なんとなくな日々 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (181ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101292380

作品紹介・あらすじ

春の宵には、誰もいない台所で冷蔵庫の小さな鳴き声に耳を澄まし、あたたかな冬の日には、暮れに買い置いた蜜柑の「ゆるみ」に気づく。読書、おしゃべり、たまの遠出。日々流れゆく出来事の断片に、思わぬふくよかさを探りあてるやわらかいことばの連なりに、読む歓びが満ちあふれます。ゆるやかにめぐる四季のなか、じんわりしみるおかしみとゆたかに広がる思いを綴る傑作エッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • 穏やかな秋の日、お日様があたるお気に入りの場所でこの本を読むと、ほっこり癒されます。
    解説でも書かれていますが(串間努さん著)、「川上さんにはもっと人にいえないような体験がきっとあるに違いないと思いますが、それは私も同じなので、大人なるものそのようなことは詮索しないものなのであります」

    きっと大変な半生を送ってこられたのに、「なんとなく」な日常を、さらりとありのままに表現されている。読み手のほうは、ゆるく楽しんでおられる様子に安堵し笑えてしまう。そういう言葉選び、起こる出来事を面白く捉えられてクスっと笑えてしまう。肩の力を抜かせてもらえる。
    例えばこんなところ、
    お葬式の帰り道、河童に会ったという彼女(お知り合い?)のお話。河童に似た生き物、あるいは河童らしきものではなく河童。「ほんとうなの、その話」
    そのたびに彼女は真面目な顔つきで深く頷くのであった。
    のせられ、居るわけないと思いながら思わず河童の顔が浮かぶ。

    これは自分(私)か、と思う所もあった。人の顔を正視するのが苦手なところとか、行きつけのお店を作るのが苦手(私の場合は、どこまで距離を近めていいか戸惑う、次もしゃべるのかと戸惑う)とか。そうそうほんとうに、と思うこと多い。

    なんとなくな日々1 
    つくづく川上弘美さんは海沿いが似合うなと思う。東海道線下りに乗り、熱海方面に電車で揺られがたごと行く。一人でも、大事な人と二人でも良い(グループは合わなさそう)。

    ここも好き 
    雨はなかなかやまない。わたしはやきとりの串を持ったまま、雨をじっと眺めている。春の雨をじっと眺めている。

  • ブックオフ購入本

    大好き、川上弘美さんのエッセイ。

    冬の台所で蛍光灯は、そろそろ いきますね
    ときれてゆく。
    春はなんでもありありで、15センチの河童にだって出逢えるのだ。
    デートなのにサシ飲みも、また良き。
    息子とラーメン、本屋もいいじゃないですか。

    なかでも、

    おそるべき君らの乳房夏来る
    西東三鬼 さいとうさんき

    のエッセイはぐぅっときた。
    戦後、光の強いこの季節。
    いつの世も、女の強さは、いや、人の強さは健在なのだ。私も骨太に過ごしてゆきたいな〜なんて、ぼんやり考えた。

  • 仕事用のカバンに入れておいて、通勤電車内で一話二話、乗り換えがあればまた一話二話…
    多少の疲れであれば、穏やかでユーモアに溢れる川上弘美さんの文体で癒されます。
    次の出勤用には東京日記かな。

  • 私がいま、こうして読書が大好きなのは、川上弘美さんのエッセイがきっかけ。

    ワタシが家にこもってるより外に出たり街を歩く方が好きなのも、思えば川上弘美さんが日頃出くわすような日常に転がる幸せを感じたかったからだ。

    川上さん自身は、「自分の日常なんて語るほどでもない」と、仰っている(謙遜かもしれない)が、川上さんのエッセイは、人生を楽しむのに有効なのは、派手な生活や大金より、どんな日常も彩るあたたかな心だ、と、概念に迫るレベルの気づきを与えてくれる。


    今日も家から30分くらいの場所に来たけれど、おかげで緑と犬に癒され、美味しいパン屋さんに出会えた。

    明日は美味しいコーヒーを飲みに喫茶店に行こうか。

  • 「あとがき」で、小説家になったらエッセイを書かなければいけないので、小説家にはなりたいけれど、なりたくないなんて言っているけれど、なかなかどうして川上弘美はエッセイも上手い。彼女は日頃、「テレビも見ないし、ラジオも聴かない」そうなので、そのことがまた幸いして、時事性の強い題材がないものだから、エッセイの連載後十数年を経た今でも少しも古びてはいない。時には大づかみな性格の著者のおおらかさがうかがえ、また時には極めて繊細なところも見せている。台所の蛍光灯の「そろそろ」という語りに「さよなら」と呼び掛けるのだ。

  • 川上弘美さんのエッセイ。日々のなんとなくなことを綺麗な言葉と透明感あふれる雰囲気でつづられています。
    こんな風になんでもないことに心を留め文章にできてほんとに素敵だと思う。
    こんな風に日常をさらっと生きられたらいいな。私も日々大切に過ごして行きたいなと思った。

  • 川上弘美の書く文章が「空気感」と言われるのがよくわかります。

    つねに透明なうっすいフィルターが1枚かかっているような感じの文章です。

  • 春の憂鬱→新緑の夢
    蝋燭の光→ゆすらうめ 
    この間の流れる感じがものすごく好み

    うすらうめ は多分この本の中でいちばんしっくりきたというか、すっと沁み込んだような気がする。なんだろう、今まで体験したり読んできたお話の中から拾い集めて自分にしてきたものが包まれてそっと置いてあった、みたいな、気持ちになった

  • 言わずもがな、好き。ゆるむみかん。ゆすらうめ。熱の日のもものかんづめ。

  •  松茸を丸のまま焼いて、すだちをじゅっとかけて、醤油をひとたらし(^-^) 川上弘美さん、お酒がお好きなようです。行きつけの店は持たないタイプとか。私は、外で飲んでいた時は、職場の近くに、中間地点に、家の近くにw。新規開拓も楽しみの一つでした。川上弘美「なんとなくな日々」、2009.3発行、エッセイ集、再読。

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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