センセイの鞄 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.97
  • (240)
  • (262)
  • (196)
  • (25)
  • (6)
本棚登録 : 2303
感想 : 248
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101292359

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 高校生の時に恋愛小説をとにかく貪るようにして読んでいた時季があって、その時に初めて文春文庫で読んだ。
    さっぱりとして可愛いく感じた表紙と、最高の恋愛小説という評判に胸を高鳴らせて読んだのを覚えてる。
    でも正直高校生の時の自分がこの小説に対してどんな感想を細かく持ったのかまでは覚えてないのだけど、
    これが最高の恋愛小説??
    なんか大人な恋すぎてわかんないな・・・ぐらいな気持ちだった気がする。

    あれから10年くらい経って、今また読み返したら最高の恋愛小説だと仰々しく言う感じではないけど、でもこの小説にはいくつになっても人が恋する気持ちってきっと変わらないんだ・・・と言う思いがじんわりと胸に広がって、
    高校生の時20歳を過ぎたら凄く大人になるんだと漠然と思っていたあの日から、実は案外気持ちの上では大人になるってよく分からないんだなと思う気持ちが思い返されて、高校生の時にはよくわかんないやと感じた気持ちが、今はちょっと分かって切なくなってる自分がいることに気付いて、
    自分も気持ちの上ではやっぱり高校生の時と比べると少し大人になったんだなと思った。
    そう、だからきっとこの本は、一度若い時に読んでほしい。
    そしてたっぷりと時間をあけてある時にふと読み返してみてほしい。

  • ゆっくり育まれるセンセイとツキコさんの日々が暖かくて、良かった。
    カタカナのセンセイ、ツキコさん、
    の表記が好きです。

    季節感が、音や空気、酒の肴から目に浮かぶ様で、うまいなと思いました。

    個人的には、センセイの気持ちが、ツキコさんにまっすぐ向かうようになるまでが良かったかな。
    二人が気持ちを確認しあってからは、少し生々しい感じがして、ふんわりと乾いた関係が壊れるようで、ちょっと残念な気がしてしまいました。

  •  ツキコさんは、文房具を扱う会社に勤務するOLだ。アパート一人住まいの三十七歳。モテないというわけではないのだが、交際相手がなんとなくしっくりあわず、適齢期を逃してしまった。そんな彼女の楽しみは、サトルさんをマスターとする赤ちょうちんの居酒屋だった。そこにゆくと、きまって、スーツ姿でかばんを持った老紳士が、カウンターに座っていた。たまたま隣り合ってみると、彼はツキコさんの過去を知っていた。なんとその人は、高校時代の先生だったのだ。
     先生は七十歳を越えた元の国語教師だ。奥方もいたのだが、変人で、あるとき男と逃げてしまった。息子は母親が嫌いで実家から遠く離れたところに就職し結婚し暮らしている。そんな老紳士を、ツキコさんは、先生ではなくセンセイと呼んだ。
     高校時代のツキコさんの担任というわけではない。不真面目な生徒でろくに授業を訊いてもいなかったようだ。カウンター横のセンセイは、教養人である彼の風雅な食しかたに対し、ツキコさんのややガサツな飲食のコントラストが絶妙だ。それでいて馬が合う。
     やがて、ご老体のお散歩への付き添いというような感じで、二人はごく自然に、居酒屋をベースに情緒ある場所でのデートを重ねる。はじめは飲み仲間という感覚だ。一か月あくこともあれば、連日のときもある。ところが、高校時代の教師・生徒の一部を合わせての同窓会のような花見の席で、当時人気ものだった美術教師が登場しツキコさんは嫉妬する。そのとき、たまたま、在学中一度だけデートをした同期生がきていて、洋風パブにゆく。嫌いなのではないが、どうも、しっくりいかない。
     そんなとき、センセイに、小さな島への旅行に誘われる。島には逃げた彼の元夫人の墓があった。また嫉妬してしまう。喧嘩というべきか、長い冷却期間となる。そしてツキコさんに、同期生が結婚を申し込んだとき、焦ったようにセンセイがデートに誘った。よほど慌てていたのだろう。いった先はパチンコ屋だ。
     二人はまた仲よくなって、恋人になった。三年の月日が経ち、センセイは他界する。葬式のとき、遺族である息子から、遺言にあるといわれ、ツキコさんは鞄を形見分けにもらい、それを開けたところで物語は終わる。
     鞄の中には、短い時間の中で二人がはぐくんだ素敵な思い出がぎっしりつまっていることだろう。
    .
     映画やテレビドラマになっていたというのは、ついさっきネット検索で知ったこと。最近では、谷口ジロー作画による漫画が書店に並んでいて驚く。本作を読んだきっかけは、現代小説の潮流をリサーチするために検索したWikiからだった。
     小説講座のテキストでは、近代小説を含めた古典を読めと書いてある。しかし、学問的な検索方法としては、一般に最新の研究書を読むのが定石。文学だって、学門だとすれば、それが当然のはずだ。
     他方で、古典は淘汰されて生き残ったものであるのに対し、現代文学の夜空に瞬く星の如く存在する作品群は玉石混合だ。
     そこで、Wikiで紹介された1999年以降の現代文壇のエースたちを、ピックアップすることにした。下記の作品が純文学上の注目作として挙げられ、その上で、村上春樹、小川洋子、川上弘美が、純文学作家としては、商業的にも成功を収めていると紹介されている。
     私は、現在、村上『1Q84』、小川『博士の愛した数式』、川上『センセイの鞄』に目を通し終えたおところだ。
    .
      ●平野啓一郎『日蝕』(1999年)、芥川賞受賞作。
      ●川上弘美『センセイの鞄』(2001年)
     ●高橋源一郎『日本文学盛衰史』(2001年)
    ●村上春樹『海辺のカフカ』(2002年)
             『1Q84』(2009年)
    ●阿部和重『シンセミア』(2003年)
      ●村上龍『半島を出よ』(2005年)
      ●町田康『告白』(2005年)
    ●大江健三郎『「おかしな二人組」三部作』
        『取り替え子』(2000年)
        『憂い顔の童子』(2002年)
        『さようなら、私の本よ!』(2005年)
    ●小川洋子『博士の愛した数式』(2003年)
    ●川上未映子『ヘヴン』(2009年)
    ●吉田修一『悪人』(2009年)

  • ふと川上弘美さんの文章が読みたくなって、本屋さんへ行き、題名で選んで読みました。

    連載されていた作品ということもあり、
    季節のうつりかわりが美しい。季節の変わり目を、肌で感じるようでした。

    そして、静かな、あたたかい小説。
    「ツキコさん」と「センセイ」とのきのこ狩りやけんか、お花見や旅行、「デート」……それぞれの場面が、やさしい色合いで心に描かれました。

    最後の数ページでは、うるっときました。まさか……。でも最後まで、あたたかい空気感でした。

    自然に任せてゆるりと、しかし感情に素直に、生きたいと思いました。
    (個人的には、川上弘美さんの擬態語がたまらなく好きです。「ほとほとと」とか。)

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「ほとほとと」
      こういうのって、どうやって考えつくのかなぁ~と不思議に思ってます。
      「ほとほとと」
      こういうのって、どうやって考えつくのかなぁ~と不思議に思ってます。
      2012/04/24
  • 実はわたしも学校のとある「センセイ」に、憧れやら興味やら、よく分からない感情を抱いたことがあって。
    それ以前から名前だけは聞いていて、ずっと気になって仕方なかった作品。大学受験が終わってから、やっと読むことができました。
    わたしもいつか、こんな風に、懐かしい気持ちで「センセイ」のこと、振り返られたら好いなあ。

  • 37歳のツキコさんと、中学生時代のセンセイ70代との物語。居酒屋でカウンターで1人飲みながら、約束するわけでもなくそこで会い、お互いに惹かれていく。

    センセイのポツリポツリと話す感じがいい。本当にいい子ですね、ツキコさんは。と頭をなでながら言う想定が好き。センセイが男っぽさをあまりださない所も良かった。

    出だしはスローで、・・・?って感じだったけど、どんどん引き込まれた。

  • 読む前から「年齢差のある者の恋愛なんて気持ち悪い」と考えてる方は本を閉じた方が良い。

  • こういう恋愛に憧れるのか、憧れないのか、どっちなんだい? あ、こ、が、れ…ないっ!

  • 2022.10.7 読了。
    学生時代は特に親しくあった訳ではない国語教師「センセイ」とひとり通いの居酒屋で偶然再会した37歳のツキコの緩やかに揺蕩うように営まれていく恋愛小説。

    年齢も離れ、過去は先生と生徒という立場だったけれど互いに歳を重ね大人になって再会しお酒を一緒に飲み、季節の移ろいと共に季節を感じながら出掛けたりしていく静かな文章が好きだった。
    解説にもあるように「中高年のオヤジたちが感動し涙する」という批評も読んでいて感じるところは確かにあったが、そこはお酒を飲んで酔っ払って夢心地の中にあったら中高年オヤジでもツキコのような女性でも漂うように夢のような恋愛小説であってもよいのではないかと思う。

    センセイとツキコさんと呼び合うような関係性の距離感が読んでいて心地よかった。とにかく静かに静かに、けれどツキコの心境がきちんと想像ができるところも所々に押し付けがましくない程度に「月」が登場してくる雰囲気も良かった。

  • 恋愛小説史上最高のベストセラー。
    私がセンセイに恋するなら、きっと私はあの時の社会科のセンセイだろうな。

全248件中 21 - 30件を表示

著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

川上弘美の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×