どこから行っても遠い町 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101292410

作品紹介・あらすじ

捨てたものではなかったです、あたしの人生-。男二人が奇妙な仲のよさで同居する魚屋の話、真夜中に差し向かいで紅茶をのむ主婦と姑、両親の不仲をみつめる小学生、そして裸足で男のもとへ駆けていった女…。それぞれの人生はゆるくつながり、わずかにかたちをかえながら、ふたたび続いていく。東京の小さな町を舞台に、平凡な日々の豊かさとあやうさを映し出す連作短篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • 舞台は東京の小さな町。商店街の様々なお店の人々、そこに暮らす人々はそれぞれ淡くつながっていて、何食わぬ顔をして暮らしているけれどそれぞれ色んな過去や思いを抱えながら生きている。
    そんな淡いつながりを連作で描いた短編集。

    平凡な人生って何だろう、と考える。
    端から見れば平凡で穏やかに暮らしているように見える人でも、実は他人からは見えない何かを抱えて生きているかも知れないし、「あの人は恵まれているよね」と噂されるような誰かにも、もしかしたら計り知れない苦悩があるかもしれない。
    実際毎日色んな人と会話をしていると、じっくり話してみて初めて分かることは山ほどある。イメージや思い込みとは全然違った、ということも日常茶飯事だ。

    この小説はまさしく、端から見れば“普通の人”である登場人物たちに、一人ずつスポットを当てて描いていて、そこには平凡な人生なんて言うものはひとつもない、という風に思わされる。
    核には“男と女”という厄介なものがあって(私はそう感じた)一旦がんじがらめになった果てに他人からすれば理解できないような形に収まった人もいたりして、しかしそれさえも「さもありなん」なんて思ってしまう。

    川上弘美さんの小説は、根底がとても静謐だ、といつも思う。
    どろどろした関係性を描いていても、どこか静かで、諦めのようなものが漂っている気がする。

    一番印象的だったのは「貝殻のある飾り窓」
    雨のしずくの写真を撮るのが趣味である20代のユキと、ロマンという謎のお店(たこ焼き屋?)に勤めるあけみという中年女性のお話。
    あけみはちょくちょく登場するのだけど、何だか妙に気になる脇役的な感じで好き。

    他人の噂って生きていればしょっちゅう聞くしうまく避けなければ自分も加担してしまうものだけれど、自分だってどこかでその“他人の噂”の的になっていることがあるはず。ひっそり暮らしていても、人と人はどこかで必ずつながっているから。
    その“他人の噂”のなかには、どれくらいの真実が潜んでいるのか。
    そんなことを思った、淡い空気の短編集。

  • 平穏な日々にあるあやうさと幸福。ほっこりしながら読み進めていました。
    最後から数頁前の一行から、わたしは背筋が伸び、また川上さんの世界に引き込まれるのでした。川上さんのお話は、なんでこうも人生の無常さを表されるのでしょう。
    読んだ後は、しばらく切なさマックスだったが、後に希望が見えてくる。青い空の向こうから、真紀さんが微笑んでこちらを見てるような絵が浮かんだ。
    生きてることは素晴らしいと訴えてくる。またわたしは心で泣けました。

  • 川上弘美さんは比喩の効いた文章が最高なんだ!と知人に勧められ 本棚に眠っていたのを 再読。
    短編小説だよねーと 読み進めて いや ちょっと待って。商店街の店 それぞれの話、その街の人々の話、緩く繋がってた。「好きな人が死ぬと、すこし自分も死ぬのよ」最後のほうに出てきたこのセリフ ジーンときた。全編 謎めいて それでいて 哀しみあって けど ふわっとする。いい読書 しました。

  • ”結婚は、こわい。たった一回の失敗でそんなふうに思うなんて、ただの臆病者なのかもしれないけど。”

  • ある小さな町に住む老若男女たちが、少しずつ関わったり、どこかでこっそり見られていたり、実は誰にも知られていない事情があったり…
    なるほど、ここは”街”ではなくて、”町”なのですね。
    人が日常を生きていく場所。寂しさや憂いをいっぱい含んだ場所。

  • 川上弘美のあたたかいところを切り取ったお話。
    アンソロジーぽいところが彼女のこんだて帖に近いかな。
    人間味あふれてて、こんな人達いそうで、こんな町がどこかにありそうだから、ちょっと憧れる。

  • もやもやを家事にぶつけるタイプの男子高校生の話、ものすごく善良な感じがしてとてもよかった

  • とってもよかった。
    川上弘美のあたたかさは健在。
    切ないと美しいとあたたかいをどこか醒めた目線で語る彼女の文体はとてもとても好きだ。
    いくつもお気に入りのいいまわしに付箋を残した。

  • なんというか、いつも川上さんの本には期待しすぎてしまう気がする。
    なんというか、思ったよりなにも起こらないし、淡々としていて、まるでフランス映画のような読後感にいつも物足りない気持ちになる。

    このものたりなさこそ川上さんなのかも。

  • 川上弘美のよみごこちが好き へんなのに淡々としてるの 達観してて救われる

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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