなくしっくりあわず、適齢期を逃してしまった。そんな彼女の楽しみは、サトルさんをマスターとする赤ちょうちんの居酒屋だった。そこにゆくと、きまって、スーツ姿でかばんを持った老紳士が、カウンターに座っていた。たまたま隣り合ってみると、彼はツキコさんの過去を知っていた。なんとその人は、高校時代の先生だったのだ。
     先生は七十歳を越えた元の国語教師だ。奥方もいたのだが、変人で、あるとき男と逃げてしまった。息子は母親が嫌いで実家から遠く離れたところに就職し結婚し暮らしている。そんな老紳士を、ツキコさんは、先生ではなくセンセイと呼んだ。
     高校時代のツキコさんの担任というわけではない。不真面目な生徒でろくに授業を訊いてもいなかったようだ。カウンター横のセンセイは、教養人である彼の風雅な食しかたに対し、ツキコさんのややガサツな飲食のコントラストが絶妙だ。それでいて馬が合う。
     やがて、ご老体のお散歩への付き添いというような感じで、二人はごく自然に、居酒屋をベースに情緒ある場所でのデートを重ねる。はじめは飲み仲間という感覚だ。一か月あくこともあれば、連日のときもある。ところが、高校時代の教師・生徒の一部を合わせての同窓会のような花見の席で、当時人気ものだった美術教師が登場しツキコさんは嫉妬する。そのとき、たまたま、在学中一度だけデートをした同期生がきていて、洋風パブにゆく。嫌いなのではないが、どうも、しっくりいかない。
     そんなとき、センセイに、小さな島への旅行に誘われる。島には逃げた彼の元夫人の墓があった。また嫉妬してしまう。喧嘩というべきか、長い冷却期間となる。そしてツキコさんに、同期生が結婚を申し込んだとき、焦ったようにセンセイがデートに誘った。よほど慌てていたのだろう。いった先はパチンコ屋だ。
     二人はまた仲よくなって、恋人になった。三年の月日が経ち、センセイは他界する。葬式のとき、遺族である息子から、遺言にあるといわれ、ツキコさんは鞄を形見分けにもらい、それを開けたところで物語は終わる。
     鞄の中には、短い時間の中で二人がはぐくんだ素敵な思い出がぎっしりつまっていることだろう。
    .
     映画やテレビドラマになっていたというのは、ついさっきネット検索で知ったこと。最近では、谷口ジロー作画による漫画が書店に並んでいて驚く。本作を読んだきっかけは、現代小説の潮流をリサーチするために検索したWikiからだった。
     小説講座のテキストでは、近代小説を含めた古典を読めと書いてある。しかし、学問的な検索方法としては、一般に最新の研究書を読むのが定石。文学だって、学門だとすれば、それが当然のはずだ。
     他方で、古典は淘汰されて生き残ったものであるのに対し、現代文学の夜空に瞬く星の如く存在する作品群は玉石混合だ。
     そこで、Wikiで紹介された1999年以降の現代文壇のエースたちを、ピックアップすることにした。下記の作品が純文学上の注目作として挙げられ、その上で、村上春樹、小川洋子、川上弘美が、純文学作家としては、商業的にも成功を収めていると紹介されている。
     私は、現在、村上『1Q84』、小川『博士の愛した数式』、川上『センセイの鞄』に目を通し終えたおところだ。
    .
      ●平野啓一郎『日蝕』(1999年)、芥川賞受賞作。
      ●川上弘美『センセイの鞄』(2001年)
     ●高橋源一郎『日本文学盛衰史』(2001年)
    ●村上春樹『海辺のカフカ』(2002年)
             『1Q84』(2009年)
    ●阿部和重『シンセミア』(2003年)
      ●村上龍『半島を出よ』(2005年)
      ●町田康『告白』(2005年)
    ●大江健三郎『「おかしな二人組」三部作』
        『取り替え子』(2000年)
        『憂い顔の童子』(2002年)
        『さようなら、私の本よ!』(2005年)
    ●小川洋子『博士の愛した数式』(2003年)
    ●川上未映子『ヘヴン』(2009年)
    ●吉田修一『悪人』(2009年)

  • 2、3年前に、一度読んだことのあるこの本。その時に書いた感想は
    「初めのほうは退屈だった。なかなかくっつかない二人がもどかしかったから。大人のほうが恋愛に対して誠実で、純粋なのかもしれないな」
    とかいうものだったと思う。

    特に深い想いを感じなかった当時の私は、その後部屋に溜まった本を整理するにあたり、この本を「もう読み直さないだろう」の山へノミネート、数々の他の本とともに古本屋へ売ったのだ(!!)

    あれからしばらくして、川上弘美の作品をとっても好きになった。
    わたしがかつて、ぼんやりと読んでふわっとした感想しか抱けなかったこの本を、「そんなはずはい!」とおもった。
    もう一度読んで、確かめたくなった。

    そういうわけで、本屋にて新品で購入し、二度目の読了を果たしたのだ。

    結果・・・

    初めから最後までずうっっと、二人のきもちがいとしくて、ときにせつなくてたまらなかった。
    なんともないやりとりの部分で、うっかり涙が流れたりした。


    この本がでた当時、週刊誌に下記のような匿名書評が載ったという。
    『「センセイの鞄」に涙するバカなオヤジたち』。
    読者には中高年サラリーマン風が多く、しばらく小説から離れていたオヤジたちが、読んで、感動の涙を流すという案配を受けての批評だという。

    『この本には生きだ人間と現実の軋みがない。主人公のツキコさんは、「すっかり子供になっている」、
    と告白している。子供に恋愛はできない。』

    えっ!?と思う。

    節々に、すてきな表現があふれているじゃないか。

    ちいさなことがありがたくて、幸せに思う。好きな人のまえで、子供のようになってしまう。でも大人だから、核心には迫れない。

    言葉にするとちょっとチープだけれど、この小説には上手に、丁寧に、書き綴られている。


    一見淡々と進む、だたの老年男・中年女、歳の差カップルの恋物語を読みながら
    ぜったいにそれだけではない、この小説はそんなところに重点をおいてはいない、言葉のひとつひとつがとても静かだけれどシンとひかっている、と感じる自分を、少し好きになった。

  • ふと川上弘美さんの文章が読みたくなって、本屋さんへ行き、題名で選んで読みました。

    連載されていた作品ということもあり、
    季節のうつりかわりが美しい。季節の変わり目を、肌で感じるようでした。

    そして、静かな、あたたかい小説。
    「ツキコさん」と「センセイ」とのきのこ狩りやけんか、お花見や旅行、「デート」……それぞれの場面が、やさしい色合いで心に描かれました。

    最後の数ページでは、うるっときました。まさか……。でも最後まで、あたたかい空気感でした。

    自然に任せてゆるりと、しかし感情に素直に、生きたいと思いました。
    (個人的には、川上弘美さんの擬態語がたまらなく好きです。「ほとほとと」とか。)

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